エクスペリメンタル・ミュージックを奏でる韓国の5人組(2019年リリースの3rdアルバム以前は3人編成)。
韓国伝統音楽の国楽をポストロックやメタルと融合させながら、個性的なサウンドを提示。その音楽性が評価されてSXSWへの出演、Glastonbury Festivalを始めとした世界各地のフェス出演なども果たしています。
本記事ではフルアルバム3作品+EP1作品の計4作品について書いています。
アルバム紹介
Differance (2012)
1stアルバム。全9曲約45分収録。大学内で専攻した韓国伝統音楽、それにポストロックをベースにしながらも、オルタナやスラッシュメタル、ドゥームの要素を交錯させ、異様な緊張感が漂う不穏なムードを創り上げています。
韓国伝統楽器を組み合わせたことでインスト・ミュージックの広域化に成功したといえるかもしれません。本作の全体的な印象を言えば、静けさに重きが置かれているように感じます。ですが、エキゾチックで妖しい色味がここぞとばかりに放たれます。
玄琴(コムンゴ)と奚琴(ヘグム)の強烈な磁場に轟音ギターが絡む#1「Time of Extinction」、ヘヴィメタルの推進力にSwansのような実験精神が重なり合う#6「Hand of Redemption」など特別な爆発力のある楽曲を揃える。
一方で組曲形式の#4~#5「Paramita」や#7~#8「Empty Pupil」は静かになり過ぎるきらいがありますが、展開していくに連れて暗黒の秘境を巡るような感覚をもたらします。そして、本作においてはラストを飾る#9「Connection」が白眉。徐々にオーケストラのような壮大さで希望を奏でている。
2nd→1stの順に聴いていることもあって、音楽的に大きな飛躍と拡大を遂げた2ndアルバム『A Hermitage』に軍配は上がります。ただ、初作にしてこれほどに独自性を持った作品を創り上げたのは驚き。
その衝撃は全世界に波及。世界各地の音楽フェスティバルに出演し、名を馳せていくことになるわけです。2018年平昌オリンピックの閉会式で演奏するぐらいにJambinaiはすごい存在。
A Hermitage (2016)
2ndアルバム。全8曲約47分収録。サイモン・レイモンドとロビン・ガスリーによって設立されたBella Unionからリリースされています。
韓国といえばK-POPは華やかであり、スポーツだとフィジカルゴリ押しみたいな印象があるわけですが、Jambinaiはそういったのとはまた一線を画す存在感を持っています。
本作がここ日本でも評判なので自分も聴いてみた次第(わたしが初めて聴いたJambinaiの作品)。玄琴(コムンゴ)、觱篥(ピリ)、奚琴(ヘグム)といった伝統楽器(参照)を用いた韓国伝統音楽である国楽、それをポストロックやサイケ、メタル、フュージョンなどと融合。
自身と母国のルーツに根ざしたものをモダンに料理し、闇夜のヘヴィ・ミュージックとして確立しております。伝統楽器による東アジアの神秘性が本作では妖魔に変貌。いずれの楽曲も悲壮感や怒気を漂わせながらドラマチックに展開し、新鮮な響きと巨大な迫力を持って衝撃をもたらします。
リズミカルな玄琴とラウドなギターによって幕開ける#1「Wardrobe」から分厚いグルーヴを叩きつけ、続く#2「Echo of Creation」では中盤の冷たいグロッケンの導きから怒涛のヘヴィネスを轟かせます。
#3「For Everything That You Lost」にて伝統楽器が身を清めるように寄り添いながら、ポストロックの繊細な響きで魅了。韓国ラッパーを起用して魔のショックを与える#4「Abyss」で作品は折り返します。
軸に据えられた奚琴がもたらす悲壮感とミステリアスさに呑まれる#6「Mountain」、各楽器の激しいインタープレイが衝動を駆り立てる#7「Naburak」と後半の曲ではさらに禍々しく、スリリングに深みへ。随所で斬新かつ劇的な刺激がありますが、静寂にも耳が痛くなるほどの重さと緊張感が通底しています。
そして、ラストに迎えるは#8「They Keep Silence」。300人近い死傷者を出したセウォル号沈没事故について書かれたこの曲は、政府に対しての怒りを壮絶な演奏に乗せて解放しています。クライマックスの火花を散らすようなアンサンブルが本当に凄まじい。
実験性も盛り込んだ密な構築、ドゥーム・メタルとリンクするような重厚さ、ひたむきな情熱。ここには伝統音楽と現代のサウンドを滑らかに噛み合わせただけでは収まりきらない衝撃が詰まっています。
ONDA (2019)
3rdアルバム。全8曲約50分収録。3人からリズム隊を正式メンバーに加えた5人編成へと移行。そして何より凄まじいトピックとなった2018年3月の平昌オリンピック閉会式での演奏がありました。
本作においても大枠はそのままです。独特の音色をまき散らす伝統楽器が火花を散らすようにぶつかり、緻密に連動し合い、大きな起伏の中で異形化と巨大化を図る。韓国伝統音楽とポストロック/ポストメタル融合推進事業+エクスペリメンタル仕立て。
前作と違ってラッパーを器用するなどのギミックと実験性は薄くなっていますが、代わりにメンバーによる祈りのごとき声がほとんどの曲でフィーチャーされています。強化と洗練の果てに開かれた音楽性へと進化/深化した印象を受けます。
#1「Sawtooth」からJambinaiだと安心するような音であり、さらに強まったリズムセクションの胎動が体を揺さぶります。そして、終盤におけるすさまじいノイズの轟き。
伝統という普及の美を今の時代と統合しながら、新しきを創り上げるその手腕は強烈と言わざるを得ません。#2「Square Waves」においては明確な歌の存在感があり、本作の特徴のひとつとなっています。
ガラッとモードが変わる#3「Event Horizon」は冒頭から玄琴とドラムによる圧倒的な加速をもたらし、一旦ブレーキをかけた後、巨大なノイズの荒波へと発展していく中で奚琴が泣き叫ぶ。
さらに畳みかける#4「SUN. TEARS. RED.」は最もメタルが憑依したもの。Toolと激情系ハードコアが魔合体したスクランブルアタックのごとき衝撃です。本作における熱量のピークはここで訪れます。
この先は作品としての深みと芸術性を掘り下げていきます。本作最長となる13分超の#5「In The Woods」は、地球の汚染と温暖化への警鐘を鳴らすものです。閑雅で緊張感のある音が散り積もっていき、東洋のGodspeed You! Black Emeperorといえそうなスケールを打ち立てる。
そして、ラストトラック#8「ONDA」において多彩な楽器を用いて鳴らすのは、母なる大自然の迫力そのものの音。伝統音楽に紐づいてますが、分類不能な個性のもとでJambinaiの音楽は進化し続けていることを証明する傑作です。
Apparition(2022)
初期のセルフタイトル作以来、2作目となるEP。全4曲約26分収録。”全体としてパンデミックや世界で起こっていることのために、困難な時を生きているすべての人への慰めのメッセージを表現しようとした”と本作を説明(Bandcampより)。
2NE1への楽曲提供を行ったことがあるswja( ソヌ・ジョンア)が#2「From The Place Been Erased」にヴォーカルでゲスト参加したというトピックはありますが、韓国伝統楽器が連帯するJambinaiの絶対的方程式は不変です。
全4曲26分の中にJambinaiを短くプレゼンテーションできる品質と要素がきっちりと揃えられています。惜しむらくはあと1、2曲追加してフルアルバムとして発表した方が良かったのではないかと思うことぐらいでしょうか(シングルやEPはどうしても軽視される傾向があるので)。
”あの凍てつく底からもう一度”というタイトルが付けられた#1「Once More From That Frozen Bottom」は1st『Differance』期を彷彿とさせるような楽曲。ヘグム、ピリ、コムンゴの咽び泣くような音色とヴォーカルの多層的なハーモニーが絶妙な味わいを生み、畳み掛ける嵐のごとき序盤100秒と終盤60秒の苛烈さはこれまで以上に強力です。
一転して慎重なアプローチで巨大な建造物を生み出していく9分超の大曲#3「Until My Wings Turn To Ashes」では、ポストロック的な静動クレッシェンド構造が用いられる。Jambinaiたるゆえんは本作ですとこの2曲の貢献が大きい。
ラストの#4「candlelight in colossal darkness」はより幽玄的な雰囲気が目立ち、控えめなシガーロスちっくな希望のクライマックスを迎えることになります。
場面によってはスラッシュメタルの敏捷性、ポストメタルの質量、スラッジメタルの重圧を引き寄せながら自らの音楽を肉付けする。#2のゲスト参加はあれどJambinaiの感性は揺るぎません。疫病や紛争といった悲しみに締め付けられていく世界においても彼等は音楽で寄り添おうとしています。