ポストメタル・ディスクガイド 105作品

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ポストメタル・ディスクガイド⑦

Mare / Mare (2004)

 カナダはトロント(日本人にとっても渡邊雄太選手の活躍で近くはなった)出身の3人組による唯一の作品である5曲入りEP。

 Hydra Headからリリースされていることが前衛的であることの証左になるわけだが、スラッジメタルを基点にユニークな音響を展開している。

 ノイズ攻撃に入ったり、アンビエントの安息が訪れたり、静かな歌ものと化したり。作品中でユニークな変容を遂げていく。

 そんな本作はFACTによる ”ポスト・メタル・レコード TOP40″ では第3位にランクイン。DECIBEL MAGAZINEは本作を”24分40秒に及ぶ、ポストメタル史上最もユニークで、魅力的で、心躍るような作品“と2019年に評している

Minsk / With Echoes in the Movement of Stone (2009)

 ベラルーシ共和国の首都からお名前を頂戴したドゥーム・バンドの3作目。Neurosisの名作『Through Silver In Blood』と比較されることのある、密教的かつサイケデリックなサウンドで評価されている。

 地を這いずるヘヴィネス、妖しく進むトライバルなリズム、呪術的な声は負の深みを作品にもたらす。延々と儀式が繰り広げられているようであって、闇が爪を立てて静かに押し寄せる。

 #2「The Shore of Transcendence」は特にNeurosisフォロワーであることを伺わせる曲。

Mouth of the Architect / The Ties That Blind (2006)

 オハイオのポストメタル・バンドによる2ndアルバム。彼等もポスト・メタル・レコードTOP40にランクインするぐらいに重要バンドの一つ。

 本作ではBraian Cook(Russian Circles)がベースで全曲参加。前作を大きくビルドアップした形で、ヘヴィさとメロウさの両方を2段も3段もレベルを上げている。

 巨大な力による圧と大らかな美しさがドラマティックな進行のもとで高め合っていく曲が多く、前作に欠けていた壮大さと幅広いダイナミクスの妙を堪能できるはず。

 ISIS(the Band)『Oceani』のヘヴィネスとオーガニックな質感、Explosions in the Skyのような叙情性もここに存在する。

Mouth of The Architect / Quietly (2008)

 3rdアルバム。本作は前作から変化を感じさせるもので、虚無感の強いポストメタルとして聴いた当時は衝撃を受けたものだ。

 男臭い低音咆哮の迫力は変わらないが、ゆっくりと侵すように重音を操りつつ、余白を増した楽曲構成がはまっている。メロウな質感を加えて、アンビエントへのアクセスもあり。

 以前よりも静の美学が際立つが、背筋に薄ら寒い空気が流れ込んでもくる。それは灰色のジャケット写真による表現そのものが詰まっているかのよう。#5「Generation Of Ghosts」にJulie Christmasがゲスト参加。

➡ Mouth of The Architectの作品紹介はこちら

Morne / Engraved with Pain(2023)

 2005年に結成されたマサチューセッツ州ボストンを拠点とする4人組。本作はあのMetal Bladeとの契約にこぎつけての5thアルバム。プロデュースはConvergeのカート・バルー。

 初期から変わらずに重さと暗さで一線を超えたヘヴィミュージックを追及している。10分超の曲を3つ擁しており、絶望に対峙できない者を門前払いする威厳あり。

 作品自体は”人類が衰退していく現実を個人的にも集団的にも表現している”とのこと。”ドゥーム、スラッジ、ポストメタル。そんなジャンルやタグ付けは大嫌いだ“とMorneを主導するMilosz Gassanは語るが、単純なカテゴライズを無効化する本作は滅亡へと向かう人類への警告を打ち鳴らしている。

Nadja / Touched (2007)

 カナダのエイダン・ベイカー、リア・バッカレフによる夫婦デュオによるデビュー作。03年にリリースされているが、07年再発盤は夫婦編成で新たに再録したもの。

 ”ポスト・メタル・レコード TOP40″において第4位を獲得。だが、要素は含んでいてもポストメタル感は薄い。重厚なドローンと眩惑するシューゲイズ、身体を震わせ続けるノイズ。

 必要以上の大音量によって圧迫し続けることで生まれる恍惚感、本作にはそれがある。#2「Stays Demons」の美しさよ。

➡ Nadjaの作品紹介はこちら

Neurosis / Enemy of the Sun(1993)

 1985年から活動するこの前衛的音楽集団は、ハードコアからポストメタルへの大きな道筋を作った重鎮。前作『Souls at Zero』において実験的かつスピリチュアルな作風へと移行。

 サンプリングを多く用い、トライバルなリズム・アプローチが増えたこの4thアルバムは、さらにヘヴィで重苦しい作品へと仕上がる。それは”深化”という単語を用いたくなるもの。

 ピアノやアコースティック調などの美点を見出せるが、スラッジ・リフの重圧と苦しみの中で絞り出すように吠えるヴォーカルが、『Souls at Zero』よりも聴き手を深く捕らえようとする。

 本作がリイシューされた際の作品紹介にはこう書かれています。“Enemy Of The Sunはレコードが終わった後もずっと魂の苦悩を残すアルバムである”と。

Neurosis / Through Silver In Blood (1996)

 この記事で散々話題にあげているFACT誌の”ポスト・メタル・レコードTOP40″で第1位に君臨。そして、Terrorizer MagazineのJim Martinがポストメタルの起源としたアルバムでもある5thフルアルバム。

 スロウな展開と引きずるようなリフ、ハードコア由来の生々しい叫び。それが暗くて重くて美しいという言葉に集約されていくが、このスピリチュアルなヘヴィロックは人の内側を業火で焼くような強烈さがある。

 #1「Through Silver in Blood」、#5「Locust Star」というバンド屈指の名曲を収録した本作、語ることすら畏れ多い。

Neurosis / Times Of Grace (1999)

 傑作『Through Silver In Blood』の次の一手。スティーヴ・アルビニと共に初めて作り上げた6thアルバム。わたしにとってはこれが最高傑作。

 スロウでヘヴィというスタイルの研磨は、アルビニの助力によって生々しさと没入感を増す。重厚なスラッジリフ、トライバルなリズムパターンによって暗闇を支配し続け、シンセやチェロといった楽器は闇の信仰を手助けする不気味はハーモニーを奏でている。

 そして、#2「The Doorway」は報われない全ての人間にささげられる。

➡ Neurosisの作品紹介はこちら

O / Black Sea of Trees (2012)

 OとかいてCircleと読むドイツ/ベルギー/オランダ人などの混成バンドによる全5曲入り1stフルアルバム。

 アンビエント/ポストロックに、彼等のルーツであるパンクやハードコアのエッセンスを交えた音楽性。たおやかで美しいインストゥルメンタルが主成分でありながら黒き濁流の如き荒々しさが時たまに表出する。

 タイトルの”Black Sea Of Trees”は日本の青木ヶ原等の樹海を示している模様。ただ美しい、ただ激しいだけにとどまらないミステリアスな魅力を放っている。今は活動していない。

➡ Oの作品紹介はこちら

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