ポストメタル・ディスクガイド3
COLMAAR / Eternal(2024)

When Icarus Falls(2007-2024)というバンドで活動していましたが、この度にメンバーを変えずに名義だけ変更して再始動に至ったのがCOLMAAR。
この再デビュー作では、Cult of Luna直系のポストメタルという装いを強め、迫力のある重低音と冷気を帯びたクリーントーンが楽曲を牽引。静と動のドラマティックな揺れ動きを信条としているが叙情性に比重を置いている。前身バンドで主要素を担った電子音は本作ではほとんど消え去っていて、代わりに大半の曲で主戦を担っているのはスポークンワードというのもポイント。
鈍いベースラインの上をメロディックなツインギターが重なり、昂揚感のあるラストへ向かっていく#2「Ancestrale」、まさしくCult of Lunaの系譜に連なる#3「Implacable」は強力。叙情的なスタイルを常に鎮座させながらもスポークンワードの煽りと美しいトレモロが席巻する#6「Funeste」は感動すら覚える。


Converge & Chelsea Wolfe / Bloodmoon: I(2021)

ハードコアをアートの領域まで昇華したConverge、闇夜の歌を唱え続ける女性シンガーソングライター・Chelsea Wolfeによるコラボ作。
100m走の如く駆け抜けるパートも存在するとはいえ、速度を犠牲にした鈍いスラッジメタルが基本。そこにダークかつ妖しさを加えたサウンドを用意することでConvergeは、Chelsea Wolfeを迎え入れている。
彼女も応えるように肉体と精神に来る重い打撃のような歌を響かせている。必然のコラボレーションは、ヘヴィロックの可能性を大いに開拓するものだ。


Cult of Luna / Salvation(2004)

ポストメタル黎明期といっていい1998年から活動をスタートし、歴23年を超えるスウェーデンの巨星。本作は3rdアルバムで、専任のキーボーディストが加入して7人編成でつくられた。
”Slavation = 救い”と題された中にCoLの進化を見るもので、現在に通ずる音楽性/作風を本作にて確立。曲は耐性のいる長尺な構成がほとんど。
だが、肉体的にも精神的にも重い衝撃を有しており、轟音と静寂のダイナミクスの付け方が、理想的なレベルへと引き上げられた。初めてMVが制作された名曲#3「Leave Me Here」収録。

Cult of Luna / Somewhere Along The Highway(2006)

この4thアルバムは最高傑作と評されることが多く、ポストメタル史においても最重要な作品のひとつ。
北欧のノーベル文学賞受賞者である小説家ジョン・マックスウェル・クッツェー『マイケル・K(原題:Life and Times of Michael K)』に触発され、”男性の孤独”をテーマに製作。スラッジメタルとポストロック、プログレッシヴロックの衝突による明確な産物としての巨大なサウンドとスケールに圧倒される。
16分近いラストトラック#7「Dark City Dead Man」を聴き終えれば、あなたはCoLを信仰せざるをえない。ポストメタルの大海に身を投げる、そんな時に本作は最適解のひとつ。海外メタル誌・Decibel Magazineは”2006年のベストアルバム第5位”に選出している。

Cult of Luna / Vertikal(2013)

6thアルバム。SF映画黎明期の傑作とも評されているフリッツ・ラング監督による1927年公開の映画『メトロポリス』を題材に制作。
これまでの作風からトリップホップ~ダーク・アンビエントの要素を上手く取り入れ、宇宙を思わせるスペーシーな感覚や幽玄な雰囲気が作品に漂う。それらが重さとダークなトーンを支配的にはせず、重厚な轟きの裏で絶妙な塩梅として機能している。
その上でCoLの代表曲である2「I: The Weapon」、#8「In Awe Of」を収録。綿密に構成された全10曲約66分を堪能できる。
Cult of Luna & Julie Christmas / Mariner(2016)

上記したBattle of MiceのJulie Christmasとのコラボレーション作品。コンセプトに「Space Exploration = 宇宙探査」を据える。
コラボだと相手に合わせるということを少なからず意識する点。だが、本作は鬼気迫る両者の本気のぶつかり合いによるダイナミズム/ドラマティシズムが生み出される。
静・動行き来型の平均10分の曲尺、暴力性をはらむ重低音、退廃的なメロディ、SF感が漂うシンセの装飾、空気を切り裂く咆哮。そこに加わるJulie Christmasの変幻自在の歌声。十二分に納得のいくコラボ作。


Deftones / Gore(2016)

1988年結成のオルタナティヴ・ロックの重鎮による8thアルバム。過去よりもポストメタルを感じる作風は、チノ・モレノがex-ISIS(the Band)の3名と新バンド・Palmsを始動した影響があるだろうか。
全体を通して、彼等が培ってきたヘヴィさの中に柔軟性としなやかさがある。豊かな音の広がりとそれを巧みにグラデーション化する妙技は、ベテランの追求心があってこそ。
#1「Prayers / Triangle」、#5「Hearts / Wires」は重厚なサウンドの中に浮かび上がる美しさは格別。#10「Phantom Bride」にはAlice In Chainsのジェリー・カントレルが参加。

Earth / A Bureaucratic Desire for Extra-Capsular Extraction(2009)

Earthはドローンの始祖といえる存在であり、カート・コバーン云々は永遠に付きまとう話題だが、SUNN O)))という怪物を生み出してしまった直接の要因でもある。
本作は91年にSUB POPからリリースされた1st EP『Extra-Capsular Extraction』と同時期に録音されたものを正式に音源化して追加収録した完全版。新装ジャケはSUNN O)))のStephen O’Malleyが担当。
ドゥーム・メタル、スラッジメタル、ドローンの多くの参照になっただろう重いリフの反復作用を体感可能。盛り上がりや抑揚とかお構いなしにひたすら続くリフの永続は、時間の流れそのものを無視しているようだ。
#4「Geometry of Murder」はPelicanがカバーしたことでも知られる。


Emma Ruth Rundle & Thou / May Our Chambers Be Full(2020)

アメリカの女性SSW・Emma Ruth Rundle、悪徳スラッジメタル・Thouのコラボレーション作品。Thouは重く引きずるリフを使い倒しているし、極悪な叫びも変わらず飛び交うのだが、妖しいトーンの音色を取り込みながらイケナイ暗黒感を演出。
それに輪をかけるEmmaのヴォーカルも苦しみを与えるように響く。救いがあったりなかったりする非情さだが、両者のコラボレーションの旨味は存分に味わえる。
ちなみに、Emma Ruth RundleはRed Sparowesのメンバーとしても活動していた。

Ender / Ender(2008)

ニュージーランドのインスト・デュオによる最初で最後の作品。ググっても出てこない人たちであり、出てきたとしても違う人たちばかり。サブスクにないがYouTubeで一応聴ける。
このデュオが奏でる4曲40分超の轟音の旅路は、身体を震わせる強力な圧と染みわたる様なメロディを配す事で印象深いものとなっている。
Pelicanの1stアルバム『Australasia』辺りのヘヴィなうねりがあって、重さを諭すようにメロディアスな性質を補完。当時のHydra Headからリリースされていてもおかしくない音楽性である。

