私的名盤⑦
THE NOVEMBERS / ANGELS (2019)
日本のオルタナティヴ・バンドの7thアルバム。集大成となった前作『Hallelujah』を経て、大胆な変革。特徴的なのは電子音との魔合成。生音とはっきりと融合しながら、耽美凶暴な音像を築き上げる。
今までとまるで違う感触をもたらすデジタル主体の#1「TOKYO」に始まって、光の帯をまとっていく#9「ANGELS」まで。
#2「BAD DREAM」や#5「DOWN TO HEAVEN」のようなダークな衝撃も、#3「Everything」や#8「Close To Me」の美しさと幸福感も『ANGELS』は豊かに内包する。彼等の美学にブレはないし、常に創造的。
オススメ曲:#3「Everything」
OATHBREAKER / Rheia (2016)
女性Vo.Caro Tangheを要するポストハードコア・バンドの3年ぶり3rdアルバム。作品毎にポストハードコア~~ブラッケンド~ネオクラストの拡大解釈へ。本作は全10曲という作品全体を通しての大きな緩急・起伏で聴かせてくれる。
Jack Shirleyのプロデュースによる絶妙なシューゲイズ・テイストの武装があり、アコースティック・パートも上手く組み込まれていて、構成において変化がある。
それがルーツを含めた自身の音楽性に対して上手く肉付けできてるからこそ、作品としての強固さにつながっている。
スクリームだけではない艶めかしい歌唱を披露し、女性の歌ものという側面を強化したことで楽曲の幅広さに説得力が伴う。ドラマティックな激走、それによる感情爆破。ハードコアはかくも劇的であったのかと。
オススメ曲:#5「Needles In Your Skin」
The Ocean (Collective) / Phanerozoic I: Palaeozoic (2018)
ドイツのプログレッシヴメタル/ポストメタル集団の7thアルバム。2年後にリリースされた次作との連作。本作は10年ぶりに国内盤が発売されており、『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代』という邦題を添えてP-VINEからリリース。
タイトルは“Phanerozoic = 顕生代”。 顕生代とは約5億4100万年前から約2億5200万年前までを表す地質時代の古生代のこと。作品としては静と動がわりとくっきりとしたポストメタル・スタイルで3rd『Precambrian』に近い。
強烈な重低音と美麗なメロディがせめぎ合う中でグロウルとクリーンヴォイスが煽動する。入門盤にもオススメできる1枚。
オススメ曲:#2「Cambrian II: Eternal Recurrence」
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陰陽座 / 夢幻泡影(2004)
妖怪ヘヴィメタル・バンドの5thアルバム。タイトルはもののはかなさを表す言葉の喩え。わたしが陰陽座に入ったのが本作だったこともあって全作中で一番聴いている作品。
舞頸や輪入道、煙々羅と妖怪は登場してもインディーズ期ほど濃くはなく。むしろ”和”の要素とヘヴィメタル度が強化されている。
#1「夢幻」~#2「邪魅の抱擁」という王道を貫く疾走メタル・チューンを皮切りに、アイアン・メイデン風のリフでツインギターが躍動するシングル曲#3「睡」、イン・フレイムスを思わせるメロデス節が炸裂する#5「舞頚」と前半は勢いで押す。
後半は演歌プログレメタルに開眼した#6「輪入道」、黒猫さまによるヒーリング・バラード#9「夢虫」と聴きどころは多い。先人達にリスペクトを掲げつつ、初期からのコンセプトを追求してきたことが実を結んだ1作。
オススメ曲:#3「睡」
Pantera / Vulgar Display Of Power -俗悪- (1992)
90年代を代表するHR/HMバンドのひとつ、パンテラ。出世作となった前作『Cowboys From Hell』よりも重量感を増し、”グルーヴ・メタル”と評されるスタイルを確立した6thアルバム。
鋭利な切れ味と鈍器で殴るような衝撃を有すダイムバックのギター、フィル・アンセルモの野蛮な歌唱は音の暴力を生み出していく。
#1「Mouth of War」や#3「Walk」といった必殺曲を備え、#4「Fucking Hostile」は空耳アワーでジャンパーを獲得(笑)。#5「This Love」や#10「Hollow」といった凶悪さを秘めたバラードを同時にこなせてしまうのがまた凄い。
オススメ曲:#3「Walk」
Pelican / The Fire in Our Throats Will Beckon the Thaw (2005)
シカゴのヘヴィ・インストゥルメンタル四重奏の2ndアルバム。全7曲で描かれるのは生まれ育ったシカゴの四季であり、移り変わる四季においての広大な風景。
自然の容赦ない怒りとかけがえのない美しさ、それを轟音と叙情のダイナミックなシフトにより力強く描き出す。虹色の自然叙情詩と表現できそうな圧倒的なスケールと描写。
Pelican史上最もドラマティックな楽曲といっても過言ではない#1「Last Day Of Winter」を収録。
2007年頃にわたしがインストゥルメンタルを聴くようになったきっかけの作品であり、思い入れが特に深い1枚。
オススメ曲:#1「Last Day Of Winter」
Rosetta / A Determinism Of Morality (2010)
アメリカ・フィラデルフィアにて結成されたポストメタル・バンドの3rdアルバム。自身の音楽性を”Metal For Astronauts : 宇宙飛行士のためのメタル ”とユーモラスに表現する。
その通りに、空間を重視したサウンドスケープが特徴的な彼等。前作よりも洗練の度合いが進み、壮麗なる美と威圧的な轟音が緻密に編みこまれる。その結果、母たる大地と宇宙をリンクさせるRosettaのスペース感覚は極みのレベルへ。
印象的なベースリフから始まるラスト曲#7「A Determinism of Morality」は、ポストメタル史に残る1曲。2016年12月、彼等がまさかの名古屋公演を行ってくれたことに感謝。
オススメ曲:#7「A Determinism of Morality」
ROTH BART BARON / けものたちの名前 (2019)
日本のインディーフォーク・プロジェクトの4thアルバム。時間をかけて紡いできた音楽を介し、考える個の存在、関わる今の社会。そして歌われる多様性と共生。
前作の方が自由な挑戦と試行錯誤があるが、その経験を踏まえた本作は回帰と拡張がいい塩梅。だからこそのバラエティに富む。女性ヴォーカリスト4名(優河、HANA、Ermhoi、Maika Loubté)のゲスト起用、ストリングスの明確な導入。
前作『HEX』よりも開かれた形でアウトプットされている。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏が主宰する<APPLE VINEGAR – Music Award -2020>にて”大賞”を受賞した秀作。
オススメ曲:#7「HERO」
Russian Circles / Station (2008)
シカゴのインスト・トリオによる2ndアルバム。最高傑作と評す人が多い名作。ゆえに彼らの名を世界に知らしめた作品だ。
音楽的にはポストメタルというよりはポストロック方面へやや傾いていて、メロディを磨き上げながら1stアルバムよりも構成を練り、壮大なドラマを描いている。
マスロックの構築美を反映させながらギターリフで押すスタイルは本作でも垣間見え、3人とは思えない重量感とレイヤー構築を堪能できる。
インストゥルメンタルを独自の美意識で昇華させた#5「Youngblood」はポストメタル系インスト最重要曲のひとつ。
オススメ曲:#5「Youngblood」
SADS / THE ROSE GOD GAVE ME (2001)
黒夢の活動休止後に清春氏が率いたバンドの3rdアルバム。SADSも一度目の活動休止までは、アルバムごとに音楽性がコロコロと変わっていった。
本作の帯には「聴き逃がすな!HEAVY&LOUD そしてGLAMOROUS。暴力的変貌を遂げた新生サッズ、反逆のリアル・ファーストアルバム!」とあるが、モダンヘヴィネス+グラムロックといった感じの妖艶で重厚なロックを展開。
ほぼ英語詞で歌われ、重量級のグルーヴとハードな疾走感を併せ持つ本作は、海外勢にも引けを取らないものがある。
ちなみに黒夢の2009年解散公演で本作から2曲演奏。そのことをネット番組『イエノミ』で西川貴教氏に「あなたは気が狂っている」とツッコまれていた。
オススメ曲:#8「Cry out」