ポストメタル・ディスクガイド 120作品

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ポストメタル・ディスクガイド9

The Ocean (Collective) / Precambrian(2007)

 現在はPelagic Recordsを運営するRobin Stapsを中心としたドイツの音楽集団の3rdアルバム。バンドの描きたかった音楽性とコンセプト/芸術性が作品で合致するようになったターニングポイントといえる作品。

 46億年前~5.41億年前という地球の歴史の約90%を占める【先カンブリア時代】を2枚組で表現。DISC1では無慈悲なメタルサウンドを轟かせる。

 DISC2ではISIS、GY!BE、Meshuggah、OPETH辺りが組み合わさり、巨大な質感を伴ったオーケストラともいうべきサウンドを展開。

 8.3点を獲得したPitchforkのレビューにて、”NeurosisのヘヴィネスとConvergeの鋭さに雰囲気のあるキーボードとストリングスが融合した”と評されている。

The Ocean (Collective) / Pelagial(2013)

 6thアルバムは”深海の底で見る奇跡”、自らのバンド名である【海】をテーマに据えた作品である。アルバムは曲名が海の深度を表しており、進行していく = 海底に潜行していくことを意味する。

 海面から真っ暗な最深部までの旅を思慮深いプログレッシヴ・メタルと共に展開。バリエーション豊かに変転していく曲と共に、海洋の持つ多彩な表情と奥深さを知らしめる。

 11曲に及んだ深海の旅路『Pelagial』は、”The Oceanの最も概念的なアルバム”とリリース元のMetalBladeは謳う。ロックメディアのLoudwireは”2010年代のベストメタルアルバム66”に本作を選出している。

The Ocean (Collective) / Phanerozoic I: Palaeozoic(2018)

 7thアルバム。2年後にリリースされた次作との連作。本作は10年ぶりに国内盤が発売されており、『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代という邦題を添えてP-VINEからリリース。タイトルは“Phanerozoic = 顕生代”。

 顕生代とは約5億4100万年前から約2億5200万年前までを表す地質時代の古生代のことで、現在の生物が陸上に進出した時代だという認識で良いそう。

 作品としては静と動がわりとくっきりとしたポストメタル・スタイルで3rd『Precambrian』に近い。強烈な重低音と美麗なメロディがせめぎ合う中でグロウルとクリーンヴォイスが煽動する。入門盤にもオススメできる1枚。

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Omega Massif / Geisterstadt + Kalt(2007)

 ドイツのインスト・スラッジメタル4人組による1stアルバム。英訳するとゴーストタウンを意味。先に紹介したLentoにも通ずる重音インスト(レーベルは共にDenovali)であり、スロウテンポから激重リフの連続で鼓膜を蹂躙する。

 ポストメタル的なソフト~ラウドのセクションによって聴き手を”ねじふせる”のが特徴。この手のバンドに多いカタルシスへのお導きとはまた違うスタイルだといえる。

 特に強力なのは#3「Nebelwand」と#4「Under Null」。前者は10分を超える楽曲でアコーディオンの導入という珍しさを体現しつつ、剛健化したGY!BEのような雰囲気を持つ。後者は結成して間もなくつくられたデモ音源からの再録ですが、動→静→動をスリリングに表現する佳曲。

メインアーティスト:Omega Massif
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Omega Massif / Karpatia(2011)

 2ndアルバム。タイトルはカルパチア山脈からきていると思われ、バンドは自然や山からインスピレーションを受けていることを明かしている。

 相変わらずLentoに接近する重みと迫力だが、あちらほどアンビエントを取り入れてはいない。前作と比べて明らかな飛躍があり、重さ・速さ・容赦なさの三拍子を研ぎ澄ましいる。ゴリゴリのヘヴィネスとドラマティックな展開を持つ辺りは、Pelicanの1stアルバムに近いかもしれない。

 ただし、あの時のPelicanよりも重音の殺力と漆黒度は高く、極端に暗い世界を描き出している。ドイツの怪物、ここにありを証明する重い快作。しかし、バンドは2014年に解散。中心メンバーは自らのスタイルをウィンター・ドゥームと評する新バンド、Phantom Winterを結成して活動中。

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Palms / Palms(2013)

 DeftonesのヴォーカリストであるChino Moreno、元ISISのJeff Caxide(B)、Aaron Harris(Dr)、Bryant Clifford Meyer(G/Key)によるバンド、Palmsの1stアルバム。

 ISISの最終作『Wavering Radiant』のヴォーカルがチノに置き換わったと表現すれば一番わかりやすい。平均7分を超える6つの楽曲は、揺れ動く豊饒なサウンドの上でチノの艶やかなヴォーカルが生命力を与えている。

 でも、やっぱりISIS(the Band)のファンである自分からすると、思った以上にISISだ。Deftonesファンの方が本作を新鮮に受け止められると思う。ちなみにバンドとしての活動は終わってないが、現在はまるで動いてない。

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Pelican / Australasia(2003)

 2000年からシカゴを中心に活動するヘヴィ・インスト四重奏の1stフルアルバム。

 ハードコアやスラッジメタルの素養が根底にあり、形式としてポストロックへの落とし込みがみられるが、ポストロックと呼ぶにはいささかヘヴィ。それが彼等の大きな持ち味である。

 粗削りのヘヴィネスに加え、長い時間をかけてゆっくりと紡がれるストーリーが肝。#1「Nightendday」や#6「Australasia」で聴かせる壮大なサウンド、クライマックスの美しさに恍惚とする。

 逆に#2「Drought」の重音でスリリングに畳みかける様は現在の彼等の音楽性に通じており、出発点となる本作はあらゆる可能性を示していた。

Pelican / The Fire In Our Throats Will Beckon The Thaw(2005)

 2ndアルバム。全7曲で描かれるのは生まれ育ったシカゴの四季であり、移り変わる四季においての広大な風景。

 自然の容赦ない怒りとかけがえのない美しさ、それを轟音と叙情のダイナミックなシフトにより力強く描き出す。虹色の自然叙情詩と表現できそうな圧倒的なスケールと描写。

 Pelican史上最もドラマティックな楽曲といっても過言ではない#1「Last Day Of Winter」を収録。2007年頃にわたしがインストゥルメンタルを聴くようになったきっかけの作品である。

 ちなみに海外の音楽サイト”Ultimate-Guitar.Com”にてWeb読者の投票による「史上最も素晴らしいインストゥルメンタル・アルバム TOP25」で16位にランクインしている。

Pelican / What We All Come to Need(2009)

 4thフルアルバム。レーベルをSUNN 0)))のグレッグ・アンダーソンによるSouthern Lordへと移籍。それが影響しているのか、2~3段階増したヘヴィネスがずっしりと五臓六腑に響き渡る。

 しかし、潤いのような叙情性があり、Pelicanたらしめる要素が決して薄まっていない。#2「The Creeper」、#3「Ephemeral」、#5「Strung Up From The Sky」とライヴで演奏頻度の高い曲を多数収録。

 また、ラストトラック#8「Final Breath」においてアレン・エプリー(Shiner / The Life and Times)をゲストVoに迎えて初の歌ものに挑戦。新境地を切り拓いた作品となった。

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Pijn & Conjurer / Curse These Metal Hands(2019)

 共にUKを拠点に活動するヘヴィポストロック・バンドのPijn、スラッジメタル・バンドのConjurerのコラボ作品。基本的には両バンドから集められた精鋭5名によるもの。

 おおざっぱですが的外れでもない表現をすると”ポストメタル ミーツ Baroness”ですかね。オープナー#1「High Spirits」の序盤を飾るトリプルギターのハーモニー、歌いだしのジョン・ベイズリー(Baroness)にクリソツ声を聴いて、それを感じない人はいないかと。

 その上で場面ごとにスラッジメタルの重圧、ブラックメタルのトレモロとブラストビートの暗躍、フォークやポストロックの静的な美を巧みに配置。Conjurerがもたらした肉体性と野性味、Pijnのシネマティックな美麗さが引き立てあっている。

30分という尺で適切かつ最高な表現をしている事実。まちがいなくPijnとConjurerのファンのみならず発掘されるべきEP。

メインアーティスト:Conjurer, Pijn
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Pothamus / Raya(2020)

 ベルギーの古都メッヘレンを拠点に2013年から活動する3人組。”音楽と形而上学を融合した”と自身の特徴を説明する。本作は1stアルバムで神話ならびに生命/時間の循環をテーマにしている模様。

 #1「Orath」は地球創成期を表し、#2「Viso」は人類の誕生、終曲#6「Varos」は死。それらを同郷のAmenra、大御所のSwansやNeurosisといったアーティストの影響下にあるサウンドで表現。

 スラッジ経由のヘヴィさと空間に余白を残すアプローチ、クリーンなヴォーカル(Amenraのコリンっぽい)とドラッグテストに引っかかりそうな呻き声を使い分ける。そしてトライバルという形容詞を浮かべるパーカッションの多用。

 それらを長尺の中で反復し、少しずつの展開を持って精神と肉体が昇り詰めていく感覚を聴き手に味合わせる。酩酊ではなく、覚醒。人間の原始的な欲求を引き出す作用がPothamusの音楽にはある。

メインアーティスト:Pothamus
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Pothamus / Abur(2025)

 Pelagic Recordsと契約してリリースされた2ndアルバム。『Abur』はすべての生命の深い相互関係を象徴していて、存在とは織り成されたものであり、個々の糸が全体に寄与しているという古代の考えに基づいていると説明。

 トライバルなリズムの上に様々なレイヤーを重ね、長尺で表現する基本スタイルはそのまま。ここに主な追加要素としては、メイン・コンポーザーであるドラムのMattiasが新たにヴォーカル参加したこと。さらにインドの民族楽器であるシュルティボックスを#3「De-varium」と#5「Ykavus」にて使用して東洋的な響きのドローンを加えたことが挙げられる。

 しかしながらコンセプチュアルでありながら音楽をアカデミー化するわけでもなく、非日常体験を促す音楽であることを貫く。表題曲は長ければ長いほど良いという縛りでもあるのか#6「Abur」は、ミニマリズムとダイナミクスの妙で構築された15分。時間という概念すら忘れさせる没入感がある。

メインアーティスト:Pothamus
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