ポストメタル・ディスクガイド③
Deftones / Gore (2016)
1988年結成のオルタナティヴ・ロックの重鎮による8thアルバム。過去よりもポストメタルを感じる作風は、チノ・モレノがex-ISIS(the Band)の3名と新バンド・Palmsを始動した影響があるだろうか。
全体を通して、彼等が培ってきたヘヴィさの中に柔軟性としなやかさがある。豊かな音の広がりとそれを巧みにグラデーション化する妙技は、ベテランの追求心があってこそ。
#1「Prayers / Triangle」、#5「Hearts / Wires」は重厚なサウンドの中に浮かび上がる美しさは格別。#10「Phantom Bride」にはAlice In Chainsのジェリー・カントレルが参加。
Earth / A Bureaucratic Desire for Extra-Capsular Extraction (2009)
Earthはドローンの始祖といえる存在であり、カート・コバーン云々は永遠に付きまとう話題だが、SUNN O)))という怪物を生み出してしまった直接の要因でもある。
本作は91年にSUB POPからリリースされた1st EP『Extra-Capsular Extraction』と同時期に録音されたものを正式に音源化して追加収録した完全版。新装ジャケはSUNN O)))のStephen O’Malleyが担当。
ドゥーム・メタル、スラッジメタル、ドローンの多くの参照になっただろう重いリフの反復作用を体感可能。盛り上がりや抑揚とかお構いなしにひたすら続くリフの永続は、時間の流れそのものを無視しているようだ。
#4「Geometry of Murder」はPelicanがカバーしたことでも知られる。
Emma Ruth Rundle & Thou / May Our Chambers Be Full (2020)
アメリカの女性SSW・Emma Ruth Rundle、悪徳スラッジメタル・Thouのコラボレーション作品。Thouは重く引きずるリフを使い倒しているし、極悪な叫びも変わらず飛び交うのだが、妖しいトーンの音色を取り込みながらイケナイ暗黒感を演出。
それに輪をかけるEmmaのヴォーカルも苦しみを与えるように響く。救いがあったりなかったりする非情さだが、両者のコラボレーションの旨味は存分に味わえる。
ちなみに、Emma Ruth RundleはRed Sparowesのメンバーとしても活動していた。
Ender / Ender (2008)
ニュージーランドのインスト・デュオによる最初で最後の作品。ググっても出てこない人たちであり、出てきたとしても違う人たちばかり。サブスクにないがYouTubeで一応聴ける。
このデュオが奏でる4曲40分超の轟音の旅路は、身体を震わせる強力な圧と染みわたる様なメロディを配す事で印象深いものとなっている。
Pelicanの1stアルバム『Australasia』辺りのヘヴィなうねりがあって、重さを諭すようにメロディアスな性質を補完。当時のHydra Headからリリースされていてもおかしくない音楽性である。
envy / A Dead Sinking Story (2003)
FACT MAGAZINEによる”ポスト・メタル・レコード TOP40″の第14位に選出されているenvyの3rdアルバム。本作と次作『Insomniac Doze』がMogwaiとISISの影響を強く受けていたころで、FACTによるランキングに入ってしまうのも納得する。
ポストロックの配合比が高くなって叙情性にウェイトがかかり、電子音やポエトリーリーディングも増加して楽曲は長尺化。それでも、ハードコアとしての矜持は譲らず。
静と動の雄大なコントラスト、ドラマティックな流れを持つ代表曲のひとつである「狂い記せ(Go Mad and Mark)」を収録。
Fall of Efrafa / Inle (2006)
リチャード・アダムスが1972年に発表した小説『Watership Down(邦訳:ウォーターシップ・ダウンのウサギたちで刊行)』にインスパイアされ、独自解釈を加えた三部作の発表を目的に結成したUポストハードコア・バンド。
05~09年まで活動して解散。本作は3rdアルバムにして最終作。ハードコア~ネオクラストを主軸にNeurosisの壮絶な絶対領域に進出し、さらにはISISやGodspeed You! Black Emperor等の音楽性と精神性を加味しながら、聴き手の核心を打つ。
地底を揺るがす重厚なサウンドと鬼神の如き咆哮、そこにポストロック的なたおやかな旋律が織り込まれていく音像は脅威的。そんな7曲79分の長編作。
Fall of Leviathan / In Waves(2024)
スイスのインストゥルメンタル五重奏による1stアルバム。マスタリングはCult of LunaのMagnus Lindbergが担当。
拠点のスイスは山岳地帯に覆われた永世中立国ですが、旧約聖書に登場する海の怪物をバンド名に冠し、巨大な航海のテーマと深海にインスピレーションを得ている。
音楽的にはちょうどポストロックとポストメタルの海域を攻めるようであり、If These Could Trees TalkやAudrey Fal辺りが近しい感じ。海外誌だとMogwai + Neurosisという形容もされているが、負の感情や轟音という強烈なインパクトは約束されてない。
古典的な静と動のクレッシェンドの中で機織りのように物語を丹念に織り上げていく。その忍耐強く移ろう音で露になっていくのは海洋の神秘と厳格さが本作の肝である。
5ive / 5ive (2000)
マサチューセッツのヘヴィ・インストデュオによる1stアルバム。ISIS(the Band)のベーシスト、Jeff Caxideが参加してのスラッジメタル地獄一本勝負といった趣。
次作以降はポストロックやサイケデリック要素が注入されていくが、本作はメロディをほぼ放棄していて、黒い大河が氾濫。歪みまくりのファズ・ギターが空間をずっと圧迫している。その潔さがなんとも強烈な印象を残す。
英FACT MAGAZINEによる”ポスト・メタル・レコード TOP40”では第29位にランクイン。
5ive / The Hemophiliac Dream (2002)
“5ive’s Continuum Research Project”としてリリースされた2曲入りEP。再び ISIS(the Band)のベーシスト、Jeff Caxide が参加。5ive史上屈指のぶっ飛べる作品であり、約23分と14分の2曲を携えて圧倒的な轟音と共に宇宙を拝む。
「The Hemophiliac Dream part 1」ではUFOmammutのように宇宙と交信するような電子音を飛ばしながら徐々に音圧を上げ、7分を超えるとようやくスラッジ大津波の第一陣に飲み込まれる。まさしく”モグワイ ミーツ スラッジメタル”の大爆撃。
「The Hemophiliac Dream Part 2」では電子音メインにリミックスされており、James Plotkinmの改変が光る。
5ive / Hesperus (2008)
3rdアルバム。ゲストなしの完全デュオ編成で制作。楽曲自体はややコンパクトになっているが、#6~#7「News」は20分に及び、譲れないところは譲ってない。
スラッジメタルからの影響が色濃い重さがある中で、本作はBPMが少し速くなっているところがポイント。以前のねちっこい反復というよりは、少しスポーティな感触を持つ。
一方でポストロック的な静寂パートの美しさもしっかりと抽出。所々ですっと深層心理に訴えかけるメロウなフレーズが効果的に働く。5iveの中では最も入りやすい作品。