【アルバム紹介】Misery Signals、デザインと流動性のメタルコア

 2002年にミルウォーキーで結成された5人組メタルコア・バンド。7 ANGELS 7 PLAGUESとCOMPROMISEの2バンドを母体にして、メンバーが集結。

 1stアルバムにしてメタルコアの傑作と評される『Of Malice and the Magnum Heart』を2004年に発表し、シーンに躍り出る。その後はメンバーチェンジを繰り返しながらマイペースに活動を継続。20年で5枚のフルアルバムをリリースしている。現在はオリジナル・ラインナップで活動中。

 本記事ではフルアルバム5枚について書いています。

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Of Malice and the Magnum Heart(2004)

 1stアルバム。全10曲約43分収録。デヴィン・タウンゼンドによるプロデュース。猛々しいメタルコアを基軸としながらも、澄んだ美しさが共存する。それがMisery Signalsの音楽的特徴です。

 メロデス寄りのリフがあり、お決まりのブレイクダウンがあり、本作を持って脱退するJesse Zaraskaの怒りと破壊を体現する咆哮がある(彼は後に復帰)。メタルコアのフォーマットに則りつつ、叙情派といわれる所以を見せつけます。

 #4「In Summary of What I Am」はそれまで豪胆なサウンドが中間部でクリーントーンと浮遊感が嘘のように世界を変え、インスト曲#6「Worlds & Dreams」も作品を優美に彩ります。

 激と美のバランスで言えば7:3ぐらいの割合。ですが、3の求心力が桁違いなところが持ち味。ツインギターの巧みなコンビネーション、リズムの滑らかさでもって作品は支えられています。

 そして、本作を名盤たらしめる#3「The Year Summer Ended in June」の存在。この曲はJesseの前身バンド・Compromiseのメンバー2名が交通事故死したことに捧げられており、痛切な歌詞と込められる感情が刺さる。デヴィン・タウンゼント氏の尽力も活かした初期の名作。

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Mirrors(2006)

 2ndアルバム。全11曲約49分収録。ヴォーカルがKarl Schubachに交代(彼は4th『Absent Light』まで在籍)。プロデューサーはChimairaなどを手掛けたBen Schigelが担当。

 コンセプトとしては、自分自身の価値と自分の言動が他人へ影響を与えるかどうかについて多く語っているという。

 新ヴォーカルのKarlは咆哮はより低域で獣感増しの強烈さ。音楽性自体は継続されていますが、ミドルテンポ曲が多め。前作よりもメロディが効果的にバランスを取り持ち、攻撃性も活性化させています。

 なかでも#2「The Failsafe」はキャリア屈指の名曲で、目まぐるしい展開の中で激と美がスクランブルに交錯。ゴリゴリに押すところは押してきますが、スマートさが垣間見えるアプローチが取られています。

 #5「One day I’ll stay home」には、Fall Out Boyのパトリック・スタンプがゲスト参加し、クリーンな歌唱で陽気さを加えている。締めくくりに置かれた表題曲#11『MIRROS』は8分近くかけてバンドが包括する要素の大きさを物語り、まさにドラマティックであり破壊的。

 Misery Signalsはメタルコアの構造の中でプログレッシヴな展開と流動性の高さを示しています

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Controller(2008)

 3rdアルバム。全10曲約42分収録。再びデヴィン・タウンゼンドのプロデュース。前作を踏まえた洗練された作品へ。

 都市の圧迫感と虚無感が滲み出たジャケットの雰囲気を持つ本作は、重厚さの中に透明感と浮遊感があります。激しいだけではない叙情性の配合バランス、奥行きと拡がりのサウンドデザインが独特

 ヴォーカルの低音咆哮は相変わらずに強烈で野蛮ですし、理不尽な残忍さを感じる時もある。前作よりもクリーンヴォイスも意図的に取り入れてますが、カッチリとした印象があり、メタルコア然とした風格が漂います。

 しかし、スリリングでプログレッシヴと評されるほどに展開は凝っている。本作で表現した音楽性はメタルコアよりもむしろDjentに引き継がれていった気がします。

 特に#5「Coma」~#6「A Certain Death」の流れが肝。そして、#9「Reset」#10「Homecoming」のアンビエント/ポストロックの融和に美しい瞬間を垣間見る。わたしの中ではこれが最高傑作。

 メタルコアが相反するもののミックスが可能であること、またハーモニーの音楽であることを体現したアルバムが『Controller』です。

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Absent Light(2013)

 4thアルバム。全11曲約43分収録。少々の活動休止期間を経て、2名のメンバーチェンジもあり、5年ぶりとなった本作はバンドの頭脳であるRyan Morganと新ギタリストのGreg Thomasによる初のセルフプロデュース。

 上記の影響からか変化はあります。自身がタグ付けされるメタルコアという体裁を保ちつつ、ストリングスやグロッケンの音色が取り入れられる。そして、メロウ&広がりのあるアプローチが増えています。それでも作風としてはこれまでよりもダークな雰囲気。歌詞は個人的な葛藤を主に綴っている。

 ALTERNATIVE CONTROLのインタビューによると特徴的なアートワークは、”自分自身の失敗と後悔の重みに沈む暗い気持ち、特に人生を導いてくれる光を見失ってしまったことを表現している“と言います。

 また、”RadioheadやNine Inch Nails、Pink Floydを参照し、映画音楽から最も影響を受けた“と語る。

 終盤でストリングスが入る#3「Reborn」や物悲しいとヘヴィネスが同居する#5「Shadows And Depth」など、持ち前のアグレッションを維持したままドラマティックさを追求。そして、#11「Everything Will Rust」がパーソナルな葛藤の果てに希望を見出す美しいエンディングを奏でています。

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Ultraviolet(2020)

 5thアルバム。全9曲約34分収録。今度はなんと7年ぶり。初代ヴォーカル・Jesse Zaraskaの復帰に加えてギタリストのStu Ross、ベーシストのKyle Johnsonが復帰してオリジナル・ラインナップで制作されました。

 前作で脱退したギタリストのGreg Thomasがプロデュースを務める。エンジニアにはTim Creviston、デヴィン・タウンゼンド、マット・ベイルズと3名が担当。

 前作にあったギミックは極力排除して、メタルコアのモードへ回帰。脳筋パワープレイだけではない、切り返しの滑らかさと叙情の配合比はさすがの感性。

 #3「River King」は真骨頂といえるもので、猛烈なブルータリティと叙情性のせめぎ合いが曲に奥行きを与えています。曲単体でも作品全体でも簡潔な時間を実現。その中で密度の濃いダイナミクスを感じさせます。

 所々で感じる初期のテイストは懐かしく、それでいて成熟した温かいエモーショナルがある#9「Some Dreams」にはバンドの前進を感じたり。正直に言えば00年代に残した偉業には及ばないと思います。

 でも単なる同窓会ではなく、2020年代になっても潔いまでに自分達であろうとする音楽が貫かれている

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