アルバム紹介
A Lonely Sinner(2024)
ブラジルのエクスペリメンタル系女性アーティストのおそらく4thアルバム。全8曲約48分。かわいらしいイラストのジャケットのわりに、タイトルは直訳で”孤独な罪人”というギャップあり。
そんな彼女の音楽はフォークトロニカを主体としたものです。牧歌的で人懐っこい音色、柔らかな音響エディットに湿っぽい歌声が重なる(とはいえ大半がインスト・パート)。それがまた繊細かつ壮大に育まれているのは序盤を飾る12分の長編#2「Philautia」で伺えるはず。
シューゲイザーやアンビエント、ノイズ、ドローン、映画音楽の要素が組み合わさっており、サンプリングも大きな役割を担います(使用サンプルはBandcampで公開されている)。
こちらのインタビューを読んでいると、TheMicrophones『The Grow Pt.2』とBon Iver『For Emma, Forever Ago』はそもそもこのレコードが存在している理由というぐらいに影響大。また本人のXの投稿ではSwans『The Seer』、Sufjan Stevens『Javelin』もここに加わります(ジャケット右のイラストが影響を受けたアルバムのジャケになっている)。
そういった先人達のエッセンスを受け継ぎつつ、samlrcの音楽は前述したような人懐っこさ、そしてノスタルジックな感触が抜きんでている。イラストのようなアニメチックにデフォルメできる柔らかな表現の上手さもそうですし、静謐と轟音の揺れ動き/バランス感覚が巧みに落とし込まれています。
11分超の#5「Storge」におけるMerzbowやNadja化してしまうほど膨圧するノイズだって、延長上の表現として納得して聴ける。そんな本作で最も印象的なのは#8「For M」。聴いていると歌なしのROTH BART BARON+Vampilliaのストリングス+wegみたいな音像で心が高鳴ります。
ある種の寓話が本作では展開されているかのよう。その別世界に没頭できるための馴染みやすいメロディやストーリー展開は強く惹かれます。結論:めちゃ良い。
前述のインタビューでは”Battle Of Mice『A Day Of Nights』は私にとって特別なものであり、このレコードが過小評価されているという事実がとても嫌なので、シェアしたい”と話す。そんな人間がつくる音楽は信用に値するでしょうよ。