バンドの中心人物である”tink”ことティンカーベル初野氏が開催した自身の2020年のエイプリルフール企画。そこから誕生した90’sヴィジュアル系リバイバル・バンド5人組。
ただのネタだったはずが楽曲を発表すると軽くバズってしまい、group_inouのimai氏やスーパーカーのナカコー氏に注目されたこともあって本腰を入れて活動することに。
2023年7月に1stアルバム『少し大きい声』、翌2024年11月に2ndアルバム『1年生や2年生の挨拶』を元気で笑顔が輝くレコードより発売。本記事は同2作について書いています。
アルバム紹介
少し大きい声(2023)
1stアルバム。全11曲約45分収録。ウソから始まったはずなのに90’sヴィジュアル系リバイバルを見事に体現するバンド、色々な十字架。これが”っぽい”じゃなくて”ちゃんとヴィジュアル系”なんです。マキタスポーツ氏がちょっと前にやってたFly or Dieのようなコテコテなパロディよりも、はるかに風通しが良いし、聴いてて清々しい。
CDJournalのインタビューで各楽曲の影響元が語られていますが、90年代~00年代前半のヴィジュアル系を平準化してトレース。幻想性・疾走感・メロディアスという三要素が詰まった”耽美なりしし†音楽性”が貫かれています。
#2「蜜」、#4「TAMAKIN」にその特性はよく表れており、無理して寄せにいっている印象がなく、自然体でヴィジュアル系の美学を表現している。BUCK-TICK~MALICE MIZERチックなデジタル要素を押し出す#6「機械仕掛けの変態」が用意されてますが、変化球はあくまでこの曲だけに留めています。
逆に00年代中期辺りから流行っていくゴリゴリのヘヴィネスやデスボイスは本作に登場しません。90年代の懐かしし†ラインを突く絶妙さは曲作りの上手さゆえのものでしょう。
そんな美しし†を引き出す音楽面があるにも関わらず、そのファンタジーは歌詞によって壊されます。ヴィジュアル系のフォーマットからはあえて遠ざかっており、ゴルゴダの丘に行くこともなければ、薔薇の聖堂を拝むこともないし、青い血からは程遠い。
それよりもカレーだし、かき揚げだし、なんなら田んぼの水です。詞では”耽美なる”のかけらもないジジィ、ババァ、ガキの連呼。道徳の授業を受けてこなかったのかと疑ってしまうぐらい口が悪い総合商社と化してます。HEY!HEY!HEY!にもし出たとしたら浜田さんにどつかれる系。
作詞を手掛けるtink氏は、リアルサウンドのインタビューによると『すごいよ!!マサルさん』を始めとした人気漫画で知られる・うすた京介先生の影響が大きいとのこと。だったらお昼はゆで卵とメガネ弁当に限りそうですが、それは置いときましょう。
品のない歌詞とあの頃の空気感/音を再現する演奏の化学反応は、色々な十字架の最大の魅力です。大人の遊び心と同好会感覚。だからこそ紅に染まった我々を引き寄せるのです。セーブデータを消される覚悟で聴いてみて!
1年生や2年生の挨拶(2024)
2ndアルバム。全11曲約48分収録。エイプリルフールの企画もので終わりじゃなかったし、1stアルバム『少し大きい声』で盛大に一発撃ちあげて終わりでもありませんでした。そこがとても嬉しい。
本作も90’s~00’sヴィジュアル系譲りのサウンドをベースに倫理感のない歌詞が乗るという特徴はそのまま(演奏するゴールデンボンバー的な)。ですが、#9「汗拭きシートで冬来けり」のミクスチャー+ラップ要素、#10「第13セクターの子供達へ」のシューゲイザー増量などでバリエーションを増やしており、ヴィジュアル系の何でもありな姿勢がさらに発揮されています。
聴く人によって懐かしさになったり、新鮮に思えたり、困惑したりとスパイスは効いている。でもバンドの入口になっているのはやっぱりtink氏の歌詞。それは色々な十字架で検索するとサジェストに、”歌詞”が一番に上がってくることからも伺えます。
そもそもラクリマを思わせる幻想的サウンドの出足で”角煮を作った時~♪”と歌いだす点からして、酢豚にパイナップル的な発想でわけがわからない(『パイナップルチャーハン』というシングル曲を出しているヴィジュアル系も発見してしまいましたが)。ネタとオマージュの両軸を立たせながら、きっちりと成立させているっていうのがスゴイですし、前作から上積みもあることは余計にそう感じさせます。
ちなみに頻出ワードを比較するならばガキ(1st:登場5曲計11回, 2nd:4曲6回)、ジジィ(1st:3曲3回, 2nd:1曲1回)、ババァ(1st:6曲9回, 2nd:0曲0回)、カインズホーム(1st:1曲1回, 2nd:1曲16回)という結果。
なお楽曲については、Mikikiのインタビューを読めば完結してしまうぐらいの完璧な回答が出ているのでチェック必須。こういうのを自信持って明かせるぐらい良いアルバムってことでしょうね。またドラムテックでLITEの山本さんが3曲参加していることには、本当に驚きました(出典:kikato氏のXの投稿)。