【アルバム紹介】Mildred 、自身が紡ぎだす架空の長編物語とやるせなさブースト

M-I-L-D-R-E-D ミルドレッドは7つの鏡、あなたの姿を映し出す。全世界に知らせよう、ミルドレッドの誕生を(公式サイトより)。

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アルバム紹介

Pt.2 Deluxe Edition(2024)

 2022年8月にリリースされた1stアルバム『Pt.2』に2023年リリースのシングル『Pt.Neither』を同梱し、歌詞対訳付きの国内盤として3LAからリリースされました。全13曲約70分収録。読みはMildred = ミルドレッド。

 全くの無名。そして得体がしれません。公式サイトのあるページでは結成の背景、影響を受けた音楽、ミルドレッドの物語についてを記載。これがまたアーリー00’sのテキストサイトかよ、というぐらい文字で埋め尽くす狂気を見せています。

 存在するらしいが音源にはなってない『Pt.1』は”どのように終わりが来るのか、そして私たちがどのように自分自身にそれを行うのか“がテーマ。続く『Pt.2』は”世界がどのように終わりを迎えるのか、そして私たちの存在そのものがどのように暴力をもたらすのか、私たちはみな死を迎え誰もがこの人生を終える、だから節制するのだ“と記述される。

 その2つにまたがっている大テーマとして、どうしようが私たちの運命は決まっているという”運命論”があります。理解促進のための副読として3LAによるインタビューがありますが、とっかかりにはなっても全景がみえるものではありません。本作はメインコンポーザーが夢想した物語の一部分だそうですが、公式サイトで提示されている情報量は半端ない多さです。

 音楽面はシンプルですけども特定の領域にとどまることはしておらず、楽曲は2分台から10分を超える曲までさまざま。売れるためのイス取りゲームにはまるで参加していません。#1「Writer’s Exorcism」こそオルナティヴロックとSkramzが結託した熱量を見せますが、アルバム全体を通して感じるのはわびしさや無力感の方です。

 ミドルテンポの進行、しんみりと鳴るギター、渋い中域の歌声。これらを中心に心の空虚さや不安を音楽に映し出していきます。その中でスロウコアにもシューゲイズにもノイズロックにも変容。#5「Ceiling Fan」ではslowdiveのようなシューゲイザーの陽ざしが差し込み、#10「Plunge」ではBIG|BRAVEにも迫るヘヴィネスが轟きます。

 deathcrashは近からず遠からずでしょうが、やるせない感情がブーストしている。空洞化していく心、突如として沸騰する怒り。その歌声に諦念はこびりつき、枯れた音色が嘆きを代弁する。苦しむ現実、見通せぬ未来。若者は特に奪われていると彼等自身も話しています。それでもミルドレッドは架空の物語を通して、永遠の夢を見る。人々に影響を及ぼそうとしている。

 ちなみに追加収録されている『Pt.Neither』の2曲はJack Shirleyによるマスタリング。#12「I Fall In Love Too Easily」はChet Bakerのカバーですが、原曲のピアノやサックスの音色はギターに置き換わり、消え入りそうな声でしっとりと表現される。締めくくりとなる#13「Lullaby」はNothingにも通ずるヘヴィかつ艶感のあるシューゲイズを披露していますが、つきまとう無力感にこのプロジェクトらしさを感じます。

ミルドレッドのすべての楽曲と演奏は、私たちが何かを呼び起こそうとする、意識の解放さえも呼び起こそうとする、悪魔祓いであり、魔術的なパフォーマンスでもある。ミルドレッドで表現される物語は、現代世界のためのネオ・ディヴァイン・コメディであり、音楽の曼荼羅、あるいは内省のための鏡である。

「私たちは皆、インターネットで出会った。」 Interview with Mildred(ミルドレッド) – 3LAインタビューより引用
メインアーティスト:Mildred
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Pt. Of Things To Come(2024)

 EP。全4曲約21分収録。”より根源的なテーマへと向かう製作中のアルバム『Pt.1』への過渡期であり、これから起こる事を予告する全4曲”とリリースインフォにあります。

 虚をつくドラムの殴打から精神の歪みをそのまま反映したギターノイズにさらわれる#1「Hung」に始まる本作。前フルアルバム同様にシューゲイズ、スロウコア、スラッジ、激情系ハードコア辺りがかき混ぜられ、土地や空間に痕跡を残そうとするスタイルは変わりません。

 自身が紡ぎだす架空の長編物語とやるせなさブースト。ミルドレッドの表現の根幹にそれらが存在しています。静かに語り掛ける口調から湿っぽいファルセット、投げやりな叫び。そこには身を削りながら日々を生き長らえる、その諦観と泥臭さが詞と感情に乗り移っています。

 と同時に自身の音楽という芸術に血と涙を注いでおり、一瞬の表現で多くの細胞を犠牲にしている感が半端ない。それぐらい刹那に懸けている感覚がミルドレッドにはあります。

 そんな本作で肝となっているのは約7分の2曲#2「Lila」と#3「Drifter’s Rebirth」でしょう。前者は激情型シューゲイズとスロウコアを行き来。

 後者は序盤から中盤にかけての甘くしんみりとした雰囲気から、終盤にリミッターを外したかのようにヴォーカルとギター、リズム隊が混然一体となって荒れ狂う。その上で”人生は発熱時の夢と知る 言葉は舌上で燃え(#3 歌詞日本語対訳より)”と歌っている。ちなみにこれら2曲は3LAさんのインタビューで詳しく語られていて必見。

 ティファニーで朝食をとる優雅さは本作には微塵もないですが、寿命を取引材料に音楽も人生も猥雑にサヴァイブし続けている。表現を狂気に感じる数少ない存在。

アーティスト名:Mildred
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ライヴ映像

Mildred Live @ Moroccan Lounge (02.04.2024)
お読みいただきありがとうございました!
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