【アルバム紹介】The Caution Children、必然のエモーショナル

 アメリカ・フロリダのポストハードコア・バンド5人組。Tokyo Jupiter Recordsより2008年に1stアルバム『Vacations』をリリースすると、2009年にはThe Black Heart Rebellionと共に日本ツアーを敢行しています。2011年には2ndアルバム『Unknown Lands』を発表。

 更なる飛躍を遂げていった2014年2月には3rdアルバム『And Baby / Safe Crusades / No Judgements』をリリースしました。2015年11月には【TJLA FEST 2015】で再来日を果たしました。

 本記事は3枚のアルバムについて書いています。

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アルバム紹介

Vacations(2008)

 1stアルバム。The Black Heart Rebellionに続いて、Tokyo Jupiter Recordsの第2弾リリースとして発売されました。

 音楽的には初期衝動に任せたポストハードコアをベース。ポストロックやシューゲイザーを取り入れたアプローチで耽美性や浮遊感といったものを突き詰めた作風が特徴。

 憂いを帯びたメロディやシューゲイズ風ギターで奏でるドラマティックな楽曲群は、予想の斜め上を行くほど叙情的です。envyやフレンチ激情系ハードコア等のバンド達を想起させる音像。ですが、TCCの場合はもっとエモくてナイーヴ。

 その美しいギターの音色が光輝く世界へと連れ去る#1「Separate Fears」から、破壊衝動を叩きつけるだけのサウンドからはかなりの距離がある事が伺えます。また、そこに乗るヴォーカルの極度に枯れた絶唱が非常にエモーショナルで、バンドの特色を大いに決定づけている。

 #2「Lion Eating Poet In The Stone Den」や#7「Our Movement In Squares」等のわりと長尺な曲では豊かなスケール感、少し甘酸っぱい哀愁を感じさせます。

 ユーロ激情系の激しさとスリリングさを感じさせる#4「Slippery Strange」では、ハードコアの情熱を端々に迸らせています。堂々たるデビュー作となった本作は、リリース元のTokyo Jupiter Recordsの流れを決定づけていく役割も果たした貴重な1枚。リリース翌年には、The Black Heart Rebellionと共に日本ツアーを慣行。

Unknown Lands(2011)

 3年ぶりの2作目。リリースはTokyo Jupiter Recordsから。レコーディング/ミキシングにPianos Become The TeethのMike Yorkを起用している。

 思わず”誕生”という言葉が浮かんでしまったSE的な#1に続き、悲痛な叫び声と情熱を叩きつけるような演奏が炸裂する#2で一気に持っていかれました。浮遊感も湛えたアトモスフェリックなアプローチ。そのうえで繊細なメロディを掻き鳴らし、刹那に激情がスパークするそのサウンドが執拗に胸を熱くします。

 リリース元のTokyo Jupiterのオーナーは、本作を初めて聴いたときに迷わずenvyの最新作『Recitation』を思い浮かべたと語っていましたが、勇ましく推進していくポストハードコアに、自分も心を強く動かされました。

 確かにenvy色は凄く感じる。一筋の光が差していくようなメロディや展開、静と動のコントラストの生み出し方、全身から魂削って絞り出す絶叫など共振する部分は多いから。生を肯定する強さがある事も含めても。

 envyほどのスケール感を獲得するには至っていないですが、折り重なっていく感情と共にコンパクトに引き締まった楽曲群のインパクトは大きい。もっとハードコア的なスタンスをベースにしているし、焦燥感や初期衝動も滲み出ています。

 前述した#2を含め、繊細な蒼さも醸し出しながら眩い光の海に突き進んでいく10分近い#6、涙腺刺激型ポストハードコアで畳みかける#7、展開を重んじながら壮大なクライマックスを鳴らす#10と彼等の魅力が十分すぎるほど堪能できます。

 特に感じたのは、作り手の想いや浪漫といったものが真っすぐに伝わりすぎること。ここまでダイレクトにストレートに熱くするのは、その様々な情念の蠢きを細部にいたるまでパッケージングした点が大きい。必然のエモーショナル。

And Baby / Safe Crusades / No Judgements(2014)

 新たにギタリストを迎えて5人体制で完成させた約2年半ぶりとなる3rdアルバム。レコーディングに、Deafheavenを手掛けるComadreのJack Shirleyを起用。

 国内盤はもちろん歩みをともにしてきたTokyo Jupiter Recordsからで、レーベルの記念すべき第30弾リリースを飾っています。

 アトモスフェリック/シューゲイザー的なアプローチを取り入れ、他とは一線を画すロマンチックなポストハードコアで、人々の感情を刺激してきたTCC。本作でも土台となる音楽性は、これまでの継続で揺るぎないもの。なお一層自身のあるべき姿を徹底して追い求めているように感じます。

 一大トピックのひとつであるギタリストの加入によって、音像の厚みや空間的なアプローチはさらに説得力は増しました。それでも小奇麗にまとまることはなくて、ラフで荒削りな感触は健在。

 Jack Shirleyが助力していることもあってか、Deafheaven『Sunbather』のように激情系のアグレッシヴさを保ちながら、甘美さと光への推進を強く感じさせます。それを本作のほとんどを占める3分未満の曲で実現しているのだから、余計に驚かされてしまう。

 作品を通しても全10曲約28分とこれまでのオリジナル作品で一番の短さながら、スケール感やダイナミズムは過去最高の仕上がり。

 #2「Psalms」は、初期衝動そのものの猛ラッシュをかけながら、持ち前の美麗さや浮遊感が大いに際立っている佳曲。体の芯から熱くする多様性を持ったエモーショナルなハードコアを標榜し、それが見事に研ぎ荒まされているのがわかる。また、掠れた声でピュアな感情一杯に泣き叫ぶヴォーカルもいつも以上に心に刺さります。

 安らぎをもたらすアコースティック・ナンバー#7「Moon Museum」以降の終盤を飾る3曲では、さらに芸術点を高めていく。澄んだ星空の世界が広がるかの様な美しい旋律から、性急で力強いハードコアを繰り広げる#8「Knowing About Bombs」は、彼等を代表するエモーショナルな楽曲に仕上がっています。

 ブラックメタル系の要素は無いとはいえ、”コンパクトSunbather”的な感触すら覚えてしまうキャリア屈指の力作に仕上がっており、一層の高みへと飛躍することを予感させる一枚。繊細でいて壮絶なハードコアの結晶。

お読みいただきありがとうございました!
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