【作品紹介】Echotide、人々に寄り添うポストロック

 オーストラリアのシネマティック・ポストロック5人組。元々はプログレッシヴメタル・バンド、ArcaneのギタリストであるMichael GagenとキーボーディストのMatthew Martinのサイドプロジェクトとして始動。当初は3人組として活動していました。

 シネマティックなポストロックをメインの音楽性を結成時から目指す。2012年にリリースした1stアルバム『As Our Floodlights Gave Way To Dawn』でそれを見事に体現します。しかしながらMichael Gagenが多数のプロジェクトを同時進行しているため、活動はスロウペース。

 2024年9月には7年ぶりのフルアルバムとなる3rd『DUSTWUN』を発表しています。本記事はこれまでにリリースされているフルアルバム全3作品について書いています。

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アルバム紹介

As Our Floodlights Gave Way To Dawn(2012)

   1stアルバム。5年の歳月をかけて完成したという全7曲71分。この一大叙情詩には心を預けたくなる瞬間が往々にしてあります。一瞬にして緊張感を走らせ、儚い余韻を残しながら消えていくピアノに心をつかまれ、のたうつ美轟音に飲み込まれていく#1「Of Addictions」。続く#2「 Floodlights」~#3「3mwy (Of Hope)」と美的なスケールをさらに広げていきます。

 全体を通してシネマティックで映像的な作風。静と動を行き来する轟音系ポストロックを基盤に置いていますが、なめらかに弾かれるピアノが作品の重要なポストを占めている。さらにストリングスやフィールド・レコーディングもこの音楽を形成するうえでなくてはならないものです。そして上品さ。これがEchotideの中で最も価値高く表現されている印象はあります。

 しかしながらポストクラシカルや映画音楽からの影響を強く感じさせる中でも、ロックバンドとしてのダイナミズムは美しさの陰にしまってはいません。公式FacebookページにあるようにMogwaiやMonoからの影響だという轟音ギターが、モノクロームの世界をこじ開けていきます。

 本作で白眉といえるのは13分にも及ぶ#4「Embers Glow」。メンバーの3人だけでなく、8弦ギターやストリングス、管楽器等のゲストと共に彩られた世界は、力強いリズムに乗せて昂揚感をもたらします。

 確固とした物語性と透徹とした美。それらが本作では貫かれており、細部にまでこだわった構築は作り手の信念を強く感じさせます。7曲中4曲で10分を超えていますしね。1stアルバムながらシガー・ロスに似た天上界へと導いてくれる感動作。

 なお本作は遅ればせながらの10周年を記念したリマスター盤が2024年2月にリリースされています。

Into The Half Light(2017)

 2ndアルバム。全7曲約58分収録。前作からドラマーが交代しており、本作まで3人編成。”7つの交響曲。 半分の明かりのために、夜明けのために、夕暮れのために“とはBandcampの作品紹介文より。

 Heavy Blog is Heavyのインタビューでは”前作よりも一貫してヘヴィなものであること、ピアノ演奏をさらに取り入れた”と語る。幕開けとなる表題曲#1「Into The Half Light」の重心の低いリズムとお上品に拍車をかける鍵盤は確かに感じさせます。加えてゆっくりと燃え上がる展開と轟音クライマックスはこの手のバンドを聴く醍醐味がつまっている。

 ポストロックの動的エネルギーをしなやかに用い、エレガントの品評会かというぐらい美に重きは置く。それを前作より短くなっているとはいえ、平均8分を超える尺でもって表現していきます。引き合いを出すならGod is an AstronautとHammockとSaxon Shoreの衛星を周回し続ける感覚。

 三拍子に乗せてピアノとトレモロギターが煌びやかで昂揚感のある雰囲気をつくりあげる#2「Another Road」、エレクトロニックなトーンを強めながらも品位と重厚さが交わる#3「Her Back to the Sun」、アンビエントの深淵から本作中で最もヘヴィに猛る#4「Cracks~」と前半から中盤にかけて注目曲がそろいます。

 音楽とは時間芸術という側面を多分に持ちますが、本作を聴いていると物語に浸り、一音一音を噛みしめたくなる。

メインアーティスト:Echotide
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DUSTWUN(2024)

 3rdアルバム。全8曲約55分収録。約7年ぶりのフルアルバムは新メンバーが加入して5人体制で制作。その影響からかバンドとしてのダイナミズムが最も出ている作品です。しかしながらEchotideの基本フォーム自体に変わりなく。ポストクラシカル/映画音楽的な色味が濃いめの轟音系ポストロックです。

 美に飢えたピアノが優雅に舞い、シンセサイザーが温和なヴェールを被せ、トレモロギターが分厚い音壁を築く。そこには麗しさと品位、爆発力が伴っています。加えて#1「Terminal Broadcast」では欠けていた疾走感をもたらす仕上がり。ゆえに彼等がロックバンドであることを再認識させられます。

 しかしながら嵐のような轟音は訪れようとも、デリケートな奥ゆかしさと真摯な物語性が貫かれている。それがとても純文学風の小説的であり、感情の機微を細やかに描写したヒューマンドラマ系の映画でもあり。

 ドラマティックではあっても絶対泣ける大げささはなく、またタイパを求めるような人向けではないですが、じっくり味わいたいと思う人に向けた音楽を彼等はつくり続けています。

 #2「A Sempahore Burning」の終盤はピアノ入りのExplosions In The Skyのような趣があり、#4「Voices Fray」では鍵盤奏者をゲストに迎えたことでメランコリックな性質をより高めている。そして先行シングルとなった#7「All Frequencies Wide Open」はシューゲイザー風ギターのインパクトが大きい。

 時代が変わり、合わせて聴かれ方も流行も変わっている。ポストロックはまだ絶滅を危惧する段階ではないですが、もはや演る人は少ない。それでもなお自分たちの音楽を貫き通し、人々に寄り添う物語をEchotideは奏でています。

このアルバムは落ちた太陽であり、時に優しく、時に擦れるような閃光であり、消えゆく光の中の明滅である。 すべては愛のため、喪失のため、そしてコミュニケーションのため。

Echotide オフィシャルFacebookページ投稿より
メインアーティスト:Echotide
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MUSIC VIDEO

Echotide – All Frequencies Wide Open [Official Music Video]
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