2025年ベストアルバム20選

 時代や流行とは離れ小島のような当サイトは2025年も何とか生存。ある個人が残す記録というか文章芸というか。そんな感じではありますが、今年はペースが落ちながらもいくつかの記事を書き上げることができました。

 そして1年の締めくくりとなる毎年恒例のベストアルバム記事です。昨年に続き20作品をあげていますが、自分自身の軸は今年もあまり変わりませんでした。そもそも聴く音楽が変わっていない。読者の方からすると、予想の範囲内にあるものだと思います。声高にこれを聴け!というつもりは毛頭ないですが、以下に残す文章が何かの発見になれば幸いです。ちなみに20作品は順不同。自分なりの流れや考えを反映した並びにしています。

タップできる目次

2025年ベストアルバム

Pelican『Flickering Resonance』

 2000年にシカゴで結成されたヘヴィ・インストゥルメンタル4人組。2022年にオリジナル・メンバー編成に戻り、6年ぶりとなる7thアルバム。そんな本作についてトレヴァー・デ・ブラウはSUN-13のインタビューで”『Flickering Resonance』は4人の友情についてのアルバムです。パートナーシップの喜び、これまで経験してきたこと、ここまで頑張ってこられたという事実を再発見するものです“と答えている。

 結論を先に言うと、バンド史上で最も取っつきやすい入門盤として薦めたい作品です。凱旋を高らかに祝うかのようなギターが鳴り響く#1「Gulch」で幕を開けますが、全体を通してかつてない快活さと開放感がある。トレードマークの重厚さを堅持しながらも歯切れのよい推進力で支えられています。

 スラッジメタル由来の豪腕なリフで持ち味を発揮しつつ、色とりどりのメロディが舞う#2「Evergreen」や#4「Specific Resonance」を筆頭に7~8分台の曲が大半なのは変わらず。しかしながら、その足取りはかつてなく軽やかで、過剰な盛り上がりではなくナチュラルな揺れ動きで聴かせています。懐かしい手つき。と同時に前進を示す新しい煌めきと瑞々しさが宿っています。

 こうした作風の背景のヒントになるのは、Brooklyn Veganのポッドキャストで語っている本作に影響を与えた10枚(実際には11枚)。Sunny Day Real Estate、Mineral、Texas Is The Reason、Quicksandといった90年代のエモ~オルタナ・バンドをあげているのですが、Tシャツにもプリントした謎のパワーワード”Post-Emo Stoner Deathgaze“は、その影響をおそらく表している。

 30年近くに及ぶ4人の友情と共鳴を原動力に、最も親しみやすい作品を生み出したPelican。再集結で得た喜びと希望に満ちた音は、これまでになく心と体になじむ。そして創造の炎は優雅に揺れ続けている。

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Grails『Miracle Music』

 ドラマーのEmil AmosとギタリストのAlex Hallを中心に据えて1999年から活動する老舗バンド。本作は珍しく1年8カ月という短いスパンで発表された9thアルバム。結成から25年が経過しましたが、Grailsはリスナーを煙に巻く音楽を今も続けています。サイケやジャズ、ニューエイジ、ワールドミュージック、映画音楽といった具材を弱火でじっくりと煮込み続けた闇鍋のようであり、相変わらず主体も着地点もどこにあるのかはわからない。

 実際にGrailsの音楽は言い方を悪くいうと雰囲気もので、クレッシェンド構造やシグネチャームーブもない。それでも多種の楽器を使用したさやぎとざわめきの中で幻の層を重ね続ける。研修を何十年受けてもたどり着けない音、曲の持つ雰囲気や薫りが彼らにはあります。独特の味わい。これまさに。

 アッパーなエレクロニック・ビートで牽引する#1「Silver Bells」、アコースティックとホーンセクションと残響の合わせ技#2「Primeval Lite I-III」と#6「Strange Paradise」、暗鬱と神秘の紙一重を表現する真骨頂#5「Harmonious Living」といった楽曲を本作に収録。その中でも優雅に仕立てられた#8「Visible Darkness」に浸る度に、非現実な風景が浮かんできます。

 アルバムは初期2作をレコーディングしたポートランド州・オレゴンのスタジオも使用したとのこと。そうした面影を残しつつも “このバンドは常に未知なるものに向かっていくという点で、より引きつけられる。そこには混乱と未解決の緊張がある(13-SUNインタビューより)”という言葉が示すように、控えめに忍び寄る音は、奇妙な楽園を生み出しています。

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明日の叙景『Think of You』

 日本のポストブラックメタル・バンドの3rdアルバム。2022年にリリースされた2ndアルバム『アイランド』は、バンドの代名詞となる素晴らしい作品でした(2022年の個人的ベストアルバム10選にも選出)。その前作が夏をテーマにしていたのに対して本作は冬。そして”君が笑ってくれるなら、僕はJ-POPにもメタルにもなる”というコピーが躍る。

 ポストブラックメタルの仕様に準拠しているのは変わらずとも、より開かれた作品というのは感じます。Rolling Stone誌のインタビューにもありますが、J-POPにしてもメタルにしてもヴィジュアル系にしてもその果実を享受しながら、自分たちの音楽に生かしていく(もちろんそれ以外のジャンルも含めて)。語りパートはあるもののほぼスクリームやブラストビートなど鋭角な耳への刺激がたくさんあれど、キャッチーさを標準装備した強み。#2「ステラ」~#4「天使」に至るまでの快活な流れは、シャウトは絶対無理なんで教を説得できる・・・かもしれない。

 『Think of You』のインスピレーション元となるプレイリストがバンド側から公開されていますが、90年代末期にヴィジュアル系に洗礼を受けて育ってきた私としては#6「コバルトの降る街で」を聴くと、懐かしさと新鮮さが同時に込み上げる。今年はAlcestのオープニングアクトや10月の名古屋ワンマンの2公演に立ち会えましたが、バンドが駆け上がっていく姿を見られているのも嬉しい。

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La Dispute『No One Was Driving the Car』

 2004年にアメリカ・ミシガン州グランドラピッズで結成されたポストハードコア5人組。バンド名は中心人物であるJordan Dreyerが高校時代に観たピエール・ド・マリヴォーの戯曲『La Dispute(いさかい)』に由来する。これが5thアルバムで引き続きEpitaph Recordsからリリース。タイトルは2021年4月にアメリカ・テキサス州で起こったテスラ自動運転車による2名の死亡事故。この件に関する警察官の発言から引用(参照:GIGAZINE記事)。

 本作は映画から強いインスピレーションを受けており、ポール・シュレイダー監督の『First Reformed(邦題:魂のゆくえ)』を特に強い影響元として挙げています。映画を念頭に置いたアプローチからアルバムは全5幕で構成され、それを1幕ごとに年間通じてリリースしていく形態をとりました。UPROXXKerrang!Hard Force等のインタビューを参照すると、孤独や環境危機、信仰と宗教、マルチレベルマーケティング、資本主義社会といったテーマを織り込んでいる。

 ”これまでの集大成だと思う。すべてのアルバムの要素が少しずつ詰まっている(前述のKerrang!インタビューより)”とJordanは端的に作品を評します。確かにアルバム毎に変化しているバンドだけに、その発言は本作のコレクティヴな作風から納得がいく。アルバムの中核を成す#4「Environmental Catastrophe Film」にはRadioheadが背後霊のようにうろつき、#6「The Field」の終盤でドゥームメタルに挨拶する。総決算という趣ながらも新鮮な要素をいつも通りに取り入れています。

 また前作と比べるとエレクトロニックな装飾はほぼ無くなり、バンド感の強い音楽に戻っている。それはパンデミックから抜け出すための『Wildlife』と『Rooms of the House』のリリース10周年記念ツアーの影響が大きかったとのこと。特定の過去が蘇らせる感情と音。それが現在と未来に結びつく。サウンドはハードコアとアコースティックの狭間で揺れ、リリース時点で38歳を迎えたJordan Dreyerによる語りと叫びと詩は一級品に磨き上げられている。表現の芯は全くブレていません。

 個人レベルのものから、より強い社会的な視座を持った作品へと昇華。La Disputeは円熟した表現と緻密に練り上げられた構成によってそれを実現しています。

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Beneath a Steel Sky『Cleave』

 ”Retro Futurist Noir Post-Metal”を掲げる6人組。2020年のパンデミックの時期ぐらいからスコットランドを拠点に活動を開始します。本作は1stアルバムで昨年のベストアルバム20選に取り上げたCodespeakerと同じRipcord Recordsからのリリース。

 Explosions In The Sky系ポストロックの性質に重きを置きつつ、ポストメタルの重量感を丁寧にドッキングしているのが特徴。近いのはRosettaだと感じるのですが、そこにRed Sparowesのメロウさを織り込み(曲名の長さも含めて)、場面によっては同郷の偉大な存在であるMogwaiも顔をのぞかせます。

 アーロン・ターナー寄りの唸り声やスラッジメタル由来の重低音は構成に組み込まれていますが、それらを塩漬けにする美麗なセクションが機能。アルペジオの波は湿った哀感を引き連れ、トリプルギターのうち2人が兼務するクリーン・ヴォーカルはわびしげに響き渡る。繰り返しからゆっくり展開していくことが大半の曲に共通する中で、物思いに耽る瞬間をもたらしています。

 本作のムードを決定づけている#2「Vanguard」や#4「Quetzalcoatlus」の重・美のバランス感覚とスムーズな移行は見事。終曲#7「The Becoming」にはヘヴィなクライマックスが待ち受けているとはいえ、瞑想を誘うしみじみとした歌とメロディに惹きつけられます。

 ねじふせるムーヴはほぼなく、詩的な態度で接してくるポストメタルとして浸れる良さがある。ゆえに浸ればよろしかろう。暗さや不安を映し出しても、この品のあるリリシズムは魅力的ですから。

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Glare『Sunset Funeral』

 アメリカのテキサス州リオ・グランデ・バレー出身のシューゲイザー4人組(かつては5人組)。2017年から始動し。slowdiveやCocteau Twins、WhirrやNothingに影響を受けてパンク/ハードコアにシューゲイズを組み合わせたサウンドを志向(First Revivalのインタビュー記事より)。

 結成から8年をかけての1stアルバム。Sunday Drive RecordsとDeathwishの共同リリースとなり、国内盤はDaymare Recordingsから発売。ギタリストのToni Ordazは本作について”自分の気持ちをどう表現していいかわからない人のための音楽“と語り、感情が言語を凌駕する夢のような悲しみの霧であると示している(参照:Bandcamp)。こうした背景をもとにしていますが、夢見心地を誘うサウンドスケープはほんのりと温かい。トリプルギターとぼやけた歌声によってしなやかに表層変化し、時には淡くうねり、時には分厚くうねります。

 水面のきらめきを思わせるギターが印象的な#1「Mourning Haze」で滑り出し、90年代オルタナとシューゲイズの折衷#3「Saudade」、slowdive辺りの影響が垣間見える#4「2 Soon 2 Tell」、”刺激的で新しい愛は不安を抱かせる”というテーマを甘美なグルーヴで表現した#9「Guts」などで彩られる。

 同じくパンク/ハードコアをルーツに持ち、親交も深いLeaving TimeTrauma Rayと比べてもシューゲイズ信仰は強め。スラッジメタルの軋みを利用した#7「Nü Burn」の重い刺激も有してはいますが、作品は全体的に柔らかなタッチで保湿されている。楽観と悲観を揺れ動く霧のような音像ではありますが、音量/音圧の支配よりも抱擁力が先行するのがバンドの持ち味。

 締めくくりの#11「Different Hue」は澄んだメロディと語りかける歌がしんみり響く。そのなかに”私たちは色合いを変えながらも前進し続ける”というメッセージを込めている。誰しもが経験する人生の浮き沈み。それを寛大に受け止める音と言葉に包まれる作品です。

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Juneau『Scraps of the Final Lights』

 2019年に結成されたポストメタル系インスト・トリオ。ベルギーのハイスト・オプ・デン・ベルグを拠点に活動する。ツインギター+ドラムという編成で、重量とメロディアスな質感を併せ持つサウンドが特徴。本作は2ndアルバムで、国内盤CDがTokyo Jupiter Recordsから発売。海外はOverhead, The Albatross等を手掛けるA Cherry Wave RecordsとDe Mist Recordsが共同リリース。

 ”ある人にとっては壊れやすさや喪失を象徴するかもしれません。またある人にとっては回復力や個人的な意味を表すかもしれない。この開放性は私たちにとって不可欠。アルバムが私たちの物語を語るだけでなく、リスナー自身の経験を見出す余地も残しています。音楽的にはこの緊張感が強烈でダークな質感と、儚いクリアな瞬間を融合させる原動力となっている“と作品についてメンバーは述べている(参照:Doomed Nation記事)。

 リリース2カ月前に先行公開されたシングル#4「Heave」の時点でインパクトは十分過ぎましたが、アルバムを通しても前作と比較してバンドの基準を一段も二段も引き上げたと実感する内容です。Russian CirclesOmega Maasifの掛け合わせかと思える轟・美のセクション移動を踏まえ、重低音が破壊力を増し、メロディは研磨。MV公開曲#2「Observer」はそういった要素を練り上げて構成しています。

 ダイナミックな動力で牽引するドラムを下地に、ツインギターが剛・柔を適切に配置。ポストロック的な性質を付与するトレモロから始まり、光に仕えるアルペジオや残響が心地よい#3「Portals」は柔の要素を強調。対しての#4「Heave」はOmega Massifやryrを思わせるヘヴィな側面に傾きます。

 最後に待ち構えるのは10分に迫る表題曲#5「Scraps of the Final Lights」。シューゲイズ風味のギターを皮切りに遅速と静動を駆使して緊迫する展開でつなぎ、”最後の光の断片”をインストゥルメンタルで模索する。前作からブレることなく自身の音楽性を進化させた作品であり、巨石建造物のごとき迫力と厳格な美が備わっています。2025年12月の来日公演、はるばるありがとう(わたくしもありがたく参加しました)。

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Faetooth『Labyrinthine』

 2019年からLAを拠点に活動する3人組。いわゆるドゥームゲイズと呼ばれるバンドですが、自身では”フェアリー・ドゥーム”を謳う。本作は4→3人体制になっての2ndアルバム。リリース情報を参照すると、”悲しみ、記憶、不確かさ、そして自分自身の傷を静かに癒していく作業といった感情の重みを深く探求した作品”とのことです。

 彼女たちが奏でるフェアリー・ドゥームは妖精とも悪魔とも仲介しますが、後者との関係性が濃く、生き血を捧げる系の妖しい雰囲気が漂っている。前作に続いてドゥームゲイズの割合でいえばドゥーム成分がはるかに優勢です(25年3月刊行の『ドゥームメタル・ガイドブック』にもp171に掲載されています)。

 圧迫するファズとチェルシー・ウルフを思わせるヴォーカルは特殊な呪文のようであり、ベース&ヴォーカルJennaによるブラックメタル風の金切り声がわりと頻繁に差し込まれる。#2「Death of Day」にしても#4「Hole」にしてもオカルトチックな闇と痛みを解き放つもの。タイトルがいかにもシューゲイザー寄りな#5「White Noise」は、重みに耐えかねてクリーンなギターや歌声が安らぎをもたらす場面もあれど、脅威を覚える地鳴りのようなサウンドが終盤にやってきます。

 #6「Eviscerate」からの後半戦はメロディアスな領域に留まろうとする演出が目立ってきますが、甘い汁をそう簡単に吸わせてくれません。ラテン語で悲しみの聖母を意味する#8「Mater Dolorosa」が柔らかな音色と優しい歌声を基調としつつも、残酷でおどろおどろしい瞬間を避けてはいない。

 ドゥームに根差した低速進行と禍々しさ、ゲイズに付帯する浮遊感やゴシックの官能的な色合いを含んだその魔性の引力。一歩間違えば引き返すことのできない沼地に沈められそうです。

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Sport『In Waves』

 フランス・リヨンで結成されたインディーロック/エモ4人組。主に2010~2019年まで活動し、欧州からエモ・リバイバルへ貢献した存在としても知られます。そんな彼らが2024年に復活して、9年ぶりの4thアルバムを発表。

 長い年月を経ても変わらないものと変わるもの。小気味よいステップワークから放たれるアルペジオやタッピング、感情的な叫び。それらはあの頃のままで本作でも重要な位置を占めています。”私たち自身の人生への情熱と、人生を激しく生きたいという願いを表現した“とIDIOTEQ記事にコメントした#2「Caveat」はSportが帰ってきたことを強く実感する曲。

 #4「Pacific Pearl」や#6「Are You There?」にしても涼感をもたらすクリーンなギターサウンド、シンガロンガできるパートを盛り込み、聴き手と距離感を上手く詰めてきます。年を重ねても味わえるエモ一番搾り。Sportに求められる音をビンビンに放っている。

 その一方で解散前の『Slow』と比べてさらに滋味深い感傷が表現されています。表題曲#5「In Waves」は彼ら定番のスタイルで突き進むと思いきや、2分過ぎからは静謐を基調とした展開とノスタルジックな音色が響く。その上で”愛と時間は、ただ波のようにやってくる この日々は僕にとって、とても正しいものだった 年を取ることは前向きにとらえるのがちょうどいい”と歌います。

 #1「Life」や#8「Old Town」、そしてラスト曲#11「Sometimes」もエモの焦熱の裏でエイジングについて音と言葉をしたためている(あくまで歌詞からの推測ですが)。年を重ねることは決してネガティヴなことではなく、今まで見えてなかったものが見えたり、気づかなったことに気づけるようになったり、過ぎ去った日々を愛おしく思えたり。私自身も年齢を重ねてきたからこそ、本作を聴いて改めて思い直させるところがあります。2025年7月に開催された来日公演へ行きましたが、あのライヴには体も心も汗だくになりますよね。

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Sundrowned『Higanbana』

 ノルウェー西部を拠点に活動している4人組による2ndアルバム。タイトルは”彼岸花”に由来していますが、ジャケットに描かれているのは彼岸花ではないという謎(参照:ヒガンバナ-wikipedia)。それはさておき、アルバムでは”生命の循環そのものに焦点を当て、死が大地に養分を与え、それが新たな生命を生み出す過程を描いている“とのことです(参照:Doomed Nation記事)。

 Sundrownedはポストメタルとポストブラックが8:2ぐらいの割合で配合されたサウンドを基本線に置いています。イメージとしては、RosettaとCult of LunaとMouth of the Architectのトライアングル・オフェンスといったところ。鼓膜へ負担をかける重低音が主要素を担っていて、ヴォーカルも前述した3バンド寄りの咆哮をあげ続ける(クリーンは一切用いていない)。

 しかしながら、空間系エフェクターを使ったまろやかで拡がりのある音色がふんだんに盛り込まれており、ヘヴィなサウンドを和らげます。水晶のような煌めきや心地よい時間の流れを感じさせる場面が多く、先に挙げたバンドで最も近いのはRosettaでしょう。#2「The Seed」や#6「Higanbana」における美旋律と轟音を束ねた空間の塗分けには、彼らの影響を感じさせると同時に惹かれるものがあります。

 その上でブラックゲイズの要素を効果的に持ち寄っており、#3「Primrose」や#4「Ilex」辺りもブラストビートが出てくるとはいえ、その影響はDeafheavenを煌びやかに歓迎する#5「Wisteria」に特に表れている。そして、プリムラ、モチノキ(Ilex)、ウィステリア、ヒガンバナと本作は花の名をタイトルに多く冠しているのも特徴。

 ”アルバム全体に暗いテーマやサウンドが流れているにもかかわらず、『彼岸花』は根底において人生を祝福する作品です”と本人たちはコメント。空間を浮遊する美を重みと共にデザインする。それでも圧迫感より、身も心も不思議と包まれる感覚を持つ作品となっています。

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Maruja『Pain to Power』

 ”ポストパンク meets フリージャズ”とも形容されているUKの4人組による1stアルバム。主要メンバーが高校生だった2014年に結成。数枚のEPを既にリリースしており、本作は待望のフルアルバムです。また2025年5月には来日していたりします(このアルバムが出てから知りましたけど)。

 初っ端の#1「Bloodsport」から緊迫と熱狂のフルコース。サックスとラップ調のヴォーカルが火をつけ、即効性と精微さを兼ね備えたリズムが土台を支えます。そして現在の世界情勢に対しての明確なメッセージを主張する(参照:Flood Magazineのインタビュー)。その様にRage Against the Machine、Death Grips、Black Midi辺りが引き合いに出されていたり。

 #2「Look Down On Us」では落ち着いたパートが増えてくるとはいえ、約10分に及ぶ長距離走の中でやかましいアプローチと上品な振る舞いが交互に訪れる。前述した曲も含め、アルバムは3~5分ほどの楽曲の合間に10分前後の長編3曲が挟まれる全8曲約50分という構成ですが、野性味あふれるパワーとシリアスな情緒を綯交ぜにしながら進んでいく。

 #3「Saoirse」はアイルランド語で自由を意味し、バンドは”これは平和への歌であり、溢れ出る悲しみであり、私たちが目の当たりにしている現実に目を背けることを拒否する歌です“と説明する(参照:NME記事)。同曲では”違いこそが、私たちを美しくする“という詞を連呼し、現代を生きる人間へ突き付けます。痛みを力に変える。と同時に優しさも愛も付帯した本作は、確かな衝撃を放つ作品。

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Pothamus『Abur』

 ベルギーの古都メッヘレンを拠点に2013年から活動する3人組。音楽と形而上学を融合したスラッジ/ポストメタルを体現し、反復を基調とした儀式的なサウンドで非日常をつくりだしています。本作は2ndアルバムでPelagic Recordsと契約してのリリース。Chiaran Verheyden(Psychonaut、Hippotraktor)がミックスやマスタリングを担当。

 コンセプトでいえば『Abur』はすべての生命の深い相互関係を象徴していて、存在とは織り成されたものであり、個々の糸が全体に寄与しているという古代の考えに基づいていると説明(参照:Faebookページ10月22日の投稿)。トライバルなリズムの上に様々なレイヤーを重ね、長尺で表現するスタイルは前作からそのままです。推進力のあるドラムとうねるベースが牽引し、デスボイスとクリーンなコーラスがスピリチュアルな体験へと誘う#1「Zhikarta」からしてPothamusらしい。

 ここに主な追加要素としては、メイン・コンポーザーであるドラムのMattiasが新たにヴォーカル参加したこと。さらにインドの民族楽器であるシュルティボックスを#3「De-varium」と#5「Ykavus」にて使用して東洋的な響きのドローンを加えたことが挙げられます。それらはある種の奇妙さとハーモニーの充実へと繋がっている。

 しかしながらコンセプチュアルでありながら音楽をアカデミー化するわけでもなく、非日常体験を促す音楽であることは貫いています。表題曲は長ければ長いほど良いという縛りでもあるのか#6「Abur」は、ミニマリズムとダイナミクスの妙で構築された15分。時間という概念すら忘れさせる没入感がある。

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Deafheaven『Lonely People with Power』

 ブラックゲイズの旗手による6thアルバム。クリーン主体だった前作から、本作で再び激しい音楽へ回帰した理由についてKerrang!のインタビューにてジョージ・クラークはこう語る。”『Infinite Granite』は必要不可欠なアルバムだったが、あの曲をツアーで演奏する過程で、ヘヴィ・ミュージックへの愛が再び燃え上がった。特にケリー・マッコイがあのスピード感と重厚さを取り戻すという明確なビジョンがありました“。

 その通りに鋭い攻撃性を#2「Doberman」を始めとした序盤の楽曲から披露。スクリームは再び生命線となり、トレモロやブラストビートが激しく体を打ちつける。#3「Magnolia」や#8「Revelator」は興奮促進剤のごとく強烈です。その上で#5「Heathen」や#6「Amethyst」といった曲にて、川のせせらぎを思わせるギター・フレーズ、柔らかい歌声が沁みてきます。決して攻撃特化のワンサイドゲームにならず、作品全体を俯瞰した上で化粧水を補給するように潤いや保湿を適所で補給している。

 なお、FLOOD MAGAZINEのインタビュー記事にてジョージ・クラークが全曲を解説しています。自己の再考、他者との関係性、禁酒、鬱といったテーマを取り上げており、大部分は回復のアルバムだと述べている(ちなみに彼とマッコイは7年半ほど禁酒しているとのこと)。ジョージ自身が己の中に降り立ち、忠実に言葉にしたためる。それをDeafheavenらしさを最も全開に表現した音に乗せる。だからこそ本作は強い。

 #11「Winoa」~#12「The Marvelous Orange Tree」の流れは彼らの15年における歴史が見事に集結したかのような感動があります。前作『Infinite Granite』にしても代表作である『Sunbather』にしても全ては過程であり、これまでの5作品を踏まえた完璧な統合。”今の我々は最も強い状態にある(参照:UNDERTONEインタビュー)”と自信を持って発言するのもうなずける力作です。

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くゆる『Lovescape』

 2022年に結成された5人組ロック・バンド。東京を拠点に活動しており、本作が1stアルバム。トリプルギターと強靭なリズム隊によるヘヴィ・シューゲイズを主体としたサウンドが特徴で、くゆるはシューゲイザーを甘やかさない。それは冒頭を飾る約8分に及ぶ#1「mope」から明らかです。ヘヴィという枕詞をつけたくなる轟音が飛来。その上で肉体的な重みづけをはっきりしています。

 シューゲイズというよりは、This Will Destroy YouやCaspian辺りにハードコア的な衝動をドッキングさせた感じといいますか。それにポストメタルや突っ走らないブラックゲイズ的な質感がある。このどっしりとした基盤はリズム隊に端を発するもので、特にドラムが肉弾戦をけしかける強度を寄与。

 またトリプル・ギター編成による分厚いサウンドも全てを飲み込もうとする。再録された#2「蒼い空」の終盤、リミッターを解除したノイズに視聴覚が霞んでしまう。くゆるの轟音は浄化という面もありますが、破壊することで新たな目覚めへ繋げている感覚が強くでています。

 しかしながら、嵐の前には静けさがある。嵐の後にも静けさがある。圧と強度の高い音が頻繁に主張しているとはいえ、その裏でふさぎ込む暗さや居場所のない孤独感は作品に横たわる。そして泡沫のヴォーカルとアルペジオがなんとも哀しげに響いてきます。MVが公開されている先行曲#7「momo」はより幻想的な長編を奏でますが、弱い自分を寛容しようとする詞が痛切さを付帯する。

 ラストを飾る約13分の#8「BESIDE」は収縮と破裂のコントラストがより際立つ。繊細なギターとたゆたう歌声に導かれる前半。そこから”誰かはひとりで生きている 耐えて、耐えて“と自分に言い聞かせ、大音量の混沌へ結んでいく。美的な洗練よりも本能の赴くままに爆発する音。この轟きを信じたいと思わせてくれるデビュー作。

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Greet Death『Die In Love』

 アメリカ・ミシガン州フリント出身のインディーロック/オルタナティヴ・バンド。小学校からの友人であるLogan Gaval(Vo&Gt)とHarpar Boyhtari(Vo&Gt)の2人のソングライターを中心に2011年に結成。シューゲイザー、スラッジメタル、スロウコア辺りが混成した音楽性が特徴です。

 6年ぶりとなる3rdアルバムは引き続きDeathwishからリリース。5人体制となって初の作品です。 NEW NOISEのインタビューにて”『Die In Love』は自分たちの外に目を向けた最初のアルバムだと思う。特に、自分たちの周りの人たち、愛する人たち、パートナーとの愛と死がテーマになっている私たちはそれぞれ家族の死や友人の死を経験しているので、このアルバムでは悲しみや嘆きに対する内面的な考察とは対照的に、人々に対する共感がより強くなっている” とBoyhtariは説明しています。

 音楽的には『New Hell』と『New Low』の折衷といったイメージ。ギター3人体制にはなりましたが、それが騒々しさにつながっているわけではなく、アプローチはより繊細です。作品全体は風通しが良く、『New Low』に続いてアコースティックが目立っている。以前よりもスラッジめいた重みは遠ざけてはいるものの、爆発する部分は残しています。それこそMy Bloody Valentine寄りのサウンドに行き過ぎないよう、内省的な歌ものが牽制する#1「Die in Love」がオープナーにして一番ヘヴィかもしれません。

 Boyhtariがメインで歌う#3「Country Girl」と#5「Emptiness is Everywhere」は、シューゲイズが強調される場面があれど、涼やかなギターや柔らかな残響によって差し込む明るさがある。#5については先述のNEW NOISEにて”家族や友人、そして人を失うことの避けられない現実について歌っている“そうですが、”空虚はどこにでもある、だから抱き締め合うんだ”という歌詞からも前向きな姿勢が見られたりもします。希死念慮のカーテンをいつもより開ける回数が多くなっているというか。

 しかしながら、曲名のわりに穏やかなサウンドが先行する#8「Motherfucker」はGavalが”鬱のアンセム”と表現する通り、”何をするにも微妙な闇を感じる 生きているのが死ぬほどつらい”と吐露する場面はやっぱり出てきます。Greet Deathは鬱と死からは逃れられませんが、その中に煌めきを見出せるようにバンドは進化を模索している。 重心は悲観から楽観へ。”私たちの音楽が人々の光となり、気分を良くしてくれることを望んでいる“とSTEREOGUMのインタビューでGavalは語りますが、彼・彼女らの自己を通した切実な物語はあなたに親密に響く。愛ゆえに。

メインアーティスト:Greet Death
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Pale『Our Hearts In Your Heaven』

 2016年から東京を拠点に活動するポストブラックメタル・バンド。唯一のオリジナルメンバーであるHirofusa Watanabe氏をコンポーザーに、”ブラックゲイズ・メランコリア”を標榜した音楽を目指している。本作は1stアルバム。

 7年前にリリースされたミニアルバム『EP』を併せて聴きましたが、AlcestではなくDeafheaven寄りのブラックゲイズを汲む作風であり、攻撃性と切迫感がオーバーヒートする強烈さがありました。『EP』収録の8分強「Hortus Sanitatis」における長尺表現が本作での主流となり、作品全体を通した緩急の妙が効いています。

 暴と美の陣地取りを繰り広げるトレモロ、猛烈なブラストビート、”揺らぎと解放”を促すスクリーム。そういった軸となる武器の上に、光速明滅を繰り返すビームを思わせるノイズが入ってくる。これらが自然なタッチで馴染んでいる不思議さがあり、リード曲となる#1「Euphoria」から本作におけるバンドの特徴が示されています。

 直線と曲線の織り成す暴美の極致は8分に及ぶ#2「Coral」にてより鮮明になり、泣きと言われる類のギターソロまでが飛び出してくる。またnhomme + 冬蟲夏草 + 明日の叙景との4way-Splitからの再録となる#5「Dakhme(ダフメ:沈黙の塔を意味)」はノイズを加えた現編成でアップデート。イタリア語で哀歌を意味する#6「Lamento」もゲイズに媚びない粗悪なブラックメタルとして苛烈に駆け上がります。

 そうした中で最も惹かれるのは本作最長となる約12分の#4「Almost Transparent Blue」。訳すと”限りなく透明に近いブルー(私も読んだ村上龍氏の同名デビュー小説の英訳タイトルがまさにこれ)”。クリーン・ヴォーカルやLUNA SEA的な美観のあるうるおいケアを施しながらも激しさも欠かさない。”ブラックゲイズ・メランコリア”を掲げる上での倣いと抗いが本作に表れており、新たな風を吹かせるだろう作品です。

メインアーティスト:Pale
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BRUIT ≤ 『The Age Of Ephemerality』

 フランス・トゥールーズを拠点に活動するインストゥルメンタル4人組。2016年から始動。BRUITはフランス語で”ノイズ”を意味します。ポストロック、アンビエント、エレクトロニカ、現代クラシックが交差する音楽スタイルが特徴。本作はPelagic Recordsから引き続きリリースとなる2ndアルバム。バンドの意向により、ほぼ全ての作品が音楽サブスクで配信されてない。

 タイトルは”儚さの時代”といった意。リリースインフォを参照すると、巨大テック企業への反発、個人の意思選択を歪めるアルゴリズムへの警鐘、サブスク台頭による芸術家への搾取に本作は焦点があたっている。行き過ぎたデジタル社会への批判的な視点から作品は書かれている。

 本作はピレネー山脈の奥深くで作曲され、トゥールーズの築160年にも及ぶ教会でレコーディング。コアメンバー4人+弦楽隊4人の計8名によるノイズとポストクラシカルを結晶化した重奏は、壮麗さも獰猛さも有しています。なかには1864年製の教会オルガンを使用しており、古き良きを活かす。一方で前EPから続くプログラミングやテープコラージョの手法も取り入れています。

 厳かに美を抱えるストリングスのモチーフと暴徒化するノイズを組み合わせた#1「Ephemeral」や#3「Progress/Regress」といった楽曲ではこれまでのスタイルを堅持。その上で本作の象徴となる楽曲は先行シングルとなった#2「DATA」です。まるでGY!BEとAphex TwinとThe Angelic Processがスクラムを組んだ衝撃があります。同時に本作のテーマを端的に要約。この曲はあらゆるもののデジタル化を通して、大量監視とグローバルな情報操作の問題を探求しているとのこと。

 こうしたエレクトロニックな意匠を施すも、BRUIT のクラシカルな優美さとハードコア寄りのフィジカルな性質、非現実なノイズの轟きは変わらずに人を惹きつける力がある。音楽と芸術だからこそ持てる価値の証明。流転する静と動の中に痛烈なメッセージを込めています。

PELAGIC RECORDS
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Sleep Token『Even in Arcadia』

 2016年から活動を開始したUKのオルタナティヴ・メタル集団の4thアルバム。前作『Take Me Back to Eden』でもすでに音楽フェスのヘッドライナー・クラスでしたが、より巨大な存在になるとは。

 主にはメタル出自とはいえ、包括的な音作りによって”歌”という果実を最大限に実らせるスタイルは、本作でさらに上品になっています。エクストリーム・メタルの暴虐性は以前よりも局所的で、ギターリフもスパイスとして活用する感じでしょうか。R&Bテイストがどっしりと座る中にピアノや管弦楽器、電子音が楽曲の心酔度を高める増幅装置のように働いています。

 オープナーに8分近い#1「Look To Windward」を置くことは、短い曲が多くなっている現代からすると外れ値。ですが、同曲はバンドの様々なジャンルを横断/結びつける複合的な音楽性を過不足なく示しています。そして先行シングル曲#2「Emergence」が持つ豊かさと広がりの妙。

 #6「Even In Arcadia」や#8「Damocles」にしても上品で求心力のある歌ものに昇華されていく様に、強く惹きつけられます。ヘヴィなパートを所どころで持ち寄ろうとしても不快ではなく、違和としてのバランスに留めようとする巧さもまた魅力に感じます。Sleep Tokenを聴いていると、無理くりジャンルにあてはめていくことが野暮だと思わされます。異端であるのと同時にメインストリームでもある。その対極を成立させているのがやっぱり凄い。

メインアーティスト:Sleep Token
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We Lost The Sea『A Single Flower』

 オーストラリア・シドニー出身のインストゥルメンタル6人組。2007年から活動しており、本作が5thアルバム。Guitar WorldのインタビューにおいてMatt Harveyはタイトルについてこう語っている。”A Single Flowerは、コーマック・マッカーシーの小説の一節を引用したものです(補足:『すべての美しい馬』からの引用)。主人公は、人生を肯定するような瞬間に、こう問いかけます。『一輪の花を見るために、一体何が犠牲になるのか?』 私たち人類は、地球の美しさを目の当たりにするために、何を支払わなければならないのか? それはとても大きく、とても深い“。

 ゆっくりとしたビルドアップ。ピアノやストリングスの助力。静と動のクレッシェンド構造。いわゆる轟音系ピストロックを主軸にしたスタイルは変わりません。しかしながら、前半3曲はこれまで以上に生々しさ、緊迫感を伴います。直訳すると”もし彼らが人の心を持っていたなら”という意の#1「If They Had Hearts」は5分をかけてピークへと向かい、絶望感に満ちた音の膨圧を経て、終盤にはメランコリックなセクションへと移行。最後に取り残されたピアノも慰めにはならず、切なさと暗い影を落としています。

 ドラマー交代の影響か7分以降にバンド史上最もパワフルで険しい瞬間を創出する#2「A Dance with Death」が続く。悪に対する戦いの叫びと自身で謳う#3「Everything Here Is Black and Blinding」は、インダストリアルの領域に少し踏み込みながら、徐々に激しさを増していく演奏によって暗闇と緊張の糸を結びつけます。こうした前半3曲を潜り抜けた先にある#4「Bloom (Murmurations at First Light)」は、希望へと転化させる一手として機能。#5「The Gloaming」ではGY!BEのSophie Trudeauがストリングス・アレンジを手掛けている。

 締めくくりに置かれた#6「Blood Will Have Blood」はバンド史上最長の27分にも及ぶ。2部構成と思われる趣で壮大と表現するにふさわしい。1度目のピークへと向かう最初の11分間は、それこそWLTSらしい歓喜や情熱を帯びた轟音に発展。しかしながら、2度目のピークは人間の愚かさや暴走に対する警告なのか。現実の苦難と無情な時代、それに対する抗いが表現されているように感じます。

 前作から引き続き、世界の切実さを見つめる点は共通している。諍いも暴力も暗闇も音楽で押し返せるものではないのが現実。ですが、70分の物語を通して気づきや意志を持つことはできる。海を失くしても心を失くすな。『A Single Flower』からはそんな叫びが聞こえてくる。

この作品は、希望が後回しにされた時代に書かれたものです。暗い場所での連帯感。廃墟の中で愛を見つけることに敬意を表している。それは抵抗としての美と芸術の賛美である。どこにいても、あなただけの一輪の花が見つかりますように。

We Lost The Seaオフィシャルサイト、リリース当日コメントより
メインアーティスト:We Lost The Sea
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LVMEN『AMEN』

 1995年に結成されたチェコのポストハードコア/ポストメタル・バンド。Neurosisの影響下にある重厚で壮大な作風、1967年のチェコ大作映画『マルケータ・ラザロヴァー(Marketa Lazarová)』の引用を中心とした映画からのサンプリングを組みわせた独自のスタイルで、カルト的な人気を集めている。

 長き眠りについていた怪物が結成30年目となる年に放つ5thフルアルバム。#1「26」において散りばめられる効果音と映画を中心としたサンプリング、屈強なリズムワーク、苦悶の叫び。『マルケータ・ラザロヴァー』との時空を超えたつながりも#2「27」で継続(“剣を持つ敵に襲われたら 当然 剣で応える“という1時間49分辺りのシーンを引用)。自身の核となる表現を盛り込みながら、楽曲によってはAmenraのような儀式的要素が本作では増しています。

 特にその影響が出ている#3「28」ではタイトルにある”アーメン”を含む聖歌隊を冒頭でサンプリング。そのままタメの効いたのっぺりとしたムードが続きますが、中盤5分辺りからの女性によるセリフを挟み、混沌とした激しさを一気に増してクライマックスまで暴れまわる。終盤の警告を訴えるギターソロや一瞬だけ人間を辞めてしまったかのような雄叫びには感情がピークに達すること必至。

 これまで以上にスラッジメタルの重量感があるのも特徴で、リズムも過去作と比べて最も強靭。その上でLVMENはハードコアの熱や動性を手放さず、良い塩梅で組み合わせる。10分を超える#4「29」ではLVMENのダイナミックな揺れ動きが余すところなく表現した上で、祈りと解放のクライマックスへ。

 厳粛でいて力強い。30年を迎えてもなお、LVMENが重厚さと威厳を保ち続けていることを本作で証明しています。

メインアーティスト:Lvmen
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2025年参加ライブ一覧

  • 01/31 Frail Body @ 今池HUCK FINN
  • 02/08 ROTH BART BARON @ 名古屋ボトムライン
  • 02/10 Ryoji Ikeda / 長谷川白紙 @ ZEPP NAGOYA
  • 02/11 黒夢 @ ぴあアリーナMM
  • 02/23 SUMAC / ENDON @池下CLUB UPSET
  • 03/11 MOGWAI @ GORILLA HALL OSAKA
  • 03/19 Karate @ 今池HUCK FINN
  • 03/20 Foxing @ 栄Party’z
  • 03/27 American Football @ 名古屋クラブクアトロ
  • 03/27 Leaving Time @ 鶴舞DAYTRIP
  • 03/28 envy @ NAGOYA JAMMIN’
  • 04/24 Origami Angel @ 名古屋RAD HALL
  • 05/08 toe @ 名古屋ボトムライン
  • 05/10 Unwound @ 今池TOKUZO
  • 06/14 Ostraca @ Studio246 NAGOYA
  • 06/21 Boris / VMO @ 池下CLUB UPSET
  • 07/05 envy / MONO @ Spotify O-west
  • 07/11 Sport @ stiff slack Live Venue
  • 07/12 Gil Cerrone / Keratin @ Studio246 NAGOYA
  • 07/17 Alcest / 明日の叙景 @ 名古屋RAD HALL
  • 07/31 Touché Amoré @ 今池HUCK FINN
  • 08/05 Deafheaven @ 梅田クラブクアトロ
  • 08/24 DIR EN GREY @ COMTEC PORTBASE
  • 09/14 faraquet @ stiff slack Live Venue
  • 09/20 envy / OLEDICKFOGGY @ 池下CLUB UPSET
  • 10/19 明日の叙景 @ 鶴舞DAYTRIP
  • 10/20 EZEL @ 名古屋東別院DUCT/Spazio Rita
  • 10/25 toe @ 両国国技館
  • 11/01 kokeshi @ HOLIDAY NEXT NAGOYA
  • 11/02 Cross My Heart @ 名古屋 LIVE&LOUNGE VIO
  • 11/08 LUNATIC FEST 2025 DAY1 @ 幕張メッセ
  • 11/15 DIR EN GREY @ ZEPP NAGOYA
  • 11/21 nuvolascura @ Studio246 NAGOYA
  • 12/01 JAWBREAKER @ 名古屋クラブクアトロ
  • 12/07 Juneau / weepray / kokeshi @ 下北沢ERA
  • 12/13 TOOL @ GLION ARENA KOBE
  • 12/15 Godspeed You! Black Emperor @ Yogibo HOLY MOUNTAIN

 2025年は計37本の公演に参加できました。昨年よりも関東方面へ足を運んだ回数が増えた。また変わらず関西へも幾度か移動。名古屋からだと関西の方が安くて近いのでね。そして、久しぶりに音楽フェスへ行きました(2015、2018年も参加しているLUNATIC FEST)。

 今年は90年~00年代初頭に活躍した再結成組を多くみれた気がします。KarateとかUnwoundとかfaraquetとかCross My Heart辺り。それに加えてレジェンド枠的なTOOLやGY!BEといったバンドを13~14年ぶりに体感しました。AlcestやTouché Amoré、Deafheavenも結構久しぶり。envyを年に3回みるのも久々だし、toeのワンマン国技館もとても良かったです。来日ラッシュと言われながらもポストメタル勢は全く来日しない中(というかできない)、ベルギーからJuneauがやってきてくれたことに感謝。

 そして、このご時世でも名古屋公演を組んでくれるプロモーターには頭が下がります。私自身も年齢を重ねてきているのでライヴへ行けなくなる日がくる。それは10年後かもしれないし、来年かもしれない。なので可能な限りは、足を運びたいものです。

課外活動

 タイトルが課外活動で良いのか?という気はしますが、今年はそういったお話を久しぶりにいただき、上記2件を担当しました。ライナーは3年ぶり3回目。そして書籍に自分の文章が載るのは初です。どちらも重圧に襲われながらも何とか書きました。やはり答えのないものを書くことは本当に難しいし、今でもこの内容で大丈夫だったのか?は拭えません。それはこのサイトでも同様ではあるのですが、オフィシャルなものに載るのはプレッシャーが桁違いというのを毎回、実感しています。

あとがき

 今年で当サイトを開設して21年目(4年間、何もしていない時期がありますが)。高3の終わりに始めたことを40歳にもなっても続けている。2025年になって個人サイト/ブログを続けてる意味は?と問われるのならば、「自分のためにやっている」の一言で突っぱねます。生活の中にこのサイトは間違いなくある。

 音楽紹介サイトという体裁ではありますが、作品のセレクトにしろ文章にしろ個人サイトとしての特色を失ってはいけない、という当たり前のことを最近は感じています。そもそも自分が主に書いているポストメタルとか轟音系ポストロック(フェスでいうとArcTanGent、Dunk!Festival、Post.Festival辺りかな)は書いている人が今は全然いないから、必然的に異質な存在になるのかも。昔は結構いたんですが、これも時代の流れ。まあPV数が示すように読まれないですからね・・・。

 また生成AIを使うのは、海外サイトの翻訳で使ってはいてもそれ以外では一切使っていない。自分の経験や感情やクセが文章に紛れ込む。それで良いと思う。作品紹介に重きを置いた中で私個人の文章芸に昇華するのが当サイトの特性。去年も書きましたが、私は頭が悪いのでシーンがどうとか書けないし、爆発的なPV数が見込める記事も批評・考察的な記事も書けない(その要素を少しは帯びるとしても)。そういうのは有識者にお任せして、作品について書くというシンプルなことをひっそりと発信していく。この軸は大事にしていきたい。人間、それぞれ役割があると思ってますんで。

 いつまでもあると思うな、親と個人サイト。というのは本当で私もいつかはいなくなる。サーバー代が尽きれば当サイトも消滅する。最近だと自分以外の要因でサイトが止まることを実感。それでも2026年はまだ終わらせられないので続きます。未だに存在しているし、なぜか続いてんなこのサイト。そんな温度感を目指して。

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