ポストメタル・ディスクガイド4
envy / A Dead Sinking Story(2003)

FACT MAGAZINEによる”ポスト・メタル・レコード TOP40″の第14位に選出されているenvyの3rdアルバム。本作と次作『Insomniac Doze』がMogwaiとISISの影響を強く受けていたころで、FACTによるランキングに入ってしまうのも納得する。
ポストロックの配合比が高くなって叙情性にウェイトがかかり、電子音やポエトリーリーディングも増加して楽曲は長尺化。それでも、ハードコアとしての矜持は譲らず。
静と動の雄大なコントラスト、ドラマティックな流れを持つ代表曲のひとつである「狂い記せ(Go Mad and Mark)」を収録。


Fall of Efrafa / Inle(2006)

リチャード・アダムスが1972年に発表した小説『Watership Down(邦訳:ウォーターシップ・ダウンのウサギたちで刊行)』にインスパイアされ、独自解釈を加えた三部作の発表を目的に結成したUポストハードコア・バンド。
05~09年まで活動して解散。本作は3rdアルバムにして最終作。ハードコア~ネオクラストを主軸にNeurosisの壮絶な絶対領域に進出し、さらにはISISやGodspeed You! Black Emperor等の音楽性と精神性を加味しながら、聴き手の核心を打つ。
地底を揺るがす重厚なサウンドと鬼神の如き咆哮、そこにポストロック的なたおやかな旋律が織り込まれていく音像は脅威的。そんな7曲79分の長編作。


Fall of Leviathan / In Waves(2024)

スイスのインストゥルメンタル五重奏による1stアルバム。マスタリングはCult of LunaのMagnus Lindbergが担当。
拠点のスイスは山岳地帯に覆われた永世中立国ですが、旧約聖書に登場する海の怪物をバンド名に冠し、巨大な航海のテーマと深海にインスピレーションを得ている。
音楽的にはちょうどポストロックとポストメタルの海域を攻めるようであり、If These Could Trees TalkやAudrey Fal辺りが近しい感じ。海外誌だとMogwai + Neurosisという形容もされているが、負の感情や轟音という強烈なインパクトは約束されてない。
古典的な静と動のクレッシェンドの中で機織りのように物語を丹念に織り上げていく。その忍耐強く移ろう音で露になっていくのは海洋の神秘と厳格さが本作の肝である。

5ive / 5ive(2000)

マサチューセッツのヘヴィ・インストデュオによる1stアルバム。ISIS(the Band)のベーシスト、Jeff Caxideが参加してのスラッジメタル地獄一本勝負といった趣。
次作以降はポストロックやサイケデリック要素が注入されていくが、本作はメロディをほぼ放棄していて、黒い大河が氾濫。歪みまくりのファズ・ギターが空間をずっと圧迫している。その潔さがなんとも強烈な印象を残す。
英FACT MAGAZINEによる”ポスト・メタル・レコード TOP40”では第29位にランクイン。
5ive / The Hemophiliac Dream(2002)

“5ive’s Continuum Research Project”としてリリースされた2曲入りEP。再び ISIS(the Band)のベーシスト、Jeff Caxide が参加。5ive史上屈指のぶっ飛べる作品であり、約23分と14分の2曲を携えて圧倒的な轟音と共に宇宙を拝む。
「The Hemophiliac Dream part 1」ではUFOmammutのように宇宙と交信するような電子音を飛ばしながら徐々に音圧を上げ、7分を超えるとようやくスラッジ大津波の第一陣に飲み込まれる。まさしく”モグワイ ミーツ スラッジメタル”の大爆撃。
「The Hemophiliac Dream Part 2」では電子音メインにリミックスされており、James Plotkinmの改変が光る。

5ive / Hesperus(2008)

3rdアルバム。ゲストなしの完全デュオ編成で制作。楽曲自体はややコンパクトになっているが、#6~#7「News」は20分に及び、譲れないところは譲ってない。
スラッジメタルからの影響が色濃い重さがある中で、本作はBPMが少し速くなっているところがポイント。以前のねちっこい反復というよりは、少しスポーティな感触を持つ。
一方でポストロック的な静寂パートの美しさもしっかりと抽出。所々ですっと深層心理に訴えかけるメロウなフレーズが効果的に働く。5iveの中では最も入りやすい作品。

Grown Below / The Long Now(2011)

2011年から2015年という短い期間を駆け抜け、2枚のアルバムを残して解散したベルギーのポストメタル4人組。こちらは1stアルバム。
ISISやCult Of Lunaが築き上げてきたポストメタル界に深く切れ込むその音像は、静と動のダイナミックなスケール感を持ち、ドゥーム/スラッジ譲りのスロウテンポと重量感、獣のような低音グロウルで聴く者を制圧する。
そんな中で他バンドとの決定的な差異となっているのが、徹底して気を注いだ耽美性。さらには荘厳な雰囲気を持ち込むストリングスやゴシカルな女性ヴォーカルを積極的に取り入れる。
表題曲#6「The Long Now」は、まさにバンド自身の音楽性を1曲に凝縮した16分超の名曲。


GUHTS / Regeneration(2024)

ニューヨーク州を拠点に活動するポストメタル系バンド4人組の1stアルバム。Bandcampには自身の説明として”アヴァンギャルド・ポストメタル・プロジェクトであり、深くエモーショナルな音楽を通して、人生よりも大きなサウンドを届ける”と記載。
スラッジ~ポストメタル系の重厚なサウンドに実験精神が乗っかり、女性ヴォーカリストであるAmber Gardnerの魅惑的なパフォーマンスが惹きつける。
イメージ的には”Cult of Luna + Swans + Battle of Mice”のような感じ。ポストメタルの複数にまたがる道をナビゲートしながら、自身の挑戦的なスタイルは本作で示される。アヴァンギャルドと呼びながらも聴き手の懐に潜り込む艶めかしさがまた何とも魅力的に映る。

Huldra / Monuments, Monoliths(2013)

ユタ州ソルトレークシティのポストメタル集団。11曲77分にも及ぶ大作となった本作は、大きな影響を受けたというISISやCult Of Luna等を彷彿とさせる静と動の壮絶なコントラストを核に、大海の如きスケールを持つ。
偉大な先人達のエッセンスを突き詰め、徹底的に練り上げる。それによる万物を蹂躙する重厚な音壁と清らかな叙情性、劇的なストーリー展開を獲得するに至った。2016年をもって活動終了。


Hum / Inlet(2020)

90年代に活躍したアメリカのオルタナティヴ・バンド。復活と活動休止を繰り返してきた彼らの22年ぶりとなる5thアルバム。””ポストメタルを感じる””というのが最初の印象だった。
ドゥームメタルに接近した重厚感、シューゲイズがもたらすまどろみ。ヴォーカルはオルタナ直系の憂いある歌がそこに乗る。Jesuが虚無感で胸をいっぱいにしたら、こんな音楽に変貌してしまうんじゃないか。
オルタナ、エモ、ドゥーム、シューゲイズ、ポストロックは暗闇の中でミキサーにかけられる。このリストに入れてしまうぐらいに侘しさと重みをもった逸品。

