Sometree、ドイツの壮麗なるエモ

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 1994年にドイツ・ハノーファーで結成されたエモ/ポストロック・バンド。アルバムを出すごとにそのスタイルを変えていき、初期は90’sエモを軸とし、00年代中盤からはストリングスやピアノ等を交えたポストロック寄りの歌ものへとシフト。全5枚のフルアルバムを発表しており、2010年には来日ツアーも行っている。2017年ぐらいに解散しました。

 本記事は彼等が残した5枚のオリジナル・アルバムについて書いています。

目次

Clever Clever Where Is Your Heart(1998)

 1stアルバム。全10曲約65分収録。年を経るごとにスタイルが変わっていったSometree。初期の特徴としては、Sunny Day Real EstateやMineralのような哀愁と熱量を帯びた90’sエモ。この1stアルバムでは静動の秀逸なコントラストを描きだしており、特に轟音パートは全作中で最も重厚で激しいです。さらに楽曲の平均尺は6分半近くと長め。じわじわと盛り上げる手法からは、大きな起伏とドラマが生み出されています。

 アルペジオを主体とした静パートはナイーブに感情を表現しており、ベースが意外とハイポジションまで動いて曲の表情を豊かに彩る。ドラムは安定感の中にここぞという力強さを解き放ち、大きな貢献を果たしています。ディストーションギターが重なる轟音パートでは、Mogwaiを彷彿とさせながらも胸を掻きむしるほどのエモーションの渦に巻き込まれる。

 レディオヘッドのトム・トークに少し似たヴォーカルは、感情の機微を巧みに歌い上げ、時にささやき、時に叫ぶ。そのぶちまけ方は適正なコントロールから逸脱した時に、荒ぶるような情熱のほとばしりを感じさせます。

 #1「Monolith」の轟音と蒼き衝動、#3「Eclipse」のコントラスト、#4「Jade」が放つ枯れた哀愁、#9「Ghost」における爆発。90年代末期はEMOの名盤が数多く生まれた年ですが、本作がそれになかなか入らないのがもどかしい。知られざるという領域に留まってしまってますが、Sometreeもまた語り継がれていくべき存在です。

Sold Heart to the One(2001)

 2ndアルバム。全10曲約46分収録。基本的には前作の延長上にありますが、激しさは少し和らぎました。曲の尺は短くなり、ボートラのような立ち位置の#9「Untitled 1」~#10「Untitled 2」を除けば平均4分ぐらいで収まる。勢い任せというよりは、明確に静と動を分けた端正な構築が光る。

 前作よりも動パートは少し控えめとはいえ、#2「The Funeral」ではセリフのサンプリングも用いられるようになり、新しい手法も積極的に取り入れています。でも、しっかりと蒼さは残る。#3「Nival」ではこれまで以上に疾走感が植え付けられており、#4「One Noem One」の手数の多いドラムがもたらす躍動感と力強さに熱が入る。

 終盤2曲は、バンドが静方面へ特に向き合った曲が置かれています。#7「The Nexus」はファルセットと叫びを効果的に選択しながら鮮やかに情熱を注いでおり、以降のバンドのスタイルに連なっていくものを感じさせます。実質のラストトラック#8「Danced Upon My Spine, You」は繊細な組み立てによる滋味深い味わいがあり、インディーロック方面に寄り添う中で淡い陰りを帯びている。

 全体的にコンパクトに収めつつ、少し変化の兆しが見られる作風。次作からは劇的に変化していますが、1stアルバムをいぶし銀の味わいに落とし込んだ印象が本作にはあります。とはいえ、感情のこもり具合は半端ではない。

Moleskine(2003)

   3rdアルバム。全9曲約45分収録。サウンド面での変化が如実に表れだした作品です。エモよりもポストロック的なサウンドスケープに寄り、ギターのクリーン・フレーズの多用と空間的な広がりは以前よりも強調。静の部分に重きを置いた時は、研ぎ澄まされたメロディが鳴り響く。繊細で艶のある歌、ここぞで感情を爆発させるように声を荒げた叫びは変わらずに核として機能しています。

 冒頭を飾る#1「Pulse」はエモーショナルな歌と演奏による劇的な一瞬と豊かな起伏をつくりだしていますし、#2「Notion」はこれまでの彼等らしさを凝縮。ただ、進化を示すのは以降の曲で特に#3「Nosebleed」。電子音とピアノを主体とした歌ものを披露しており、引き算されたことでの透徹の美を追求しています。Sometreeのターニングポイントといえる楽曲で、次作以降のサウンドデザインに最も影響を与えたと感じる曲です。

 センチメンタルな静から嵐のような動が渦を巻く、壮麗なる轟音の賛美歌#4「Satellitelines」もまた存在感を示します。全体的に抑制の効いた曲調が増えました。それでも情熱的であり続けるヴォーカルには、心を動かされる。終曲#9「Elephants」では、アブストラクトな音響とトランペットを用いて夜の都会の寂しさみたいな印象を残す。この曲もまた変化を示す1曲。『Moleskine』の静と動が紡ぐ確固たる世界は、何よりも力強く、独自のエモーショナルが渦巻いている。

Bending the Willow(2006)

   4thフルアルバム。全9曲約45分収録。前作での”静”を研ぎ澄ませた作風はそのままに、憂いを帯びた美しさに拍車がかかりました。ホーン・アレンジやストリングス、シンセ、ピアノが前作以上に幅を利かせており、一部の楽曲では小規模なオーケストラのような華美荘厳なイメージさえ浮かびます。

 ヴォーカルは表題曲#3「Bending the Willow」に代表されるような力強いエモーショナルな歌唱を変わらずに披露。また、心洗われるような歌と演奏のハーモニーは、やはり何事にも変えがたいバンドの強みとなっています。ピアノやホーン等も交えた豊穣なサウンドに情熱を湛えたヴォーカルが理想的に混じり合う#1「Whatever Makes You Sleep」で琴線を鷲掴みにする。

 前述したようにあまりにも優雅で力強い#3「Bending the Willow」、繊細なピアノと艶やかなホーンが柔らかな光を紡ぎ、情緒的なヴォーカルが交じり合うことで胸を打つ#5「Seraph」、本作随一の昂揚感が全身を駆け抜ける#7「Soft Remarks」、アヴァンギャルドな序盤の脅しからなめらかに包み込んでいく#9「Fsdp-1」と良曲は本作でもずらりと並ぶ。前作からの流れを汲み、確かな前進を見せる一枚かと思います。まるで隙のない詩情に彩られた作品。

Yonder(2009)

 5thフルアルバムにして、最後の作品。全8曲約36分収録。初期の蒼いエモという立ち位置からの大きな変化は、ここに極まります。シガー・ロスが憑依したと表現できるかもしれないサウンドは、美しく調和して人々を魅了する。

 壮麗なるロックオーケストラが開演する#1「Sink or Swim」の始まりから、ドラマティックな演出が決まっています。エモとしてのルーツは限定的な披露にとどまりますが、ピアノや管弦楽器、木琴、電子音などが流れるように交歓し、優しく撫でるように響き渡る。その上で歌を最大限に生かした構成の妙。”神聖”という言葉を当てはめてみたくなるほどに、そのサウンドは純化ならびに研磨されています。7分にも渡る美しいハーモニー#3「Moduin」は、彼等の到達点のひとつと言える曲。

 トライバルなリズムを基点に滑らかなピアノとギターの音色が舞う#4「A Years Mind」が昂揚感を与え、アブストラクトかつ実験的な#5「Serene」からはAlbum Leafのようなイメージさえ浮かぶ。さらには#7「A New Low」を聴いていると、復活してからのAmerican Football好きの胸に届くものがある。サウンド面はかなり変化があったにせよ、生々しい感情の乗った歌を届けるというのは変わっていない。

 『Yonder』にてたどり着いた境地は美エモという言葉では説明できないものです。独自の進化を遂げていったSometreeの旅路はここで終わました。しかし、若々しい衝動の音楽から救いと昇天の音楽への変遷は誰しもがたどれるものではありません。なお、2010年12月に来日ツアーも開催しました。

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