ディスクガイド本は新しい発見をもたらし、他者の解釈による学びを得ることができる。自分はそれをweb媒体や個人ブログ等に助けてもらったことの方が多かったですが、本記事では『ディスクガイド本をガイドする』と題してオススメ書籍を12冊挙げています。
掲載している本はわたしが所有していて、当ブログが取り扱っているものと近い書籍が主。また掲載順に優劣はなく、どの本も良いです。
その時の自分が何を聴いてみたいか。何を知りたいのか。それを基準にディスクガイド本を手にしてみてほしいです。
1年ちょっと前には上記の記事がJ-CASTニュースで出ています。記事内においては”楽曲的にも、ジャンル的にも『情報爆発』が起こっている世の中において、ディスクガイドは『一つの価値観』『一つの切り口』を世に示していると言えます“と有識者の発言もある。
音楽サブスクが当たり前の時代となったことで、より価値が高まっているディスクガイド。本記事が読者にとっての手助けになれば幸いです。
ディスクガイド本をガイドする本編
現代メタルガイドブック(2022)
「様式美」にとどまらない、現代メタルの豊穣な世界日本でも根強い人気を誇るメタル――しかし、いまや従来の「HR/HM」の枠では語りきれない、幅広く豊かな世界が広がっているのです。「最新の先鋭的な音楽」としてのメタルを一望し、またそこに至るまでの従来のHR/HMについての認識も更新する、非メタラーも必読の、最新メタルガイドがついに登場!
『現代メタルガイドブック』商品紹介より引用
【本書は「メタル」に馴染みのない人にとっての入口を作るために書かれたものである。この入口を具体的に示しつつ、メタルファンの側から他のジャンルにアプローチするための取っ掛かりを作ることにも努めた】
上記にあるまえがきの言葉を実践している本書。複雑に入り組んだメタルの50年の歩みを網羅しながら、同時にポピュラー・ミュージックやジャズなどの他領域にどう影響を及ぼしてきたのかを解説しています。メタルに馴染みのない人には前述したように入口となり、メタルファンに対しても違う領域に目を向けることを促す役割を担う。
なんてったってメタルのガイドブックにビリー・アイリッシュやジェイムス・ブレイクが載っていることが前代未聞。第一章”現代のメタル領域における重要グループ10組”でトップを飾るのがBorisであることが新鮮です。
10組の中にはBring Me The HorizonやDIR EN GREY、BABYMETALが入っています。ここに”メタルの柔軟性と越境性”が示されている。
本著はアーティストへのインタビューこそないですが900作品超と広く扱っていて、なおかつ9名の執筆陣のコラムがそれぞれ強力。『メタルと英語』『メタルとヒップホップの救い』『メタルとヴィジュアル系』など。メタルがいかに広域に影響を与えてきたかが伺えます。
あなたのメタルはどこから? その入口に『現代メタルガイドブック』は強力なサポート役。初歩的な入口と専門性を両立しているのがスゴすぎる。
「メタルの基本」がこの100枚でわかる!(2021)
「メタルの基本」をテーマに、このメタルの縦軸(歴史)とメタルの横軸(枝葉)から吟味に吟味を重ねて厳選した100枚がこの本に並んでいる。そして、この100枚には、メタルのカッコよさが、メタルの面白さが、メタルの楽しさが、メタルの知性が、メタルの狂気性が、メタルの(いい意味での)ダサさが、メタルの(いい意味での)バカらしさが、メタルの(いい意味での)クサさが・・・ メタルの魅力のすべてが詰まっているといっても過言ではない。
『「メタルの基本」がこの100枚でわかる!』はじめにより引用
【基本の100枚】と謳うものの、メタル原理主義者がアレルギー反応を起こしそうなラインナップになっています。というのも企画・選盤しているのが音楽雑誌『ヘドバン!』編集長によるもの。昔だったら絶対に入っていなかったものが、”今の基本”にはなっている辺りに時代の変化があります。
広義のメタル入門書という意味では、前述の『現代メタルガイドブック』は立ち位置は似ています。こちらは逆に100枚しばりのためにメタル的な選盤にはなっている。ハードロック寄りはあまり入っていないけど、オルタナティヴ・ロック寄りが入っている点は特色でしょうか。
アルファベット順に収録されており、日本人アーティストも10をこえて掲載。レビュー文も約1000字ほどでしっかりと内容が把握できるものとなっています。また電子書籍で買うとサブスクとの連携も素早くとれ、すぐに聴けるのも特徴です。
何にせよ、言えることはメタルの起源とされるブラック・サバスの『Black Sabbath』から聴け!ということでしょうか。
この本は、メタルへの強烈な愛情と知見と熱意に満ちた方々によって生み出して頂いた煌めく結晶です。
『「メタルの基本」がこの100枚でわかる!』編集後記より引用
EMO:selected 500 over titles of albums(2006)
90年代USアンダーグラウンドの系譜から連なる現代パンクのスタンダード“エモ”。オルタナ以降の米インディーを語る上で外せないキーワードでありながら、特定のスタイルを持たない曖昧さがゆえに、その実体はなかなか捉えづらい。確かに存在するもののどこか捕らえどころがない―そんな謎のムーヴメントの正体を紐解く。
『EMO : selected 500 over titles of albums』商品紹介より引用
本書の刊行は2006年。そして当時に音楽業界でしかみなかった”エモい”が三省堂の「今年の新語 2016」で2位にランクイン。まさか10年後に日本の一般社会に浸透する言葉になっているとは・・・。その2年後の映画『青の帰り道』では真野恵里菜さまから「エモい」ってセリフを聞こうとは!時代は変わるものです。
本書はプレ・エモ期となる80年代からルーツ・オブ・エモのレジェンドに至り、以降のエモやポストハードコア、オルタナ、ポストロック、スクリーモ系バンドを中心とした約500作品のディスクガイドです。表紙のアルバムジャケットを見ていただければ大体の掲載内容がわかるかと。
エモも世代によって浮かべるバンドが違う概念みたいなジャンルになってると思うんですが、”一言では語ることができないエモの全体像をつかむ手助けになれば幸い”というまえがきの言葉通り。基本的な流れを把握できる内容です。エモ警察に怒られてもスクリーモ~エモ・メタルは載せますという信念も貫かれている。
発刊時の情勢も伺え、10年代に起こったエモ・リバイバル前です。掲載されているインタビューがTaking Back Sundayだったり、Fearless Recordsだったり。スクリーモが勢いがあった時代だけにわりと力入れて紹介されている。『エモい楽器を考察する』『エモ盤、ジャケ買いの極意』といったコラムも掲載。
amazonレビューはやたらと低いですけど、少なくとも本書の力を借りて私は90’sエモの記事を作ったのでとても感謝しております。ちなみに現在は絶版です。エモいという言葉が一般社会に浸透したのに、EMO本が読めないこの矛盾よ。
ポストロック・ディスク・ガイド(2015)
本書はポストロックの誕生と派生を今一度振り返り、音楽シーンにどのような影響を及ぼしたのかを検証した一冊である。音楽的な定義づけを一番の目的とはせず、ポストロックと呼びうるアーティストおよび作品をまとめることによって、そこに風景を浮かび上がらせたいと考えた。あとはそれを自由に感取ってもらえればいい。ポストロックには、きっとそれが似合っている。
『ポストロック・ディスク・ガイド』まえがきより引用
シカゴ音響派から始まったとされる”ポストロック”の歴史と拡がりを的確に捉えており、40名の執筆陣による600作品超のディスクレビューがまえがきにある”ポストロックという風景”を浮かびあがらせます。
Tortoise、Sigur Ros、Godspeed You! Black Emperor、ジム・オルークといったピックアップ・アーティストはコラムと全作の8割近くに及ぶディスクレビューを掲載しているのが素晴らしい。また当ブログがよく取り上げている轟音系は本書の要のひとつとなっており、発見と学びが多いです。
Mogwai、マイク・キンセラ、タイヨンダイ・ブラクストンの海外勢に加え、ミト氏(クラムボン)×美濃氏(toe)、残響レコード社長・河野氏などの国内勢へのインタビューも充実しております。でも、モグワイはポストロックという言葉自体を”アホな音楽雑誌が発明した言葉”とかつて発言していますが(p96より)。
ポストロックの源流からエモやマスロック、エレクトロニカ系への言及。さらにはアメリカやヨーロッパ、アジアなど地域別に分けた掲載などで特徴もつかみやすいですね。轟音系の項には、”ドゥーム~ポストメタルの破滅的音響”というミニコラムでHydra HeadやSouthern Lordといったレーベルの言及もされています。
わたくしが唯一、不満として言えることはMaseratiがなんで載ってないねんということですかね。あ、もうひとつありました。これもいつの間にか絶版になっています・・・。
シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition(2021)
2010年に発売された世界初のシューゲイザー・ガイド本が、大幅に増量してリニューアル!! 新旧名盤をさらに追加してディスク・レビューの総掲載枚数は800枚超に。新たにマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ライド、レイチェル・ゴスウェル(スロウダイヴ)&スティーヴ・クラーク、イアン・マスターズ(元ペイル・セインツ)、スワーヴドライヴァー、フィル・キング(元ラッシュ)、フリーティング・ジョイズ、ナッシングなど重要アーティストのインタビューも一挙掲載。
『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』商品紹介より引用
revisid verison(改訂版)が発売されたことでさらに完璧なシューゲイザー参考書になりました。靴と本書を見るのがシューゲイザーのマナーじゃないかとさえ思うぐらいです。
オリジネーターであるMy Bloody Valentine、Ride、slowdiveはほぼ全作のレビューとインタビューで丁重にもてなし。その後も90年代のシューゲイザー、シューゲイザーのルーツ、ニューゲイザー、シューゲイザーの遺伝子と動向や拡がりを踏まえながら重要作を取り上げています。
ジャパニーズ・シューゲイザーの項目もインディーからアイドルまで手厚い。ヴィジュアル系では唯一あのバンドが載っている。日本人バンドによる座談会×2もおもしろいです。この座談会での”「(シューゲイザーは)言葉にできない曖昧な感覚」を、いかにサウンドに落とし込むかが重要(p248)”というTHE NOVEMBERS・小林さんの発言が印象的。
90年代ディスクガイド USオルタナティヴ/インディ・ロック編(2022)
本書は多種多様なオルタナティヴ~インディ・ミュージックにあらためて耳を傾ける場となる。ここにはグランジ、ストーナー、スラッジ、サッド~スロウコアもあれば、歌ものバンドやシンガー・ソングライターも存在する。ポストロックとポスト・ハードコアあるいはマスロックや音響系まで、オルタナティヴ~インディなることばのおそるべき多様性を、今回ほど身に染みて感じたことはなかった
『90年代ディスクガイド──USオルタナティヴ / インディ・ロック編』まえがきより引用
ほぼこのまえがきにある通りの内容。USオルタナ/インディ・シーン激動の10年をたどる550枚のアルバムガイドです。
Sonic YouthとPixiesからはじまり、レッチリやニルヴァーナといったビッグネームもありの玉石混交。主流とは別のカウンターで多様化していったオルタナティヴの足跡が刻まれている。ポップスとかメタルは基本的に載ってないです。PanteraやThe Dillinger Escape Planは載ってますけど。その辺の感覚はオルタナティヴ的なものとしての捉え方からでしょうか。
本書はアメリカやカナダでリリースされた作品を90年代初期(1990-19993)、中期(1994-1996)、後期(1997-1999)に分かれて紹介。これはなるべく時系列で並べることでジャンルやレーベルや音楽性の区分だけではみえない動的な理解が可能になるのではないかと考えた結果であるそうです。
とはいっても80年代から本書はスタートしていますし、2000年の作品もあり。さらにはEY∃氏 (BOREDOMS)、出戸学氏 (OGRE YOU ASSHOLE)の特別インタビューも掲載。USオルタナ/インディへの入門編にどうぞ。
アメリカン・オルタナティヴ・ロック特選ガイド(2009)
本書は決して、これがオルタナティヴのすべてだとも、これが最重要でほかはどうでもいいと言ってるわけでもないのだ。ある程度の道を示せるガイド・ブック的な役割を担えばいいのだと思うし、そこには著わした者の思想とまでいかなくとも、嗜好くらいは現れてしかるべきだろう。この本によって新たな音楽と出会い、少しでも音楽人生を豊かにしてくれる人がいれば幸いです。
『アメリカン・オルタナティヴ・ロック特選ガイド』序(著:鈴木喜之氏)より引用
先述した『90年代ディスクガイド USオルタナティヴ/インディ・ロック編』よりもレーベル探鉱とアーティストへのインタビューに焦点があたったのが本書。北米大陸を6つの地域(中西部、東部、南部、西部、北西部、カナダ)に分類し、地域性に根差した取り上げ方が目立ちます。縛りとはしては1アーティストにつき1作品の掲載にとどめること。
Close Up Labelと称してレーベルを2ページにわたって深堀する傍ら、Close Up Artistと題して重要アーティストも2ページにわたって詳細に記述。これが読み応えある。前者はDrag Cityから始まり、Touch&GoやSouthern Lordなど20レーベル。後者はYo La TengoやWhite Stripes、Convergeなど26アーティスト。
2009年までの内容となっているとはいえ、70年代ぐらいから00年代の終わりまでの濃さがあります。最近のがないとはいえ不足を感じさせません。今となってはここに収められているスティーヴ・アルビニ先生のインタビューは本当に貴重。イアン・マッケイ氏とサーストン・ムーア氏が2005年に東京で行った対談の模様も収録。ですが、残念なことに本書も絶版。
DOOM STONER HEAVY ROCK DISC GUIDE 2008
これは過去にディスクユニオンが配布していた無料冊子。執筆はディスクユニオンの大塚氏・田村氏の2名。
タイトル通りドゥーム/ストーナーを中心に00年代のヘヴィロックが入り混じる。基本は”重くて煙たい音”を中心とした人たちが載っていると思ってもらえればわかりやすいと思います。ルーツとなった70年代ロックも丁寧に取り扱ってくれてるのが特徴。
大枠で紹介されているのがCandlemass、Cathedral、Electric Wizard、Kyuss、Pentagram、Sleep関連、Melvins、Neurosis、SUNN O)))など約330枚掲載。
加えてDaymare Recordings、Weird Truth Productions、今は亡きLeaf Hound Recordsのインタビューが見開き2~3pにわたって載っています。この内容で無料なんだから、ドゥーム中毒患者は当時にさぞかし増えた事でしょう。
酩酊と幻惑ロック ドゥームメタル・ストーナーロック・スラッジコア・ディスクガイド 1965-2022(2023)
今回のディスクガイドにおいては「ドゥーム/ストーナー/スラッジ」をいったん加藤氏(著者のひとり)のいうところの「腰が動くようなヘヴィロック」と広く捉え直し、その快楽装置たるグルーヴがもたらす効能を「幻惑する」あるいは「魅了する」ものとしてその概念の下に様々な音源を放り込んでいく方法論を取った。つまり、音楽がもたらす快楽の性質からヘヴィロックの収載を試みたのだ。
『酩酊と幻惑ロック』はじめにより引用
【酩酊と幻惑ロック】と題されたドゥームメタル/ストーナーロック/スラッジコアを中心としたディスクガイド。紹介作品数は1204点と、サブジャンルに特化したディスクガイドとしては異例のボリュームを誇ります。本記事で挙げているディスクガイド本では掲載数が一番多い。
選出基準も引用した「はじめに」に記載されており、”快楽的グルーヴの淵源を60~70年代のロックが持つブルースベースのうねりに求めていて、本書が扱う快楽は主に筋肉を弛緩させるようなもの”としている。揺れ動く感覚が重視されていて、サイケ/ブルースの成分を感じさせる作品が多いのはこだわりといえそうです。
特定のアーティストを大枠でピックアップせず、重要作でも文字数の基準も変えていない。60~70年代から2022年までの作品を時系列順に淡々と並べているのが特徴です。そして、なんといっても冒頭を飾るコラム「ドゥーム/ストーナー/スラッジとは何か」が秀逸すぎる。
意外なところだとスピッツやPUFFYやSuperflyが載っている。この本をきっかけにPUFFY「小美人」を聴いたら確かにドゥームでしたね。こういった発見をできることがおもしろく、入門者からマニアまで必携の一冊となっています。
『酩酊と幻惑ロック ドゥームメタル・ストーナーロック・スラッジコア・ディスクガイド 1965-2022』発売中!!
— 東京キララ社 公式 (@tokyo_kirarasha) November 30, 2023
すべてのロックを愛する人達へ!!
お近くの書店にない時は、ご注文ください!!
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ポストブラックメタル・ガイドブック: 耽美・叙情・幻想・前衛(2022)
ポストロックやトリップホップ、アンビエントなどを自由自在に取り込み、メインストリームにも波及……。ブラックメタルの古典的な手法や様式に囚われず、自由さと冒険心に溢れ、メタルから逸脱したスタイルであっても、「ブラックメタル」と名乗ることを許される寛容なジャンル
『ポストブラックメタル・ガイドブック』商品紹介より
メタルのサブジャンルであるブラックメタルは、その階層化にさらなるサブジャンルの多い密林地帯を構えます。「ブラックメタルのサブジャンルで打線組んだ」が成立するぐらいですからね。
本書はそんな中で”ポストブラックメタル”に焦点をあてたディスク・ガイド本。ジャンルの成り立ちから発展の経緯、事細かな特徴を述べつつ、445バンド計774作品を紹介しています。さらにはコラムとインタビューが含まれる。しかもこれらを著者・近藤氏がひとりで全て担当したのが驚くべきことです。
私はこれを読んで全然知らないのばっかじゃんとなりました。とてもマニアックな内容であり、AlcestやDeafheavenだけ聴いておけば良いと微塵も言えない奥深い幻想と狂気がここには存在します。
インタビューはCeleste、Lantlos、Fen、Sylvaine、Liturgyに加えてプロデューサー/エンジニアのJack Shirleyなど14組を掲載。初めての日本語でのインタビューが載っているアーティストもいるので、貴重な一冊です。ブラックメタルは本当に沼地であることが本著だけでもよくわかります。
ゴシックメタル・ガイドブック(2023)
Paradise LostやMy Dying Bride、The Gathering等の正統派ゴシックメタル準拠もしくはそれに連なる要素を持つバンド、あくまでベースにゴシックロックやニューウェイヴ+ヘヴィメタルの背景を色濃く持つバンド、各スタイルのパイオニア的なバンド等にある程度焦点を絞りながら、地域別に体系化を試みた。本書がゴシックメタルを紐解く上でのある種の道標として一助出来れば幸いである
『ゴシックメタル・ガイドブック』まえがきより引用
前述の『ポストブラックメタル・ガイドブック』と同じ合同会社パブリブからの出版。こちらも著者・阿久津氏が494バンド計761作品、コラム、インタビューをひとりで全担当しております。スゴい。
明確な定義のなさやシーンの膨大さゆえにまとめるのが困難なゴシックメタル。それを”暗黒耽美”という精神性の下に丁寧にまとめている。最初の『ゴシックメタルの音楽的背景と血脈の探求~ルーツと周辺ジャンル~』にから読み応え十分。わたしはゴシックメタルには詳しくないから余計にそう感じます。
”ゴシック”という言葉の歴史的背景からの紐解き。そしてMy Dying Bride、The Gathering、Lacuna Coilなど10組のインタビュー。さらには『ゴシックメタルとシューゲイザー』『ゴシックメタルとタグ付けされたヴィジュアル系バンドたち』を含めたコラムも強力です。
本書を”暗黒耽美な音楽を愛する全ての皆々様に捧げます”と語る著者。最後に再び引用で締めます。
最後に著者が特に気に入ってる歌詞を一つ。Paradaise Lostの「Yearn for Change」から。ネガティヴの極地とも言える生の表現、けどそれ故に美しさが際立つこともあるのだ。
「Life is all the pain we endeavour…(人生とは全ての痛みを努力して得ること)」
『ゴシックメタル・ガイドブック』p37より引用
ヴィジュアル・ロック パーフェクト・ディスク・ガイド(2013)
単にヴィジュアル系の名盤を500枚紹介するのではなく、ヴィジュアル系誕生以前から全盛期と氷河期を乗り越えて現在に至るまでの流れとか、独特なファッションやライヴの楽しみ方とか、世代を超えたヴィジュアル系ミュージシャンの座談会とか。読んだ人が「なるほどね」とうなづいてくれたり、ヴィジュアル系をもっと好きになってもらえる要素がいっぱい詰まっている本になればいいなと、単純に考えた。めくるめくヴィジュアル系ワールドは、非常に奥が深いのだ。
『ヴィジュアル・ロック パーフェクト・ディスク・ガイド 500』まえがきより引用
実はヴィジュアル系にもディスクガイド本が存在しており、2013年に刊行されています。1980年代のジャパメタから90年代ヴィジュアル系黄金期の主要バンドを中心に、周辺バンドまで含めた名盤500枚を紹介したのが本書。
初っ端を飾るのがBOW WOWで80年代のジャパメタ勢の手厚いスタートにビビるところですが、Part2からはずっとヴィジュアル系のターン。メジャー・デビューしたバンドは基本的に載っているので、ルーツの探求から刊行された10年前までの流れは追える内容になっています。
でもラから始まるあの大物はおそらく忖度で載ってません。P14から5ページにわたる”ヴィジュアル系歴史年表”に名前はあるのに・・・。とはいえ、ヴィジュアル系にゆらめきたい人には入門書としてオススメできます。