先月に行った1年3カ月ぶりの有観客ライヴに続き(ROTH BART BARON)、コロナ禍に突入してから初となる音楽フェスへの参加となります。5月下旬に発令された緊急事態宣言の延長、それによる開催の是非。個人にも問われる行くべきか、見送るべきかの葛藤。その中で僕は2年ぶりに開催された『森、道、市場』へ行ってきました。2016年、2017年、2019年ときて通算4回目です。いずれの年も1日のみ参加しております。ちなみにフェスは2019年のフジロック以来です。
音楽フェス。自分の歴史を振り返っても2009年のフジロックが最初で、その後は毎年何かしらのフェスに参加しています。そこには森道も当然ふくまれる。ある種のかけがえのない空間、実生活では感じられない”音楽好きな人ってこんなにたくさんいるのか”という驚き、時たま訪れる奇跡のような瞬間。
日常と非日常なんてものは曖昧幻想ではあるけれど、その場に身を置いて音楽を浴びることは、心と身体の解放と豊かさに繋がっている。5月に読んだ『DIE WITH ZERO』にもありましたが、そのときにしかできない経験にお金を使ってきたのは、自分にとって良いことだったと思っています。
会場へ向かう
さて、森道です。朝イチの出演者から見ようと支度を始め、最寄りの駅(森道の場合、僕はいつもJR三河大塚駅で降りて会場まで歩きます)へ向かう電車に乗る。恰好を見てわかるようにそこで多くのフェス民が乗り合わせるわけですが、その人々と話すことすらないけれども、不思議な連帯みたいなのは毎度感じます。
既にフェスが始まっている感覚、ちゃんと開催されるんだということの実感と安心。ちなみに言うと、この日はチケット引き換えの受付と物販の人以外は話していない。そもそもライヴもフェスもほぼひとりで行くから、人と話すことがほとんどありません。
坂の上にぽつんと佇む三河大塚駅から、どんよりとした雲に覆われている中、殺風景な道路を真っすぐ下るような感じで歩き続ける。次第に大きな案内看板が目に付くようになり、ラグナシアの観覧車が見えてくると、ついに来たんだなあと実感します。2年ぶりの森道の場に。
会場内の様子
ちなみにチケットは海編と遊園地編があり、海編が売り切れていたために遊園地編を開催ギリギリで買う。2019年までは海と遊園地での区分けはなかったはずだけど、とりあえず1枚で両会場への行き来はできるから不自由はなかったかな。SNSで調べたところ、フェス全体で5000人の制限なのか、海編/遊園地編で5000人ずつ想定だったのか。その辺りは具体的にはわかりませんでした。
会場に着いて当然のような注意喚起。マスク常時着用。ソーシャルディスタンスの確保。あとはライヴ時のステージ撮影禁止。とはいえ、大きく何か変わったのかというと体感的にそう感じることはあまりなかった。確かにみんなマスクをしている。ライヴステージにソーシャル・ディスタンスを保つように印がある。運営スタッフがアルコール消毒をしてくれる。
それ以外、別に今まで通りという印象でした。見える風景も人々の営みもステージから発せられる音も。遊園地のアトラクションを楽しみ、海辺で水や砂浜と戯れ、美味しいごはんに笑みをこぼす。他にもワークショップ的なのもやってたりする。森道の雰囲気は変わっていません。
一方通行にしたりしているわけでもなく、酒類は適度に自粛という形。人は例年に比べれば確かに少なかった気はするし、ゆえに人との距離が守られていることの方がほとんど。でも、密になるときは当然あるし、一部のマナーの悪い人はいる。この辺りはモラルの問題だから、運営がどれだけ努力しようがひとりひとりでどうにかするしかないと思います。
観たアーティストの感想
以下が今年観て回った順になります。
Clime the mind → ザ・なつやすみバンド → クリープハイプ(終盤20分ぐらい) → トクマルシューゴ → ROVO → cero → ネクライトーキー(序盤20分ぐらい) → マヒトゥ・ザ・ピーポー
朝イチから一番遠いステージでClime the mindのエモーショナルを浴び(野外に慣れてないので結構ミスってたのはご愛敬)、2017年の森道以来のザ・なつやすみバンドは「風の谷のナウシカ」のカバーとラストの曲が印象的でした。海ステージに移動して、小説では大変お世話になっているけど、音楽ではあまりお世話になっていない尾崎世界観さんのバンドをこの日に初めて見たという事実も刻む。
トクマルシューゴは2日前におばけが出たという類の例えで、2日前に出演した小室哲哉さんが同じステージに立っていたことを感慨深く話し、GET WILDのギターを弾きながら自分が演奏したかったと想いを吐き出していました。そして、ジェットコースターに乗る人の断末魔のような叫びで現実に還ると(笑)。2017年のフジロック以来の彼のステージは、少しの雨を引き連れながら、心躍る音楽が鳴っていた。煌びやかな「ラムヒー」での締めくくりは相変わらず最高でしたね。
この日のお目当てだったROVO。8年か9年ぶりぐらいに見たかな。昨年発売されたセルフタイトルの新作『ROVO』からの3曲と初期曲『KMARA』を奏で(SINO RHIZOME → AXETO → KMARA → ARCA)、海辺の小さなステージから宇宙を創造する。
銀髪になっていた勝井さんがまず衝撃でしたが、老練の極みともいうべき6人の演奏はどこまでもどこまでも遠くへ人の意識を連れていく。雨を感じ、砂を感じ、海辺の空気を感じる。そして圧倒するROVOの音楽。重苦しい積乱雲と海に向かって拡散していくラスト曲「ARCA」がもたらした至福。
惜しむらくはあと1時間ぐらい演ってくれという願いだけでしょうか。それぐらいに素晴らしいROVOでした。
ceroの時に降っていた雨もすっかり止み、晴れ間が差し込むようになった夕暮れ時。最後は、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーのソロステージを観て終えることにしました。といっても、GEZANのメンバーが新メンバーも含めて全員出てきたので、実質はマヒトソロではなくGEZANだったのですが。
とはいえ、ステージに4人そろうことはなく、曲によってひとりずつ呼び込まれる形。噂の新メンバーのベーシスト、18歳のヤクモアくんは特に緊張感たっぷりで初々しい印象を受けました。
一番静かな曲からスタートして約50分。「音を迎えに行くような音楽、耳を澄まして聴いてください」と冒頭で語ったように、歌とギターという少ない構成による音がサーカス・ステージから響き渡る。ここまでの楽しむとは一転して、彼が届ける詩は、どこか郷愁と憂いを滲まさせながら今日という日を反芻させます。
合間には「DNA」、ラストに「END ROLL」とGEZANの曲も演奏。新しいGEZANのお披露目はフジロックが初ということです。どんな状況であろうと彼は、言葉と音楽と赤で乗り越えていくんだろうな、想像力と共に。そして、彼は語った。「いろんなものに翻弄され、試される機会がこれからも増えると思います。その中で自分の確信を自分で見つけて、生きていこうぜ」と。
終わりに
この後もくるりや緑黄色社会なども控えていましたが、体力的に楽しめる状態ではなくなっていたし、マヒトさんの言葉と歌で余韻を噛みしめながら帰る方が有意義だと感じたから、自分はここで今年の森道を終えました。時刻は18時半ぐらい。まだ陽も完全に落ちず明るい。
名残惜しい気持ちを持ちつつ、再び三河大塚駅まで25分ぐらいかけて歩く。その道中で疲れに脳と身体を引っ張られながらも、この日を思い返す。久しぶりのフェスを味わえたことに幸福を覚える。
先月に行ったライヴでも、こうして約2年ぶりのフェスを体感しても、音楽を生で感じる場は絶対に必要だということは実感しています。来年の世がどうなっているのかは不透明です。
2020年の時も2021年になったら!と希望的観測を話していたけど、逆に窮屈になっていく、締め付けが増えているのが現状。それでも、来年も開催されるなら、また「森、道、市場」に参加しよう。繰り返しますが、この場は絶対に必要ですから。