【アルバム紹介】Jambinai、韓国伝統音楽との融合

 エクスペリメンタル・ミュージックを奏でる韓国の5人組(2019年リリースの3rdアルバム以前は3人編成)。

 韓国伝統音楽の国楽をポストロックやメタルと融合させながら、個性的なサウンドを提示。その音楽性が評価されてSXSWへの出演、Glastonbury Festivalを始めとした世界各地のフェス出演なども果たしています。

 本記事では彼等のオリジナルアルバム3作品について書いています。

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アルバム紹介

Differance (2012)

 2012年発表の1stアルバム。2ndアルバムをリリースしたBella Unionから2017年2月に再発されてもいます。

 大学内で専攻した韓国伝統音楽やポストロックをベースにしながらも、オルタナ・サウンドやスラッシュメタルの要素を交錯させ、異様な緊張感が漂う不穏なムードを創り上げています。

 韓国伝統楽器を組み合わせたことでインスト・ミュージックの広域化に成功したといえるかもしれません。本作においては全体の印象を言えば、静けさに重きが置かれているように感じますが、エキゾチックで妖しい色味がここぞとばかりに放たれるのです。

 玄琴(コムンゴ)と奚琴(ヘグム)の強烈な磁場に轟音ギターが絡む#1「Time of Extinction」、ヘヴィメタルの推進力にSwansのような実験精神が重なり合う#6「Hand of Redemption」など特別な爆発力のある楽曲を揃える。

 一方で組曲形式の#4~#5「Paramita」や#7~#8「Empty Pupil」は静かになり過ぎるきらいがありますが、展開していくに連れて暗黒の秘境を巡るような感覚をもたらします。

 そして、本作においてはラストを飾る#9「Connection」が白眉。徐々にオーケストラのような壮大さで希望を奏でていくのは感動的です。

 2nd→1stの順に聴いていることもあって、音楽的に大きな飛躍と拡大を遂げた2ndアルバム『A Hermitage』に軍配は上がります。ただ、初作にしてこれほどに独自性を持った作品を創り上げたのは驚き。

 その衝撃は全世界に波及し、世界各地の音楽フェスティバルに出演し、名を馳せていくことになるわけです。2018年平昌オリンピックの閉会式で演奏するぐらいにJambinaiはすごい存在

A Hermitage (2016)

 エクスペリメンタル・ミュージックを奏でる韓国の3人組の2ndフルアルバム(2016年リリース)。サイモン・レイモンドとロビン・ガスリーによって設立されたBella Unionからリリースされています。

 韓国といえばK-POPは華やかであり、スポーツだとフィジカルゴリ押しみたいな印象があるわけなんですが、Jambinaiはそういったのとはまた一線を画す存在感を持っています。

 本作がここ日本でも評判なので自分も聴いてみた次第。確かに感じたのは、これまでにはなかった新感覚です。玄琴(コムンゴ)、觱篥(ピリ)、奚琴(ヘグム)といった伝統楽器(参照)を用いた韓国伝統音楽である「国楽」、それをポストロックやサイケ、メタル、フュージョンなどと融合

 自身と母国のルーツに根ざしたものをモダンに料理し、闇夜のヘヴィ・ミュージックとして確立しております。伝統楽器による東アジアの神秘性が本作では妖魔に変貌。いずれの楽曲も悲壮感や怒気を漂わせながらドラマチックに展開し、新鮮な響きと巨大な迫力を持って衝撃をもたらします。

 リズミカルな玄琴とラウドなギターによって幕開ける#1「Wardrobe」から分厚いグルーヴを叩きつけ、続く#2「Echo of Creation」では中盤の冷たいグロッケンの導きから怒涛のヘヴィネスを轟かせます。

 #3「For Everything That You Lost」にて伝統楽器が身を清めるように寄り添いながら、ポストロックの繊細な響きで魅了。韓国ラッパーを起用して魔のショックを与える#4「Abyss」で作品は折り返します。

 軸に据えられた奚琴がもたらす悲壮感とミステリアスさに呑まれる#6「Mountain」、各楽器の激しいインタープレイが衝動を駆り立てる#7「Naburak」と後半の曲ではさらに禍々しく、スリリングに深みへ。随所で斬新かつ劇的な刺激がありますが、静寂にも耳が痛くなるほどの重さと緊張感が通底しています。

 そして、ラストに迎えるは#8「They Keep Silence」。300人近い死傷者を出したセウォル号沈没事故について書かれたこの曲は、政府に対しての怒りを壮絶な演奏に乗せて解放しています。クライマックスの火花を散らすようなアンサンブルが本当に凄まじい。

 実験性も盛り込んだ密な構築、ドゥーム・メタルとリンクするような重厚さ、ひたむきな情熱。ここには伝統音楽と現代のサウンドを滑らかに噛み合わせただけでは収まりきらない衝撃が詰まっています。

ONDA (2019)

 3人からリズム隊を正式に加えた5人編成への移行。そして、何より凄まじいトピックとなった2018年3月の平昌オリンピック閉会式での演奏。それらを経て2019年6月にリリースされた3作目。

 大枠自体はそのままです。独特の音色をまき散らす伝統楽器が火花を散らすようにぶつかり、緻密に連動し合い、大きな起伏の中で異形化と巨大化を図る。韓国伝統音楽とポストロック/ポストメタル融合推進事業+エクスペリメンタル仕立て

 本作ではラッパーを器用するなどのギミックと実験性は薄くなっていますが、代わりにメンバーによる祈りのごとき声がほとんどの曲でフィーチャーされています。強化と洗練の果てに開かれた音楽性へと進化/深化した印象を受けます。

 #1「Sawtooth」からJambinaiだと安心するような音であり、さらに強まったリズムセクションの胎動が体を揺さぶります。そして、終盤におけるすさまじいノイズの轟き。

 伝統という普及の美を今の時代と統合しながら、新しきを創り上げるその手腕は強烈と言わざるを得ません。#2「Square Waves」においては女性ヴォーカルによる明確な歌の存在感があり、それは本作の特徴のひとつとなっています。

 ガラッとモードが変わる#3「Event Horizon」は冒頭から玄琴とドラムによる圧倒的な加速をもたらし、一旦ブレーキをかけた後、巨大なノイズの荒波へと発展していく中で奚琴が泣き叫ぶ。

 さらに畳みかける#4「SUN. TEARS. RED.」は最もメタルが憑依したもの。Toolと激情系ハードコアが魔合体したスクランブルアタックのごとき衝撃です。本作における熱量のピークはここで訪れます。

 この先は作品としての深みと芸術性を掘り下げていきます。本作最長となる13分超の#5「In The Woods」は、地球の汚染と温暖化への警鐘を孕むものです。閑雅で緊張感のある音が散り積もっていき、東洋のGodspeed You! Black Emeperorといえそうなスケールを打ち立てる

 そして、ラストトラック#8「ONDA」において多彩な楽器を用いて鳴らすのは、母なる大自然の迫力そのものの音。伝統音楽に紐づいてますが、分類不能な個性のもとでJambinaiの音楽は進化し続けていることを証明する傑作です。

お読みいただきありがとうございました!
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