2017年から活動を開始したベルギーのオルタナ/シューゲイザー4人組。ヴォーカル兼ベーシストのIsa Holidayを中心に90年代風味のシューゲイザー、グランジ、ドリームポップをミックスした音楽が特徴。
ArcTanGent FestivalやRoadburnといった音楽フェスに加え、AmenraやCult of Luna、Deafheaven、Pelican、Torcheといった重鎮バンドのサポートに抜擢されるなどバンドの躍進が続く。
本記事はフルアルバム2作品について書いています。
アルバム紹介
Aurora(2018)
1stアルバム。全8曲約34分収録。元々はHoly Roar Recordsから発売されていましたが、レーベル・オーナーの性加害問題で消滅したため、Church Road Recordから2021年に再発されています。
基本的にはミドルテンポで甘くとろける感覚を与えるシューゲイザー。ぼんやりとした夢の中を佇んでいるような気分にさせてくれます。ファズをベースにしているという霧のようにくぐもった音像、その上を優雅に彩るクリーントーンとIsaの甘く不明瞭な歌声。
90年代シューゲイザーの王道を引き継いでいますが、グランジ寄りのダウナー/パワフルさを提示する#1「Glow」、Nothingよろしくな重厚で退廃感を醸し出す#2「Drift」といった楽曲がバンドが包括している要素の多さを物語ります。
スロウペースで積み上げて退廃と夢見心地の狭間を行く#3「Tremble」からバンドの本分は表れ、聴き進めるごとに糖度と浮遊感が増していく。#4「Sharrow Bearth」からはマイブラの薫りがプンプンとしますし、終曲#8「Aurora」は青天井の甘美さが聴き手を包み込む。
本作についてFemme Metal Webzineのインタビューによると共感とセルフケアをアルバムのテーマに掲げている。
歌詞ではラブソングからプロテストソングまで内包。#1「Glow」は社会的な束縛から自分を解き放って夢を追いかけること、#3「Tremble」は(社会的な不正や動物愛護、家庭内暴力など)声なき声を代弁し、#4「Shallow Breath」はひと夏のロマンスを歌う。そして#8「Aurora」はIsaの親友が別れを経験したことにインスパイアされたものです(前述インタビューより)。
ひとつのジャンルに収まるようなものではないと彼女は話しますが、シューゲイザーを主文脈にいくつものジャンルを橋渡す作品です。ハードコアやポストメタルもその領域に含まれ、この後のツアーでPelicanやTorche、Gouge Awayといったバンドと共演したことが証明になっている。
Hush(2021)
2ndアルバム。全10曲約46分収録。前作からギタリスト1名とドラマーが交代し、レーベルはChurch Road Recordに移ってリリースされています。
”『Aurora』よりも暗いテーマがあると思う。孤独だったり、少し無力感を感じたりする気分。でもバランスを見つけることがすべて。闇がなければ光もないし、その逆もある。サウンド的にも同じで、陰と陽は音楽にも歌詞にも存在している。それがSlow Crushのサウンド“とASTRAL NOISEのインタビューで語る。
前作と比較するならば陰鬱さやスタイリッシュな上品さ、幻想性が高まります。#3「Swoon」のみギアを入れ替えたハードコアパンクで号外を出しますが、それ以外は統一された雰囲気。クリーントーンの麗しさやシューゲイザー由来の轟音を主軸に、控えめなIsaのヴォーカルは逆に神秘性をもたらしています。
#4「Gloom」から#8「Lull」まで続く静けさと哀切のロマンチシズムはバンドの真骨頂。大人びた落ち着きとシネマティックな美しさがより”浸る感覚”を強めています。
また前述インタビューでは”あえて各楽器の間に少し余裕をもたせた“とも証言していますが、ポストロック~アンビエント的な空間/距離間の持たせ方が作品の奥ゆかしさにつながる。
ワルツのリズムとIsaの歌声が慎重に魅惑する#6「Rêve」、メランコリックなムードに満ちた#8「Lull」など現実逃避を推奨する曲を揃えており、現実で削られた心を包み込む儚い世界が『Hush』で生み出されています。