【2024年再構築Ver】私的ポストメタル探求

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ポストメタル重要作20選 part2

Rosetta / A Determinism Of Morality(2010)

 自分たちの音楽を”宇宙飛行士のためのメタル”と表現するUSフィラデルフィアの当時4人組の3rdアルバム。宇宙や天文学をテーマの背景にし、アトモスフェリックといわれる空間性や浮遊感を意識したポストメタルを展開する。ISISやMogwai、Explosions In The Skyなどの影響を感じさせるリリシズムとヘヴィネスの交錯が魅力的。印象的なベースリフから始まる表題曲#7「A Determinism of Morality」は、ポストメタル史に残る名曲のひとつ。加えて本作収録曲ではありませんが、The Cure「Homesick」のカバーが素晴らしいのでぜひとも聴いてほしいですね。ちなみにヴォーカルを務めるマイク・アーミンは心理学や社会学を教える高校教師(現在もその職に務めているかは不明ですが)。2016、2018年に来日。

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The Ocean(Collective) / Precambrian(2007)

 ギタリスト兼作曲家のRobin Stapsによって2000年にドイツで結成されたバンド。バンドの描きたかった音楽性とコンセプト/芸術性が作品で合致するようになったとメンバー自身も納得する3rdアルバム。本作は地球46億年の歴史のうち40億年を占める”先カンブリア時代”を2枚組の大作で描きます。DISC1は2ndアルバム『Aeolian』を踏襲した地獄をクリエイトするブルータル・メタル/ハードコアの応酬。DISC2はISIS(the Band)、Godspeed You! Black Emperror、Meshuggah、OPETH辺りが組み合わさり、巨大な質感を伴ったオーケストラともいうべきサウンドを展開。8.3点を獲得したPitchforkのレビューにて、”NeurosisのヘヴィネスとConvergeの鋭さに雰囲気のあるキーボードとストリングスが融合した“と評されています。またRobin StapsはPelagic Recordsを運営しており、日本のenvyやMONOのヨーロッパ圏のリリースを手掛けている。2019年10月に初来日。

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Callisto / Noir(2006)

 北欧ポストメタルの初期を支えたフィンランド・トゥルク出身の7~8人組バンド(正確な人数不明)。ポストメタルにフリージャズやプログレを調合し、オーケストラルな質感を立たせる実験的なスタイルが特徴。サックスやストリングスを自在に取り入れて柔らかなフィーリングを持たせる一方で、ドスが効いたデス系低音咆哮は好みが分かれそうです。ただ、単純な剛柔の制圧だけにとどまらないグラデーションの多彩さが魅力であり、本作のハイライトといえる#3「Fugitive」はキャリア屈指の名曲。彼等は一応解散はしていませんが、2015年に4thアルバム『Secret Youth』を発表して活動がシークレットになってしまった・・・。

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Year of No Light / Ausserwelt(2010)

 2001年にフランス・ボルドーで結成された6人組。本作以前はヴォーカリストがいたスラッジメタルでしたが、脱退によって完全インスト・スタイルへと移行したのがこのアルバムから。以前のシューゲイザーを内包したスラッジ/ドゥームから飛躍し、アンビエント~ドローンメタルの領域まで侵食。1曲平均10分を数え、破壊的なヘヴィネスに覆いかぶさっていく耽美性は、NadjaやMONO辺りが紡ぐ風景に近い。全編から伝わってくる身を切るような凍てつく寒さと閉塞感がまた本作のキーとなっており、20分に及ぶ組曲形式の#1~#2「Perséphone」で差し迫る音の洪水は強力。ブラックメタルのような激しいブラストビートが飛び出す13分超の#4「Abbesse」の飛び道具も効いています。活動ペースはスローですが(結成23年でフルアルバム4作のみ)、今なお現役です。

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Light Bearer / Silver Toungue

 ネオクラスト/ポストハードコア・シーンに影響を与えたUKバンド・Fall Of Efrafaの解散後、Alex CFを中心として結成された6人組の2ndアルバム。”Light Bearer = 光の使者(他に”光をもたらす者”といった意)”と名付けられた彼等は、NeurosisやISIS the Bandの重厚と芸術性、そこにSigur Rosの繊細な美と色彩が合流し、奈落の底から天上界までもを見せてくれる存在。そのサウンドをベースにして、ジョン・ミルトンやフィリップ・プルマンに影響された”堕天使ルシファーの物語”を描きます。なかでも#1「Beautiful Is This Burden」はポストメタルの重量感を下地にSigur Rosの『Takk…』にも通ずる多幸感が盛り込まれた屈指の名曲。アートワークもAlex CFが手掛けており、音楽・アート・哲学の三位一体が生み出す芸術性と感動は他に類を見ません。10年代のポストメタルを牽引する存在と私的に太鼓判を押す存在でしたが、美学/コンセプトを最重要視するゆえのバンドだからかあっさりと解散。

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Palms / Palms(2013)

 Deftonesのヴォーカリストであるチノ・モレノ、元ISIS the Bandの3人衆による新バンド。ISIS(the Band)の最終作『Wavering Radiant』を彷彿とさせる特有の美と揺らぎを持ったサウンドをベースに、チノの艶かしい歌声が浮遊してロマンを添えていく。#1「Future Warrior」はもはやISIS the Bandの先祖返りかと思えるほど、その喪失感を埋めるサウンドに涙。ポストメタルというよりは新世代のヘヴィロックという印象もありますが、お互いの要素を上手く引き出して融合させたことは見事。前述の『ポストメタル・レコード TOP40』にもランクインしている名品。

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Bossk / Audio Noir(2016)

 UKの5人組による結成から11年越しの1stアルバム。ポストメタル系には珍しく、Convergeのジェイコブ・バノンによるDeathwish Incからのリリースとなります。水晶のように揺らめき煌めくギターのリフレイン、威圧的な重低音を軸にポストロック~ポストメタルの領域侵犯。またひとつの物語を全7曲に細切れにしたという感覚があり、その上で1曲の中でも明確な起伏が設けられています。本作はRoadburn Festival 2019で完全再現されていますが、その際の主催者が寄せた言葉がすばらしい。”ポストメタルと形容されるBosskは、そのジャンルの境界線を押し広げ、巧みな創意工夫で境界線を曖昧にする。時に催眠的で美しく、時に粉砕的な『Audio Noir』は、まさに旅のような作品だ

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We Lost The Sea / Quietest Place On Earth(2012)

 オーストラリア・シドニーのバンドによる2ndアルバム。静寂から轟音へのセクション移行、スラッジメタル譲りの鈍さと重量感、強烈な咆哮がもたらすのはCult of Lunaからの影響が色濃いポストメタル(1stアルバムはCoLのメンバーがプロデュース&録音担当)。本作ではそこにアンビエント・パートの増量、ピアノやグロッケンの追加、中盤において女性ヴォーカリストがゲスト参加。感情が湧き立つストーリーを長い時間をかけて描いており、16分30秒を数える#3「With Grace」のCaspianとISIS the Bandの衝突を思わせる展開、女性ヴォーカルを迎えた#4「Forgotten People」の荘厳な讃美歌がもたらす清冽さは前作を凌ぐもの。しかし、翌年にヴォーカリストのクリスが24歳の若さで自死。その悲劇を乗り越え、新ヴォーカルを入れることはせずにインスト・バンドとして再出発。現在ではオーストラリアの轟音系インストのトップランカーとして活躍しています。

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BIG|BRAVE / nature morte(2023)

 Robin Wattieを中心とした3人組でSouthern Lord~Thrill Jockeyといったレーベルを渡り歩く。ポストメタルよりはドローンメタルという方が正確でありますが、過去のBandcamp Dailyの記事や海外レビューでもPost-Metal表記が多々見受けられるので選出しています。本作タイトルは”静物画“を意味するフランス語用語より。SUNN O)))に連なるヘヴィネス/ドローンを軸にして、銃にも蜜にもなるRobin Wattieの声が作品を彩る。最小限から最大限までの音量を用いながら紡ぐ高いアート性とダイナミクスを持つ音楽。その側面はありますが、女性蔑視や抑圧に対しての切実な痛みを訴える音楽としての比重は大きい。2024年4月には本作の対となる7thアルバム『A Chaos Of Flowers』を発表しています。

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Amenra / De Doorn(2021)

 1999年にベルギーで結成。25年以上活動を続け、欧州ポストメタルではCult of Lunaに次ぐ重鎮。以前はNeurosisのレーベル、Neurotから作品をリリースしていたこともあります。”私たちが語るべきストーリーはひとつあり、それは常に同じです。私はいつも人生の痛みについて書いています“とバンドの首謀者・Colinは語る。奈落へとゆっくり押し進むリズム、虚無感を煽るリフとアルペジオ、悲痛すぎる叫び。どれもが痛みをあぶり出し、聴き手に内省を促します。本作の特徴としては最低限に音を減らして静かに語るパートが増え、OathbrekerのヴォーカルであるCaroと再タッグを組む。特に#4「Het Gloren」の絶叫の掛け合いは脅威。そんな本作は決して苦痛への招待状ではなく、暗闇の淵に引きずり込むようなものでもなく、生命を尊み悼む音が押し寄せる。不確定な未来に向けて、Amenraの重音は生き延びていくための祈りです。ちなみに#1「Ogentroost」がAEW所属のプロレスラー、マラカイ・ブラックの入場曲として使われていました。

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 選外としたのは、5iveやLento、Omega Massif、Juniusなど。ISIS the Bandのメンバーがサポートとして加勢した作品もある5iveは入れるべきだとは思いましたが、活動停止状態のアーティストが多くなってしまうので、現行バンドを優先しました。

 補完としてポストメタル系作品をまとめたものを【ポストメタル・ディスクガイド】と称して2022年に公開しておりますので、副読記事としてお読みいただければと思います。そっちには大量に載せています。

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お読みいただきありがとうございました!
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