【全アルバム紹介】Red Sparowes、たおやかな音の波と重いテーマ

 ISIS(the Band)のBryant Clifford Meyerを中心とした5人組バンド。2003年から始動し、創設メンバーとしてNeurosisのヴィジュアル担当であるJosh Grahamが参加(現在は脱退)。初期には同じくISISのJeff Caxideも在籍していた。2010年リリースの3rdアルバムからは女性SSWのEmma Ruth Rundleが在籍している(おそらく現在も)。

 音楽的には本隊のヘヴィさよりもポストロック寄りの穏やかさやメロディが重視され、ゆっくりと広がっていくような美しいサウンドスケープを描く。ただ、それでもバンドは重いテーマを掲げ、1stアルバムでは人類によって現在進行形となっている滅亡、2ndアルバムでは1958年から始まる毛沢東時代の中国における大躍進時代を取り上げています。

 2011年以降は活動休止状態となっていましたが、新感染症の影響で中止された2020年のRoadburn Festivalでは出演が予定されていたらしい(wikipediaによる)。本記事では3枚のフルアルバムについて書いています。

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At The Soundless Dawn(2005)

 1stアルバム。全7曲約60分収録。Neurosisのビジュアル担当であるジョシュ・グラハム、ISIS(the Band)のキーボード兼ギターのブライアント・クリフォード・メイヤーを中心に結成。本作では同じくISISのベースであるジェフ・キャシードが参加。Halifax Pierで活躍したベーシストを含む5人編成で本作は制作されています。Neurot Recordingsからのリリース。

 テーマにあるのは都市の衰退や人類の滅亡といったもの。地球で4億4千万年前から5回記録されているという大量絶滅。その6番目が人間の自然破壊によって現在進行中であることを#7「The Sixth Extinction~」のタイトルが示す。海外版のte’かと思うぐらい曲名が長いのが特徴のひとつ

 音楽的には轟音系インスト・ポストロックの系譜に位置するものといえます。テーマに根差したヘヴィさはあるものの、それぞれの本隊ほどは振り切れていない。Red Sparowesはドラマティックな叙情性に主権があり、その延長に”まろやかさ”や”リリシズム”といったキーワードが浮かんできます

 平均9分を超える尺の中、単純な静動のダイナミクスの解より、丹念かつ精巧に音を重ねていく。美しいクリーントーンを中心に、ペダル・スティールも随所に活用しながら、独自の優雅さと幽玄な雰囲気が表現されています。

 その裏側では孤独感や廃れていく建造物、脅かされる自然といったものを映し出そうとしている感覚はある。オープニングを飾る#1「Alone and Aware~」は1stアルバムの1曲目にして、彼等の全楽曲で最も優れた曲であると感じます。そして、#3「The Soundless Dawn~」や#6「Our Happiest Days ~」のメランコリックな調和が心地よい。EITSほどのカタルシスに向かわずとも、厚みのあるインストゥルメンタルは絶望と希望の間を揺れ動く。それでも夜明けが永遠に訪れないような世界を本作は持っています

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Every Red Heart Shines Toward the Red Sun(2006)

    約1年半で届けられた2ndアルバム。全8曲約60分収録。ジェフ・キャシードは脱退しており、新しい5人編成での制作。テーマに”1958年から始まる毛沢東時代の中国における大躍進時代”があり、政策によって引き起こされた惨状の個人的語りを曲名に反映している。四害駆除運動(ネズミ、ハエ、蚊、スズメ)、特にスズメは#5のタイトルに繋がっています。この辺りはwikipediaを目を通していただくと幸いです。

 音楽としては前作の延長上にあるものです。透明感と美を併せもつフレーズが多用されるものの、その裏で無力感や寂寥感を湛えている。それが全体的に暗いトーンによる支配に繋がっています。この陰鬱さはGY!BEに通ずる雰囲気を持ちますが、より叙情的で落ち着きがある。轟音化していく発展形式、威圧的なヘヴィネスは前作よりも頻度が増えました。ただ、その重量感と音圧はカタルシスを誘発するよりも、虚無と絶望が両肩に圧し掛かってくるかのよう

 #3「Like The Howling」におけるリズムの強度でひたすら推進する新機軸があれば、#2「We Stood Transfixed~」や#4「A Message of Avarice~」のように物憂げなフレーズが悲しみがゆっくりと心の中で燃え広がる曲もあります。#5「Annihilate the Sparrow~」はGrailsを思わせるようにサイケとプログレとポストロックが互いの領域を侵食しあう。

 最後を飾る#8「Finally, as That Blazing Sun~」の光が差したかのような演出もほんのちょっとの時間だけで、重々しいクライマックスが待ち構える。前作のような柔和さ、たおやかな表情は影を潜めましたが、コンセプトを貫く暗く激動の時代を本作は丁寧に表現しきっています

Fear Is Excruciating But Therein Lies the Answer(2010)

   約3年半ぶりとなる3rdアルバム。全8曲約43分収録。ジョシュ・グラハムが脱退。女性シンガーソングライター、エマ・ルース・ランドルがギタリストとして加入。再編成された5人組での制作。Melvinsなどを手掛けているトシ・カサイ氏がレコーディングを担当。

 タイトルは相変わらず長いですが、曲名は短くなりました。さらに前作から比較すると、暗く沈んだ世界からは再浮上したような彩度/明度を携えている。とはいえ万物の湿った部分にこびりついた哀しみや憂いを拾い上げながら、音に反映させていくかのようなインストという手法に変わりなし。1stアルバムよりも洗練された美麗なサウンドスケープが紡がれています。音のひとつひとつにとても柔らかい質感や温かみがある

 ポストロックへの歩み寄り。それはジョシュが脱退したことによってサウンドの転質があったことが影響し、これまでで最も陽が差し込んでくるアルバムとなりました。#2「The Illusions of Order」における歓喜と祝祭の表現に驚かされますし、#4「Giving Birth to Imagined Saviors」の力強くも甘美なハーモニーには昂揚感が全身を駆け抜ける。開放感。その言葉が本作を聴いているうえで、浮かんできます。

 ペダル・スティールが効果的に用いられる#5「A Swarm」では70年代のプログレ/サイケ的な感性を持ち寄る。後半の楽曲ではそういった古き良き部分を参照しながら、湿り気と緊張感のある雰囲気が生み出されています。ポストロックに陣地を置きながら解釈の拡大。以前の2枚よりも開かれた作品として聴かれるべき一枚になっています。

 Daymare Reordingsから発表されている国内盤には、ボーナスディスクとして08年に発表された配信&アナログ限定の3曲入りEP『APHORISMS』を全世界初CD化。繊細に練り上げられた本編との共通項も多々あありますが、こちらではマッシヴなバンドサウンドが印象に残ります。

お読みいただきありがとうございました!
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