【アルバム紹介】Habak『どんな壁も春を閉じこめることはできなかった』

 外務省から不要不急の渡航中止を要請されるメキシコ・ティファナを拠点に活動する5人組。2010年代中盤から活動開始。国家や社会構造、巨大資本に対しての痛烈なメッセージ、激しさと穏やかさが両立したメロディック・クラストを展開する。

 これまでにフルアルバム1作、EP2作、いくつかのスプリット作を発表。本記事は1stフルアルバム『Ningun Muro Consiguio Jamas Contener la Primavera(邦題:どんな壁も春を閉じこめることはできなかった)』について書いています。

タップできる目次

アルバム紹介

どんな壁も春を閉じこめることはできなかった(2020)

 1stアルバム。全9曲約40分収録。正式なタイトルは”Ningun Muro Consiguio Jamas Contener la Primavera”。2024年3月に3LAさんが日本語対訳付きの国内盤をリリースしております。アートワークはオレたちのAlex CF(Light Bearer/Fall of Efrafa)が手掛けている。

 バンドの活動拠点であるメキシコ・ティファナを検索するとサジェスト(一緒に検索されやすいキーワード)で”危険”、”治安悪い”が上位に出てくる地域。そんな土地で育まれた怒りと抵抗の音楽であります。

 発売元である3LAさんのインタビューによると”メロディック・クラスト(ネオクラスト)をつくるつもりで結成された“という基幹の上で、envyが持つ静と動のバランス感が継承されている。

 Dビートによる苛烈な特攻、ブラックメタル風のトレモロ使い、人間卒業系のドスの効いた咆哮。そこにクリーントーンのギターを中心にメロディックな展開が頻繁に盛り込まれ、アコギやチェロによる閑話休題も差しはさむ。加えて中速と高速のギアチェンジもなめらかです。

 国内盤付属の対訳を引用すると”苦しみの神殿を燃やせ。苦痛と恐怖の帝国に死を(#6)“、“資本の中に、尊厳ある職はない(#8)”など国家や社会構造、巨大資本に対しての痛烈なメッセージを発しているバンド。ゆえに攻撃性に集中特化しているかと思いきや、均衡を保とうと叙情的なスタイルが鎮座している時間が意外なほど長い。

 わたしが聴いている範囲だとIctusやFall of Efrafaなど浮かびますが、envyからポエトリーリーディングを95%減らしてアグレッシブさと高速パートを増やしたという印象を受けます。なかでも本作では厳かなチェロを併走させながら、温和と粗暴を移ろうラストの表題曲#9が白眉。

 ”アルバム全体が当初から狙ったわけではないが結果的に、さまざまなアプローチから我々が暮らすこの地域について語ることになった“ともメンバーは語ります(前述インタビューより)。住民10万人当たりの殺人件数が世界で最も多く、さらには麻薬密売に人身売買、強盗など犯罪フルコースの危険都市・ティファナで日常を送る過酷さが本作に宿る。

 主義主張する抵抗手段としての音楽。Habakの美学がそこにある。無関心でいることを許さない魂の叫び。

人間の傲慢さの前には、いつも森の魂たちの意志が表れて挑む。 私たちは身を潜めて夜を待つ。 どれだけでも壁を乗り越えるために

Habak『どんな壁も春を閉じこめることはできなかった』 #9 日本語対訳より引用

ライヴ動画

HABAK – New Friends Fest 2023
お読みいただきありがとうございました!
タップできる目次