Nick ZammutoとPaul de Jongの2人により、2000年にニューヨークで結成。2012年まで活動。ありとあらゆるソースからのサンプリング音と、ギターやチェロやバンジョーをフィーチャーしたフォーク系サウンドを緻密に織り合わせ、フォークトロニカというジャンルを開拓しました。その才能はブライアン・イーノ、細野晴臣氏からも称賛を送られました。
本記事は3枚のアルバムについて書いています。
アルバム紹介
Thought for Food(2002)
1stアルバム。Pitchforkで10年間のBEST200アルバムの一つに選出された注目作である。2011年1月にTemporary Residenceからリマスター&アートワー新装で再発された。
基本はカントリー/フォーク風のアコースティック・ギターが静かに時を刻み、バンジョーの音色が華やぎをもたらしては、チェロやヴァイオリンが荘厳な色と重たさを持って鳴り響く。そこに様々なサンプリング・ソースがぶち込まれていく形。それが懐かしくもあり、新しくもあるという不思議な感触を持っています。
生楽器とエレクトロニクスの絶妙なバランスでの融合が本当に見事。ブライアン・イーノ御大からも称賛の言葉が届くのも納得。
サンプリングの大半を占めているのが様々な人の声(普通に喋っていたり、笑い声があったり、叫んでいたりと本当に多種)なんだけれども、効果音も色々と満載で聴き手をユーモア一杯に楽しませてくれます。
#1を聴いたときからおもちゃ箱を開けた時のようなワクワク感があり、そのアイデアの豊富さと展開の凄さに驚きの連続。リズムも表現するのが難しいほど独特な変相を遂げますし、実験的でありながらも楽曲としてきっちりと昇華。1作目にして独自のサウンドを確立しています。
リズミカルな展開の弾け方とサンプリングの効果が絶大な#3や華やいだ空気を醸し出すあまりに美しい#7が秀逸。また、太いベースラインが牽引していく異色な#8も面白い。郷愁とメランコリックな味わい、それをユニークに統括したとても魅力的な作品ですね。
The Lemon of Pink(2003)
2003年発表の2ndアルバム。こちらもPitchforkを始めとして世界各国の専門誌から高い評価を得ている。前作に引き続いて2011年2月にTemporary Residenceからリマスター&新装アートワークで再発された。
基本軸はフォークトロニカで変わりません。前作よりは軽やかな感じになっていて、優美さとユーモアも増した印象もあります。
爪弾かれる牧歌的なアコギや荘厳なストリングスが琴線をくすぐる生楽器の優しい音色、多彩な声を材料にしたサンプリングのコラージュが本作でもハマっています。ハンモックの上で寝てるような心地よさ、それにプラスして不思議なユーモアに溢れた世界を作り出している。
素材の選び方に始まり、音の切り貼り/配置の仕方、生楽器とエレクトロニカの融合によるオーガニックさ、美しいノスタルジーとポップ感覚、どれをとっても一級品。
隙間の生かし方も上手く、空白がうまく作れるユニットだなあと感じます。#3「Tokyo」では日本語(「気をつけてくださいよー」、「お父ちゃーん」など)が聴けるのも醍醐味のひとつ。
しかしながら、この作品からはアジアンなテイストのみならずもっと多国籍なイメージも浮かび上がってくるのが面白い。優しく郷愁を訴える絵本のような世界へと結実していく本作は、彼等のセンスがさらに鋭敏に研ぎ澄まされています。
Lost And Safe(2005)
2005年発表の3rdアルバム。本作も2011年3月にリマスター&新装アートワークで再発されています。
お得意の特色の出た作品で、染み入る様なフォークな味わいと美しいエレクロトニカの意匠が胸を打つ。前々作、前作の成功に引き続いて、本作でもフォークトロニカの雄としての存在感を大いに発揮しております。
これまでよりも幾分かシンプルになった気もするのだが、歌心というのを一番感じさせる内容。人肌の温もりが引きたつ温かみと柔らかさがあります。様々なエレメントを集積した豊かな音の広がりはそのままにして、歌に重きを置いていて聴きやすい。
もちろん、民族楽器等を巧みに織り交ぜた優雅な生演奏の響きには耳を奪われるし、独特の変相を遂げるリズムもかなり凝っているし、彼等の代名詞といえる様々なサンプリング・ソースの使い方も流石。
それを抑揚をつけながらきめ細かくエディットし、心地よくノスタルジックな感傷に浸れる音絵巻へと変えてしまう。ここまで上手く表現できるのは、やはりブックスですね。
全11曲の中で絶えず流転し続ける景色は、彼等の魔法によるもの。
The Way Out(2010)
4thアルバムにして最終作。