アメリカ・カリフォルニア州サクラメント出身のオルタナティヴ・メタル・バンド。1988年に結成されて活動は35年以上。97年リリースの2ndアルバム『Around the Fur』を出世作に新進気鋭のニューメタル・バンドとして名を上げます。
2000年発表の3rdアルバム『White Pony』ではヘヴィロック界のレディオヘッドの異名をえるなど評価を獲得。2008年にベーシストのチ・チェンが事故により重体(2013年に逝去)という最大の悲劇を訪れるも活動を継続し、以降も継続的に作品を発表しています。現在でもオルタナティヴ・シーンの大御所として多大な影響力を持つ。
本記事はこれまでに発表されているオリジナルアルバム全9作品について書いています。
アルバム紹介
Adrenaline(1995)
1stアルバム。全11曲約47分収録。マドンナのレーベルであるマーヴェリック・レコーズ(後にワーナーに買収される)からリリースされ、プロデュースはテリー・デイトが務めている。
始まりが#1「Bored(退屈)」というタイトルなのに、ヘヴィなリフとチノ・モレノの歌が退屈をぶっ飛ばしてきます。静動のコントロールを施した大波小波の連続。ただただメタリックな重圧と強度に頼らず、暗鬱なメロディを忍ばせており、怒りと衝動の表現の中にナイーヴな情感を晒します。
当時はニューメタルという言葉がもてはやされる前段階の時期。ですが分厚いリフの応酬、ミドルテンポを中心としたリズムワークを下支えにしたバンドの基盤はできあがっている。
そして核となるヴォーカリストのチノ・モレノは当時から随一の力量を示しており、感情を込めたスクリームから艶やかな歌もの、口ずさみやすすり泣き、それにオリジナルアルバムでは数少ないラップも披露しています。
荒削りな部分もあるとはいえアルバム全体を通した陰影があり、#3「One Weak」は憂鬱を加速させるベースラインから始まって叙事的にも攻撃的にも振る舞い、シューゲイザーを彼等流に改編した#11「Fist」の存在感も大きい。
そしてMVが制作されている#7「7 Words」は跳ねるようなリズムに乗せてラップとシャウトが繰り出される傑出曲。アドレナリンというタイトルも納得できるほどホルモン分泌が促されます。
Around the Fur(1997)
2ndアルバム。全10曲約41分収録。”より洗練されたものを目指す”という志のもと、バンドの地位を確立した出世作です。#1「My Own Summer」、#6「Be Quiet And Drive」というSpotify再生回数2億を超える2大巨頭を擁します。
大枠は前作を踏襲するものですが、ヒップホップ的な部分は薄まる。代わりにニューウェイヴ~ダークな雰囲気を感じさせるようになりました。それらがシンプルに統合されていて、HelmetやHUMといったUSオルタナ勢からの影響に加え、The Cureのような暗さの中に美を見出す感覚があります。
鼓膜を殴りつけるようなリフにどっしりとしたリズム。そして憂いあるメロディ。繊細さと激しさを行き交うダイナミズムは洗練され、チノ・モレノはエモーショナルなシャウトから色気と艶のある声まで操りながら、Deftonesを孤高へと押し上げています。
特に表題曲#4「Around The Fur」は圧倒されるパフォーマンス。また#9「Headup」にはSepulturaのマックス・カヴァレラが参加していますが、本作中で一番ニューメタル~グルーヴメタルっぽい。
重量感に満ちた中にもなめらかさや暗鬱な表情を実現している辺りはバンドの特色のひとつ。前述の#6「Be Quiet And Drive」はステーキとデザートを両方同時に味わっているような贅沢さがあり、Deftones入門へと誘うキャッチーさを持つ1曲です。
White Pony(2000)
3rdアルバム。全12曲約52分収録。タイトルはコカインを意味するスラングから来ていますが、性的な意味合いやジャケットのような白い馬も含まれる。前作から参加したフランク・デルガドが正式メンバーとして加入。
ヘヴィの中に知性を感じさせるバンドとしての評価を確立した作品であり、前作と本作で最高傑作はどちらか?と議論される。”ヘヴィロック界のレディオヘッド”なる形容がされだしたのもこの頃。
重量級サウンドは少し抑えめにシューゲイザー、インダストリアル、トリップホップの補強で空間を彩ります。また荒穏・硬軟・静動のコントラストを手中に収めながら、Deftonesを表すうえで使われる”浮遊感”が強まってきた点も挙げられる。
#3「Degital Bath」はその影響を感じさせ、アンビエンスとラウドの海峡を行き交いながらエモーショナルな歌声に魅了されます。チノのヴォーカルはよりセクシーな表現に磨きがかかっており、バンドが醸し出す官能性にも繋がっています。
従来のサウンドの拡張もみられ、#5「Rx Queen」は重いパーカッシヴなエフェクトとクールさを売りにし、#8「Knife Prty」にてフィーチャーされるスクラッチ音と女性コーラスが新鮮な魅力を振りまく。また#10「Passenger」にはToolのヴォーカリストであるメイナード・ジェームズ・キーナンが参加し、ミステリアスな世界へと誘います。
なお本作はローリングストーン誌が2017年に作成した”歴代最高のメタルアルバム100選“にて第66位にランクイン。また#4「Elite」は2001年の第43回グラミー賞で最優秀メタル・パフォーマンス賞を受賞しています。どれを聴くか迷ったらまずは本作から。
Deftones(2003)
4thアルバム。全11曲約47分収録。デビュー時からタッグを組んだテリー・デイトのプロデュースは一旦ここまでとなります。国内盤帯には”究極のヘヴィネスと美旋律に酔いしれる”との言葉が躍る。
確かにサウンド的にはヘヴィさが増していて、さらに低いチューニングを採用(海外wikipediaを参照するとG#チューニングの曲が多い)。ジャケットのようなダークな雰囲気が強まったのに加え、チノ・モレノが狂人と化したシャウトを叩きつけます。
もちろん色気と哀切のこもった歌は健在ですし、ニューメタルと簡単に言わせねーよ的なブレンド型ヘヴィロックの味はDeftonesならでは。
重量感とまろやかさのマリアージュである#1「Hexagram」、シューゲイザーの浮遊感と艶やかな歌声が心地よさへ導く#3「Minerva」、どこかわびしい表情を与えていくベースラインをリードにしんみりと歌い上げる#5「Deathblow」と聴き応えは十分です。
前々作、前作と立て続けに傑作を連発してきた中で本作でも面目躍如の内容で、後半には新境地を切り拓く楽曲を収録。#8「Lucky You」は電子音を中心にトリップホップ的に編まれ、#10「Anniversary Of An Uninteresting Event」ではレディオヘッドに近い表情を見せています。
Saturday Night Wrist(2006)
5thアルバム。全12曲約52分収録。プロデュースにボブ・エズリンを迎えて制作。”ヘヴィな曲はとてもヘヴィでアグレッシヴ、甘く風変わりな曲はよりそのように仕上がっている。多くの人は『ホワイト・ポニー』ときっと比較するだろ。なぜならこれはデフトーンズの中でもっとも多様なレコードだから“とチノ・モレノは語ります。
制作時にはバンド内での不和があり、#1「Hole in the Earth」の歌詞ではチノがバンド内への不満をぶちまけている。そんな内部の緊張状態によってもたらされた多彩さは本作の味噌。シューゲイザー、ポストメタル、エレクトロニクス、アンビエントの質感をかみ合わせ、それに合わせて歌ものとしての魅力も引き出されています。
もちろん彼等らしいゴリゴリのヘヴィネスや強靭さは健在。#2「Rapture」や#8「Rats! Rats! Rats! 」のように肉弾戦車で興奮へとナビゲートする曲は強力です。
その上で目立つのは儚さやしなやかさ。そして上品さ。ポストメタル的な轟音の波動に大人のフェロモンを撒き散らす歌が乗る#3「Beware」、ソフトとラウドの軽やかな交歓の中で甘美な歌を重ねる#4「Cherry Waves」といった曲のメロウな味わいに惹かれます。また#5「Mein」にはSystem of a Downのサージ・タンキアンが参加。
トリップホップ風の妖しげなビートの上に女性歌手であるアニー・ハーディの朗読を乗せた#9「Pink Cellphone」は”らしくなさ”で色味を増やしている。重厚なエッジを確保しつつ、聴き手を”いなす”妙味。そこが『White Pony』の焼き増しではない進化の形です。
Diamond Eyes(2010)
6thアルバム。全11曲約41分収録。ベーシストのチ・チェンが交通事故で意識不明の重体となり(その後の2013年に死去)、制作途中だった新作『Eros』の完成を無期限延期。Quicksandのセルジオ・ベガをベーシストに迎え、全くの白紙から本作を完成させています。
”楽観的で、希望に満ちたアルバムを作ることができた“と激ロックのインタビューでドラマーのエイブ・カニンガムは回答。特徴としては全曲を3~4分台にまとめ、エネルギッシュでいて重厚。作品を出すごとに肥大化していった音楽性をここでいったん整理した印象を受けます。
言うならばコンパクト・スタイリッシュ・ゴリゴリ。それでいて8弦ギターの導入や変則的なリズムを携える新たな開拓もあり、ヘヴィネスで圧しまくる即効性は序盤の#1「Diamond Eyes」から#4「You’ve Seen the Butcher 」までで特に感じられるはず。アルバムからのリード曲#7「Rocket Skates」の嵐を思わせるリフとシャウトは強烈という他ありません。
しかしながらメタルという感じではなく、オルタナティヴな感覚であるのがDeftones。アグレッシヴにエンジン吹かすだけじゃなく、専売特許ともいえる独特の妖艶さを上手く折衷しており、#5「Beauty School」や#8「Sextape」でまろやかな味変をできる辺りが巧み。
エキゾチックな魅力を振りまく終盤2曲で終わるのも新鮮です。国内盤帯には原点回帰という言葉も見えますが、これまでとこれからを明示した作品。フクロウは知っている。このヘヴィネスの意義を。
Koi No Yokan(2012)
7thアルバム。全11曲約52分収録。”Koi No Yokan = 恋の予感” 声に出して読みたいこちらは邦題ではなく、正式タイトルです。
激ロックのインタビューにてエイブ・カニンガムは”英語には訳せない日本語の言葉だよね。多くの人々は、自分の運命の相手を探しながら人生を歩んでいると思う。一目惚れとは違う特別な感情だよ。ほとんどの人はその特別な何かを人生の中で探している“と話す。#2「Romantic Dreams」なんて曲があるのも無関係ではないでしょう。
作風としては前々作『Saturday Night Wrist』の雰囲気に戻る。前作の即効性の高いヘヴィネスは控えめに、ニューウェイヴ~エレクトロニックな意匠が目立ちます。キーボードがもたらす柔らかさと近未来感はいい塩梅となっており、本作随一の威圧的なリフをいなす#8「Gauze」にそれが表れている。
#5「Emtombed」や#9「Rosemary」辺りは時折クラウトロックを感じさせる空間・時間軸の表現の上で、チノの伸びやかな歌声と重厚なサウンドが映える仕上がり。押し引きのバランスを図りながら、重厚な中に軽やかさと浮遊感をもたらす。そのしたたかな美味は冴えわたっています。
”直球のアグレッシヴさと、何か美しさを感じさせるもの、そういった俺達の持つダイナミズムが、今作である意味ピークを迎えた、とも言えるんだ“と本作についてチノは語っています。
そのダイナミズムに加えてこれまでよりもメロウな風合いが増した本作。Deftonesに心のときめきを覚える入門作になるかもしれませんよ。
Gore(2016)
8thアルバム。全11曲約48分収録。2013年にはチノ・モレノが元ISISの3人衆とのバンド・Palmsへ参加。彼の艶やかさとセクシーさ、糖度の高いヴォーカリゼーションはとても魅力的であり、ISIS+Deftones以上の内容を引き出しておりました。
本隊であればコンパクトな楽曲の中での転結が優れていますが、重厚なサウンドの中に浮かび上がる美しさはやはり専売特許。聴けば聴くほど味が出る。
#1「Prayers / Triangle」、#5「Hearts / Wires」はまさしくという感じ。アルバムの中でアクセントとして機能しています。こうした叙情的なアプローチが効いた曲には、ヘヴィさの中に新体操選手ばりの柔軟性としなやかさを感じさせますね。付け加えるならばポストメタル感が一番強い作品にはなっている。
ただ#3「Doomed User」や#9「Gore」におけるギターの猛烈なうねりからは決して過去を置き去りにしてないことを示唆しています。獰猛な感触が残してるんだぞと言わんばかりに。
さらにはAlice In ChainsのJerry Cantrellが参加してグランジを香らせる#10「Phantom Bride」も用意。豊かな音の広がりとそれを巧みにグラデーション化する妙技は、ベテランの追求心があってこそ。洗練を重ねる中で同じ作品を生み出さないのは変わらずにスゴいですね。
ちなみにチノ・モレノは本作については”シンガーがモリッシーを演じ、ギタリストがメシュガーを演じている”という言葉を残している(Rolling Stone誌のインタビューにて)。でもポストメタル的な意匠の方が強くね?とは感じています。だから私は本作が一番好きなんですよね。
Ohms(2020)
9thアルバム。全10曲約46分収録。初期4作のプロデューサーであるテリー・デイトを召喚して制作しています。タイトルのOhmsについて”物事のバランスと極性だよ。Deftonesには陰と陽の表現が常にある“とKerrang!にてチノは回答。
前作のポストメタル感は薄まり、バンドが歩んだ歴史そのものを凝縮したような音楽でつづられます。直接的な重量感の回帰、キャッチーな軽やかさ、妖艶/官能的な空気感、ドリームポップ/ポストロック的な甘美さと浮遊感、エレクトロニックな風合いなど。
錬金とアイデアの下で醸成されたオルタナティヴ・メタルはやはり彼等ならでは。メリハリ/バランスといい、適材適所の歌と音の配置といい、カイゼンの上で果たされた”集大成”という表現が最も似合う作品です。
それでもラストを飾る#10「Ohms」の最後には”時が経っても変わらない。俺たちはそのままだ”と歌う。活動は30年を超えても突き進み続けるバンドとしての誇りを感じます。
なお本作はアメリカのメタル雑誌であるRevolverの”2020年の年間ベスト・アルバム TOP25“の第1位に輝いている。