ポストメタル・ディスクガイド10
Presence of Soul / All Creation Mourns(2015)

東京を拠点に活動する2人組の2015年リリースの3rdアルバム。この頃は5人編成。7年前の前作からガラッと音楽性を変えて黒く重くなった。
これまでのシューゲイザー由来の甘美幻想性に、Year Of No Lightに比肩する重音製造兵器ぶりを加算。善と悪、光と闇に焦点をあてて両極端に振れながら重く、儚く、美しい物語を紡ぐ。
Yukiのヴォーカルは女神のような慈愛に満ちた歌で寄り添い、Lauraのメンバーを含むゲスト陣がストリングスで参加。曲の終盤で壮大な希望と救済を与えてくれる。
全てを包み込むような#8「Circulation」は誰の人生にも救いをもたらす名曲(わたしはこの動画を100回近く見ている)。
海外のオンライン音楽誌 Arctic Dronesにて「あなたが聴き逃したかもしれない2015年傑作アルバム 20」の一枚に選ばれている。

Presence of Soul / Absence of Objective World(2019)

4thアルバム。メンバー脱退が相次ぎ、デュオ編成による制作。そのため本作では全5曲中4曲にてデュオ編成の中でゲストを交えており、いい意味での相互作用・音楽性の拡張につながっている。
ゆえに前作『All Creation Mourns』以上に増した重量感ときめ細かくなった黒の密度がある仕上がり。ドゥームメタル・バンドが尻込みしそうなインパクトを持つ#2「Antinomy」、”希望と破壊の確率”と題されたドラマティックな#4「Probability of Destruction and Hope」など収録。
その重さと暗黒は一層の迫力と磁場を持って聴き手を引き寄せる。絶望と希望の比重を変えながら、色を失っていく世界にPresence of Soulは一石を投じている。


Red Sparowes / At the Soundless Dawn(2005)

ex- ISISのブライアント・クリフォード・メイヤー率いるバンドの1stアルバム。初期には元Neurosisのヴィジュアル担当であるジョシュ・グラハムが在籍。
“種の絶望”というのをコンセプトに緻密な構成を施し、ポストロック寄りの柔らかさと叙情性が根幹にある。
バックボーンにあるヘヴィは継承されていて、暗く沈みがちな雰囲気を湛えた中でも、透明感に溢れた美麗なサウンドスケープを紡ぎだす。
意識を不思議と引きつけていくオーガニックな質感は、ISIS(the Band)譲りといえる。

Red Sparowes / Fear Is Excruciating But Therein Lies the Answer(2010)

3rdアルバム。ジョシュ・グラハムが脱退。上述した女性シンガーソングライター、エマ・ルース・ランドルがギタリストとして加入。再編成された5人組での制作。
2ndアルバムから比較すると、暗く沈んだ世界からは再浮上したような彩度/明度を携えている。
とはいえ万物の湿った部分にこびりついた哀しみや憂いを拾い上げながら、音に反映させていくかのようなインストという手法に変わりなし。
1stアルバムよりも洗練された美しさを持ち、音のひとつひとつをとっても柔らかい質感や温かみがある。ポストロックへの歩み寄り。


Rosetta / The Galilean Satellites(2005)

宇宙や天文学を背景に哲学的でスペーシーなポストメタルを展開するRosetta。03年から活動する彼等の1stアルバム。タイトルはガリレオ衛星で、木星の4つの衛星のことを指している。
驚異的な轟音と繊細にたゆたう叙情を両手に携えて、銀河をドラマティックに脅かすサウンドは先人達を倣った上で個性を発揮。
長尺ながら静と動の巧みな押し引きによる展開、そして前述したスペーシーな空間構築と浮遊感はRosettaの大きな武器となっている。
本作は2枚組作品で、DISC2はアンビエント/ノイズ/ドローン編となっており、2枚同時に書けると疑似的宇宙遊泳になるとかならないとか。

Rosetta / Wake/Lift(2007)

2ndアルバム。ポストロックとシューゲイザーの錬金だけでは到達しえない空間演出の妙が冴えわたる作品。
空間系のエフェクトを多用したスペーシーなサウンド・メイキング、静と動によるダイナミックな展開は1stアルバムを遥かに洗練したもの。
ヘヴィかつアトモスフェリックに紡ぐ宇宙賛歌、ポストメタルと共に行く宇宙紀行。ガリレオ衛星(1stアルバムのタイトル)を超えた先の天文を本作にて見つけたといえる。バンドを代表する名曲「Wake」収録。

Rosetta / Utopiod(2017)

6thアルバム。タイトルは理想郷を意味する「Utopia」、依存症を生じやすく離脱症状や過剰摂取により、アメリカにおいては薬物中毒死の半数近くを占める医薬品「Opioid」。ほぼ正反対の意味を持つ2つの言葉を組み合わせた造語。
一人の人間の誕生~死まで。喜怒哀楽の感情を楽曲によって塗り分けて描き切っており、最もコンセプチュアルかつ内省的な作品となった。
理知的でメロウなポストメタル系への転質。それが人の感情と共鳴し、人の人生と共鳴する。彼等のディスコグラフィーにおいて常に内在していた”空間と宇宙”は、もちろん本作でも健在。


Russian Circles / Station(2008)

シカゴのインスト・トリオによる2ndアルバムは、最高傑作と評す人が多い名作。ゆえに彼らの名を世界に知らしめた作品だ。
音楽的にはポストメタルというよりはポストロック方面へやや傾いていて、メロディを磨き上げながら1stアルバムよりも構成を練り、壮大なドラマを描いている。
マスロックの構築美を反映させながらギターリフで押すスタイルは本作でも垣間見え、3人とは思えない重量感とレイヤー構築を堪能できる。
インストゥルメンタルを独自の美意識で昇華させた#5「Youngblood」はポストメタル系インスト最重要曲のひとつ。

Russian Circles / Memorial(2013)

5thアルバム。重厚かつ繊細なドラマを全8曲約38分間で実現しているのが特徴であり、それぞれが独立した曲ながらもコンセプトアルバムのような雰囲気を持つ。
堅牢なまでに貫かれたプログレッシヴな構成、鉄壁のアンサンブルが昂揚感を煽るが、憂いと湿り気を帯びたダークさがあるのも本作ならではの色合い。
締めくくりの#8「Memorial」には新世代ゴシック・クイーン、Chelsea Wolfeをゲスト・ヴォーカルに招く。彼女の霧がかった儚い歌声と優美なギターの音色が揺らぎのあるミステリアスな空間を創り上げている。彼等のカタログで最もバリエーションが多彩な作品。

Russian Circles / Blood Year(2019)

7thアルバム。上記した『Station』からはメタルとミニマル要素が強まり、”ポストメタル is ストイック”なる削ぎ落としの美と重を体現する。
バンドの芯の部分をSASUKEオールスターズ並にストイックかつタフに鍛え上げ、リフで押して圧しての精微重厚インストゥルメンタルに開眼。
仙人化していくマイク・サリヴァンのギターと階級を上げ続けるブライアン・クックによるベース、それを束ねるデイヴ・ターンクランツの圧巻のドラミング。
アンサンブルの強度が増して、リフの嵐はひたすら耳の説得を試みてくる。2020年2月末、世界が新感染症に蝕まれるギリギリのタイミングでの来日公演を体感できたこと。それをわたしは一生忘れないでしょう。

