私的名盤⑥
Maybeshewill / Fair Youth (2014)
かつてはNext 65daysofstaticとも言われていたUKインスト・バンドの4thアルバム。
人生におけるネガティブなことを回避するためのポジティブな方法を音楽で表現したかった”と語る本作は、前作以上にヘヴィなギターに頼らなくなった。
代わりに補強されているのが、彼等の友人や地元の音楽家によって演奏されたアコーディオン、トランペット、バイオリン、チェロ。そして主導権を握るピアノ。
何よりも本作で感じられる上品さ、煌びやかさ、華やかさの三位一体は研ぎ澄まされている。ロマンティックなスパイスが効きまくり、澄んだ旋律はしなやかに調和。それらが温かく甘美な世界を奏であげる。
オススメ曲:#2「In Amber」
Metallica / Master of Puppets (1986)
メタル大御所の3枚目にしてスラッシュメタルの教典。メタリカは人生で2番目に買った洋楽アルバム『St.Anger』から入っていますが、さすがに同作はあげられなかった。
本作は名盤中の名盤であるわけだが、さかのぼって本作を最初に聴いたときは1曲の長さに慣れるまで時間がかかった。とはいえアンセム#1「Battery」から始まって、ラストに至るまで圧倒的。メタリカが王者たるゆえんを示す。
わたしは高校3年生の2003年11月に名古屋レインボーホールでメタリカを初めて見た。若かりし自分に強いインパクトを与えてくれた。
近年は本作収録の#2「Master of Puppets」がNETFLIXドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4に起用され、リバイバル・ヒットを果たしている。
オススメ曲:#1「Battery」
Milanku / Pris à La Gorge (2013)
作家であるミラン・クンデラの小説と思想に触発され、カナダ・モントリオールで結成されたポストハードコア・バンドの2ndアルバム。
前作でたどり着いた境地を経て、突き詰めた激しさと美しさをまとい、力強く織り上げるストーリーに心を衝き動かされる力作。
Explosions In The SkyやMONOのような静から動への過剰なまでにドラマティック展開に、envyのごとき感情を激しく駆り立てるハードコアの魂が宿る。わたしは2013年に来日公演をみている。
オススメ曲:#1「La Chute」
Mineral / Endserenading (1998)
90’sエモの代表格、Mineralの2ndアルバム。数多の人々にその存在を知らしめた1stでは、荒らさと初期衝動を感じさせる作風だったが、こちらの作品では静の部分に重きを置いて洗練された美しさを湛えている。
それこそいち早くポストロック的なアプローチを試みたと言えるかもしれない。ゆったりとしたテンポの中、アルペジオを丁寧に丁寧に紡ぎ、感傷的な歌を心の内に響かせる。
暮れなずむ夕陽を見ながら、じっくりと聴き込みたい哀愁のエモ。落ち着きと洗練の果てといった作風で、渋い味わいがある。2014年に再結成。2015年に来日公演をみた時はえらく感動した。
オススメ曲:#2「Palisade」
Minus The Bear / Menos El Oso (2005)
BotchやSharks Keep Movingのメンバーを擁するUSオルタナ/インディーロック・バンドの2ndアルバム。タイトルはバンド名のスペイン語表記。
特徴的な感傷に浸るメロディと枯れ気味の情緒ある歌声、それが水面に広がる音の波紋のように響いてくる。鮮やかに彩を添えるギターのメロディをなぞりつつ、絡みつくような変なフレーズを交えたりと一筋縄ではいかない。
アクティブな展開のある曲はあるが、全体の雰囲気は涼やかさと程よい熱を持ち合わせたオルタナ、エモといった印象。ライヴでラストを飾ることの多かった代表曲#6「Pachuca Sunrise」収録。
オススメ曲:#6「Pachuca Sunrise」
Misery Signals / Controller (2008)
2002年にミルウォーキーで結成されたメタルコア5人衆の3rdアルバム。デヴィン・タウンゼントのプロデュース。都市の圧迫感と虚無感が滲み出たジャケットの雰囲気を持つ本作は、重厚さの中に透明感がある。
激しいだけではない、叙情性の配合バランスと奥行きと拡がりのサウンドデザインが独特。しかもその中で冷たさと浮遊感を同時に表現している感覚を持つ。
ヴォーカルの低音咆哮はひたすらに強烈で野蛮なことこの上ないが、クリーンヴォイスも意図的に取り入れらている。#6「A Certain Death」は本作を代表する1曲。
オススメ曲:#6「A Certain Death」
MONO / You Are There (2006)
日本を代表するインストゥルメンタル・バンドの4thアルバム。 「”死”と向き合って徹底的に”生”を浮かび上がらせる作品を作った」とメンバー自身が語る6曲約60分。
全てが消えて無くなってしまいそうな儚さ、周り全部が闇に包まれたような絶望感、痛みと苦しみを持つ中で生き続けることへの逡巡。これらを抱え込みながらもその重さを希望へと昇華していくインストゥルメンタル。
#3「Yearning」の凍てつく波動、はたまた#6「Moonlight」という壮大な叙情詩を抱え、生と死の螺旋をくぐりぬけるかのような奇跡的かつ壮絶な世界の体感。『You Are There』は誰にとっても特別になりうる音楽となっている。
オススメ曲:#3「Yearning」
MORRIE / 光る曠野(2019)
DEAD END/Creature Creatureのヴォーカリストとして活躍して、今なお強い影響力を持つMORRIE御大。本作は5thフルアルバム。
表題曲#5「光る曠野(こうや)」は、粕谷栄市氏の2004年に発表した『鄙唄』の中にある「歌」という詩を曲にしたもの。
御大のソロ作品はお決まり無しのアヴァンギャルドな作風だが、本作はサックスやストリングスを使用せず。
バンドらしいソリッドなサウンドで、復活以降のDEAD ENDやCreature Creatureに寄った低域の蠢きと流麗さが両立したメタル/ハードロック調が躍動。
アコースティックの詩的な響きからエレキの華麗な反抗、時折のブルースの情緒が沁み、フュージョン的な変異もある。そして闇ではなく光へ属性変化していることは特徴。
Borisが全面参加した#11「Into My Eyes」はDEAD ENDの「冥合」とは別の危うくもまばゆい世界が立ち上がる。
オススメ曲:#11「Into My Eyes」
MUCC / 朽木の灯 (2004)
日本のヴィジュアル系バンドの4thアルバム。”ムック”表記だったころの、そして結成から長らく続いた”負の路線”の集大成となる作品。
7弦ギターと5弦ベースを主体としたヘヴィネスに心の闇を包み隠さず訴える詞が添えられ、負と暗黒は増幅し続ける。
彼等が生み出す重厚な音楽は、昭和歌謡の哀愁からブラックメタルのようなおぞましい迫力までが詰め込まれ、痛みや苦しみと対峙する。
#3「遺書」の孤独と絶望の中から、それでも前を向いて生きさせる#13「名も無き夢」が与える希望までの全15曲。
暗闇に手を伸ばし、暗闇から手を伸ばそうともする。暗鬱な世界観だけではない深い情念が本作にある。
オススメ曲:#3「遺書」
Neurosis / Times of Grace (1999)
ヘヴィロックの現人神による6thアルバム。初めてスティーヴ・アルビニとタッグを組んだ本作は、前作『Through Silver In Blood』と双璧を成す作品。
苦悩と闇が支配し続けた前作を経て、メンバー自身が「光を取り入れる必要があると感じていた」と話し、その言葉通りにわずかな光や希望を救い上げる。
タイトルは”優美なる時代”と直訳できるが、美しくメランコリックなタッチが増えて暗黒ヘヴィネスと調和。
とはいえ、それらが聴く上での安心材料に決してならない。民族音楽や実験的な電子音、管弦楽器などこれまでの踏襲は成されているが、アルビニ録音による生々しい録音と共に時代を超えたスピリチュアルなヘヴィロックとして君臨している。
オススメ曲:#2「The Doorway」