ポストメタル・ディスクガイド2
BIG|BRAVE / nature morte(2023)

カナダ・モントリオールを拠点に活動するドローン系メタル3人組の6thアルバム。タイトルは”静物画“を意味するフランス語用語より。
Southern Lord系列に連なるヘヴィネス、Thrill Jockeyに属すことを証明する実験的な構築、銃にも蜜にもなるRobin Wattieの声。#1「carvers, farriers, and knaves」から迫りくるドローンの波状とヴォーカルの気迫が聴き手をおののかせる。
最小限から最大限までの音量を用いながら紡ぐ高いアート性とダイナミクスを持つ音楽。その側面はあるが、切実な痛みを訴える音楽としての比重は大きい。


Blindead / Affliction XXIX II MXMVI(2010)

元BehemothのHavocを擁するポーランドのスラッジ/ポストメタル・バンドの3作目。全7曲45分にわたったコンセプト作で、心の病に陥った少女の世界を描いたものだという。
音楽的にはCult of Lunaを彷彿とさせるポストメタル・スタイルであり、深遠・陰鬱・崇高というワードを想起する巨大な音の壁を打ち立てる。
静と動のコントラストの中に赤ちゃんの泣き声、少年少女たちの戯れ、木琴等の音を挿入。少女のパーソナルな心情を映像的に表出しており、美しく重い作品が生み出されている。

Boris / Flood(2000)

英国のFACT MAGAZINEが2015年に発表した”ポスト・メタル・レコード TOP40″の第9位にランクインした作品。Borisといえばドローンメタルを主体に、ポップにもヘヴィにも振り切れる幅広さがある。
本作は2枚目のフルレングスで、4つのセクションから成り立つものの1曲70分という超大作。すでに96年の初作『Absolutego』で1曲60分のドローン地獄を味合わせているが、こちらはミニマル~ノイズ~プログレ~ドローンと行き交うもの。
もっとオーガニックな質感があり、海と空を思わせる雄大さがある。ポストメタル感は薄いと言えば薄いが、静と動のダイナミクスの真髄を堪能できるはずだ。

Bossk / Audio Noir(2016)

1stフルアルバム。2005年にUKケント州アシュフォードで結成されてますが、2008年に活動の過酷さから燃え尽きるように一度、解散。2012年に復活を遂げて満を持しての作品。
ポストロック~ポストメタルを主領域にした楽曲の組み立てを施した上で、曲間はシームレスに繋がっている。ひとつの物語を7つに細切れにしたという感覚があり、1曲の中でも明確な起伏に富む。
#4「Kobe」はBosskを代表する曲として君臨し、水晶のように揺らめき煌めくギターのリフレインを中心に、ポストメタル系の大爆発へとスイッチ。その雄大なコントラストは決して他バンドに引けを取らない。
本作はRoadburn Festival 2019で完全再現されており、同フェスは”時に催眠的で美しく、時に粉砕的な『Audio Noir』は、まさに旅のような作品だ”と評している。

Bossk / Migration(2021)

2ndフルアルバム。#2にてCult Of Lunaのヴォーカルがゲスト参加しているが、CoLを想起する巨大なリフの殴打、クリーントーンを中心とした叙情のパッケージング。
そこに日本のエクストリーム・ノイズ集団のENDONから3人が全編にわたって音像を書き加える。ヴォーカリストをゲスト外注した2曲以外は、サンプリングボイスを使うことあれど基本はインストで構成。
アンビエントとノイズの間を揺れ動くも劇的なクライマックスを迎える終曲#7「Unberth」は、このバンドにしか出せない荒涼とした雰囲気がある。加えて、全7曲で約42分とこの手のバンドにしては比較的短い尺なので聴きやすい。


Burst / Lazarus Bird(2008)

1993~2009年まで活動したスウェーデンのプログレッシヴ・メタル5人組の最終作5th。テクニカルメタル、デスメタル、プログレ要素の強い音楽性である。そこに効果的にスラッジメタル~ポストロックの要素が交錯。
だからかポストメタルというジャンルで言及されることもそこそこ。たおやかな叙情性は組み込まれるものの、MastodonとNeurosisとThe Dillinger Escape Planが交わったような長尺曲(平均7.5分)がアルバム全体を占める。

Callisto / Noir(2006)

フィンランドの8人組?ポストメタル集団の2ndアルバム。モダンなスラッジメタルを基調としながらも、ジャズやプログレへの軽妙なアプローチがみられる。
フルート、サックス、メロトロンといった楽器で華やぎをもたせながらも鼓膜を押し潰すような重量感を同時に持ち合わせる。静と動の揺らぎあるシネマティックなサウンドは、美しく気品さえ感じさせるものだ。
ただ、ヴォーカルはかなりデスメタル寄りのドス効きすぎ声質なので、好みが分かれそう。実験的と評されることもあるが、長年の活動を通じてポストメタルの新境地を開拓し続けている。

Callisto / Providence(2009)

3rdアルバム。全10曲約68分収録で、曲は6~7分台というほぼ固定尺で構成。また、新メンバーとしてヴォーカリスト・Jani Ala-Hukkalaが加入。
作品ごとに積極的に変化しているバンドだが、本作はずばりマイルド&美麗化。クリーンヴォイスの割合が90%以上を占め、それを活かすようにメロウなギターサウンドが主体となる。
端的には、歌ものポストロック/オルタナロック化といえるかもしれない。
バンド主導で変化を選び取っていく、実験精神のもとで常に制作を行っているのがCallistoの最大の特徴。本作は、空間への拡がりと繊細な叙情性に引っ張られながらも、重いとこは重くを貫かれている。

Codespeaker / Codespeaker(2022)

スコットランドのポストメタル系バンド5人組。”Bruising post-metal(おそらく痛切なポストメタルといった意)”を掲げて活動。本作は1stアルバム。
モノトーンの色調を持った重厚なポストメタルとして確かな存在感を放つ。Bosskの2ndアルバム『Migration』を思わせる雰囲気に加わる怒りの咆哮。メロディを中心とした緩和の要素は最小限にとどめている印象があり、生温さは感じない。あくまでフィジカルなバンドとしての姿勢を貫く作風。
内臓を蹂躙するリフ攻撃が炸裂する#2「Dagon」にしろ、ISIS(the Band)の性質を引き継ぐ#3「Fraktur」にしろ、クリーンボイスに焦点をあてた前半からブラックゲイズのサウンドへと変貌を遂げていく#7「Vrodi」にしろCodespeakerの出力の高さは証明されている。

Codespeaker / Scavenger(2024)

続く2ndアルバム。”本作は権力構造の欠点と、その矛先を向ける人々の闘いに焦点を当て、真の代替手段がないことを嘆いている。無力な人々への頌歌(しょうか)であり、この時代にふさわしいテーマだ“とリリース・コメントで説明。
Cult of Lunaの流れを汲むポストメタルを特徴に持ち、より硬質でモノトーンの色調が目立つのは変わらない。現存する中で近い存在はやはりBosskだが、音の質感的にはヴォーカルを入れたOmega Massifみたいな印象を受ける。その昔にDenovali Recordsが出してたポストメタルのライン。こう言うと伝わる人には伝わるかと思う。
重量感で破滅を運ぶリフを持ち、アンビエントと時に同盟を結び、スラッジメタル由来の野獣系咆哮が延々と続く(多少のクリーンVoはある)。ひたすらに威圧的で険しい。絶望感の強いThinking Man’s Metalと化していく#3「Rescission」を始め、終末的なトーンが全面を覆っている。

