”音の魔術師”の異名をとる神奈川県在住のサウンドクリエイターMitsugu Suzukiによるソロプロジェクト。儚げなノスタルジー、そっと寄り添う様な温もりが漂う幻想的世界を構築する。
アルバム紹介
circus from a bygone era(2012)
1stアルバム。リリースはKilk Recordsから。鎌野愛(ハイスイノナサ)、美里(kacica)、森大地(Aureole)、Ferri、ukaといったゲスト・ヴォーカル陣と共に奏でゆくファンタジックな世界へようこそ。
このレーベルのファンにはたまらないだろう幻想的ポストロック~エレクトロニカ・サウンド、それを十二分に堪能できる仕上がりです。繊細なフレーズから轟音までを行き来するギターに、ストリングスやシンセ、それに打ち込みが華美に演出して緻密なサウンド・デザインを施している。
切なくノスタルジックな情緒を湛え、その上で印象的なサンプリング、それにアンビエントやクラシックのような要素も重ねながら歌と結晶化。想像力を掻き立てる美しい物語を滑らかに展開していく。The Booksに通ずるような趣。
さらにはwegを歌の力を使ってより引きあげた印象もありますね。ゲスト・ヴォーカル陣がつけ加えていく豊かな風味が、楽曲毎の明暗のグラデーションを引き立たせているのは特徴のひとつ。
ukaさんの柔らかな歌声とシューゲイズ風の轟音ギターがファンタジーの始まりを告げる実質的なオープニング・トラックの#2「Laika」、繊細かつキラキラとした音響の中で安らぎの力を持つ森大地氏の歌声が重なる#4「Sparkle」、月明かりのような儚くデリケートなサウンドとこちらもukaさんの優しい歌が微笑みかけてくる#5「Pendulam」などが特に印象的。
胸を締め付けるような物悲しい楽曲から、歓喜に包まれるような楽曲まで。ヴォーカルの個性を引き出しながら作品に深みを与えています。帯に”音の魔術師”とまで書かれるのも納得の入念な音選びと配置は実に見事だと思う。
wegを思わせるダイナミックさが圧巻の#6「Sketch」、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出しつつもリリカルな#8「Remain」、繊細な音響意匠のもとでFerriさんの歌を交えながら大らかに包み込むラストの#10「In Your Small Hands」などの後半もまた味わい深い。
絵本をめくるように物語が進み、感動が積み重なっていく。この彼の多彩な引き出しから既に職人のような風格もあるが、儚げなノスタルジーとそっと寄り添う様な温もりが染みる作品です。静かに聴き浸りたくなる。Linus Recordsでの購入特典である5曲入りCD-R『Parallel Circus』もグッドな内容でした。
cellzcore scene 1 -Jet Black Space Jellyfish-(2014)
1曲30分構成の限定EP。”kilk CD-R limited series”として100枚限定でリリースされました。タイトルの通りにcellzcellarの”核”をそのまま封じ込めた30分1曲の音世界を繰り広げます。彼が丁寧に紡ぐ眩惑のファンタジーに加え、GlaschelimのDr.廣瀬氏を迎えた2013/11/30のヒソミネで行われた1stライブ時のドラムトラックを使用。
というわけで、「幻想の世界で・・・」というイメージが強かった1stアルバム『circus from a bygone era』とは少しばかり趣が違います。豪華なゲスト・ヴォーカル陣を招くことで、寓話のような儚い世界観が広がったあのアルバムからは、ヴォーカルが抜かれてかなりポストロック寄りの構築が成されています。
ライヴ仕様といえばライヴ仕様。幻想性を演出する優美なエレクトロニクスやギターの交錯が作品の根幹に据えているが、10分を過ぎた辺りから廣瀬氏の風神のような強烈なドラミングが加わってくることで、スタジオ音源には無いぐらいのダイナミックな起伏が生まれています。
大まかには静から動へというポストロック的な手法ではあるが、その中には茫洋としたアンビエントあり、wegのように悲壮感に満ちた電子音響世界あり、マニュエル・ゲッチング風のギターが心地よく泳ぐ場面ありで、刻々と移ろい行く情景を描くように物語は進行し、30分をかけて完結。
特にMONOのような歓喜をもたらしていく轟音のクライマックスは、ただただ恍惚とさせられます。1stアルバムとは別の魅力ある世界を提示できる辺りは、さすがに音の魔術師ですね。
Belka(2017)
2ndアルバム。
Dystopian Chanson(2021)
3rdアルバム。