ポストメタル・ディスクガイド⑧
The Ocean (Collective) / Precambrian (2007)
現在はPelagic Recordsを運営するRobin Stapsを中心としたドイツの音楽集団の3rdアルバム。バンドの描きたかった音楽性とコンセプト/芸術性が作品で合致するようになったターニングポイントといえる作品。
46億年前~5.41億年前という地球の歴史の約90%を占める【先カンブリア時代】を2枚組で表現。DISC1では無慈悲なメタルサウンドを轟かせる。
DISC2ではISIS、GY!BE、Meshuggah、OPETH辺りが組み合わさり、巨大な質感を伴ったオーケストラともいうべきサウンドを展開。
8.3点を獲得したPitchforkのレビューにて、”NeurosisのヘヴィネスとConvergeの鋭さに雰囲気のあるキーボードとストリングスが融合した”と評されている。
The Ocean (Collective) / Pelagial(2013)
6thアルバムは”深海の底で見る奇跡”、自らのバンド名である【海】をテーマに据えた作品である。アルバムは曲名が海の深度を表しており、進行していく = 海底に潜行していくことを意味する。
海面から真っ暗な最深部までの旅を思慮深いプログレッシヴ・メタルと共に展開。バリエーション豊かに変転していく曲と共に、海洋の持つ多彩な表情と奥深さを知らしめる。
11曲に及んだ深海の旅路『Pelagial』は、”The Oceanの最も概念的なアルバム”とリリース元のMetalBladeは謳う。ロックメディアのLoudwireは”2010年代のベストメタルアルバム66”に本作を選出している。
The Ocean (Collective) / Phanerozoic I: Palaeozoic (2018)
7thアルバム。2年後にリリースされた次作との連作。本作は10年ぶりに国内盤が発売されており、『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代』という邦題を添えてP-VINEからリリース。タイトルは“Phanerozoic = 顕生代”。
顕生代とは約5億4100万年前から約2億5200万年前までを表す地質時代の古生代のことで、現在の生物が陸上に進出した時代だという認識で良いそう。
作品としては静と動がわりとくっきりとしたポストメタル・スタイルで3rd『Precambrian』に近い。強烈な重低音と美麗なメロディがせめぎ合う中でグロウルとクリーンヴォイスが煽動する。入門盤にもオススメできる1枚。
Ocean Districts / Expeditions (2014)
Oceanという言葉はポストメタル信仰の証か。ポストロックのパワー系といった感じのOcean Districtsは、エストニアの4ピース。
穏やかなギターや鍵盤による装飾はあれど、メタル要素が強くて小気味よい疾走感を伴う。ポストロック/メタルの定型には収まらず、どんどんと進行していくのが特徴だ。
そのうえでツインギターの鳴らし方は、ポストメタルよりかはヘヴィメタル寄りの感性がある。サウンドは迫力十分だし、想像を掻き立てるような楽曲は揃えられている。その後は2018年、2023年にそれぞれフルアルバムを発表。
Omega Massif / Karpatia (2011)
ドイツのインスト・スラッジメタル4人組による2ndアルバム。先に紹介したLentoにも通ずる重音インスト(レーベルは共にDenovali)。スロウテンポから激重リフの連続で鼓膜を蹂躙する。
Lentoに接近する重みと迫力だが、あちらほどアンビエントを取り入れてはいない。ゴリゴリのヘヴィネスとドラマティックな展開を持つ辺りは、Pelicanの1stアルバムに近いかもしれない。
しかし、あの時のPelicanよりも重音の殺力と漆黒度は高く、極端に暗い世界を描き出している。2014年に解散を発表。
Palms / Palms (2013)
DeftonesのヴォーカリストであるChino Moreno、元ISISのJeff Caxide(B)、Aaron Harris(Dr)、Bryant Clifford Meyer(G/Key)によるバンド、Palmsの1stアルバム。
ISISの最終作『Wavering Radiant』のヴォーカルがチノに置き換わったと表現すれば一番わかりやすい。平均7分を超える6つの楽曲は、揺れ動く豊饒なサウンドの上でチノの艶やかなヴォーカルが生命力を与えている。
でも、やっぱりISIS(the Band)のファンである自分からすると、思った以上にISISだ。Deftonesファンの方が本作を新鮮に受け止められると思う。ちなみにバンドとしての活動は終わってないが、現在はまるで動いてない。
Pelican / Australasia (2003)
2001年からシカゴを中心に活動するヘヴィ・インスト四重奏の1stフルアルバム。
ハードコアやスラッジメタルの素養が根底にあり、形式としてポストロックへの落とし込みがみられるが、ポストロックと呼ぶにはいささかヘヴィ。それが彼等の大きな持ち味である。
粗削りのヘヴィネスに加え、長い時間をかけてゆっくりと紡がれるストーリーが肝。#1「Nightendday」や#6「Australasia」で聴かせる壮大なサウンド、クライマックスの美しさに恍惚とする。
逆に#2「Drought」の重音でスリリングに畳みかける様は現在の彼等の音楽性に通じており、出発点となる本作はあらゆる可能性を示していた。
Pelican / The Fire In Our Throats Will Beckon The Thaw (2005)
2ndアルバム。全7曲で描かれるのは生まれ育ったシカゴの四季であり、移り変わる四季においての広大な風景。
自然の容赦ない怒りとかけがえのない美しさ、それを轟音と叙情のダイナミックなシフトにより力強く描き出す。虹色の自然叙情詩と表現できそうな圧倒的なスケールと描写。
Pelican史上最もドラマティックな楽曲といっても過言ではない#1「Last Day Of Winter」を収録。2007年頃にわたしがインストゥルメンタルを聴くようになったきっかけの作品である。
ちなみに海外の音楽サイト”Ultimate-Guitar.Com”にてWeb読者の投票による「史上最も素晴らしいインストゥルメンタル・アルバム TOP25」で16位にランクインしている。
Pelican / What We All Come to Need (2009)
4thフルアルバム。レーベルをSUNN 0)))のグレッグ・アンダーソンによるSouthern Lordへと移籍。それが影響しているのか、2~3段階増したヘヴィネスがずっしりと五臓六腑に響き渡る。
しかし、潤いのような叙情性があり、Pelicanたらしめる要素が決して薄まっていない。#2「The Creeper」、#3「Ephemeral」、#5「Strung Up From The Sky」とライヴで演奏頻度の高い曲を多数収録。
また、ラストトラック#8「Final Breath」においてアレン・エプリー(Shiner / The Life and Times)をゲストVoに迎えて初の歌ものに挑戦。新境地を切り拓いた作品となった。
Presence of Soul / All Creation Mourns (2015)
東京を拠点に活動する2人組の2015年リリースの3rdアルバム。この頃は5人編成。7年前の前作からガラッと音楽性を変えて黒く重くなった。
これまでのシューゲイザー由来の甘美幻想性に、Year Of No Lightに比肩する重音製造兵器ぶりを加算。善と悪、光と闇に焦点をあてて両極端に振れながら重く、儚く、美しい物語を紡ぐ。
Yukiのヴォーカルは女神のような慈愛に満ちた歌で寄り添い、Lauraのメンバーを含むゲスト陣がストリングスで参加。曲の終盤で壮大な希望と救済を与えてくれる。
全てを包み込むような#8「Circulation」は誰の人生にも救いをもたらす名曲(わたしはこの動画を100回近く見ている)。
海外のオンライン音楽誌 Arctic Dronesにて「あなたが聴き逃したかもしれない2015年傑作アルバム 20」の一枚に選ばれている。
Presence of Soul / Absence of Objective World (2019)
4thアルバム。メンバー脱退が相次ぎ、デュオ編成による制作。そのため本作では全5曲中4曲にてデュオ編成の中でゲストを交えており、いい意味での相互作用・音楽性の拡張につながっている。
ゆえに前作『All Creation Mourns』以上に増した重量感ときめ細かくなった黒の密度がある仕上がり。ドゥームメタル・バンドが尻込みしそうなインパクトを持つ#2「Antinomy」、”希望と破壊の確率”と題されたドラマティックな#4「Probability of Destruction and Hope」など収録。
その重さと暗黒は一層の迫力と磁場を持って聴き手を引き寄せる。絶望と希望の比重を変えながら、色を失っていく世界にPresence of Soulは一石を投じている。