【2024年再構築Ver】私的ポストメタル探求

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ポストメタル重要作20選 part1

2019/10/06 The Ocean @ 下北沢ERA公演より

 本項ではポストメタル重要盤となる20作品をあげていきます。基本的に1アーティスト1作品。ですがISIS the Bandのみ2作をあげています。

 簡易紹介後にアーティストのアルバム紹介ページに飛べますので、もっと知りたいという方はチェックしてみてください。2013年時と選盤を少しばかり変更。また本項目は以下を参照しています。

選盤参考

Neurosis / Through Silver In Blood(1996)

 5thアルバム。前述のようにポストメタルの起源とされた作品であり、英国の音楽メディアFACT Magazine選出の『ポストメタル・レコードTOP40』で1位を記録した代表作です。絶望の瀬戸際で生み出されるヘヴィネスを基盤にタムを多用した呪術的なビート、ピアノやストリングス、実験的なアプローチが暗黒の震源。その様は”ハードコア、インダストリアル、スラッジメタルの概念とサンプリング音の巨人的混合“とRolling Stone誌に評されています。12分を数える暗黒祭典#1「Through Silver in Blood」やキャリア屈指の代表曲#5「Locust Star」を収録。救いはないが闇に加担する芸術がここにある。こんなにも精神的にくる音楽をやっていますが、スティーヴ・ヴォン・ティルは小学校の教師として20年以上務めている(こちら参照)

➡ Neurosisの作品紹介はこちら

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ISIS the Band / Oceanic(2002)

 ポストメタル最重要バンドの2ndアルバム。テーマとして”かけがえのない女性を探し求める男の物語”を描いている。『Through SIlver In Blood』が起源であるならば、『Oceanic』は”ポストメタルの型”を提示した作品として評価されています。スラッジメタル色が強かった1stからポストロック/アンビエント要素の大量導入による融和。威圧的で重厚なリフと咆哮、それとは裏腹にメロディはどこまでも澄んでいて楽曲を美しく引き立てます。#1「The Beginning and The End」を始め、静と動の対比/ダイナミズムを意識したスタイルが本作にて確立しました。Rolling Stone誌が2017年に発表した”史上最も偉大なメタルアルバム100選”のリストで72位にランクインし、Pitchforkでも2002年のベストアルバム31位にも選ばれている(他記事でも多数のベストに選出)。

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ISIS the Band / Panopticon(2004)

 3rdアルバム。イギリスの功利主義哲学者ジェレミー・ベンサムが18世紀に考案した監獄『パノプティコン』、それを監視社会として現代に落とし込んだフランスの哲学者ミシェル・フーコーの概念がコンセプト。『Oceanic』よりもさらに思慮的で叙事的、かつ有機的なグルーヴが特徴です。#1「So Did We」における冒頭の衝撃から、丹念なギターのループと重層化されたレイヤー。寄せては返す波のような静と動の繰り返しは、ポストメタルを言及する上での”波動”という言葉に繋がっています。中心人物のアーロン・ターナー自らが提唱した”Thinking Man’s Metal”を体現した作品であり、#3「In Fiction」は”音の粒子までもが見える”と形容されたライブを具現化したかのような代表曲。”俺にとってのヘヴィ・ミュージックは本物の感情の重みと、それに伴う音のクオリティを持ってるもののことだ“(クロスビート2004年11月号、アーロン・ターナーのインタビューより)

➡ ISIS(the Band)の作品紹介はこちら

Cult of Luna / Somewhere Along the Highway(2006)

 スウェーデンの6人組(リリース時は7人編成)の4thアルバム。CoLもポストメタルという言葉がなかった黎明期からずっと活躍し続ける北欧の重鎮であり、ISIS(the Band)と並ぶ存在です。ノーベル賞作家であるクッツェーの『マイケル・K』に触発された“男性の孤独”がテーマ。スラッジメタルとポストロック、プログレの衝突。それによる明確な産物としての巨大なサウンドとスケールが本作にはあります。付け加えるとCoLは北欧デスメタルから引き継いだメタル寄りの強度と剛腕さを持っているのもポイント(彼等は元々Earache Recordsに所属していた)。地鳴りのごときツインドラムとトリプルギターで牽引する#2「Finland」、16分近い#7「Dark City Dead Man」と代表曲を収録。ポストメタルの大海に身を投げる、そんな時に『Somewhere Along The Highway』は間違いなく最適解のひとつです。

➡ Cult of Lunaの作品紹介はこちら

Pelican / The Fire in Our Throats Will Beckon the Thaw(2005)

 シカゴのインスト4人組の2ndアルバム。Pelicanはグラインドコア・バンドであるTuskの別動隊として始まるもこっちの方が遥かに人気になったのは有名な話。アーロン・ターナー総帥のHydra Headと契約し、ポストロックとポストメタルのリンクマンとして機能する活躍をしていきます。本作は厳しくも雄大で美しい自然を音楽で表現。全7曲で描かれるのは生まれ育ったシカゴの四季であり、移り変わる四季においての広大な風景です。自然の容赦ない怒りとかけがえのない美しさ、それを轟音と叙情のダイナミックなシフトにより力強く描き出しています。なお本作はTREBLEが2024年4月に発表した『The 50 Best Post-Rock Albums』の第21位にランクインしている。わたしはこのアルバムをきっかけにインストの音楽を聴くようになったので、とても思い入れのある作品です。

➡ Pelicanの作品紹介はこちら

Russian Circles / Gnosis(2022)

 幼馴染みのマイク・サリバンとデイブ・ターンクランツに、Botch/These Arms Are Snakesで活躍したブライアン・クックが途中加入した3人組。練習場所を共有しているという同郷のPelicanと同じく、ヘヴィなインストゥルメンタルを軸に2004年から活動してこれが8thアルバム。本作を含む直近3作はカート・バルーがプロデュースを務め、質実剛健リフ主導型のインストでライブを意識したアグレッシヴな仕上がり。その中でも『Gnosis』はかつてなく冷酷かつ残忍なもの。PanteraとAt The Gatesがこのレコードを制作する上での2本の柱だというように、#2「Conduit」に#5「Betrayal」とさらにメタル的な強度は高まっています。仙人化していくマイク・サリヴァンのギターと階級を上げ続けるブライアン・クックによるベース、それを束ねるデイヴ・ターンクランツの圧巻のドラミング。鉄壁のトライアングルはラベリングを蹂躙する強固なサウンドをつくりあげています。ついでに宣伝しますと本作の国内盤ライナーノーツを私が書いています。

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jesu / Conqeror(2007)

 前述したGodfleshの首謀者であるジャスティン・K・ブロードリック。彼による現在のメイン・プロジェクトの2ndアルバム。変革の一手となったEP『Silver』と同様に、前バンドの影響が濃かった1stアルバムからシューゲイザー要素を大幅に取り入れています。遅く重くまろやかな白銀のサウンドスケープはさらにメロウな方向を開拓。轟音が圧殺の手段ではなく救済の一手として機能する。その様は自身で提唱する”世界で最もヘヴィなポップ・ミュージック”です。以降の作品では1曲50分のロングナンバーに挑戦したり、スロウコアの側面を強めたり、Sun Kill Moonとコラボしたり、新しい面を開拓し続けている。

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Red Sparowes / At the Soundless Dawn(2006)

 ISIS(the Band)のブライアント・クリフォード・メイヤーを中心とする5人組。結成当時には元Neurosisのジョシュ・グラハムが参加していました。テーマにあるのは都市の衰退や人類の滅亡。地球で4億4千万年前から5回記録されているという大量絶滅、その6番目が人間の自然破壊によって現在進行中であることを描いています。音楽的には轟音系インスト・ポストロックの系譜に位置するものといえ、本記事で登場するバンドの中では一番”まろやかさ”や”リリシズム”といった要素が強い(要するにポストロック寄り)。平均9分を超える尺の中で単純な静動のダイナミクスの解より、丹念かつ精巧に音を重ねていく。美しいクリーントーンを中心にペダル・スティールも随所に活用しながら、本作は独自の優雅さと幽玄な雰囲気が表現されています。それでも夜明けが永遠に訪れないような世界。

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Battle of Mice / A Day of Nights(2006)

 ハードコア系女性シンガーであるジュリー・クリスマス、元Neurosisで現A Storm of Lightのジョシュ・グラハムを擁した5人組の最初で最後のフルアルバム。黒い海を思わせるヘヴィなサウンドが特色のひとつで、それはスラッジメタル人脈を介した必然さからくるものですが、Red Sparowesのデリケートな叙情性も織り込まれている。その上でジュリー・クリスマスがヴォーカルを務めていることで単色に収まっていません。彼女の語り、叫び、歌。典型的なハードコアやメタル・ヴォーカルにない不穏な美しさと痛みを置いていく。ちなみに本作の核となっている物語はジュリーとジョシュの遠距離恋愛であり、”ジョシュと私の間に成長し、そして急速に衰退していく関係の中で何が起こったかを反映するタイムラインで書かれている“と述べています(レーベルインフォによる)。重い音楽ではあるが、同時に感情の音楽へと昇華しているのは彼女がいてこその成果。

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Mouth of The Architect / Quietly(2008)

 MoTAは2003年結成の5人組。死霊が蠢く集合体のようなアートワークは、フェイス・コロッチャ(アーロン・ターナーの妻)によるもの。”静かに”というタイトルのわりに、鈍重と反復による長尺耐久戦がこれまで通りの基盤。曲名は直訳すると#2「憎しみと心痛」、#5「幽霊の生成」、#8「美しい死体」といった言葉が並びますが、現代人が感じている絶望や憎しみ、喪失感が作品のベースになっています。咆哮やヘヴィさの迫力は変わりませんが、アンビエントへのアクセス向上と冷涼としたメロウな質感が増しており、Neurosisのように台詞のサンプリングを使用するように変化。#5「Generation Of Ghosts」には先述したジュリー・クリスマス(ex-Battle of Mice)がゲスト参加しており、絶望感を引き寄せるギターの音色に彼女の柔らかな声が添えられています。

➡ Mouth of The Architectの作品紹介はこちら

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