フランスの激情系ハードコア・シーンにおけるヒーローである、Daitroのメンバー4/5が参加するエモ・バンド。本家の裏プロジェクト的だった側面から、Daitroの活動停止に伴って本格化。2014年には3年ぶりとなるフルアルバム『Totem』をリリースしました。
本記事は『Totem』について書いたものです。
Totem(2014)
フランスの激情系ハードコア・シーンにおけるヒーローである、Daitroのメンバー4/5が参加するBaton Rougeの約3年ぶりとなる2ndフルアルバム。エンジニアには、Godspeed You! Black Emperorの新作のマスタリングを担当したHarris Newmanを起用。国内盤は、幣サイトでもお馴染みのlonglegslongarms(3LA)より発売となっています。
世界を狂喜させたDaitroの波動については、筆者は『Y』のみしか体感できていません。こちらのプロジェクトは本作にて初聴き。初期は”インディー・ノイズ・パンク”と名乗って活動を推し進めていたそうですが、本家の『Y』の延長線上にあるものに感じられます。
空気を焦がすアグレッシヴなハードコアの要素は控えめに、その分をナイーヴな音色に変更していて情感的な仕上がり。轟音ギターを交えながらエモ中心部を射抜く#2「Côte du Py」、哀愁を帯びた旋律と青臭いエモーションが興奮に火をつける#3「Cours Tolstoï」と序盤の曲で早くも熱い濁流の中へ。確かにエモ色は強め。その上でインディーロックやポストロック、ポストハードコアも一本道で繋げています。
完全にGY!BEしている2分半の表題曲#5「Totem」から、次々と移ろう明媚な風景が旅情を駆りたてる#6「Hypn-O-Sonic」というインスト2曲の流れも新鮮。本家のDaitroは、音楽性を柔軟に変化させていくことで人気と評価を高めていきました。このBaton Rougeもポストパンクやノイズ、ドローンといった様々な音響へとアクセスすることで、作品の表情をより豊かにしています。
ユーゴスラビア紛争のことを題材にしているという「Le Fixeur」のような重くシリアスな楽曲を1曲目に置くという挑戦も、彼等の堂々たる意思表示。内に秘めていた自身の想いをそのまま熱い魂に変えてぶつけています。7分にも及ぶ壮大なポストロッキン歌もの#8「Train De Nuit」、メジャー感すら伴う#9「D’année En Année」でストレートな蒼い衝動に煽られるラストも印象深い。
全9曲40分は懐かしい感触や熱いものを心身にもたらすと同時に前衛的な側面も表出し、エモを新たに細分化しています。Daitroの向こう側のプレゼンにただ納得させられる、そんな彼等の強さを実感する意義深い一枚。