作家であるミラン・クンデラの小説と思想に触発され、カナダ・モントリオールで結成されたポストハードコア・バンド。激情系ポストハードコアとポストロックの領域を行き交うようなスタイルを持ちます。
15年以上に及ぶ活動の中で5枚のフルアルバムを発表。ここ日本では当ブログでおなじみのTokyo Jupiter Recordsより多くの作品をリリースしています。
また2013年10月には初めての来日ツアーを敢行(わたしも大阪まで見に行きました)
本記事はこれまでに発表されたオリジナルアルバム全5作について書いています。
アルバム紹介
Convalescence(2008)
1stアルバム。全5曲約41分収録。Tokyo Jupiter Recordsからリリースされた国内盤はさらに3曲プラス。
Milankuは轟音ポストロック~激情系ハードコアの系譜に連なる展開を得意としているバンドです。どの曲も7分を越えていて、ゆっくりと時間をかけて大きな起伏をもち、じっくりと聴かせる構築の美が備わっている。
いわゆるポストロック的な静寂からぐんぐんと音圧を上げていく王道パターンが多い。GY!BEやMONOが表現する様な悲哀と絶望の淵、そこからの鮮烈な轟音と絶叫で奮い立たせていく。
激情の巨大な渦に放り込まれたが最後、大きな昂揚感に包まれ彼等の音世界に取り込まれます。作風からはenvyの『Insomniac Doze』を思い出す場面もあり。
真新しさはない。ですが、先人達を資本にして十分すぎるほどに胸を打つ物語を描き出します。神秘的と表現できそうなクライマックスに涙する#3は本作の中でも特に素晴らしい1曲ですね。
Pris a’ la gorge (2012)
2ndフルアルバム。全8曲約54分収録。突き詰められた激しさと美しさをまとったストーリーに心を衝き動かされる力作です。
ここにはExplosions In The SkyやMONOのような静から動への過剰なまでにドラマティック展開に、感情を激しく駆り立てるハードコアの魂が宿っています。
インスト・パートが大半を占めますが、叫ぶというよりも吠えるような咆哮があり、スラッジメタル勢にも肉迫する重みを増したリズム隊を中心に低くうねるヘヴィネスも強烈です。
冒頭を飾る壮大劇的な「La Chute」は特に素晴らしく、バンドとして全要素を強化したがゆえの完成度。渾然一体となった時の迫力やスケール感は、前作と比べても桁違いです。
磨き上げた激と美を両手にドラマティックに仕上がった#2「L’inclination」、穏やかな中にpg. lostの美しさと荒涼感でまとめあげたような#3「Inhibition 」、悲壮感に包まれた暗黒の底から繊細なギターの音色が光を追い求め、やがては感情を一気に解き放つ巨大な音塊の前にひれ伏す#5「La Nausee」なども強力。
ボーナストラックのアコースティック曲#8に至るまで深く内面をえぐり、浄化/昇華していくような強力な楽曲がズラリと並んでいます。前作からの躍進は伊達じゃない傑作。
De Fragments(2015)
3rdアルバム。全7曲約38分収録。アートワークを新メンバーのFrancois(Gt)が手掛け、マスタリングにはHarris Newman (Godspeed You! Black Emperor, Eluvium, Baton Rouge) を起用。
メンバーは代わりましたが、前作で完全確立したミランクンド・ハードコアはそのままです。端的には静から動へとドラマティックに盛り上げていってバーストする、轟音ポストロックを基調とした手法。
ですが、楽曲は冗長な部分はあえて削いでます。全7曲中4曲が4分台、長くて7分後半台とコンパクトにした中でも感情の大きな揺れや起伏を持たせています。
サウンドは、シンプルの積み重ねだし、とことんピュアで真っ直ぐ。けれども、これほどまでに感情的に表現できるのがMilankuの強みでしょう。
彼等の代表曲「La Chute」に匹敵しそうな秀曲#5「L’ineptie De Nos Soucis」を始め、聴いていると心が叫びたがってるし、泣きたがってるのを止められない曲ばかり。
じっくりと熟成、でも蒼さは残す。それこそがMilankuの味。#6「Dans Les Absences」に至っては、none but air[at the vanishing point]のVo.nisika君が参加しての日加情熱ハードコアが魂に火を灯しています。
Monument du non-être & Mouvement du non-vivant (2018)
4thアルバム。全5曲約38分収録。トリプルギター編成の5人組への移行、さらにはハードコアよりもポストロックに制空権を譲りました。
前作と比べると作品が醸し出す哀感と冷感が増し、ヴォーカルは本当に必要な場面でしか用いていません。ドラムもかなり控えめで、ハードコアの猛進力は今回は影を潜める。
持ち味の半減かといえば、そうだと思いません。麗しきクリーントーンと冷ややかなトレモロが物語の創造主として君臨し、ゆっくりと情緒的な物語を生み出しています。10分越えの#1「Le Dogme Du Simulacre」によるスタートは、本作を端的に表しています。
その後もメロディックなポストロックとしての側面を強化した曲が続く。一番驚くのは#4「Le Visage Du Tourment」で、エレガントな電子音をまといながら程よい疾走感を生み出すインストとして機能。
ラスト曲#5「Fragments De Néant」は鎮魂歌のようにも響くし、ハードコアの矜持と責務がもたらす叫びが興奮を約束するものでもあります。
活動が10年を経過したことで変化を求め、トリプルギターに活路を見出し、メロウに装飾された楽曲群。ハードコア要素が薄まったとはいえ、十分に魅力的です。
À l’aube(2023)
5thアルバム。全5曲約38分収録。タイトルはフランス語で”夜明け”を意味します。前作からポストロック化の進行が著しかったのですが、本作はさらに拍車がかかる。
こちらのインタビューによると“コンセプトは常に静かに構築し、人生における物事について語ること。前作と比べると、もっとドラマティックで静かな面を持っている“とメンバーは答えています。
その言葉は確かに当てはまる。ところどころで激情~スクリーモの炸裂はあれど、何度も歌詞に登場する”大いなる悲しみ”を背負ったインストが大半をリードしています(実際にインストが2曲あり)。
前作からのトリプルギター編成は板につきましたが、その上で本作を聴いて感じるのはカナダ・エッセンスの強さ。全体にGY!BEに通ずるモノクロームの悲哀が染みわたり、#4「de la grande tristesse」ではTim Hecker先生を思わせる神聖なノイズ~アンビエントに包まれる。
締めくくりの#5「nous sommes disparus」にはスウェーデン人女性シンガーのErika Angellが参加。聖性のレクイエム+ポストメタルの壮大さでもって降り積もった悲しみを天へと還す。
厳かな現実、甘美な幻想。それをより静謐に、より内省的な表現で突き詰めた本作。メランコリックな曲調を強化しただけでは及ばない重みと悲劇的なムードもつきまとっている。