カテゴライズ不能、唯一無二の存在、DIR EN GREY

 1997年に大阪で結成された5人組ロックバンド。京(Voice)、薫(Gt)、Die(Gt)、Toshiya(B)、Shinya(Dr)の5人による活動は、まもなく結成から25年。常に最前線に立ち、最前線で闘い、切り拓いてきたバンド。ヴィジュアル系ロックを出自にその足跡は、誰にも真似できない道のりを辿ってきました。

 結成から最速での日本武道館公演、海外進出、大型フェス出演、ビルボードチャートランクイン。そういったトピックはある中でも自分たちの音楽を追求し続け、孤高ともいえる存在になっていきました。わたしは中学1年生の頃に「I’ll」が発売された時から聴き出して20数年ずっと追っていて、ライヴも一番見ているバンドですが、その変化は目まぐるしいものがあります。

 本記事はオリジナルアルバム10枚、ミニアルバム3枚、ベストアルバムの計14枚について書いています。彼等を聴くきっかけになれば幸いです。

目次

MISSA(1997)

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 初音源となったミニアルバム。全6曲31分収録。すでに前身バンドのLa:Sadie’sでそれなりに成功をおさめていた事もあり、既にヴィジュアル系界隈ではかなりの人気があった模様です。メンバーは10代後半~20代前半。スタジオに泊まり込んでまでレコーディングを完遂したとか。

 初期黒夢フォロワーを感じさせるコテコテのヴィジュアル系。現在の世界的成功を考えると信じられない人もいるでしょうが、これが結成初期の彼等です。清春先生に感化された京さんの歌とダークなサウンドを基調に組み立てられ、詩に関しても痛ましいものが多い。

 V系によくあるツタツタビートによる疾走、癖のある歌、刺々しさと耽美なメロディ。わかりやすいといえばわかりやすい。でも、この時点ではありがちがなバンドという認識で終わってしまう人も少なくないかと。執拗に繰り返されるフレーズが印象的な#4「蒼い月」、メロディアス疾走#5「GARDEN」等を本作は収録。

 #1「霧と繭」は2012年12月リリースのシングル『輪郭』時にリメイクされており、別物といえるぐらいにデスメタル化(再録時に聴き直したけど、薫さんは恥ずかしくて最後まで聴けなかったとか)。#6「秒「」深」も2002年7月発売のミニアルバム『six Ugly』にて再録。こちらも重量感と勢いが増して凶悪な進化を遂げています。

 翌1998年にシングル「Jealous」、そして当時のインディーズ記録であるオリコン7位を記録したシングル「I’ll」を立て続けにリリースし、急速に人気を獲得。また、メジャーデビューを前にインディーズ・バンドとして初の日本武道館公演を行う快挙も達成しています。まあその公演はメンバー+関係者全員が黒歴史という認識で封印されているのですが、快挙は快挙です。

GAUZE(1999)

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 X JAPANのYOSHIKI氏プロデュースによる#3「ゆらめき」、#11「残 -ZAN-」、#12「アクロの丘」のシングル3枚同時発売(全てチャートTOP10入り)で型破りのメジャー・デビュー。その後にリリースしたシングル#6「Cage」、#9「予感」でもヒットを飛ばし、満を持して発表した1stフルアルバム。全13曲約69分収録。

 ノストラダムスの予言に揺れた世紀末の1999年7月。この頃のディルは、まぎれもなくV系中のV系というルックスと音楽でした。黒夢を下地にした狂い咲く激しさ、特有の艶やかさを持つ耽美なメロディ。王道を突き進むそのサウンドは、インディーズ期とは比べ物にならないほどクオリティが高まっています。メンバー自身の成長や録音環境も手伝って楽曲は随分と洗練され、展開やアレンジ面でセンスを発揮。

 メジャー仕様のポップ感を伴った#3「ゆらめき」や#9「予感」、ストリングスを取り入れた初期を代表するバラード#12 「アクロの丘」、初期の最凶曲#11「残 -ZAN-」とシングルで兆候はありましたが、アルバム全体を通してディルらしいテイストや実験性が盛り込まれていて、表現力も多彩。それに本作は予想以上にバラエティ豊かな曲調。

 ただ、メジャーに移籍しても売れ線にしようとは微塵も思ってない様子。以前から追及している痛みや死生観、エロティシズム、グロテスクな表現が歌詩にも曲調にもしっかりと反映されています。ドゥームメタルにも近い感触を持つ毒々しい#8「mazohyst of decadence」はその極み。鋭さを増しながらハードかつテンポよく畳みかける#2「Schweinの椅子」、儚くダークな曲調と共にバッドエンドへと向かう#5「304号室、白死の桜」、グロテスクな気色悪さをも晒す#7「密と唾」も並ぶ。

 この頃から他に無いやり方や表現を貫こうとし、我が道を進んでいる印象は強い。シングル以外はセルフプロデュースですし。精神錯乱を狙うダークでメロディアスな曲たち。手探りだった『MISSA』よりも原点と呼べるアルバムだと思うし、闇の界隈に引きずり込むには十分すぎる毒気と魔力を備えています。

 ちなみに#「残-ZAN-」はミュージックステーションで披露して苦情が殺到したことで知られています。 シンコーミュージックから刊行されている『BURRN! PRESNETS DIR EN GREY』のインタビューでDieさんは「Mステのスタッフも協力的でMVの世界を再現しましょう」と意気込んで逆さづり等やった結果、伝説になってしまったという(笑)。

MACABRE(2000)

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  約1年2ヶ月ぶりとなる2ndアルバム。全13曲約73分収録。インディーズからの総集編とも呼べる前作『GAUZE』とは違い、アルバムを通してひとつの世界観を提示する本作。現在の彼等に通ずる重厚な構築美はここが原点といえる内容です。

 重々しいサウンドとロシア語詩で幕開けを飾る#1「Deity」からして呪術的な雰囲気に支配されます。ハンガリー舞曲をフィーチャしたこの曲は妖しくダークにうごめき、民族/宗教的な要素も含む本作のスタートにふさわしいもの。目を背けたくなるような表現はたびたび登場しており、#3「理由」は自殺、#6「蛍火」は戦争(第二次世界大戦の日本でしょうか)といったテーマを扱っており、共にメロディアスながら儚さが引き立っています。

 和をモチーフにし、民族音楽や構築性を重んじるなどかなり変化は感じます。その象徴といえる表題曲#9「MACABRE -蛹ノ夢ハ揚羽ノ羽-」。10分以上をかけて深い闇の中へ潜行していくようなプログレライクな曲であり、その緊張感とスケールはこれまでには無かったものです。ストリングスを用いて儚いまでの悲壮感を漂わせた#6「蛍火」、陰りを帯びたメロディが先行する#10「audrey」といった曲も本作には置かれています。

 ライヴではお馴染みで後に再録された#5「Hydra」はインダストリアルの要素を加味し、こちらもリメイクが施された#11「羅刹国」は和地獄+スラッシュメタルといった曲調で、強烈なインパクトを放つ。本作を聴いているとポップは基底にありつつ、激しさも耽美性もダークさも一段と掘り下げられたように思います。

 女性視点で愛する人を失った悲しみと憎しみをつづった情念のバラード#12「ザクロ」は、痛ましいほどの表現に圧倒されます。ライヴだと京さんの物語への没入感が半端ではなく、鳥肌が立つほど。ここまでの12曲で構築した深い闇をこじ開けるように淡い光が差すポップな#13「太陽の碧」でラストを迎える構成も秀逸。

 これまでを踏まえた上で、踏み込んだ表現と作品としての深さと重さが結実した初期の到達点といえる作品です。ちなみに本作は2001年4月にリリースされたシングル「ain’t afraid to die」を持って締めくくられます。20数年を通してもキャリア屈指のバラード曲なので、併せてぜひ聴いていただきたいものです。

鬼葬(2002)

 1年4カ月ぶりとなる3rdアルバム。全16曲約70分収録。当時としては最高記録となるオリコン・チャート3位を記録しているアルバムです。

 タイトル『鬼葬』が象徴するように“和”のテイストがはっきりと提示されています。具体的にはエロスとグロテスク、和製ホラー、昭和、花魁、近視相姦、虐待などなど。”脱ヴィジュアル系”的な方向性も見え、当時に流行していたモダン・ヘヴィネスやニューメタル、ミクスチャーを念頭に置いたサウンドメイキングが成されています。1音下げのダウンチューニングを基本に(1音半下げもある)、デジタル要素も取り入れている。

 攻撃的なシャウトやコーラスを核とした冒頭の#1「鬼眼 -kigan-」からその変化を強く感じ取れます。#2「ZOMBOID」なんて詩も音も過激すぎて逆に感心しますし、よくシングルで発表できたなと思える#4「FILTH」なんてサビ以外はテレビで流せるものではありません(性欲スープを召し上がれとか言ってるし)。純文学でもここまで表現しないし、さすがに詩に関して毎回事細かく検閲が入るのも仕方ない。実際にシングル#6「embryo」は、大人の事情でシングルとアルバムで詩が異なっている。

 詩の表現はかなり行き切っていますが、曲調はバラエティに富んでいます。和モノデジロックといった趣の#8「逆上堪能ケロイドミルク」、「残 -ZAN-」にも迫る激烈スピード曲#15「ピンクキラー」といった曲もあり、アコースティック・ナンバーの#10「undecided」や#11「蟲」にしてもただただ切なく、ただただ痛く響く。キャッチーで爽快な疾走曲である#13「JESSICA」は眩しく、当時にかなり聴いたシングル曲です。

 前作よりもライヴを重視した作風ですが、本作における生々しい詩表現と毒気は、彼等特有のもの。その中で人間の内側に向うよりも、外に向かって発散するという形に向かったのは『MACABRE』からすると自然なことなのかもしれません。

six Ugly(2002)

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   シングル「Child prey」と同時発売の6曲入りミニアルバム。『鬼葬』から半年でリリースされたことにまず驚きます。当時は”列島激震行脚”というこれまでにない本数のライヴをこなしていましたが、さらにパワーアップさせるための本ミニアルバム。完全にライヴ向け作品です。

 具体的には『鬼葬』の激しい&ノれる曲の追求という感じでしょうか。メロディを多少は影に追いやってでも、#1「Mr.NEWSMAN」からその攻撃性を示しています。重くチューンナップされた演奏隊に加え、京さんのシャウトも一層迫力を増していて、激しい曲が好きな方にはもってこいの内容。

 製作期間が短いから細かく作り込む/練り上げるには至ってません。でも、ノりは全てを解決するではありませんが、『six Ugly』の曲は文句なく盛り上がれるから当初の目標は達成。なんといってもキャッチ―な掛け合いのコーラスが強力な#4「umbrella」の存在。そして、この原曲をShinyaさんが持ち込んでいるという事実。

 リメイクされた#5「Children」はミクスチャー化し、#6「秒「」深」はMISSA時代の何十倍も重く凶悪に進化。#6は当時のライヴでは最後を締めくくることの多い重要曲でした。同時発売のシングル「Child prey」に「鬼眼-kigan」「Hydra」「羅刹国」のライヴ音源が収録されていたことからも、ライヴへの意識が非常に高かったことを伺わせます。

VULGAR(2003)

 1年8カ月ぶりとなる4thアルバム。全15曲57分収録。本作から作曲・編曲のクレジットをバンド名義で統一。痛みとヘヴィネスというコンセプトに統一した本作は、「自分たちにとっての1作目」というぐらいに転機となった作品。

 『six Ugly』でのラウドロック/ニューメタル路線を継続しつつ、先行シングルとなった#11「DRAIN AWAY」や#9「かすみ」でしのばせるメロディと和情緒の融合。アルバムとしてその流れを上手く引き継いでおり、美しさと重さを伴いながらテーマである”痛み”を体現しています。メッセージ性の強い歌詩と相まってのヘヴィネス。それはニューメタルを単にV系フィールドに持ち込んだレベルではない強度を誇り、多くの人の支持を得ると同時に新しい層へも波及しました。

 重いミクスチャーロック#2「THE ⅢD EMPIRE」、煽情的な疾走ラウドチューン#14「CHILD PREY」があり、ドロドロと毒を流しては和の雰囲気を広げる#4「蝕紅」があり、ストレートな歌もの#5「砂上の唄」があり。ヘヴィネスとメロウネスのバランスを取りながら、様々な楽曲が見事な統一感のもとで並ぶ。変則的に切り刻む#8「MARMALADE CHAINSAW」もまた強烈な印象を残します。

 リード曲となった#13「OBSCURE」は7弦ギター&5弦ベースを導入して重量感たっぷりの仕上がりで、狂ったシャウトを繰り返しながらサビでは情緒豊かに聴かせる1曲(しかし、2011年に再構築されています)。以前と比べると3~4分台の曲がほとんどで、長くても5分少々というコンパクトさも変化と言えます。この辺りはバンドとして説得力が備わってきたことの賜物でしょうか。

 ヘヴィでコア。そして、バンドのテーマに掲げる”痛み”。そのスタイルが初めて結実したと言っていいのが本作。近年、ライヴでの演奏頻度が高い#1「audience KILLER LOOP」が”ここは自殺の庭”と歌いながら覚悟を問います。この痛みを受け止められるかと。

Withering to death. (2005)

 1年半の歳月を経ての5thフルアルバム。前作『VULGAR』はもちろん下地になっているのですが、それよりも柔軟で間口が広いように感じます。実際にToshiyaさんは、#2「C」における軽快さが『VULGAR』には入らないものであり、この曲の存在が本作をヘヴィなだけではない作品として昇華できたとインタビューで語っている(BURRN! PRESENTS DIR EN GREYより)。

 ラウドロック/ニューメタルへの覚醒で手にしたヘヴィサウンドに、元来持つメロディセンスの融合。それは洗練という言い表すだけにとどまらない楽曲へと昇華。千紫万紅ともいえる声色と表現を使い分ける京さんは、アルバム毎に進化してきましたが、本作でひとつのスタイルを創り上げた感じがあります。詩に関してもパーソナルな心情を吐露する場面が多くなった。ギターソロが無くなったことはトピックのひとつですが、『VULGAR』に続いて3~4分のコンパクトな尺の中で激しさも美しさも曲の中で根をはっています。

 #1「Merciless Cult」に始まって、切れ味鋭いリフと疾走感に溢れる#2「C」、激しさと美しさの対比が絶妙な代表曲#3「朔 -saku-」まで一気に畳みかけ。ド頭から3曲の流れが本作に対しての確信を持つと、#4「孤独に死す、故に孤独」で心情を強く揺さぶられる。

 悲しさと儚さの同居した#5「愛しさは腐敗につき」、激動のハードコア#7「GARBAGE」や#11「Beautiful Dirt」、涙腺を刺激してやまない死者への鎮魂歌#13「悲劇は目蓋を下ろした優しき鬱」と前作以上にタイプは様々でバラエティに富む内容。ソリッドな音作りであるのに、メロディアスであることは貫かれる。これこそが本作の聴きやすさと間口の広さに繋がっています。

 なかでも、イントロのアルペジオから一気に感情を爆発させる#9「dead tree」は、”枯れる”という本作のキーワードを体現しており、感情的かつドラマティックに痛みを表現しきった佳曲。アルバムに漂う退廃めいた感触は、この曲や#4辺りの影響からでしょうか。また、歌ものヘヴィロックとして人気の高い#10「THE FINAL」や#14「鼓動」等の代表曲も本作には収録されています。

 ヴィジュアル系とヘヴィロックの完璧な融合を果たし、後続へのひとつの指針となった本作。これをもって海外進出を果たしていくことになります。現在でもライヴで演奏頻度の高い曲を多く有する本作は、Dir en grey時代の到達点といえる傑作。その証明として日本版『ローリング・ストーン』誌が2007年に選定した「日本のロック名盤100」では34位にランクインしています。

THE MARROW OF A BONE(2007)

 約2年ぶりとなる6thアルバム。表記をDir en greyから現在の”DIR EN GREY”へと変更。05年から始まった海外進出は、この頃は一層拍車がかかっていました。特にアメリカへの挑戦というのが主だったと思います。歌詩もその意向が反映されていて英詩が多い。

 KORN主催の『FAMILY VALUES』のツアー中(2006年)のバスでほとんどの曲をつくったらしい本作。その時のライヴの印象や共にツアーを廻ったバンドの音がガンガンに響く環境で作られているので、多分に影響されたという。そんなわけで海外勢に沿ったメタルコア化は顕著です。

 シングルの#13「CLEVER SLEAZOID」や#3「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」でその兆しは見られましたが、ダークで激しい攻撃性を押し出した#2「LIE BURIED WITH A VENGEANCE」や精神を狂わす#5「GREIF」等で攻めに攻めてきます。ゆえに彼等の持つ耽美さやメロディが大きく減退。それに対して疑問を持ったShinyaさんもインタビューで、海外に行くとはこういうことかと理解していたそうな。

 その補完というわけではありませんが、数少ないメロディアスな楽曲が異様に存在感を放っています。仄暗い闇の底から悲痛な歌と美しいメロディで胸を打つ#1「CONCEIVED SORROW」、ツインギターが奏でる綺麗な曲調の中で重い詩が響く#9「艶かしき安息、躊躇いに微笑み」、終盤のハイトーン・ヴォーカルが非常に印象的な「THE PLEDGE」。この3曲は初回盤のDISC2でも別Versionが楽しめる仕様です。

 ただ、バンドの持ち味を考えるとこれで良かったと思えないのが本音。前作がひとつの完成形ともいえる作品だっただけに、海外寄りになってしまった本作が賛否両論になるのは仕方のないことでしょうか。結局、海外ツアーや本作を通して”より自分達らしくあろう”という結論に至ったそうなので、『UROBOROS』を生み出すために通過すべき1枚だったのかとは思います。ちなみにToshiyaさんは本作を海外でのデビュー作というイメージがあると語っている(BURRN! PRESNETS DIR EN GREYより)

 しかしながら、16~17年にかけて行われた過去アルバムツアー「mode of~」で再びこのアルバムと対峙すると、これはこれでアリだったのかなという感触になっている不思議。時を経ると聴こえ方がいろいろと変わってくるのか。ちなみに#12「THE DEEPER VILENESS」は10thアルバム『The Insulated World』にてリメイクされており、さらに獰猛な進化を遂げています。

UROBOROS(2008)

 1年9ヶ月ぶりの7thフルアルバム。前作『THE MARROW OF A BONE』と数多の海外公演を経て、まさかここまでの作品を作ってくるとはと驚きます。今もなお集大成にして最高傑作と言われる『UROBOROS』は、全米ビルボード200に初ランクインとなる114位を記録。DIR EN GREYとして、ならびに日本のバンドとしての本質を改めて問い直して、怪物のようなアルバムを創り上げています。

 「核であるこの曲を中盤に置かず敢えて2曲目に置くことで、この核を乗り越えた人だけが先に進めるというようなところを表現したかった」という9分半のプログレッシヴかつドラマ性に富む#2「VINUSHKA」が門番として立ちはだかります。TOOLやOPETHなどに通ずる奥行きの深いスケール感と精神性を追求した本曲は、1曲でアルバム全てを物語るかのよう。孤高の領域という言葉が似つかわしいほどに、その表現は圧倒的です。

 ハードコア/メタルの猛烈な衝動、デス/ブラックメタルの残虐な凶暴さ、ゴシック的な耽美性、プログレの幽玄的な美が絡み合い、差し込まれる妖しい呪術性や宗教的フレーバーが奇妙な輝きを放つ。メロディはダークな音楽性の中で輝き、アルバムは荘厳な雰囲気に包まれています。2ndアルバム『MACABRE』にも通ずるような構築美ですが、あの頃から何段も何段も駆け上がっている。

 特にVoice.京さんの凄まじさたるや。グロウル、ホイッスル、クリーンヴォイス等々、その声は増々多彩かつ変幻自在であり、なおかつ高いレベルで実現しています。彼自身も”自分自身を研究して本作にその全てを詰め込んだ”と「DIR EN GREY PRAYERS BOOK」にて語っています。ちなみにこの書籍には彼がヴォーカリストとして影響を受けた30作品も掲載。

 陰鬱で重苦しい幕開けを告げる#1『SA BIR』から僅かな希望を掴み取ったかのような#13『INCONVENIENT IDEAL』までの流れは見事であり、各楽曲同士が強い関連性を持っているように感じます。異形の美しさに満ち、禍々しさと衝撃を持って迫る。UROBOROSなる異世界に足を踏み入れたのなら、きっと聴く者自身の心にも何か大きくて重い塊を残すことになるでしょう。

 なお本作は、2012年初頭にTue Madsenによってリマスタリングされ、さらに「BUGABOO RESPIRA」と「HYDRA -666-」が追加されて全15曲収録の『UROBOROS[Remastered&Expanded]』としてリリース。 シングルの「GLASS SKIN」 や「DOZING GREEN」が本来の日本詩で収録されているので、是非ともこちらを手に取って欲しいものです。

DUM SPIRO SPERO(2011)

 約2年9カ月ぶりとなる8thアルバム。全14曲約66分収録。前作『UROBOROS』の延長線上にある作品とはっきりいえるものの、尋常ではない重さがあり、さえらに深い領域へと足を踏み入れています。タイトルはラテン語で「息ある限り、希望は捨てず」という意味。ですが、まるで希望など見えません。這いつくばり纏わりつく音と共に闇墜ちしていく未来しかない。

 トピックとしては7弦ギター&5弦ベースへと完全に移行。とはいえ、それだけでここまで重量感を持てるかと思えば違う気がします。ドゥームメタル寄りの禍々しさと圧迫感による支配の中、アヴァンギャルドな展開を踏まえながら、音が妖しくうごめいている。聴き手を隔てる#2「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」からして悪夢に取り込まれたかのような気分。理解されなくてもいいから、自分たちにとって最も深い表現をしきる姿勢が表れています。

 1曲1曲毎の身体的/精神的は摩耗は半端なく、試練と修羅の音はひたすらに鳴り続ける。凶暴なグロウルとサビのクリーンヴォイスに加えメタル的なギターアプローチが光る#3「DIFFERENT SENSE」、#5「「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨」の狂気と変則性、心臓をまるごと噛み千切られるような#6「獣欲」や#11「DECAYED CROW」のアグレッションと容赦ありません。

 「VINUSHKA」とは違い、人間の精神の奥深くを蹂躙するような長尺曲#9「DIABOLOS」は、”人間をやめろ”とまで言ってのける。重と醜の極致にまで行き着いた本曲が、『DUM SPIRO SPERO』をよく表していると思います。ヘヴィ&メロウを体現しつつも悲痛に響くシングル曲#8「LOTUS」、東日本大震災時に制作していた#13「VANITAS」のような鎮魂歌を含むも、宗教感が増した暗く重い世界観は一層深くなっている。

 『UROBOROS』も怪物ではありますが、こちらは魔物です。全オリジナル・アルバムの中で一番DIR EN GREYにしかつくれないと思わせるぐらい、独自の感覚と息遣いがある。圧倒的な威厳と深さ。光よりも痛みが未来を照らすこともある。そんなことを思わせる重量盤。本作も前作に続いて全米ビルボード 200にランクインしており、初登場135位を記録。

「LOTUS」はシンフォニックVersionの方が10,000倍ぐらい良いです。泣けます。

THE UNRAVELING(2013)

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 約11年ぶりとなるミニアルバム。新曲は「Unraveling」のみで、他は過去の再録6曲で構成された全7曲。完全限定盤にのみ「MACABRE」の再構築Versionが収録されています。

 #1「Unraveling」に関しては、Djentをはっきりと取り入れた作風。メシュったリフの重ね方とグルーヴを基本線に置きつつ、彼等らしいヘヴィネス&メロディアスに落とし込んでいます。複雑な展開を持ち、シンセや多彩な声で密教のような雰囲気を助長させる。コンパクトでありながらも、いくつものフックで聴き手を興奮状態に陥れます。『DUM~』を踏まえた先を提示したと言えるでしょうか。

 そして、再構築の6曲。ヴィジュアル大会時代の初期曲#2「業」や#6「Unknown.Despair.Lost」は割と大きな変化を伴ったリメイクで、『鬼葬』以降となる他4曲もそこそこ手を加えている。基本的に7弦ギター&5弦ベースによる現行チューニングでの再構築なので、ある程度は変わります。

 デスメタリックに進化した#2「業」、ひたすらヘヴィネスが強調されつつもやっぱりメロディは残る#6「Unknown.Despair.Lost」は、約15年の歳月をかけて新たな魅力を引き出しました。なかでも好みなのは、#3「かすみ」と#7「THE FINAL」はあまり変わってませんが、クセが抜けている感じにはなっています。両曲ともにこちらのVerの方が好み。

 #4「鴉」も『鬼葬』時と比べると妖しさと悲劇的な感覚が増していて、ゾクゾクとする仕上がり。逆に#5「Bottom of the death valley」が原曲の方が好みかな。完全限定盤を買った人間のみの特権となりますが、「MACABRE」の再録はさらに長尺の16分に仕上がる。『UROBOROS』~『DUM SPIRO SPERO』で得た感性を経て自らの過去・現在を行き来しながら、多彩なトーンを楽しませてくれます。

ARCHE(2014)

 約3年4ヶ月ぶりとなる9枚目。ミックス&マスタリングは、Tue Madsenが担当。全16曲約68分収録ですが、完全生産限定盤のDISC2にて「and Zero」「てふてふ」が収録されており、実質は全18曲のアルバムといっても差し支えありません。

 先行シングルである#13「Sustain the untruth」が久しぶりに5人で音合わせをし、シンプルに削ぎ落とされた楽曲として話題となりました(DIR EN GREYはずっと前からリモートで楽曲制作している)。重厚でメロウでポジティヴなメッセージ性を含んだ#1「Un deux」を起点に進んでいくことから、歌とメロディに重点が置かれた作品という印象を受けます。

 アルバムを通して聴くと精神が確実に摩耗するほどに、深くて重い前作『DUM SPIRO SPIRO』でメンバー自身も行き着いたという感想を持ったそう。本作では憑き物が取れたかのようで、DIR EN GREYの特性を残した上でシェイプアップされています。楽曲に支配されるよりもライヴで活きるシンプルさが欲しかったとか。

 前述の#1を始め、#2「咀嚼」や#6「濤声」等のミディアムテンポのメロディアスな曲が大半を占め、そこにはいい意味での故郷のヴィジュアル系っぽい味わいがある。一番に風情がある#10「懐春」には太宰治的な世界観があったりもしますし、先行公開の美しいアコースティック・バラード#14『空谷の跫音』は、歌とメロディが心と身体に染み込んでくる。

 もちろん、彼等らしい尖った部分もあり。#3「鱗」や#16「Revelation of mankind」は構築された激しさと疾走を兼ね備えます。久しぶりのロックンロール調の曲#8「Chain repulsion」もあり、#9「Midwife」のように変則的にエグってくる曲もあり。全16曲はメロディアスな面に重きを置いていますが、激しさと重低音が効いた曲の中にもどこか懐かしさを感じます。

 ギリシャ語で根源を意味するこの『ARCHE』は、近作のカタログでスバ抜けて入門編に推せる作品です。歌をじっくりと聴かせようという意識がはっきりと感じられ、自然とsukekiyoの効能が出ているようにも思えたり。昔から追って聴いてる人ほど馴染むものがある。そして、なんだかんだ#7「輪郭」のような曲はDIRでしかつくれない曲だなあと感心します。

VESTIGE OF SCRATCHES(2018)

 約10年ぶりとなるベストアルバム。3枚組全44曲収録。2021年11月時点で唯一、各サブスクリプションサービスでフル配信されている作品です。というわけでDIRを聴いたことない人がまず始めに聴くなら本作です。事務所の意向でリリースされた前のベストアルバム『DECADE』とは違い、本作はメンバーも監修に関わっています。

 DISC1-#1『I’ll』を収録できるようになったのが、バンドとしての精神的な成長というか懐が深くなったというか。わたしも「I’ll」からリアルタイムで20数年ずっと聴き続けているので感慨深いものがあります(しかし、今となってはI’llは全然聴かないけど)。初回盤のBD/DVD映像で98年の初武道館公演について語っていますが、あまりにも黒歴史過ぎてお蔵入りだけど一周回ってどうでもよくなったとのことで(京さん談)、少し映像が入ってます。

 選曲は妥当。ザ・ディル・アン・グレイといっても差し支えないものでしょう。シングル曲が多めでアルバムVerではなく、シングルVerとして収録。当時の最新シングル『詩踏み』まで収録されています。DISC1からDISC3まで聴けば、これ本当に同じバンド?と疑問符がつくほどに劇的な変化を楽しむことができます。

 これまでのファンとこれからのファン、両方にとって意義深いベストアルバムです。わたし自身も本作を聴いていて、「激しさと~」のシングルVerに驚かされました。シングルだと6弦ギターで録音していたと思いますが、こちらの方がギターが前に出ていて迫力がある(DUM収録されているのはギターが引っ込み気味に聴こえる)。あとは「CLEVER SLEAZOID」も同じくシングルVerの方が勢いとコーラスが良いですね。

 またDISC2で新たにミキシングされた『VULGAR』~『Withering to death.』の曲は感動するレベルで、これでアルバムまるごと再発して欲しいと誰もが思ったはず。出す様子は全然ないですけど。「dead tree」や「朔-saku-」、「C」が再録してるわけではないですが、もの凄く進化して聴こえます。

 「腐海」「THE ⅢD EMPIRE」「Beautiful Dirt」の再録は再構築というレベルではなく、原曲を重視して今の彼等による手直しに近い感じでしょうか。「腐海」は昔からライヴでやってる歌詩に変わり、「THE ⅢD EMPIRE」は中間のベースとシャウトが強烈になっていて、「Beautiful Dirt」はエグイのにキャッチ―にも聞こえる。目玉のこれら3曲は特に必聴。

The Insulated World(2018)

 約3年9カ月ぶりとなる10thフルアルバム。全13曲約51分収録。前作『ARCHE』がシンプル化を実現したものの、いささかミディアム&メロディアスになり過ぎたとインタビューで語っています。そのカウンターなのか激しいです。メンバー全員が40代を迎えてしまったにも関わらず、丸くなるとか落ち着いたとか言わせないように。アグレッション値といい、歌詩の剥き出しの痛切さといい、過去一ではないかと。

 作品自体は前作の流れを汲む。無駄をできる限り削ぎ落したことによって凝縮されたサウンドで成り立つ。3分~4分の曲がほとんどで#12「絶縁体」のみが7分強。その上でメタルではなく、オルタナティなものというキーワードがあったといいます。そして、苛烈で攻撃的。シンプルとは言うけれども、他バンドからすれば十分に複雑。京さんは変わらずに多種多様な声を操りますが、本作ではシングル『詩踏み』『人間を被る』から使われてきた”がなり声”を多用しています。

 #1「軽蔑と始まり」から負と血のエンジンで激走し、ポジティヴな世を駆逐する勢いで6曲目の「Rubbish Heap」まで駆け抜ける。途中、#3「人間を被る」や#5「詩踏み」といったシングルを挟みますが、言葉も音も着飾ろうとせずに丸腰でぶつけてくる強さを持っています。獰猛な衝撃と狂気。”俺さえ死ねばいい”から始まって、父母に生まれてきたことを懺悔し、”誰のルールで生きてる?”と問いかける。以前よりも包むことなくストレートな表現だから、心への刺さり方が深い。

 雰囲気的に『THE MARROW OF A BONE』と近いかと思いきや、そうでもありません。あの作品は海外メタルコア勢への寄り添いと憧れみたいなのに引っ張られていました。本作はもっとパンク/ハードコアの精神性、DIRのどこにも属さないことで培養&凝縮の重音楽として吐き出されている。ギターはユニゾンで押す形が多くて重厚な塊として耳を圧し、さらにはメロディとの押し引きが練られている。Toshiyaさんは指弾き継続ですが、ほぼスラップしていないとベースマガジン2018年11月号を読んで気づかされました。

 #7「赫」で聴かせる儚い愛と死生観、#10「FOLLOWERS」で確認する繋がり、そして唯一7分を超える#12「絶縁体」の入り組んだ構成とギターソロ。生きるを八つ裂きにして自己破壊するアグレッシヴな曲群がメインとなる中で、これらの曲が生と死に向き合わせる種を蒔いているのです。

 それら全曲を通した傷だらけの苦闘を経て、ラストに辿り着くは名バラード#13「Ranunculus」。”叫び生きろ わたしは生きている”に込められる想いの全て。#1における絶望的な詩からスタートしての最終地点です。生きるは痛みと向き合うこと。それでも人間は生に飢えなければならないのか、生き続けなければならないのか。答えは見つけ出せるものではありませんが、「Ranunculus」は誰もが向き合う生との闘いにおいて支えとして響く唄なのです。

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