【アルバム紹介】Polaris、恒星のように輝くメタルコア

 2012年から活動するオーストラリア・シドニーのメタルコア5人組。地元の偉大なバンドであるParkway Driveを原点に、ArchitectsやAugust Burns Redなどの影響を受けてきたメタルコアを主体に、Djentやポストロックといった要素を混成。2017年の1stアルバム『The Mortal Coil』から世界的な評価を獲得しています。

 2020年2月には2ndアルバム『The Death of Me』を発表。しかしながら2023年6月にギタリストのRyan Siewが26歳という若さで急逝。ただ彼等は活動を続けていく声明を発表し、2023年9月に3rdアルバム『Fatalism』をリリースしました。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム3作について書いています。

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アルバム紹介

The Mortal Coil(2017)

 1stアルバム。全11曲約42分収録。前年のEP『The Guilt & The Grief』に続く初めてのフルアルバムです。地元の偉大なバンドであるParkway Driveを原点に、ArchitectsやAugust Burns Redなどの影響を受けてきたPolaris。

 冒頭を飾る#1「Lucid」と#2「The Ramedy」からバンドの実力を十二分に示しています。いわゆる王道と呼べるようなメタルコアをど真ん中に鎮座させる中で、プログレッシヴ・メタルやポップパンク、ポストロックといった要素をブレンドしたサウンドが特徴といえます。

 スポーティな瞬発力と攻撃力を兼ね備え、要所にブレイクダウンを擁し、スクリーム担当とクリーン担当の2人ヴォーカル体制で攻勢をかける。楽曲は3~4分の尺で統一し、ミドルテンポを中心に重低音を引き連れての激しさと繊細な美しさがせめぎあいます。

 バンド躍進の要となっているのはキャッチーな歌ものとしてのつかみ。日本で言えば”サビ”の部分で聴き手を巻き込んでいける強さがあり、サウンドは重さを伴っていても良い意味での軽さと透明感があるので聴きやすい。

 00年代スクリーモのような勢いをもった#3「Relapse」、August Burns Red的な剛健さがある#8「Casualty」、エレクトロニクスの浮遊感を活かしながら壮大に聴かせる#10「Crooked Path」と佳曲ぞろい。Polarisはこのデビュー作で早くも成功をつかむことになります。

The Death of Me(2020)

 2ndアルバム。全10曲約42分収録。燃えるわたしは地平線に何を見るのか。メインで作詞を担当するドラマーのダニエルがALTERNATIVE PRESSで全曲解説を行っていますが、本作はパラノイアやメンタルヘルスといった問題から誰もが抱く不安や葛藤を歌詞に落とし込んでいます。

 ただ個人の心の奥底を言葉に表していても、音楽自体はこれまで通り。しっかりとした体幹を持ったメタルコアの上でさらに洗練された作風です。

 アグレッシヴ・パートとクリーン・パートの落差を活かしたデザイン性に優れ、他ジャンルへと橋渡していく多様性も健在。このメリハリとバランス感覚は大きな強みであり、Djentに近づく構築の実現や現代的なエレクトロな質感も積極的に取り入れています。

 そして、血を好むエグい攻撃性を持っていてもそれをまろやかにするキャッチーさ。脳筋ガチムチ系にはないさわやかさを付与しています。このインテリジェンスとバランス感覚が備わっているのがPolarisの強み。

 スクリームだけで勢いよく攻め立てるリード曲#2「Hypermania」、エモ~ポップパンクからの影響を公言する#3「Masochist」、深い哀愁を帯びる歌もの#8「Martyr」など彩り多い楽曲が並びます。そして#10「The Descent」の重層的なエンディングは強力。前作の成功に苦しみながらも力強い進化を示した作品です。

Fatalism(2023)

 3rdアルバム。全11曲約46分収録。タイトルは”運命論”の意。この運命論については”特定の事柄については自分ではコントロールできない、いくつかの事柄はほぼ事前に決定されており避けられないという考えに対する諦め“とドラマー兼作詞家のDanielは語ります。

 そしてバンドを大きく揺るがすトピックとして、6月にギタリストのRyan Siewが26歳の若さで急逝。”このアルバムはライアンと一緒に書いた最後の完全な曲のセットだ“と声明を出しています。

 過去作と比べてどっしりと構えた重いグルーヴを中心に据えていますが、速攻やブレイクダウンといったセットアップをもちろん搭載。そしてシンセの活用度が増加しており、野蛮な攻撃性と上品な煌びやかさのバランスを取りながらモダンなスタイルに拍車をかけています。

 また2人のヴォーカル・スタイルに磨きをかけ、叫ぶというより”歌”度が高まったスクリームとなめらかな歌メロがドラマティックに掛け合っている。#4「Overflow」に#5「With Regards」は澄んだメロディと歌の機能性を発揮しています。

 #2「Nightmare」や#6「Inhumane」とグルーヴィな迫力を主体とした先行曲になっている点も変化の表れ。飛びぬけてどの曲がというよりかは、全11曲で1曲とするような集合体としての強さがあります。

 Polarisはメタルコアとして縦の継承を守りながら、横の幅を広げる進化を続けており、その上で聴き手を決して置き去りにしない魅力が凝縮されています。

メインアーティスト: Polaris
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プレイリスト

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