【アルバム紹介】Jesu、美しくポップなヘヴィ・ミュージック

 幼き頃から音楽活動に勤しみ、多数のプロジェクトを現在もなお稼働させ続けているJustin K Broadrickによるプロジェクト、Jesu。彼のメイン・バンドであったGodfleshが2002年に終焉後(2010年から再始動)、03年から始動したメイン・プロジェクトのひとつです。プロジェクト名の”Jesu”は、Godfleshの最終作『Hymns』の最終曲「Jesu」に由来しています

 世界一ヘヴィなポップ・ミュージックの異名をとる音楽。インダストリアル・メタル~オルタナティヴ・ロックという彼が培ってきた基盤に、シューゲイザーの要素を強く配合したサウンドを形成。甘美なメロディと分厚い音のレイヤーでもって聴き手を魅了します。初期EP『Silver』を手掛かりに2ndアルバム『Conqueror』でひとつの着地点を明示。

 その後の作品では変化を伴いながら、現在も多数のプロジェクト(Godflesh、JK Fleshなど)と同時進行でJesuは動き続けています。

 2007年と2014年に来日公演を敢行。2007年はEXTREME THE DOJO VOL.19、2014年はleave them all behindというイベントに出演。わたしは共に参加しています。190cmを越える?ほどのJustinの背丈にも驚きましたが、その轟音がもたらす陶酔感は素晴らしいものでした。ただ、07年11月の名古屋公演は体感のすばらしさとは反対に恐ろしく少ない集客でしたが。

 本記事は最新作の『Terminus』にまでのフルアルバム5枚に加え、EPや編集作も含めて紹介しています。全てではありませんが、網羅している方だと思いますので、チェックしていただければ幸いです。

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アルバム紹介

Heartache(2004)

 初音源となる2曲入りEP。2曲が共に約20分に及ぶ大曲であり、挨拶代わりの作品と言うのには失礼なほどの鮮烈さを残しています。さすがに前身のGodfleshで数多の賞賛を受けていたほどのお方です。

 冷たさを覚えるマシーンビートと殺人的なヘヴィネス。幾重にも重なるギターの音色は、呪術的な雰囲気を醸しながらも徐々に楽曲の輪郭を形成。10分を越えた辺りで一気に陽光が差し込み、温かくも繊細なメロディーが一面に輝きを与えていく#1「Heartache」。

 哀愁ともの悲しさに満ちた序盤、業火が全てを焼き尽くしていくような中盤、全てを昇華していく終盤。20分の中で大きな起伏があってドラマ性に富んでいる#2「Ruined」。

 共に20分の大曲でありながらストーリーと美しいエンディングに惹かれます。『Conqueror』以降の方向性とはまた違い、こちらはまだGodfleshから引き継いでいる感覚が強い

 地獄と天国、絶望と希望の隣り合わせの情景が浮かび、光が闇を徐々に浸食していくような作品。

Jesu(2004)

 1stアルバム。Hydra Headからリリースされています。オーナーであるアーロン・ターナーがJesuと契約したことに関して、「史上最高の名誉だ」と発言したそうな

 『Heartache』はジャスティン独作でしたが、本作はGodfleshの最終作『Hymns』でも活躍した元Swansの名ドラマー、テッド・パーソンズが参加。Godfleshから引き継がれた終末を見るようなヘヴィリフとリズムが、音の基盤を築き上げています。

 そこに揺らめく光彩のようなシンセサイザーの音色、ジャスティンの歌声がハーモニーを生む。このメロウさと温かさは、彼自身が新たにJesuとして求めたものでしょう。

 恍惚とする轟音へヴィネス。代表曲#2「Friends Are Evil」におけるスロウテンポから振り落とされる重音で涅槃を覗き、そこから天空の彼方へ連れ去るような美しさへと持っていく。

 さらに極めつけは、奈落の底へと突き落とすような圧殺の重低音に身も心も粉砕される#7「Man/Woman」を完備。ヘヴィ・ミュージックをあらゆる角度から追求してきた彼だからこその変化がある。

 Godfleshと共有している部分はあれど、暗黒を抜けた先にたどり着いた神秘の音が響き渡る。1stアルバムにして脅威の完成度を誇ります。

Silver(2006)

   2006年に発表した4曲入りEP。Daymare Recordingsから発売された国内盤はボーナストラック2曲を追加。

 1stアルバムと比べると、狂気の入り混じったヘヴィネスはかなり削ぎ落とされています。代わりにMy Bloody Valentineに代表されるシューゲイザーの要素が持っていたヘヴィロックと調和。

 メロディラインや歌も洗練されていき、轟音の中にゆらぎがあり、まどろみと恍惚感をもたらすような感じへ変化しています。1stはGODFLESHの延長という感がありましたが、本EPは以降のJesuの音楽性というのを決定付けたものといえます。

 美しいメロディと轟音ギターの反復と紡ぎ出す白銀のパノラマ#1「Silver」は、新しいJesuの船出であることを証明しています。怒りを越えた先にあった光や多幸感はこれまでの比ではありません。

 躍動感のあるマシーン・ビートに乗せて銀河を駆ける#2「Star」は新機軸。薄闇の中を彷徨い歩くような#3、エレクトロニカ方面へ重きを置いた#4といった曲にしても、重厚な中に美しさを残す。

 JesuはEPのリリースにて方向性の決定や実験というのを多く行っていますが、本作はキャリアの中でもターニングポイントとなった特に重要なEPです。前述したように以降の作風を決定づけたものとして抑えておきたい1枚。

Conqueror(2007)

 約2年ぶりとなる2ndアルバム。転機となった前EP『Silver』を見事に昇華させた作品となっていて、Jesuの代表作として君臨する。

 ヘヴィロックとシューゲイザーの融合が推し進められ、遅く重く美しい白銀のサウンドスケープは、さらにメロウな方向へと突き進みました。

 スンというよりもずーんという持続するような重み。そこにおぼろげな輪郭の歌、柔らかいメロディが乗っていく。ヘヴィネスは決して圧殺の手段としては使わずに救済の一手であり、電子音を増加させながらサウンドのふくよかさを得ています。

 表題曲であり挨拶代わりの#1「Conqueror」は、重くてもまろやかという相反する要素を併せ持って驚きを与え、10分を超える#4「Weightless&Horizo​​ntal」はドローン/シューゲイザーの音壁の中でソフトな”歌”が分厚い雲をこじ開ける。

 #7「Mother Earth」は母なる地球というタイトルですが、確かに雄大。ヘヴィなギターによる圧を受ける中で浮遊感とアンビエンスな揺らぎがあります。ラストを飾る#8「Stanlow」はポップ・ミュージックであることを体現するかのように鳴り響く。

まるで絶望の中にポッカリ空いた穴のような幸福感を表す事のできた初めてのアルバムだと思っている。けれど同時に、またどこかで絶望しているんだ。 とジャスティンは語ります(国内盤ライナーノーツより)。

Lifeline(2007)

   2ndアルバム「Conqueror」より約8ヶ月、驚異的な短期スパンでのリリースとなった4曲入りEP。もちろん全曲が新曲で、日本盤はボーナストラック2曲入りで全世界に先駆けて発売されました。

 ポップなヘヴィミュージックの開眼。『Silver』と『Conqueror』という手応えを経て、優しくいたわるメロディとぼやけた歌がゆっくりと舞い落ちるように私達の身体を包み込む感じへとシフトしてきている。

 永遠に止むことの無い至福の音色が、やがて空をジャケット写真のように黄金色へ変えてしまうかのようです。

 ゆったりとしたリズムから徐々にJesuワールドへ導く#1「Lifeline」、温かい風のような優しさに身を委ねてしまう#2「You Wear Their Masks」、元SwansのJarboeがゲスト・ヴォーカリストとして参加した#3「Storm Comin’ On」等を収録。

 Jesuにしては珍しく4曲で22分とそれなりにコンパクト。聴きやすくまとまっています。

Why Are We Not Perfect?(2008)

   「Lifeline」から約1年ぶりとなる5曲入りEP(実質収録曲は3曲で残り2曲はそのオルタナティブ・バージョン)。つい2ヶ月前には日本が誇る激情ハードコアバンドenvyとのSplit盤が発売されたばかり。

 本作に収められている原型3曲は2007年に発売されたELUVIUMとのスプリットLPに収録されていたもの。というわけで時間軸でいえば、この作品に収められている曲の方が古いです。

 本EPではダブやヒップホップの影響を感じさせるビート、ゆったりとしたアンビエント等が入り混じる。前EPの『Lifeline』よりも実験的な内容で、サウンドの拡張を狙いつつ落としどころをどうするか探っている感があります。

 とはいえ、収録曲のどれを聴いても柔らかなヘヴィネスとノスタルジーがあり、否応なしに惹かれる部分がある。お得意のヘヴィネスは淡い歌声と共鳴していますが、様々な要素が交じり合って優美なサウンドスケープへと昇華されています。

 好奇心溢れる実験を重ねながらも美や幸福へとベクトルは向けられる。以前に比べると刺激という観点においては、間違いなく劣る。ただ、以前から備わってきた温かな包容力がリスナーを掴む確実な要素になっています。

Pale Sketches(2009)

   自身のレーベルから2007年に発売され、完売状態でまるっきり手に入る見込みの無かったものだったが、日本のみ再発されることになった未発表音源集。

 タイトルもずばり『ペイル・スケッチズ = 素描集』で、00年から07年にかけて製作された音源を一気に放出する目的でリリースされました。時期としてはGODFLESHの終わりから2ndの『Conqueror』辺りまで。

 アウトテイクということですが、ピアノから叙情的かつヘヴィに展開していく泣きの#1から、ブレイクビーツを取り入れたダンサブルな色めきを放つ曲だったり、ドローンばりの音の洪水と光の旋律が融合した美しい曲であったり、ヘヴィなポップミュージックを目指していた頃(Silver,Conqueror辺り)のキャッチーさがあったりと、楽曲の表情は多彩。

 その当時の趣向が如実に感じられ、ベクトルは様々な方角へと向いています。それでいて寄せ集めも関わらず作品としてきっちりしているところは流石の手腕

 十分に腰をすえて聴ける内容で、Jesuらしいのは『Infinity』よりこちらの方かなと感じます。聴いてて癒し度が高いようにも思えます。

 日本盤はボーナスディスク付属の2枚組で、#1、#4、#6の別バージョンを収録。2009年にリミックスされたようで、こちらの方が楽曲の起伏やゆらめきや繊細に表しているように思えたり。

Infinity(2009)

   ジャスティン先生自ら「スーパー・ヘヴィでオーガニックだ」と語る最新音源は何と1曲50分のヘヴィ・ドラマティック抒情詩。

 envyとのスプリットではブレイクビーツも取り入れたりしていて作品毎に、サウンドを進化/深化させるJesuはまたここでも大胆に変化しています。

 分厚いディストーションギターに光彩と潤いを与えるメロディ/旋律が瞬き、救いを差しのべるおぼろげな歌声が描き行く神々しいまでのヴェールはそのまま。だが表層は随分とヘヴィなっています

 ゴリゴリとした金属ビートがGODFLESHを思わせたり、途中では戦慄が全身を駆け抜けるジャスティンの怒号の咆哮が入ったりし、グルーヴはさらに重苦しいものへ。

 スラッジメタルのテイストが不穏な昂揚を掻き立てながら、他方ではJesuの代名詞である浮遊感を醸す。サウンドの一部で原点への帰結も感じさせるもの。

 今と過去の折衷というべきか。天国と地獄を接近させる明暗のコントラストがさらに美しさを増しているのも特徴。これほどまでに豊穣なサウンドがドラマティックに絡み、オーガニックなスケール感を持って、光を見い出していく。50分かけて濃密かつ濃厚な世界を汲み上げる。

 タイトルが示すとおり、有限を超越し”無限”へ。これまでは恍惚感と多幸感に満ちた仕上がりであったのが、本作に至っては幸福と絶望が同時に心の中へ広がっていくかのようです。

Opiate Sun(2009)

  1曲50分のヘヴィ・ドラマティック抒情詩『Infinity』に続くリリースは、4曲入り26分収録のEP(日本盤はボーナストラック入りで5曲)。内容はかつてターニングポイントとなったEP『Silver』に近い。

 ヘヴィロックにシューゲイザ-をブレンドする手口はさらに密な交錯を行うことで、どこか懐かしみを持った穏やかなポップ性と神々しい分厚い轟音のヴェールで包み、天界からポジティヴな光のシャワーを降らせています。

 #1から持ち味を発揮していますが、ジャスティンのヴォーカルは情緒的で麗しい響きを持つようになり、メロディアスなクリアギターの光と共に非常に聴きやすく進化。それでいて、じんわりと染み渡る造り手の温かみがこれまで以上に感じられます。

 #2、#3にしても幻想的な空間を轟音で揺るがしてますが、温柔なアンサンブルと透明感といった不釣合いなものを混ぜて織り上げることでメランコリックなムードを湛えています。

 やや暗めのトーンとヘヴィネスで哀しみを解放していくかのような#4だけ少し違う印象を与え、浮遊感と儚げな余韻が独特の深みを演出している。

 これまでの作品で培ってきたヘヴィロック+シューゲイザーの音楽性を、さらにメロディアスに舵取りしたことで、ALCESTにもリンクするような儚さや哀愁を手に入れたようにも感じられる作品です。

Pale Sketches: Pale Sketcher Demixed(2010)

 新名義:Pale Sketcherで発表された初のフルアルバム。といっても、Jesuのアルバム『Pale Sketches』の全8曲を再構築したもので、元となっている楽曲はすべて同じで曲順が少し違う。

 リミックス前の重厚で優美な佇まいはそのまま感じられますが、轟音といえるようなものは本作には登場してこず、かなりアブストラクトに構築し直されているのが特徴。

 それでいてインストとしての趣が強調された。這う様な低音のビートは強いが、繊細な息遣いが感じられる柔らかなエレクトロニカの色が濃くなっていて、ダブっぽいテイストやディープ・ミニマル、ダブステップを意識した感じの曲調もあったりします。

 アンビエント/クラブ方面に拓けたといえる内容にもなっており、一部ではニューウェイヴ風の味つけも。囁くようなヴォーカルは空間に溶け込む様な感触が強くなり、美しいシンセの音色やドローンなギターも深い余韻を残す。

 特にコズミックなエレクトロを聴かせる#7にはかなり驚かされたし、深海の如きダブ処理に目眩む#8も新鮮。

 しかしながら、楽曲から醸し出される浮遊感と多幸感はジャスティンならではの才気を発揮しており、Jesuのサウンドスケープに対してさらにアブストラクトかつディープな装飾を施した前衛的プロジェクトとして、楽しめます。

Ascension(2011)

   4年ぶりとなるオリジナル・アルバム。明確なフルアルバムとしては3枚目。『Opiate Sun』に引き続いて、Sun Kill Moonのマーク・コズレック主宰のCaldo Verdeから。

 近作は実験的作風が目立ちますが、本作は間違いなくJesuの王道路線。大きな変化こそ無いですが、パーツの断片が持つしなかさやジャスティンのヴォーカル・ワークも柔らかく丸みを帯びており、磨かれた叙事性が心の深い部分にまで陶酔をもたらす。

 繊細に一音一音を重ね合わせて、優しさと哀愁を帯びたサウンドを生みだし、さらには独特といっていい神々しさをも表出。粒子の揺らめきと煌きがもたらす重厚さと浮遊感もまた、包み込むような感覚を変わらずに内包している。

 どこか寂寥感や悲しみといった人間の陰りの部分が楽曲から零れてくるのだが、それを洗い流すような希望の福音としての機能性もいつも通りに高い。

 初曲の#1『Fools』から始まり、ラストの美しいインストゥルメンタル#10『Ascension』に至るまでの流れは、まどろみ、恍惚、そしてタイトル『Ascension = 昇天』へと繋がります。

 白銀のサウンド・スケープに意識が同化していくかのような感覚と安息の風景の中で鳴り響く轟音がとても魅力的。

Christmas EP(2012)

    2010年に配信のみでリリースされていた3曲入りEPが、1曲追加されてCD/12inchで2012年12月に再リリース。前述したように時期的には『Ascension』に向かう手前で、世界一ヘヴィでポップなクリスマス・ソングというものをつくりました。

 スロウテンポの上で振り下ろされる轟音ギターが反復を続け、囁くような歌が折り重なる。途中の鐘のサンプリングがやや呪術的な感じもするが、まさしくJesu印のヘヴィ&シューゲイジングが炸裂した8分超の1曲。

 他の3曲はというと、「Christmas」をジャスティン先生の別名義3つ(JK Flesh、Pale Sketcher、Final)でリミックスしたもの。というわけで、Jesu名義になっているけれども実際はジャスティン祭となっています。

 まずは一番最新の名義であるJK Fleshでのリミックス#2は、Blood Of Heroesとも共振するメタル・ダブステップで硬質なビートにダークさを加味しながらの再構築。

 続く#3はPale Sketcherでのリミックスで、ヘヴィなギターが鳴りを潜め、よりアブストラクトな作風へと変化して心地よい浮遊感を演出しています。#4のFinalリミックスでは倍近い14分まで引き伸ばし、幽玄なアンビエント~ドローンとして機能。

 いずれにしてもジャスティン.K.ブロードリックという人物が気になっている方には、各々のプロジェクトの断片も味わえるのでオススメの作品。

Everyday I Get Closer To The Light From Which I Came(2013)

 フルアルバムだと4枚目。相変わらずに様々なプロジェクトを動かしていますが、ジャスティン先生がJesuにベクトルを合わせれば、重厚さと浮遊感と多幸感で確実に埋め尽くされる。

 本作は基本的にひとりで制作されていますが、一貫してブレないからこそ奏でられる天上界は、Jesuの魔法と言えるものです。n5MD系統のまろ やかなエレクトロニクスも、轟音ギターやノイズも鮮やかな手口でまとめられており、心が温まる熟練の味を楽しめるはず。

  オープニングを飾る#1「Homesick」からして本作のクオリティの高さを予感させる安心の内容。『Silver』以降の流れにある伝家の宝刀である甘美なシューゲイズ・ヘヴィロックを轟かせるこの楽曲は、今後とも重要な位置を担いそう。

 なかでも注目なのが#4「The Great Leveller」。17分にも及ぶこの楽曲では、刻々と移り変わる情緒や風景をピアノや多種のストリングスを用いて、細心の手つきで表現しきっている。

 端正なピアノと20本も使用したというストリングスの音色から静かに立ち上がり、美しいギター、轟音、空間に溶けこむような囁きヴォーカル等を交えながら、ゆったりとだが確実にドラマティックな軌跡を残していく。ラストの神々しいスケール感がまた強いインパクトあり。

 優雅なシンセ音と滑らかなギターが、 大らかな光の世界を指し示す最終曲#5「Grey Is The Colour」も締めくくりにふさわしい。

 重厚甘美なサウンドと多幸感を根幹にある中で、ゆるやかな変革を伴いながら「揺らぎ」というテーマを提示した本作。

 Godflesh等での活動のカウンターと表現していいのか、これまでの中でも最も温かさと癒しを内包しており、じっくりと聴いてノスタルジックな気分に浸れる作品になっています。

Jesu / Sun Kill Moon(2016)

  深い親交のある両者によるコラボレーション作品。歌はマーク・コズレック先生が朴訥としたものを乗せ、バックはJesuのウォール・オブ・サウンドとそれぞれが明確な役割を担っています。

 ものすごく端的に表現すれば、”Jesuのヴォーカル違い”といえばそれまでかもしれません(全体の8割ぐらい)。#1「Good Morning My Love」にしても#2「Carondelet」にしても#7「Sally」にしても。

 しかしながら、Jesu単体だと天上界への扉が開いた的な昇天のヘヴィ・ポップ・ミュージックですが、このコラボは身近な感覚をもたらします。その辺はマーク・コズレック先生の歌の聴かせ方に一日の長があってこそ。

 アンビエントな曲調やアコースティックのしみったれた曲等を用意して多様な音楽性も披露。#5「Fragile」はRed House Paintersっぽいかな。予想の範囲内であるし、2人の組み合わせが乗算にはなってても掛算にはなってないという印象はあります。

 ですが、両方のリスナーにとって新しい刺激を受ける作品にはなっています。SlowdiveのRachel、Modest MouseのIsaac Brockなどがゲスト参加。

Terminus(2020)

 単独名義だと実に7年ぶりとなる5作目のフルアルバム。1、3、7曲目でテッド・パーソンズがドラム参加している以外は、独力での制作。全8曲入り約51分の収録。

 テーマに”拒絶、依存、究極の孤独”があるそうです。制作時期の詳細はわかりませんが、コロナ禍において本作を発表することに意義がある。

 重厚と浮遊感の共存共栄。視界を覆う白銀と靄。安息と救い。幻想と神々しさ。Jesuを聴いてわたしが想起するのはそれらです。別天地へ引き連れるポップソング#2「Alone」が異色の存在感を放ちますが、プロジェクトの持ち味というのは十二分に発揮されています。

 ドローン/シューゲイズ・ギターによる支配の中で、差し込む甘いメロディと輪郭のはっきりしない歌。アンビエントからヘヴィまでをゆっくりと往復しながら、電子音はグラデーションを際立たせるように添えられます。

 でも、音像はぼかされていて、聴き手もその中に溶けていってる感がある。本作におけるJesuの音楽は、明確に強調はしないが調和しているのです。印象で言えば前半4曲は動的、後半4曲は静的。

 #1「When I Was Smell」はトレードマークの甘美なヘヴィネスが巻き上げ、#3「Terminus」は重さと浮遊感を同居させる中で幻想にまどろむ。#4「Sleeping In」は1stアルバムの作風を今にアップデートさせたような印象を受けるものの、どこか虚無感がある。

 後半はアンビエンスに寄りかかっていく。不透明な現代と未来を示すようなアンビエント#5「Consciousness」があり、マーク・コズレックとの共作が効いてる#6「Disintegrating Wings」、#7「Don’t Wake Me Up」は牧歌的な感触とスロウコアの黄昏感を持つ。

 でも、ラストに選んでいるのが歌無しの荒廃ビート・チューン#8「Give Up」。ここを着地点に選出した理由はなにか。本作中で最も昂揚感を伴う曲ですが、タイトルは”諦め”。それが今を生きていることを突き付けるのでしょうか。

 作中でどこか通底する無情と侘しさ。今までよりもぼやけた音像は、今の不確かさを語り、未来への不安を表しているかのようです。

 かつてのように希望や救済を主張するような感はあまりない。けれども、現代に添えられる/鳴る音楽として共有される確かな個を持つ作品です。

プレイリスト

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