アメリカ・ボルティモアのポストハードコア・バンド5人組。2006年結成。バンド名は過去在籍したドラマーによって名付けられたが、響きを重視して決めたために特定の意味は持っていない。
09年に発表した1stアルバム『Old Pride』が話題を呼び、Topshelfと契約。2ndアルバム『The Lack Long After』を11年に同レーベルから発表。初期はポストハードコア/スクリーモ・スタイルとして人気を博します。
3rdアルバム『Keep You』から音楽性を変化させ、ヴォーカルはスクリームを封印。オルタナ/ポストロック寄りの歌ものを披露していくことになりました。現在までに5枚のフルアルバムをリリース。最新作は22年8月末に発表した5thアルバム『Drift』です。
本記事ではこれまでに発表されている全フルアルバム5枚について書いています。
アルバム紹介
Old Pride(2009)
1stアルバム。全8曲約36分収録。ポストロックを煌めかせたスクリーモ/ポストハードコアという印象を与え、生々しい感情の爆発が何度も何度も起こります。日本的に言えば激情系といわれるものであり、小刻みな変化とたぎる情熱が絶えず供給され続ける。
なかでも根源となるKyle Durfeyの叫びは、荒削りで切迫感に満ちています。海外メディアではCity Of CaterpillarとExplosions In The Skyをミックスしたという評もありますが、メロディが機転を利かせる中で損なわれない瞬発力と熱量は持ち味。
また6,7分もある長尺曲が2曲あり、envyを彷彿とさせるようなダイナミックさと決定的な瞬間を生み出しています。
Kyleが担当する歌詞は、wikipediaを参照すると”若者には若い炎があって、自分の人生について正しく感じるには古い誇りを持たなければならない“ということがメインに書かれているそうで、それは本作のタイトルにも表れている。
特に#6「Cripples Can’t Shiver」は、多発性硬化症に罹った父親のことを描いたものです。そして、8分近くに及ぶ最終曲#8「Young Fire」はモグワイライクなインストを披露しており、若さという炎を燃え上がらせています。
The Lack Long After(2011)
2ndアルバム。全8曲約37分収録。さらにダークでヘヴィになるというバンドからの予告がありましたが、デビュー作と変わらずに蒼いエモーションが迸る。その上での洗練があります。
EITSばりのポストロック・セクションを効果的に用いながら、ダイナミックな爆発力と生々しい感情のぶつかり。ディストーションの歪みやメロウなアルペジオ、タイトで力強いリズム、強烈なスクリームを中心として、暴力的ながらも優美さが共存するスタイルは一層磨きがかっています。
最もエネルギッシュな#1「I’ll Be Dammed」から美しくエモーショナルなラストとなる#8「I’ll Get By」まで通すと、その熱量の前に感情のチューニングが乱れてしまう。
本作のメインテーマは”(疎遠や他界などで)人が自分の人生から去っていくこと“だそう。実際にKyle Durfeyはこの年の4月に父を亡くしています。それは#5「Liquid Courage」にてアトモスフェリックな音像の裏で追悼の意を表している。
全体的にも喪失感や死が反映されていますが、Kyleの叫びには生々しい情のうねりがあります。初期スクリーモスタイルの到達点。
Keep You(2014)
3rdアルバム。全10曲約43分収録。名門・Epitaphに移籍して発表です。ポストハードコア/スクリーモ的なサウンドで強く支持されていた PBTTが、ここにきて大胆なモデルチェンジ。歌とメロディに焦点を当てて”聴かせるアルバム”を作り上げています。
ギタリストのMike Yorkは、ハードコア系のバンドよりもThe Nationalに影響を受けたという本作。トレードマークであった叫びを一切入れておらず、ギターもリズムもしなやかな響き。
まるでUKロックのような気品をまとう#1「Ripple Water Shine」、遠くの海を眺めるような哀愁漂う#2「April」とつかみの段階で、じっくりと聴きいってしまう。
Braidや Circa Survive等を手がけるWill Yipがプロデュースしたことが大きく影響しているのでしょうが、以前からのポストロックやシューゲイズの要素がさらに磨かれて、大人びた歌と融和することで”叙情派”としての新しいバンド像を確立しています。
#5「Repine」や#10「Say Anything」を聴いていると、”これはPBTTに求めてた音楽じゃない”という意見を優しく洗い流す。間違いなく彼等のターニングポイントとなる重要作。
ちなみにタイトルの「Keep You」は”誰かが常にあなたの一部である”というKyleの考えに基づいている。
Wait For Love(2018)
4thアルバム。全10曲約46分収録。前作に引き続きWill Yipがプロデュースしており、作風も地続きでインディー/ポストロック系歌ものが中心です。
全体的なメインテーマは、”様々な人との生活を通して愛を与えたり受け取ったりする方法と、それが人間関係にどのように影響するかということ“とKyle DurfeyはNEW NOISE MAGAZINEのインタビューで語っています。
彼自身が父親を亡くしたこと、結婚したこと、父になったこと。それらの経験を通して感じてきた愛を表現しています。前作と比較するならば、躍動感とキャッチーさが増しています。
先行シングルになった#2「Charisma」は太いベースラインから始まってパワフルなアンセムとして響き、#3「Bitter Red」は心地よいテンポや口ずさみたくなる歌と共に温かい空気で満たしていく。
以降の曲ではメランコリックなフォルム、アトモスフェリックな意匠、ゆったりとしたテンポを維持した曲が多い。そして、#9「Love on Repeat」~#10「Blue」でロマンティックな響きと家族へのまなざしを向けて締めくくられる。
本作は『Keep You』で確立したサウンドをより強固なものにしていると言えます。
Drift(2022)
5thアルバム。全10曲約37分収録。メインコンポーザーのギタリスト、Mike YorkはNEW NOISE MAGAZINEのインタビューで下記のように語ります。
”このレコードは長い夜のような浮き沈みがあるように感じる。たそがれ時に始まり、夜の最も深い闇の部分へと突き進む。レコードが終わるころには、ゆっくりとまた光のピークを迎え始めるんだ。そして誰かの内なる独白を聞いているような感覚がある“
前2作と比較すると感じるのは、曖昧さと余白。小刻みなリズムこそ力感を与えています。しかし、ギターは空間に溶け込むようであり、茫洋としたサウンドスケープを生み出しています。これは1960年代のEchoplexアナログテープエコーで録音した影響が大きいそう。
それでも変わらずにKyle Durfeyの歌は中心であり、さらにモリッシーに近づいたセクシーで艶のある声でまどろみに誘う。本作の歌唱については諭す/語りかけるような表現にも思えるし、聴き手の心に踏み込んでくる詩的さがある。
#4「Easy」は何度も題材にしてきた病気の父とそれを受け止める自分についてしっとりと歌い上げ、#7「Skiv」は穏やかな歌と重層的なうねりに包まれる。そして、日の出を迎えるような安堵と美しさに満ちた#10「Pair」の温かい最期。
ひとり人生の意味について思索にふけるとき、このアルバムはずいぶんと沁みこんでくる。
どれを聴く?
Pianos Become The Teethに興味が湧いたのですが、どれから聴くべきでしょうか?
PBTTは途中でスタイルが変わっているので、激情系といわれるハードコアの初期、叫ぶのをやめたそれ以降で1作品ずつ選びました。
わたしとしては『Drift』を万人にオススメしたいですね。