heaven in her arms ‐‐Review‐‐

envyやendzweck、killieなどと同列で語られることも多くなった日本屈指の激情ハードコア・バンド

レビュー作品

> 刻光 > 幻月 > 被覆する閉塞 > 黒斑の侵蝕


刻光 (コクコウ)

刻光(2013)

 envy/JESU、TORCHE/Borisといった国内/海外の先鋭達の組み合わせで衝撃を残してきた、Daymare Recordingsのスプリット・シリーズの久々となる新作は、国内でも有数の2バンドがぶつかり合う。世界の名だたるバンドとの共演を果たし、日本でも屈指の激情ハードコア・バンドに飛躍したheaven in her arms、そして、東京のエクストリーム・ブラック・メタル・バンドのCOHOL。初共演を果たしてから10年にもなるという親交の深いこの2バンドが、共に3曲ずつを提供した本作では、お互いの音楽性にリスペクトを払いながら、統一性のあるひとつの作品として高いクオリティを誇る。

 先行は、heaven in her armsから。彼等にとっては2010年に発表した2ndアルバム『幻月』以降、Aussitot Mort、Yumiという2バンドとのスプリットを経てきているわけだが、本作もまたスプリットでの新曲発表という形になった。収録は3曲となっているが、3曲合わせて1曲と思えるほどに壮大なストーリーを激と美の極限のコントラストで聴かせてくれている。

 メランコリックな旋律を幾重にも重ねながら、眩いパノラマを広げる#1「黒い閃光」、個人的にはMALICE MIZERを思い出すオルゴールの音を主体としたSE#2「繭」とインストを2曲続けてきたのに驚く人は多いだろう。しかしながら、最後にはこの清流がどす黒く変わる#3「終焉の眩しさ」を配置。COHOLと共振するかのようなトレモロやブラストビートを用いながら、僅かに差し込んでくる一筋の光に願いを託しながら激走する。かくもドラマティックな流れになるのは、彼等の美意識が働いているが故か。特に、途中のポエトリーリーディングを抜けてからの怒涛の展開には悶絶。ハードコアにとどまらない深化を遂げてきた彼等だからこその貫禄がここで感じられる。

 一方のCOHOL。筆者は2011年にライヴは体感しているものの、スタジオ音源は聴けていない状況。だが、太陽を一網打尽にするブラック・メタルは鋭く攻撃的であり、光をも覆い尽くす闇を形成する。非情な爆撃の如きエクストリーム・サウンドが襲いかかる#4「不毛の地」から始まり、Ulverを意識したかのようなエクスペリメンタルで幽玄なSE#5「木霊」を挟んで、再び残忍な切れ味を見せる#6「疎外」で締めくくり。大きな衝撃を残す事に成功している。

 FOLLOW-UP誌のインタビューでは、「スプリットしたくない。あくまで一緒にひとつの作品を作る」という言葉を残しているのだが、10年以上もお互いに切磋琢磨しながら成長を続けてきた両バンドだからこそ、こうして形にできたものだろう。今後の足がかりになるであろう重要作である。


Paraselene

幻月(2010)

   激情ハードコアというフィールドにおいては確固たる存在感を示しているHHIAの2008年の『黒班の浸食』に続く2ndフルアルバム。envyのSONZAI RECORDからリリースするというときは目を疑ったが(笑)。

 envyとポスト・ブラックメタルを黒魔術で合成したかのような作風で、数々の信者を獲得してきた彼等だが、本作ではCorruptedのエキスを多分に吸収してスラッジテイストが強い#3やストリングスの嘆き節が精神を揺らがせるラストの#8などを用意して、極端な闇はさらなるスケールアップを施されている模様。おそらくenvyからの脱却という想いも少なからずこの作品のテーマにはあるだろう。それでも、美と醜を煮詰めたhihaの一大巨編は、果てしなく肉体的に、またスピリチュアルに轟いている。叙情的なアルペジオが光を追い求めてるように奏でられ、鬱屈とした空気や荘厳な闇を切り裂くかのように極限状態で爆発する轟音が天地をひっくり返すこの凄まじさ。やはり彼等ならではの威力が存在している。しかしながら、様々な要素を実験的に取り入れたこともあってかバンド自体が昇華できていないように感じられ、全体的に冗長的と思えてしまうのが難点か。彼等らしい激情と悲哀が交錯する#6、#7といった曲が存在感を示しているが、世界観を造り込みすぎて煮詰まってしまったという印象はどうしても拭えず。楽曲の深度は深くなったし、必然性を持った音が奏でられているけれども、その全貌を圧倒的な説得力をもって聴かせつけるまでに至ってないように感じてしまう。尊大な迫力とオーラをまとっていた1stや09年発売のEPに比べると、個人的にはやはり魅力に欠ける作品という結論に。ライヴで体験するとまた印象がガラっと変わってくるかもしれないが。


被覆する閉塞

被覆する閉塞(2009)

 堕ちる、朽ちる、この絶望の奥底で・・・

 約1年ぶりの音源となる4曲入り約30分のEP。前作「黒斑の侵蝕」では、負にまみれた救いようの無い絶望が聴き手の体温を根こそぎ奪い取っていくような名作であったが、本作はその延長線上といえるものだろう。ここに収められた4曲は残酷なまでに病みきった天国へと意識を解放する悪夢の時間を約束してくれる。三本のギターが描きだす深遠なるストーリーを、意味深なポエトリーリーディングと壮絶なる絶叫が黒と鮮血で染めていく激情ハードコアから大きな変わりはない。常に胸元に剣先を当てられているような戦慄に苛まれるが、一つ一つの楽曲の深みと重みが増している。前作でいえば「鉄線とカナリア」、「赤い夢」、「黒斑の侵蝕」といった曲に近い印象だろうか。不穏な静寂とカオティックな爆発がスピリチュアルな刺激をもたらしている。

 美麗なるアルペジオは希望を刻んでいるようで対極の絶望を増殖し、病的かつ邪な言葉の渦は炊きつける狂気と共に脳の中を歪ませ、神経を切断。徐々に高まっていった負の熱を爆発させて産み落とされる混沌は、行き着く先にある光の全てを果てしなく広がる漆黒の海へと流す。クライマックスには深い絶望感にも等しい陰鬱と蒼白き恍惚の両者が身体中に広がる。激情に次ぐ激情が奈落の果てへ。#1「縫合不全」、#2「錆びた爪痕」、#4「角膜で月は歪む」の3曲は本当に重くて深遠であり、芯から震えを覚えるような圧倒的な力を持っている。envyは僅かな光を見出し静と動のコントラストを生かしたスケールアップを図っていったのに対し、彼等は美しき叙情で彩りながらも光が遮断されるほどの闇に覆われている印象がある。人間の最も重たい核をぶつけているかのようなサウンド、ここにはもう太陽も月も決して昇りませぬ。


黒斑の侵蝕

黒斑の侵蝕(2008)

   全ての負の根源がここに詰め込まれているかのようだ・・・。既にアンダーグラウンド界ではその名を轟かせているheaven in her arms。彼等の発表したこの1stアルバムはとんでもなく物凄えパワーを四方八方にぶっ放している。

 全てを絶望の闇へと葬り去るような激情の渦。そこへ静寂の夢、光をわずかに見させる深遠なメロディが彩を与える。トリプルギターによって描かれる気宇壮大なストーリーとドラマティックな展開もさることながら、バンドが臨界点を越えて生み出す破格のエネルギーとダイナミズムは尋常ではない。ブラックメタルさながらに絶叫するヴォーカルも狂っている、クルッテイル、狂ッテイル。それはまるで怨念を肌に刻みつけ、骨にも刻み付けてくるかのようだ。一切合切を薙ぎ倒す突進力とパワーもまた半端ない。音楽によって聴く者の精神を崩壊させて蝕んでいく・・・。端的に言ってしまえばenvyのようにポストロックの要素を導入しつつ、ダイナミックな展開を見せる激情ハードコアだろうと思う。けれどもあそこまで洗練されているわけではなく、初期衝動らしい荒さと過激さがまたこの作品に力を与えている。だからこそ迸る激情に我々は惹かれていくのだろう。

 希望と絶望が鬩ぎあい、答えのない螺旋を描いていく。ブラックメタルにも通ずるような狂気性を秘めながら、ここまで混沌とした世界を描けるのは本当に凄いの一言。文学的な詩も巧みとしか表現しようがなく、人間の悲哀と苦悩を心に真っ直ぐ突きしてくる。まるで闇へと導く絶望の羅針盤。11分30秒に及ぶ壮大なラストトラック#12「黒斑の侵食」のあとに見える世界は、ぜひみなさん自身で確かめてみてください。

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