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THE NOVEMBERS、真なる美を追い求めるバンド

 東京を拠点に活動する日本のオルタナティヴ・ロックバンド4人組、THE NOVEMBERS。通称:ノベンバ。2005年の結成以降、小林祐介(Vo&Gt)、ケンゴマツモト(Gt)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)という不動の4人で今日まで歩み続けています。

 07年11月に最初のミニアルバム『THE NOVEMBERS』、08年に1stアルバム『picnic』を発表。以降はコンスタントにリリースを継続し、様々なジャンルを独自の美学で再編した音楽性で各方面から高い評価を獲得しています。結成11周年の節目の年にリリースされた集大成の6thアルバム『Hallelujah』、切り拓くバンドであることを証明した7thアルバム『ANGELS』は特に人気と評価の高い作品。

 わたしとTHE NOVEMBERS。初めてライヴを見たのがBorisのツアーに帯同していた2014年9月のこと。意外と遅い。初めて聴いた音源はその翌月に出た『Rhapsody in beauty』。以降は、After Hours’17でみて、フジロック’17でみて、IMAIKE GO NOWでみて、BAROQUEとのツーマンでみて。ようやく初めてのワンマン公演が、2021年7月に行われた『At The Beginning』ツアー。遅すぎる(笑)。

 THE NOVEMBERSはケンゴマツモト氏を除くと3人が1985年生まれ。わたしも1985年生まれで、辿ってきた音楽も近い(自分の場合はラルクよりもDIR派で、もっと”ポスト”寄りですが)ので、彼等は非常にシンパシーを感じる存在。音楽は自然と馴染むところがあるし、唸るところがあるし、毎回の音源が本当に楽しみなのです。

 本記事は、2021年までに発表されたオリジナルアルバム全8枚を紹介しています。彼等を聴くきっかけ/手助けになれば幸いです。

目次

picnic(2008)

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 2007年11月にリリースした1st EP『THE NOVEMBERS』に続く1stフルアルバム。全10曲約44分収録。記念すべき最初のフルアルバムにも関わらず、ド頭からこわれてしまうのか!?と衝撃走る#1「こわれる」です。切りつけては高鳴るギターが終盤でソロを挟み、動きまくるベースの裏でドラムが加速させ、小林さんが歌い叫ぶ。美意識と狂気、その原初。

 オルタナティヴやUKロック、日本のインディ系ギターロックを基に積み上げたサウンド。この1stは、Rock ‘n’ Rollと書きたくなる音楽ではあります。けれど、ゴシック体の太字というよりは、明朝体を斜体で表記したくなるような勢いだけではない艶やかさがあります。初期衝動の中に織り込まれる耽美性ゆえか、小林さんの声質やツインギターがもたらす色味によるものか。#2「Arlequin」や#5「ewe」辺りにその感性はにじみ出ます。

 甘美な歌ものとして寂しい輝きをもたらしている#4「アマレット」、透明感や寂寥感が染み入る#7「ガムシロップ」。 ゴシック&ヘヴィに揺れ動く#9「白痴」と曲のバリエーションは広め。以降の作品では、彼等なりにリスペクトを込めたジャンル編集/拡大化が図られていきますが、本作はわりとギターロックに焦点が絞られている印象があります。

 歌詞に関して言及すれば”僕と君”が主軸にある中で、若者らしい愛があり、世を穿ってみたり、生きることへの諦念があったり。その中で”海に帰りたい、子宮に還りたい”というフレーズが2曲(アマレット、白痴)において登場する。生前に戻る、ひいては無に還るという意味合いの願いでしょうか。誰しもが最も求める安息地はそこであり、現実にはありません。

 でも最後に置かれた表題曲#10「picniq」で、全てを受け入れるような形で”幸せになろう、ここで”と歌う。現実と向き合う強さと意志は本曲に宿ります。小林さんが主題として掲げ続ける「生きる」は哀しみも美しさも伴って綴られますが、本作にその原点はある。

Misstopia(2010)

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 約1年9カ月ぶりとなる2ndフルアルバム。全11曲約53分収録。マスタリングは中村宗一郎氏。1stと本2ndの間に2ndEP『paraphilia』をリリースしていますが、その作品において麗しさへのこだわりとシューゲイザー要素が表出。その変化は本作でも地続き。全体的な柔らかさと穏やかさが増して、器用に美と醜、温と冷を統率。現在のTHE NOVEMBERSにも通ずるスタイルが生まれている。

 表題曲となる#1「Misstopia」から澄んだクリーントーンと歌が包み込む。柔らかなノイズが表出したり、グロッケンが交わったりしながら、”どこへでも行ける そこに心があるかぎり」と決意を込めた詞がグッと懐に踏み込んできます。本曲の存在は大きい。どんな表現だってできるし新たな世界へと駆け出せるというバンドの存在を強く物語っています。

 #4「pilica」はRideとplastic treeがチラつき、ポストロック的な轟音アプローチの中で芯の通った歌が存在する#5「パラダイス」、レースカーテンのように薄いヴェールをまとう#6「sea’s sweep」と並ぶ。持ち味を損なうことなくシューゲイズ&ネオアコ風ドレスアップを施し、楽曲の色彩感は前作よりも艶やかになっているのです。

 しかし、開放的な側面も聴けるかと思えば、穏やかな海に浸り続けられるわけでもなく。#2「FIgure 0」では獰猛に噛みついてきますし、グランジロックが支配する中で暗鬱な夢を見る#3「dysphoria」が重ねられ、 #7「Gilmore guilt more」が強烈なロックンロールなエナジーをまき散らす。小林さんの叫びは前作よりも刺さるような痛みを伴うものへと変わっています。

 それでも、前半の甘い感傷を引きずって物語は終わっていく。彼等なりの小説的ラヴソングとして置かれた#10「ウユニの恋人」あって、#11「tu m’」はベッドルーム・ミュージックとして柔らかなエンディングを演出。これ以降もTHE NOVEMBERSは美しい進化を辿っていくことになります。

 ちなみに#7「Gilmore guilt more」はライヴでもよく演奏される曲ですが、2018年にリリースされた『Live sessions at Red Bull Music Studios Tokyo』で再構築。原曲から速度を落とし、サイケと密教度を高めております。わたしはこちらの方が好きですね。

To (melt into)(2011)

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 約1年5カ月ぶりとなる3rdアルバム。全9曲約48分収録。シングル『(Two) into holy』と同時発売。

 #1「永遠の複製」というタイトルから目に焼き付く。ぶっといボトムが支える上でギターが妖しげに踊り、”一斉に神が死んだなら”と憂いを持って歌う。奇妙な美しさを伴いながら、リスナーの深いところをえぐりにきたなと感じます。#2「彼岸で散る青」は本作で唯一の疾走感がある曲ですが、前作の瑞々しい美しさよりも明らかにシリアスな情緒が勝っている。

 アルバム全体を通しても儚くしっとりとした印象が強いです。クリーントーンの音使いが支配力を高めている。一方で、詞はより内省的。常に憂いと悲哀の中に佇んでいるかのようです。本作のリリース付近には近親者の死去があり、東日本大震災があり、死は身近なものという意識の変革があったといいます。それが紡がれた言葉に表れていて、「僕らに明日がもたらされる保証はないんだ」という#7における詞が胸に刺さってきます。

 オルタナティヴの毒素が充満していく#6「ニールの灰に」、ギターの音使いは綺麗なのに相対するような妖しさを帯びている#7「日々の剥製」と嫌らしく微笑む曲もある。感情をざわつかせ濁らした後に、#8「終わらない境界」や#9「holy」が静かな讃美歌のように響く。でも、これらの曲もわかりやすく優しいようでいて、侘しさや孤独を自分自身で抱きしめるような曲でもある。

 虚無感と空白。本作がもたらす雰囲気/空気感はそれを強く感じさせるのですが、その儚さの中で”生きる”を自問させる作品でもある。#4「はじまりの教会」で歌われる”自由の終わりと理由の終わりへ行こうよ”が、強く胸に問いかけてくる。

zeitgeist(2013)

  約1年3カ月ぶりとなる4thアルバムは、自主レーベル「MERZ」を立ち上げてのリリース。全10曲約42分収録。タイトルは”ツァイトガイスト”と読みます。ピーター・ジョセフ監督の『zeitgeist』に影響を受けたことが発端にあり、”時代精神”を意味するそうです。

 新たな始まり。表題曲となる#1「zeitgeist」から入り組んだ構成と浮遊感と不穏さが渦巻く。この曲が凄くdownyの影響下にあるなと思ったら、青木ロビン氏がプロデュースを手掛けていました(#1、#7、#9の3曲)。楽曲に関してもバラエティに富んでいて、美意識とロマンのもとでノベンバ流に再編集・創造化されています。〇〇っぽいと感じる部分はあっても、総じてノベンバの音楽として吐き出されている。それがさらに洗練されて自分たちの形になっているといいますか。

 メロディアスなギターロック#2「We」で軽快に走ったかと思うと、グランジ~ドゥームの妖しい混合体#3「Louder Than War (2019)」が待ち構え、#4「Wire (Fahrenheit 154)」が鮮やかに狂気を炸裂させる。精神的なヘヴィネスは前作と同じく通底していますが、ここまでの到達だけでも曲のバリエーションが多い。中には森博嗣先生のスカイクロラシリーズのオマージュと思われる#8「Sky Crawlers」も収録。

 そして、バンドの代表曲といえる#6「鉄の夢」の存在です。修羅のヘヴィミュージックとしてトラウマのように脳内を侵し、喰い散らかす。裁断されていくのは心と身体の両方です。また終盤には透明感に満ちた#9「Ceremony」と#10「Flower of life」が置かれていますが、その心地よい幻に身をゆだねていても、どこか背徳の味がしのばせられているのが彼らしい。

 自主レーベルの立ち上げという決意表明。それと共にターニングポイントといえる作品。彼等がより自由な表現をしていくことになったのは本作が大きかったんじゃないかなと感じています。

Rhapsody in beauty(2014)

 約1年ぶりとなる5thフルアルバム。全10曲約54分収録。わたしは本作でTHE NOVEMBERSを聴き出しました。本作リリース前月にBorisのツアーに彼等が帯同していて、そこで観たのが発端。本作を聴いているとBorisとの親和性の高さを感じさせます。

 軽く試聴してみた人間の五感を狂わせる暗鬱な轟音ノイズ#1「救世なき巣」から驚き。完全に意表を突いたところで、ささくれ立ったロックンロール#2「Strum und Drang」や#4「Blood Music. 1985」といった曲で衝動を送り込み、グロッケンや柔らかいギターで綴る#5「tu m’」でソフトに包み込む。ここまでの5曲だけでも幅広い音楽性を持つことが伺えます。

 普遍的なロックを基点に、オルタナ、ポストパンク、シューゲイザー、ポストロック、エレクトロニカ、アンビエント、そしてヴィジュアル系に至るまでの様々な影響下のもとで、THE NOVEMBERS流に再編。その耽美にまとめられた音像は、とても刺激的でロマンティックです。様々な音楽ジャンルの通訳者として、彼等もまた独自の存在感を放っているといえます。

 完全にMBVイズムが染み込んだ表題曲#6「Rhapsody in beauty」からの後半も充実の内容で、あらゆる方面からの刺激を約束。ロックの疾走感と轟音ギターで昂揚感を増幅する#7「236745981」、ややアンビエント寄りでありながらも民族的なリズムと意思の強い歌が乗せられた#9「Romance」とその多彩さと表現力の巧みさが冴え渡っています。

 最後は、現実に戻されるように選びぬかれた音と言葉だけが静かに胸を刺す#10「僕らはなんだったんだろう」で、名残惜しそうな締めくくり。ロマンティックな甘い感傷も稲妻の如き激しさも病み付きになる毒性も携えながら、極彩色の世界を描く本作。確実に相手の心を捉える絶妙な逸品。

Hallelujah(2016)

 記念すべき結成11週年に送る2016年9月リリースの6枚目のフルアルバム。全11曲約45分収録。

 誠実なロマンが詰まった作品を送り続ける彼等。USインディよろしくな雄大なグルーヴとコーラスワークが高らかに開幕を告げる#1「Hallelujah」から甘美な音世界へ。到達点と思えた前作『Rhapsody in beauty』にしてもこだわり抜かれた逸品のごとき完成度の高さでしたが、本作ではそれを凌駕しています。

 ハードコア~パンクのダーティな暴力性で持って書き殴られる#2「黒い虹」や#3「1000年」、#8「!!!!!!!!!!!」の衝動。逆に#5「愛はなけなし」や#10「あなたを愛したい」では危険な美しさを湛えながら、繊細な歌声が胸を締め付ける。

 さらにネオアコ風の蒼さが切ない#6「風」、不穏なオルタナティブ・ロック#7「時間さえも年老いて」、澄き通るギターの音色に新たな地平へ導かれていくような#9「ただ遠くへ」と多面性をみせます。◯◯クラスタなんていう属性に陥らない幅広い音楽性の包括。様々なジャンルによる彩りは、しっかりとした一本の芯を通した上で確かな厚みと鮮やかさを本作に加えています。

 そして、作品は時に皮肉、時に攻撃的と文学性を感じる日本語詩で綴られています。本作におけるキーワードは、執拗なまでに登場する「燃やす」と「美しさ」。そのバンドの理想を体現したと思えるのが、いずれもホーン・セクションをフィーチャして希望や祝祭を奏でる#4「美しい火」と#11「いこうよ」の2曲です。

 前者ではエレガンスな音像と充実の歌謡性が温かいノスタルジーを呼び込む。締めくくりとなる後者では、シューゲイザー由来のノイズの大火が全てを無に還すかのよう。それこそ普遍性と特殊性の共存共栄を果たしたような感触もあります。

 作品毎に高まっていく美意識とスケールは、集大成といえる本作にて結実。自らの音楽的背景を膨らませながら確立してきたTHE NOVEMBERSらしさ。そして、隣り合わせの明と暗を表現し続けてきた自負。だからこそありったけの愛情を込めて小林氏は歌うのです。僕と君の世界を変える美しいものと爆音、それを求め続けたロマンチストたちが残した傑作。

ANGELS(2019)

 結成11周年というバンドの節目を越えて、約2年半ぶりとなる7thフルアルバム。全9曲約36分収録。前作は間違いなく集大成といえる作品でしたし、実際にそういえる完成度の高さがありました。それでもなお、THE NOVEMBERSは自らを更新していきます。古きと新しきを融合しながら。

 アルバム毎に少しずつ変わってきている彼等が、一番大胆に変化したのが本作。みながイメージする4人組ロックバンドからの脱皮です。特徴的なのは電子音との魔合成。生音とはっきりと融合しながら、耽美凶暴な音像を築き上げています。インダストリアルとの結びつきの強化。Suicideのカバーである#7「Ghost Rider」が本作の精神性の表れですが、様々な影響下においてデザインされています。

 Nine Inch Nailsがあり、ラルクがあり、森博嗣先生があり(#5「DOWN TO HEAVEN」はスカイクロラシリーズからきていると思われる)、インタビューを読むとエンヤやミック・カーンもある。そんな文化的な交流を音像に編み込みつつ、提示するのは当然のようにTHE NOVEMBERSの音楽として創造されたもの。大胆な変化を伴いながらも美学のブレが全くない。この新鮮味を享受できるのがリスナー冥利につきます。

 今までとまるで違う感触をもたらすデジタル主体の#1「TOKYO」に始まって、光の帯をまとっていく#9「ANGELS」まで。#2「BAD DREAM」や#5「DOWN TO HEAVEN」のようなダークな衝撃も、#3「Everything」や#8「Close To Me」の美しさと幸福感も『ANGELS』は豊かに内包します。

 秩序のある無法地帯で行われたスペクタクルな創造。悪魔とも天使とも取引できる彼等だからこそ革新的な本作は生まれたのかもしれません。リリース以降、著名ミュージシャンを含めて広範囲にわたって衝撃が波及していく様は見ていて痛快でしたね。

At The Beginning(2020)

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 多くの賞賛を集めた7thアルバム『ANGELS』を経て、1年2ヶ月と早めのスパンでリリースとなった8thアルバム。全9曲約35分収録。L’Arc-en-Ciel/ACID ANDROIDのyukihiroさんがシーケンスサウンドデザイン・マニュピレーターとしてぼぼ全面的に制作に参加しています。

 いい意味で円熟し、いい意味で落ち着かない。『ANGELS』の延長線上にあるものですが、それだけの産物にならないのは変容を美徳するノベンバ精神によるものか。オープナー#1「Rainbow」は七色の光が未来に向かって放射するようにシーケンスが導くものですが、タイトルが示すように”はじまり”、世界が大きく変わったことで迎えざるを得なかった”はじまり”を描いた曲。アルバムの核となるメッセージ、精神性をここに示しています。

 インダストリアルの要素もあれど、本作はもっとニューウェイヴやシンセポップといった趣の方が強いでしょうか。電子音によるエレガントな意匠は色鮮やか。前作以上に流麗に結びついていて、はっきりとしたリズムの抑揚も手伝って確実に新境地へと到達しています。

 #5「消失点」~#7「New York」はTHE NOVEMBERSの美点と新しきを意識した上で、新時代において”踊る”を託す楽曲群。”過去はくれてやるよ ありったけを全部”と言い放つほど、ずっとそこにあった過去に固執せず、より良き未来を描こうと想いを乗せる。

 Alice in Chainsの『DIRT』辺りが頭をよぎるグランジの血脈#3「理解者」があって、Boris大先輩の「PINK」を彷彿とさせる切り裂くリフから開放的な広がりをみせる#8「Hamletmachine」がある。バンドとして生音への矜持。それでも両曲とも打ち込みによる構築を取り入れてるのが、やっぱり今までにない新鮮味があります。

 リリース付近の2020年3~5月には変わらざるを得なかった現実と世界があって、本作もそれによってテコ入れされているそう。当初はタイトルが『消失点』だったと聞く。あえて、”はじまり”をタイトルに持ってきたのは、言うまでもなく小林さんの願い。清々しい余韻が残る#9「開け放たれた窓」の向こうをみて彼はこういうはずです、”いい未来で会いましょう”と。

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