
アメリカ・フロリダ州マイアミ出身の4人組。スラッジメタル・バンドのFloorで活躍したSteve Brooks(Vo&Gt)を中心に結成。”ストーナー・ポップ”と評される彼等の音楽は、重量感と弾けるノリの良さ、ポップネスがほどよく中和し、ISISのアーロン・ターナー総帥には笑顔で頭を振れると称賛されました。
2008年11月には唯一の来日ツアーを敢行。5枚のフルアルバムを発表し、2022年9月をもって18年の活動に幕を下ろしました。
本記事では現在、1st~3rdアルバムとEP2作品について書いています。
アルバム紹介
Torche(2005)

1stアルバム。全10曲約30分収録。90年代~00年代前半まで活躍したスラッジメタル・バンド、Floorのメンバーが結成した経緯があり、ヘヴィなサウンドは持ち味のひとつ。
初っ端の#1「Charge of the Brown Recluse」から地を這う重低音がビリビリと全身を震わせます。そこから高速カウンターのごとき#2「Safe」の駆動で確実にノックアウトをくらう。
単純なスラッジメタルの構造に陥らず、過度な重量感を保持しながらも機動力の高さがあり、この系統のバンドではお耳にかかれないポップな歌メロを携えているのがTorcheの魅力です。
#6「Vampyro」や#8「Fire」といった曲でそれを実感することでしょう。さらには曲を1~2分台にまとめるコンパクトさがあり、全10曲中8曲がここに収まっています。めちゃくちゃ重いのに聴きやすいを実現しているのが素直にすごいと感じる。
ラストにはアンビエントとスラッジの両境界を行ったり来たりする9分半の旅路#10「The Last Word」が構えており、空気を一変させています。
デビュー作から後に”ストーナー・ポップ”と呼ばれる様式を生み出しており、上々の滑り出しを切っています。

In Return(2007)

1st EP。全7曲約19分収録。アルバムのアートワークはBaronessのジョン・ベイズリーが担当。基本的には1stアルバムからの延長線上でド迫力のパワフル・サウンドを軸に緩急を使い分けています。
ただ本作は重苦しくダークさが売りという印象を受け、オープニングを飾る#1「Warship」から重厚なリフを主体に聴き手とのぶつかり稽古を仕かけてきます。
十万馬力で突っ走ろうとする#2「In Return」、スラッジメタルとハードロックが組み合わさる#4「Rule The Beast」といった曲でも攻めの姿勢を崩さない。
その代わりにキャッチーさをわりと犠牲にしていて、その分をヘヴィさに振っている。ラスト3曲はスラッジ地獄ともいうべき境地であり、胃もたれどころか破裂しそうなぐらいに重低音を喰らってしまいます。
しかしながら2~3分台の簡潔さ、さらにはトータルタイムが短い分は翌日にひきずらない加減がされている。EPとはいえ初期のTorcheをよく表した作品です。

Meanderthal(2008)

2ndアルバム。全13曲約36分収録。Kurt Ballouによるプロデュース。約100秒の超絶インスト#1「Triumph of Venus」で聴かせる強烈なフックとグルーヴに飲み込まれ、続いての#2「Grenades」のぬくもりのあるポップなサウンドとのギャップに驚きを隠せない。
頭の2曲を聴いただけで早くもTorcheのテリトリーに引き込まれます。剛力サウンドで地盤を固め、その上にポップなメロディを上乗せ。
”ストーナー・ポップ”と表現されている通りに、パワフルなのに弾けるようなノリの良さが感じられます。また全体を通してコンパクトでキャッチー。
どすこい圧力で攻め立てる#3や#5を筆頭核に、#6や#11のようにパンクの疾走感と親近感を加味させた楽曲であったり、ラスト2曲ではドゥーム・ストーナー直系の超重量級の音塊をぶつける。
幅広いアピールポイントを持つ作品となっています。Queen of the Stone Ageは近いかもしれませんが、Torcheの方がスラッジメタル寄り。
さすがに発売前から評判になっていただけのことはあり、MogwaiやISISの面々が気に入って、それぞれ自身のレーベルからリリースしたことは納得がいく。ISISのアーロン・ターナー総帥の発言にある『笑顔で頭を振れる』作品です。

Songs For Singles(2010)

全8曲約22分のEP。ギタリストが脱退してトリオ体制での制作。日本語解説に付いている行川和彦氏の”ウルトラポップでありながらウルトラヘヴィなサウンド”。これが彼等の音楽を物語る。
キャッチーなメロディを配しながら号砲のように轟くサウンドをベースにして高速で畳みかける。それも驚くようなフックを交え、ヘヴィにうねりながら。
#1~#3の陽気なストーナー・ポップの爆進で昂揚を誘い、#4でパワフルな旋回を挟みつつ、#5以降は再び重く厚いサウンドをまといながら疾走。全体としても確実に陽の因子を帯びながら構成されていて、息苦しさは無く弾けている。
むしろコンパクトな構成も手伝って、ノリノリで一気に駆けていく。気がかりな点と言えば、ギタリストが抜けたせいで内臓にずっしりと響く圧の威力は以前の作品ほどではないし、スラッジ・ナンバーが本作では披露していないところか。
ただその代わりにシューゲイザーっぽい霧のようなギターが印象的な#7、いつも以上にポップにビルドアップされた6分超の#8が新要素として華を添えています。
あっという間に終わってしまう作品ではあるが、本作もまた笑顔で頭触れ、汗臭さにまみれることができる。持ち味のストーナー・ポップに磨きをかけてきたことを示す作品。

Harmonicraft(2012)

3rdアルバム。全13曲約37分収録。再び4人体制となりましたが、実に彼等らしい。今回もアーロン・ターナー総帥が表現したとおりに”笑顔でヘドバンできる” 陽気さと爆裂さを備えた仕様。
重戦車のごとしサウンド武装から、小回りの効いたフックを盛り込み、口ずさめる歌メロを合わせて感情を巻き上げていく。がっちりとした筋肉を思わせるヘヴィネスを下地にしたパワフルなグルーヴ、その上でポップにコーティングしていく術はやはり独特。
見た目からしても汗臭いはずなのに、妙に爽快感が強いのは伸びやかな歌によるものでしょうか。ギターの音色も陽性の光を放つことが多く、キャッチーさに磨きがかかっている。
ブルージーな泥臭さを表現したり、ハードロック風のギター・ソロも放り込んできたり、歌を除けばMars Volataも思わす#7みたいな変態テクニカルな曲を挟んだり。
さらには#11のようにスペーシーなサイケ曲まで飛び出してくるので、これまでの作品と比べてもアイデアと構成は練られているように感じます。
重量感と躍動感に秀でた恐ろしきインスト#12からBorisを意識したようなドゥーム・メタル#13のラストの流れは特に印象的。
ねじ伏せるようなヘヴィネスはあるにせよ、ここまで聴きやすいのは類を見ない。フー・ファイターズやQOSTAのファンを取り込んでいけそうな音楽なんで、もっと振り向いて欲しいですよねTorcheに。

Restarter(2015)

4thアルバム。

Admission(2019)

5thアルバム。全11曲約36分。本作がラスト作品。
