【アルバム紹介】Earth、ドローンメタルの始祖

 故カート・コバーンとも親交の深かったUSオルタナティヴシーンの鬼才・ディラン・カールソンを中心に1989年から始動。SUB POPからリリースされた1stアルバム『Earth2』で世界に衝撃を与え、ドローン・メタルの始祖としてEarthは知られていくようになります。

 1989-1997年まで活動した後に停止。2003年に再び活動を再開し、以降はコンスタントに活動。現在までに9作のフルアルバムを発表。日本へは2012年、2014年に来日公演を行っている。

 本記事は1stアルバム『Earth 2』を始め、4th~7th、ライブアルバム、1st EP拡張盤の計7作品について書いています。

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アルバム紹介

EARTH 2(1993) 

 1stアルバム。全3曲約73分収録。SUB POP世リリースされた本作はEARTHの代名詞であると共に、まさしくエポック・メイキングな作品です。

 漆黒の時を奏で続ける重低音ノイズは、ドローンメタルを現代に孵化させた歴史的快挙の一役を担う。ドローン/ドゥーム・リフが延々と鳴り続ける3曲70分超のインストゥルメンタル暗黒絵巻。この繰り返し表現によって、Earthは涅槃の扉を開いていきます。

 ひたすらギターとベースによる嫌がせが続くだけ。さらにはほぼドラムレスで展開もへったくれもありません。そしてメロディも拒否。リスナーに寄りそっている箇所は全くなく、ポップを最果てに置いてきてしまったかのよう。

 しかし、これほど極端な表現だからこそ後世に語り継がれていきます。その後にはSUNN O)))という化け物を生み出したのが影響を物語る。終わるともしれないノイズに空間が埋め尽くされては、肉体的にも精神的にも追い詰められ、時間軸さえも狂わせる。

 轟くリフの壁はジャケットの爽やかな青空すらも飲み込んでいく。孤高の音楽性に敬意すら浮かぶ、恐ろしく巨大な作品。

メインアーティスト:Earth
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Phase 3: Thrones and Dominions(1995)

 2ndアルバム。全8曲約55分収録。

Pentastar: In the Style of Demons(1996)

 3rdアルバム。全8曲約43分収録。活動休止前最後のアルバム。

Living in the Gleam of an Unsheathed Sword(2005)

 9年ぶりとなるアルバム『Hex』に先立ってリリースされたライヴアルバム。全2曲約73分に及ぶボリュームで、現在のEarthの立ち位置を示しています。

 #1「Dissolution 3」はWNYUラジオでのスタジオ・ライヴを収めたものであり、ディラン・カールソンのソロナンバー。空間が歪むヘヴィなリフを延々と繰り返していき、後半にちょっとだけ叙情味のあるフレーズが挟まれます。だけど印象的には約15分の底なしのヘヴィ・ドローンといったところ。

 本作の要になっているのがタイトルトラックの#2。ディラン・カールソンのギターに女性ドラマーのエイドリアン・デイヴィスが加勢。2人によるヘヴィなインストゥルメンタルが約58分にわたって続きます。

 こちらもリフの繰り返し攻撃で酩酊させていく楽曲ですが、ドラムがある分はわかりやすい躍動感を生んでいます。ゆえにかつての轟音地獄は避けており、以前と比べても聴きやすさを感じさせるようになっている。

 ワン・リフを基調としながらもテンポチェンジを幾度か行い、緊張感を高めながら昂揚感を覚えるラストへと進んでいく。長丁場ではあるが、これ系のリスナーに受け入れられる材料はそろっています。

Hex; Or Printing in the Infernal Method(2005)

 4thアルバム。全9曲約46分収録。約9年の時を経ての復活作。本作はアメリカの小説家であるコーマック・マッカーシーの代表作『ブラッド・メリディアン』に影響を受けており、全ての曲のタイトルが小説の本文にあるフレーズにちなんでいるそう(wikipedia参照)。

 時の流れというのはドローン・ミュージックの始祖であるEarthの音楽さえも変えてしまうのだろうか?とまず頭に浮かびます。ここにあるのはかつてのドローン・メタルではなく、第二形態に進んでしまった新たな音。

 最もわかりやすく感じるのはカントリー音楽からの反映。さらにはエンニオ・モリコーネやニール・ヤングも本人が影響元に挙げています。

 かつてのように重苦しいディストーションギターの圧で肉体的にも精神的にも屈服させるのではなく、本作ではブルージーでノスタルジックな音が心の内面をしっかりと捉える。靄がかったモノトーンのサウンドの中でクリアなギターが悠然と漂う。

 それがまるで古の風景を描き出しているかのようで、かつてのファンには間違いなく衝撃が走る。同時に新たな門出を歓迎する層も多いはず。そんなEarth第2章の幕開け。

The Bees Made Honey in the Lion’s Skull(2008)

 5thアルバム。全8曲約53分収録。タイトルは直訳すると”ミツバチはライオンの頭蓋骨で蜂蜜を作った”とぶっ飛んでいますが(アートワークもそれに倣っている)、これは聖書 士師記第14章8節にちなんでいる。

 作品は『Hex』の延長線上にあるもの。スローな進行の元で淡くブルージーなギターリフが延々と繰り返され、加勢するピアノ・オルガンが優美でオリエンタルな質感を与えています。その有機的な混ざり合いが生み出すハーモニーは、熟成を重ねた渋みと美しさを醸し出している。

 #3「Miami Morning Coming Down II 」は昔のEarthからは考えられない穏やかな時を演出。全体を通して天壌無窮のドローンメタルからは離れているものの、繰り返しの美学は引き継がれ、カントリー・ミュージックやジャズ、映画音楽からの影響がサウンドの奥深さに繋がっています。

 またビル・フリーゼルが3曲にゲスト参加。華ならぬギターを添えて、この深遠な世界に貢献しています。『Earth Ⅱ』ばかり言われますが、わたしはこの作品が一番好きです。なお国内盤はヨーロッパツアー限定で発売されたライブ音源を収録したボーナスディスク付き。

A Beaurocratic Desire For Extra Capsular Extraction(1991 / 2010)

 1st EPの拡張版。全7曲約55分収録。SUB POPから91年にリリースされた1st EP(全3曲30分強)に、同時期レコーディングされていた4曲を追加収録されて再発されました。アートワークもSUNN O)))のスティーヴン・オマリーが手掛けたものに一新されています。

 『Earth 2』における徹底したドローンメタルの源流がここにあり。陰鬱なリフが執拗に繰り返されて徐々に変相し、冷たく重い感触で機械的に叩くドラムが淡々と進行役を担う。必要最小限のアプローチで人間の精神をずぶずぶにしていく次作の表現の基は、病的なまでに脳味噌をかき乱していく18分のドローン#3でみせています。

 また密教呪詛ドローンともいうべき組曲#1、#2の存在感も大きい。Earthの基盤は早くもできあがっています。それに本作では、Nirvanaでブレイク前のカート・コバーンが参加(#2における朴訥とした声と#6の暗闇に沈んでいくような唄)しているのもトピック。

 追加音源の方もさすがといえる内容で、Pelicanがカヴァーしたことでもお馴染みになった#4は激重スラッジでしっかりと展開も練られていて強烈だし、インダストリアルな無機質で冷徹なビートで牽引する#7も強力です。

Angels of Darkness, Demons of Light I(2011)

 6thアルバム。全5曲約60分収録。次作を含めた2部作の前編となる第1章です。復活して以降、ドローンメタルの地平を越えて、悠久たる音楽の形成を目指してきた彼等の進化/深化が本作でも発揮されています。

 ロックというフォーマットを用いながらもフォーク、カントリー、ジャズにブルースといった要素を含蓄。そして美学に基づいた音響とプロセスの果てに浮かび上がる独特の味わいと風情を持ったサウンドは、まさしくEarthでしか成しえないものです。

 重く深いギターの音色、沈み込むように打ち鳴らされるリズム隊、チェロの荘厳でふくよかな調べが加わって、アメリカの広大な風景とそこに暮らす人々の感情の僅かな蠢動をも描き出します。

 仄暗く陰った性質、反復を基調とした展開、繊細な音の選び方、空間の取り方、奥ゆかしく落ち着いた佇まい。それはフェアポート・コンヴェンションなどのブリティッシュ・フォーク・ロックにインスパイアされた影響でしょうか。

 その上でメロディに寄りそったつくりになり、即興インプロを含めながら楽曲は展開。静かな郷愁が古色蒼然とした音色に溶け込み、悠然としたブルージーなギター・フレーズが神経の一本一本に染みてきます。

 ゆったりと確かめるように楽器が鳴る#1「Old Black」は、深い余韻がずっと続く。

Angels of Darkness, Demons of Light Ⅱ(2012)

 7thアルバム。全5曲約45分収録。ちょうど1年のスパンでリリースされた後編となる第2章です。前編と同時期に制作されていたもので、一時期は2枚組としてリリースするというアイデアもあったそうですが、別々の発表に落ち着いたそう。

 今回は約45分と短くはなっていますが、内容とは第1章から地続き。様々なジャンルの諸要素を掛け合わせた含蓄と深みのある音色が、緊張感を持って鳴り響きます。

 核となっているのは、全てを見透かしたように研ぎ澄まされた感覚から紡がれるギターとドラム。ここに柔らかな刺激と丸みを帯びたチェロの旋律が彩りを加えていきます。古めかしく懐かしい。それでいて新しさも兼ね備える。

 ドローン、アメリカーナに重きを置きつつ『Hex』以降の自身をさらに高めている印象です。各楽器がゆるやかに共鳴し合い、耳をなでるような柔らかさと歴史の重みの両方を感じさせる#2「His Teeth Did Brightly Shine」を始めとして、Earthは繊細にしてダウナーな物語をこちらでも創り上げた。

 穏やかに凪いだ音がどうしてこうも重く拡がり続けるのか。達観した者たちが奏でる音楽は奥が深い。

Primitive and Deadly(2014)

 8thアルバム。

Conquistador(2018)

 ディラン・カールソンのソロ・アルバム。

メインアーティスト:Dylan Carlson
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Full upon Her Burning Lips (2019)

 9thアルバム。

プレイリスト

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