2005年にスイスで結成された5人組。闇の最も深い部分に到達し、名状しがたいものを表現する方法を探すことをコンセプトに掲げて活動。
本記事は3rdアルバム『Vilagvege』について書いています。
アルバム紹介
Myrra, Mordvynn, Marayaa(2008)
1stアルバム。水しかなかった時代の世界の創造を発見することを目的にした物語。
Heliogabalus(2010)
2ndアルバム。ローマ帝国第23代皇帝である”ヘリオガバルスの退廃”を描いた全4パートにまたがる1曲70分の大作。
Vilagvege(2013)
本作は3rdアルバム。世界の終わりをテーマにしています。
淡々としたドラムの進行と薄く広がるノイズ音が鳴り響く#1「Ⅰ」から身体の芯から恐怖が忍びより、次に炸裂するはドゥーム/スラッジをベースとしたどす黒い重音と凶暴な咆哮。#2「D」は、お決まりのスロウテンポと共に9分半をかけてゆっくりと聴き手を痛めつけてきます。手加減は一切ない。
続いての#3「Ⅱ」ではここまで我慢していたブラスト・ビートを解禁して重轟音と激速でタコ殴りの刑に処す。絶えず猛攻撃を仕掛けてくる無慈悲さがあります。遅さと速さ、これらを研究し尽くした上での破壊力というのが尋常ではなく、それが顕著に表れているように感じる#7「Ⅵ」では嫌らしい緩急を使って悪夢を見せます。
かと思えば、音による拷問#4「Ⅴ」やブラックメタル風のアプローチが印象的な#6「Ⅶ」の終盤で、サンプリングされたオペラが流れ、大仰ゴシックな演出が不穏な空気と緊張感をさらに高めていく。キチガイ染みたアグレッションに特化しながらも、計算された仕掛けが恐ろしいところ。
激速の序盤からひたすら遅く重く圧し掛かってくる最終曲#8「Ⅷ」に至るまでの全8曲。同郷の大先輩であるCeltic Frostの終末観を引き継ぎながら、煉獄の音は容赦なく続く。ThouやPrimitive Manといったバンドと同様に、腹を括って聴くべき作品。
Creon(2016)
4thアルバム。”ギリシャ神話”をテーマにすえたコンセプト・アルバム。収録4曲すべてが10分越え。
Muladona(2019)
5thアルバム。作家のエリック・ステナー・カールソンが2016年に発表した同名の小説を原作とした作品。
Silence(2023)
6thアルバム。全8曲約41分収録。ジャケットは18世紀のスイスの画家・Fleの『Silence』を使用(Veil of Soundインタビュー動画 13:57~辺り参照)。
”希望の欠如によって何もすることも言うこともなくなった時、最終的に残る唯一のものは絶対的な沈黙”という考え方をテーマに据えています。歌詞は全てがある人の長年にわたる悲観論を反映したもの(前述インタビュー15:00~)。
その幕開けの#1「Early Mourning」の冒頭の詞、”光が燃えている 肺が痛みで悲鳴を上げている 地獄の世界が待っている”から待つのはブラックメタル~グラインドコア~スラッジメタルが混合した苦痛の海です。まるでフランスのCelesteとKhanateがフュージョンしたような非情さ。
前作と同じく10分越えの曲はないですが、2分から9分までの短・長距離それぞれのルートで希望を踏みにじります。スピード違反上等な爆速をメインにトレモロリフやブラストビートで駆け上がることは多いですが、場面を限定しながらも緊張感あるドローンや薄ら寒いエレクトロニクスが耳への猶予は与えている。
エクストリームメタルと呼ばれるようなフィジカル面の強度の高さ。その上で思想面にも深く踏み込んでおり、前述したように詞が内省を促してくる。
劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲『焼け焦げるたましい』から引用された#2「Childhood Is A Knife In The Throat」は、幼少期に受けた心の傷がいかに深くて痛ましいか、それがいかにして人の運命を決定づけるかについて歌う。
9分半にわたるスラッジ・アート#8「No Alleviation, Even in Death」を締めくくる最後の一節は”永遠の地獄から 死んでも軽減されない”。この悲観の前にあなたは正気を保てるか。地獄執行人たちは沈黙の奥で美と滅の追及を続けている。
希望はキメラである。希望とは幻想である。
希望という概念そのものがついに消え去ったとき、ただ沈黙だけが残る。沈黙だけが残る。
Rorcal公式Bandcampより一部引用