プレ・ポストメタル作品
改訂版としてポストメタル前夜~基礎部分を構築したであろうプレ期の作品を新設。構成と選盤にあたっては以下を参照しております。
- ポスト・メタル・レコードTOP40 (amass、翻訳元:Fact Magazine)
- Bandcamp Daily – A Brief History of Post-Metal(著: Jon Wiederhorn)
- Post-metal – Wikipedia
Earth / Extra-Capsular Extraction(1991)
鬼才ディラン・カールソン率いるドローン・メタルの始祖であるEarth。エポックメイキングな作品として語り継がれているのは『Earth 2』ですが、本作はSUB POPから91年にリリースされた1st EP(全3曲30分強)に同時期レコーディングされていた4曲が追加収録された2010年の再発盤。ドローンメタルの源流はここにあり。陰鬱なリフが執拗に繰り返されて徐々に変相し、冷たく重い感触で機械的に叩くドラムが淡々と進行役を担う。必要最小限のアプローチで人間の精神をズタズタにしていく次作の表現の基は、18分のドローン曲#3「Ouroboros Is Broken」で味わえる。また#4「Geometry of Murder」はPelicanが09年リリースのEPでカバーしております(09年の来日公演でも披露されました)。
Melvins / Bullhead(1991)
ヘヴィロック/オルタナのゴッドファーザーといえるバンドの3rdアルバム。彼等の伝統的要素である”スロウとヘヴィ”に磨きをかけるのと同時に悪戯心が増し、楽曲の尺も長くなりました。ゆっくりと動く岩石のごときリフが繰り返される8分半#1「Boris」から極楽と地獄の逢瀬。日本の3人組バンド・Borisの命名元となったことでも知られます。結成から40年を越えたメルヴィンズは2009年のフジロックを始め、来日公演を幾度か行っており、直近では2024年3月に5年ぶりに日本公演を行っています。
Swans / Children of God(1987)
マイケル・ジラを中心に結成されたニューヨークのバンド。1982年-1997年まで活動して解散。2010年に再結成。ノーウェイヴといわれたシーンの中心核として活動し、アンダーグラウンドの帝王/重鎮とも呼ばれている。スラッジメタル的な荒々しいリフ、機械的なビートを下地にピアノやアコースティックギター等を使用し、光にも闇にも魂を捧げるような呪いの祭典が繰り広げられる。憎悪を吐き出すような声とイケオジ的な激渋ボイスを繰り出しながら聴き手を撃墜するマイケル・ジラの存在感がスゴイ。ISIS the Bandのアーロン・ターナーはSwansを主な影響のひとつにあげています。
Neurosis / Souls at Zero(1993)
1985年結成。ハードコアから進化を遂げていった5人組の転換点となった3rdアルバム。本作でドゥーム/スラッジ・メタルに寄った遅い・重い・暗いの三連結スタイルを確立。そして本格的に導入されたサンプリングや聖歌、ストリングスや管楽器が奇妙に絡み合うことで、スピリチュアルなヘヴィロックとして進化を遂げました。黒き濁流の如きヘヴィネス、神経が摩耗する不協和音、不気味なまでの美旋律。それらは相互に作用しながら精神に効いてくる。後続にも多大な影響を与えた芸術的な暗黒は、30年以上経った今も崇拝者を増やし続けています。“Souls At Zeroの重要性は当時バンドが知り得なかったほど大きなものとなっている。このアルバムはどんなに逃れようとしても、あなたの聴覚の視界から決して離れない輝きだ。消えないことを願う破滅的な耳鳴り(Bandcampより)”
Godflesh / Pure(1992)
インダストリアル・メタルの始祖にあげられるUKのバンド。中心人物のジャスティン・K・ブロードリックは後述するjesuの首謀者でもあります。1stアルバム『Streetcleaner』はインダストリアル・メタルの礎を築いたとし、Rolling Stone誌の”歴代最高のメタルアルバム100選”の第64位に選ばれています。2ndアルバムとなる本作は前作ほど怒りは抑えめに感じますが、規則正しくも冷徹なマシーンビートと荒々しいリフが繰り返される。”広がりのある構成とうねるノイズがインスピレーションを与えた“とBandcamp Daliyの特集記事『A Brief History of Post-Metal』で評され、プレ・ポストメタル期の重要作に挙げられています。2002年に解散していましたが、2010年に復活。現在はGodleshも他プロジェクトと並行して活動。2023年には6年ぶりのフルアルバム『Purge』を発表しています。2012年、2015年に来日公演実施(わたしは両方に参加してます)
TOOL / Ænima(1996)
アメリカ・ロサンゼルス出身の4人組。1990年の結成後、グラミー賞受賞4回、各国でチャート1位を始めメガセールスを記録。彼等を知らない人が試しにサブスクの再生回数を眺めてみても、桁違いの数に驚くことでしょう。ここに彼等を挙げると怒られそうですが、TOOLはTOOL系だということは承知しています。精神にまとわりつく暗鬱さと重量感、複雑な楽曲構成、謎めいたアート感覚。#1「Stinkfist」の中毒性は半端ではないし、表題曲#11「Aenima」の脳内侵食度合いに加え、#13「Third Eye」の壮大さには鳥肌が。ISIS(the Band)の作品にメンバーがゲスト参加したり、ポストメタル系バンドをオープニング・アクトとして起用したり、関連性は高い。
Slint / Spiderland(1991)
アメリカ・ルイヴィル出身の4人組ロックバンド。Pitchforkが選出した【1990年代のベストアルバム TOP100】の第12位にランクインしており、”ポストロックの源流”とされる傑作。かといって売れるムーブは引き続きほぼ皆無で、暗い海面を漂い続ける。前作と比べると曲は長尺化して全曲が5分以上となり、最長曲は9分に迫ります。そしてモグワイやGY!BEなど多くのバンドにインストールされていく”静と動”の構成が、ゆったりとしたペースで組みあがる。ただ、その静と動はカタルシスや歓喜へのお導きではなく、張り詰める緊張感を増幅させているのがSlintの特色。
Codeine / Frigid Stars LP(1992)
アメリカ・ニューヨーク州の3人組。1989年–1994年まで活動し、スロウコア/サッドコアの開祖とされる存在。ポストロックに影響を与えており、ポストメタルも当然ながら関係しているはず(jesuは影響受けていると思われる)。当時のオルタナ・ムーブメントから反れていき、寂寥感を漂わせるサウンドが聴き手を魅了。疾走という言葉をはるか彼方に捨て、ひたすらゆっくりとアンサンブルを重ねていきますが、これが静かに薬のように効いてくる。それでいて慎重なアプローチからやたらと重厚なサウンドが飛び込んでくることもあり。聴きこむほどに酔いしれる。たまに復活していて、2024年4月には初の来日ツアーを行っています(わたしも参加してきました)。
Mogwai / Come on Die Young(1999)
轟音系ポストロックの代表格であるグラスゴーの4人組(当時5人組)の2ndアルバム。Mogwaiの影響はポストメタルに強く作用しています。地続きであり、延長にあるのは間違いない。本作は1stアルバム『Young Team』のように大音量による瞬間/持続の心地よさもありますが、物悲しく枯れた雰囲気と叙情的なトーンが強め。歌入り曲が多めに入っているからか、むしろSlintやCodeineの流れを感じさせる仕上がりです。ちなみに#1「Punk Rock」~#2「Cody」はブラックゲイズの代表格、Deafheavenがカバーしている。
Godspeed You! Black Emperor / F#A#∞ (1997)
1994年に結成されたカナダ・モントリオールの音楽集団の1stフルアルバム。NME誌においては”今世紀最後のグレイト・バンド“と評された存在です。Mogwaiと並ぶ轟音系ポストロックの巨頭ですが、とても暗く壮大なサウンドを奏でます。ギター3人、ベース2人、ドラム、パーカッション、バイオリン、チェロ、ホルンという大所帯の編成が生み出す全3曲約63分の世界。そこでは最短で16分27秒、最長で29分という曲尺で”聴く”と”観る”を同時に味わうことになります。