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共に時代を生き抜く唄、ROTH BART BARON

 ROTH BART BARONは三船雅也さんのソロ・プロジェクト。フォーク・ロックに軸足を置くRBBは2008年に結成。長らくはドラムの中原さんを含む2人編成でしたが、2020年からは現体制へ移行。多くのミュージシャンが参加することによる多種楽器とアイデアの交わり、人と時代を書く歌詞がROTHのサウンドの中核を成します。

 これまでに6枚の作品をリリース。4thアルバム『けものたちの名前』は、アジカンの後藤正文氏が主宰する<APPLE VINEGAR – Music Award -2020>にて”大賞”を受賞 。5thアルバム『極彩色の祝祭』収録の「 極彩 | I G L(S) 」は、蔦谷好位置さんが音楽番組・関ジャムで「2020年のベストソング第1位」に選んでいます。また2021年にはBiSHのアイナ・ジ・エンドとのユニット「A_o」での活動も話題。

 本記事は、フルアルバム6枚について書いています。ROTH BART BARONはどのアルバムからも入っていけるのでぜひ聴いてみて欲しいですね。わたしは3回ライヴを観ています。特にコロナ禍においてわたし自身が1年3カ月ぶりの有観客ライヴとなった名古屋ボトムラインでの公演は、大切にしたい思い出のひとつです。

目次

ロットバルトバロンの氷河期(2014)

 1stフルアルバム。全9曲約46分収録。再生してすぐの”目を覚ませ、顔を洗って”というフレーズからハッとする。プリミティヴなアコギの音色、三船さんの語りかけるようなファルセット。氷河期というタイトルから、冷たく凍りついた世界、ある種の絶望を誘うものかと思えばそうではありません。世界の片隅から「キミとボク」に届ける誠実な歌と音楽が鳴り響きます。

 これまでの2枚のEPからの地続きであり、インディ・フォークと呼ばれるであろう、アコースティックな音像を主軸に据えています。そこにホーンセクションやキーボードを始め多種多様な楽器の音色も加味され、華やかなハーモニーが生み出される。Fleet FoxesやBon Iverといった名前が引き合いに出されることに納得しつつも、日本語詞で書かれた物語がグッと心のうちに入り込んできます。

 作品の肝である#1「氷河期#1(The Ice Age)」~#2「氷河期#2(Monster)」~#3「氷河期#3(Twenty four eyes / alumite )」という連作がもたらすのは、根源的な歓びと感動です。雪解けを迎えた温かさが包み込む#1でまず昂ぶりを。続く#2は本作で最も好きな曲ですが、音の立体的な重なりとハーモニーに惹かれます。壮大な終盤があまりにも見事で、何度も何度も心を鼓舞する曲として、わたしにとって大切な曲となっています。

 #3で歌われる”少しだけ素直に生きるべき、救いなんていらない”という詞はその後の彼等の強いメッセージである”自分らしく生きろ”に繋がっていく。この曲では特に、管楽器が温かく寄り添うように聴き手を鼓舞してくれます。

 一端のピークを迎えた作品は、その後は繊細に爪弾かれる#4「春と灰」の優美さにうっとりとし、#9「オフィーリア」の研ぎ澄まされた静けさの中に溶け込む。なかでも#6「Buffalo(taivaan helmi)」の生命力に満ちた躍動感は、特筆すべきものがあります。

ATOM(2015)

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 約1年半ぶりとなる2ndアルバム。全10曲約45分収録。アーケイド・ファイアやオーウェン・パレット等が利用したカナダ・モントリオールにある「Hotel2Tango」で録音・ミックスされています。作品は80~90年代のSF映画がモチーフになっているそうです。

 ROTH BART BARONを初めて聴いたのが本作。その時に率直に思ったのはBon Iverっぽいなということ。アコースティック音楽を中心にホーンやストリングス、シンセサイザーなどの多彩な楽器を投下(レコーディングには、現地のミュージシャン達が助力)。フォークらしい静けさをある程度保ちつつポップス感覚に富み、軽やかなリズムが暖かく柔らかい風を運びます。

 そして、特徴のひとつであるハイトーンで揺らぎのある歌声は、サウンドになびきながら心の内側に浸透。日本語詞で綴られる歌は時に日常に寄り添い、日本人ならではの情緒や哀愁を強く感じさせます。三船さんは日本語で書くことが一番伝わりやすい、感情が乗りやすいとこだわっているそう(これは5年ほど前にDIR EN GREY薫さんのラジオでジョー横溝さんが話していた。ここ話されている海外で音楽活動をする上での日本語・英語の表現についての話は興味深いです)

 序盤を飾る#2「電気の花嫁」や#3「England」といった曲は様々な楽器がカラフルに彩り、心地よいテンポで作品に良い流れをもたらし、中盤の要として君臨する#5「ショッピングモールの怪物」ではストリングスやピアノがワルツを躍るように歌と絡み合って昂揚感を誘う。なめらかな展開を持つがゆえの聴きやすさ、童話にも似た親しみやすさがまた良く、じっくりと彼等の音楽と向き合える要因のひとつになっています。

 小さなオーケストラが華やかなハーモニーを奏でる#7「フランケンシュタイン」は天にも昇る心地で、わたくしの本作の1番のお気に入り。そして作品は彼等流のムーディーなAOR#9「X-MAS」から、#10「Atom」にて優しい陽光が差しこむような鮮やかなエンディングを迎えます。

 10年代のインディ・フォーク勢と重なる面はあるけれども、日本人ならではの感性で紡がれるROTH BART BARONの物語は、聴き手の心に静かな火を灯すもの。この誠実で奥行きの深い世界は格別です。

HEX(2018)

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 約3年半ぶりとなる3rdアルバム。全10曲約41分収録。ギタリストの岡田拓郎さん(ex-森は生きている)が本格的に参加し、”CONNECT = 繋がり”をテーマに据えた作品です。本作は国内レコーディングを敢行。

 製作期間は過去最長。120曲ほど試行錯誤した中で選ばれた10曲だそう。これまでは音のひとつひとつをこちらから迎えにいき、噛みしめる感じがありました。本作でもそういった面は持っている。とはいえ、もっと躍動感があるし、共に分かち合う・盛り上がるという感触が強い。繋がるをテーマにしているからか、”僕ら”という言葉が多用されているのも特徴と言えます。

 冒頭を飾る#1「JUMP」からこれまでと違う生命力があります。音が跳ねる、それにつられて心と身体も跳ねる。ベースソロから心地よく駆け抜けていく#2「Homecoming」では、刹那を輝かせるように多種の楽器とコーラスが折り重なります。華やかでにぎやかな始まり。#6「GREAT ESCAPE」で示す晴れやかな希望もそうですが、清々しい前進を促すようなエネルギーを感じます。

 以前を凌駕する音楽的な自由さは感じるところです。三船さんの声がデジタル処理されていたり、ノイズやエディット処理を事細かに施したり、生ドラムっぽくない曲もある。電子音の要素が押し出された#7「JM」は完全に別の色を足し、近年のブラック・ミュージックと共振する#8「SPEAK SILENCE」も多彩を後押ししています。

 生楽器と電子音の有機的な結びつきが肝ですが、着地点はフォークロック。時代の変化を音に反映しつつもナチュラルな感じで聴こえてくるのは、ROTH BART BARONらしさなのかもしれません。新機軸を盛り込む事と彼等の特徴が存分に押し出された#4「HEX」や#10「HAL」といったスロウなバラード調の歌ものが染みるのは、その証明。

 満たされたハッピーエンドは来なくたって、ROTH BART BARONの音楽が寄り添ってくれる。添い遂げてくれる。それだけで明日への力となるはずです。

けものたちの名前(2019)

 約1年ぶりとなる4thアルバム。全10曲収録約43分収録。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏が主宰する<APPLE VINEGAR – Music Award -2020>にて”大賞”を受賞した秀作。わたしがRBBの6作品の中で一番気に入ってるアルバム。そして、入門編に一番勧めたい作品です。

 フォークロックと多様性。女性ヴォーカリスト4名(優河、HANA、Ermhoi、Maika Loubté)のゲスト起用、ストリングスの明確な導入。前作『HEX』よりも原点のフォークロックに立ち返ってるとはいえ、さらに開かれた形でアウトプットされています。#2「Skiffle Song」のようなRBBクラシックな曲、祝祭と疾走を鮮やかに表現する#8「春の嵐」、静かな立ち上がりから大きな波をもたらす大所帯による大団円#11「iki」まで全10曲。

 時間をかけて紡いできた音楽を介し、考える個の存在、関わる今の社会。そして歌われる多様性と共生。前作の方が自由な挑戦と試行錯誤がありますが、その経験を踏まえた本作は回帰と拡張がいい塩梅。だからこそバラエティに富んでいるように感じます。電子音楽と交配しつつ、生楽器の響きはさらに豊かな人間味のある音へ。

 女性ゲストの多数起用はジェンダー論への共鳴でしょうか。当時・14歳だったHANAさんを起用した#1「けものの名前」では無垢な祈りのように歌声は響き、優河さんを迎えた#9「ウォーデンクリフのささやき」ではしっとりと心の内に染み込んでいきます。

 特に気に入ってるのが#7「HERO」。映画『新青春』に起用された曲で、タイトルとは違ってヒーローの不在を歌うもの。ファルセットや爪弾かれるアコギがしっとりとしていて侘しさすらあるのですが、ホーンセクションやストリングス、キーボードの加勢で絢爛に曲を彩ります。懐かしさと哀愁に浸るだけではない美しさの加味。だからこそ自分の過去に戻って、この曲をかけたくなる気持ちにさせられるのです。

 新感染症が広がる一歩手前の2020年2月22日、本作を携えたツアー名古屋公演にわたしは足を運びました。メンバーが中央にいて、360度ぐるっと回りをお客さんが囲む。サポート含む7人編成で鳴る豊かな音と美しい時間はあまりにも贅沢でした。ちなみにこれが2人組だったROTH BART BARONを見た最後。

極彩色の祝祭(2020)

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 1年ぶりとなる5thアルバム。全10曲約39分収録。前作との間には新型コロナウイルス感染症もそうですが、盟友であるドラマー・中原さんの脱退という一大事件があり、2人組だったROTH BART BARONは三船さんのソロプロジェクトに形態を変えました。

 自身の大いなる変化と世の大いなる変化。その両方が引き寄せた結果なのか、流れを断ち切って新しい波を生み出そうとした信念からでしょうか。これまで発売されたアルバムの中で最も芯の強さとサウンドの強度、メッセージ性が備わっています。

 Bon Iverを彷彿とさせる#1「Voice(s)」で萌芽し、胎動のように力強いドラムに導かれて感情を湧き上がらせる#2「極彩 | I G L(S)」が高らかに鳴り響く。この2曲からしても新章の始まりという印象を受けます。本曲は、蔦谷好位置さんが某番組で「2020年のベストソング第1位」に取り上げたことでも話題になりました。繰り返される“君の物語を絶やすな”という本作一番のメッセージが、”個々の生きる”を鼓舞し続けます。MVも制作され、核となる1曲として君臨。

 信頼を寄せるコア・サポートメンバー6名とともに生み出す、小粋なオーケストラのような華やかさと艶やかさ、生命力が漲るサウンド。その上で三船さんのファルセットと言葉が心の芯に響きます。#3「dEsTroY」がもたらす歓びと昂揚感、HANAさんを再びゲストに迎えた#8「ヨVE」の推進力、#10「CHEEZY MAN」の溢れる哀切。各曲が喜怒哀楽の感情を連帯させながら、祝祭の音となって包み込んでくれています。

 #9「NEVER FORGET」はライヴで見たときに、岡田拓郎さんが調理器具の泡だて器でギターノイズを出してて度肝を抜かれた曲。ボウイング奏法はいろんな人のを見てますけど、さすがにあの光景は初めてみて最初は信じられなかったものです。

 そんな本作において、#4「ひかりの螺旋」がわたしは本当に素晴らしく思っていて、聴くといつも涙腺が緩みます。繊細なアンサンブルと美しい音色によって祝う、命の誕生。生まれてきたことを祝われない命などありません。圧倒的な生命賛歌として君臨する曲であり、僕の中では同テーマでLa’chrima Christiの11分11秒の大曲「Magic Theatre」と比肩する感動の1曲です。

 2020年、世界は未曽有の事態に陥りました。どんな人だって例外ではありません。変わってしまった世界においても、三船さんは“他人がつくった幸せに逃げるな”と歌います。窮屈で生き辛くなっていく時代だからこそ、主体的に生きて君だけの物語、自分にとっての幸せをつかみ取れ、そんなメッセージを込めています。

 極彩色の祝祭は、そんな多様な人々の連なりによってこそ本当の形を得られるのでしょう。共に生きていくことを鼓舞するこの音楽は、溢れんばかりの希望と光をもたらしています。

無限のHAKU(2021)

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 約1年ぶりとなる6thアルバム。全11曲約42分収録。HAKUは白ですが、そんな白も様々な色味があります。前作『極彩色の祝祭』がカラフルだったのに対し、いろんな素材の白を集めて”白でカラフルなアルバムをつくりたい”、ウイルスとの闘いを経ての癒しや回復をもたらすアルバムにしたいと思ったとラジオで話していました(ZIP-FM 「BEATNIK JUNCTION」より)。

 前作は確かに華やぎ・躍動感・瑞々しさに満ちていました。新感染症によって変わってしまった世界でも生きていかなければならない、そう鼓舞してくれる作品でした。逆に本作は色味が抑えられている印象。多種の楽器や電子音によって重層的に彩られていても、これまでよりも漂う侘しさと虚無感がある。

 オープニングを飾る#1「Ubugoe」は、真夜中にひとりで聴いていると感傷的になり過ぎてしまう。控えめな音像の中から飛び込んでくる三船さんの声と言葉。「”生きているふり”がだいぶ上手になったでしょう? いや、生きてなどいない、ただ暇を潰してるだけ」という詞が魂に触れてくる。

 もともとROTHの音楽は個に寄り添う音楽であり、前作は上述したように生きることを鼓舞するものだったと感じてます。対して本作は”生きるへ向かわせる音楽”になったと思います。『無限のHAKU』を通して見つめ直し、掘り下げる自己。取り戻す自分。ラストの#11「鳳と凰」における艶やかな音色と言葉は、自分自身が内に秘める大切な声に耳を向けさせます。”普通に生きたかった。なんて本当は嘘だよ”と。

 作品は聴き進めるにつれて次第に色味を獲得し、壮大さを伴っていきます。アイナ・ジ・エンドとのユニットA_Oの曲#2「BLUE SOULS」は瑞々しさと疾走感という特性は、ROTH版だと枯れたノスタルジックな雰囲気を強調。#4「みず/うみ」 は太く逞しいリズム隊の上を優雅なストリングスと柔らかなホーンの響きに吸い込まれ、エレガントなピアノの上に添えられる#7「Eternal」が紡ぐ言葉の海に満たされる。

 トピックとなる#9「霓と霓」は前作から地続きの祝祭を鳴らすもの(にじとにじと読む)。得体のしれない不安に憑りつかれる現代でも前進していく勇気を渡される曲です。ボーナストラックとして収録されているRostam Remix#12ではシンフォニックなアレンジへと変化。そんな全12曲を収録した本作は、しっとりと大らかな表現の中に落とし込まれた感情表現の豊かさが沁みます。

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