ポストメタル・ディスクガイド5
Humanfly / Ⅱ(2007)

英国のヘヴィロック4人組による2ndアルバム。スラッジメタル由来のリフを主体にゆっくりと進行し、メロディックとサイケデリックな要素をぶちこんでいくのを信条とするスタイル。
まだヴォーカルがいたころのYear of No Light、また初期Pelicanの壮大重厚さを感じさせるサウンドに、スペーシーなシンセサイザーやアコースティックが華を添える。ヴォーカルがラリってる感じなのは独特の感性の賜物か。
ヘヴィネスの海とサイケデリックな宇宙の邂逅。2013年10月の公演を最後に無期限活動休止。

IKARIE / Arde(2023)

2019年に結成されたスペインのドゥーム/ポストメタル系バンド5人組。ベーシスト兼作詞を担当するMaria V. Riañoのコンセプトを苦痛が伴うヘヴィネスと共に体現する。
本作は3部作(痛み、怒り、再生)の第2章で”怒り”がテーマ。歴史の中で数人の女性を巻き込んだ悲劇的な出来事や物語を伝えている。
Amenraに通ずる漆黒のヘヴィネスとヴォーカルのグロウルが導く悲しみの暗い河。IKARIEは音楽を通して痛みや怒りを共有する。なお本作には悲劇的な死を遂げた日本人女性2名が登場している。


Ingrina / Siste Lys(2020)

フレンチ・ポストメタル6人組による2作目。”文明の悪夢に直面した生命体が経験する海陸の試練”をテーマに掲げる。
序盤はブラックメタルの影響が垣間見えたりするが、重厚壮大なポストメタルの轟きを全曲で体感すること必至。Year Of No Lightに通ずる重量感と寂寥感は、トリプルギターとツインドラムを擁した編成によるもの。
アルバムは2分台2曲から10分超までをそろえた6曲35分。短くても長くても必要以上のインパクトを与えてくれる。

Intronaut / Void(2006)

Exhumed やPhobiaなどのメンバーが集まったバンドの1stアルバム。ポストメタルと言われてはいるが、テクニカル・デスメタル85% + ジャズ&ポストロック15%という様相。
残忍なデスメタルで八つ裂きの刑が続くが、風通しの良い静寂がなぞに組み込まれている。とはいえDillinger Escape Planのように忙しく騒々しく、血を見るような惨劇は続く。本作以降はさらにテクニカル・メタルの要素を強めている。

Irepress / Sol Eye Sea I(2008)

これまたマサチューセッツ・ボストンから産声をあげてきた5人組の2nd。せんとくんをおかしく実写化したようなピンクジャケとは裏腹に、中身は遊び心にあふれている。
ISISやRed Sparowesのような有機的な質感のポストメタルを軸にしつつ、ジャズフュージョン、1970年代のプログレッシブロック~クラウトロック、耽美系ポストロックなどにも踏み込む。
ポストメタルの様式にとどまっておらず、あえて焦点を合わせずにセッションの延長上にいるような自由さが魅力。この系統で変わったものが聴きたいという方にオススメしたい。そうでない人にもオススメしたい。
ちなみに活動は終えている模様。

IRREVERSIBLE / Surface(2014)

2005年の結成以降、地道に活動を続けてきたアトランタのバンドによる3rd。まさに王道中の王道。収録された3曲はいずれも10分以上かけたドラマティックな展開とともにカタルシスを得られるような構成。
強靭なリズムとスラッジ系のダイナミズムを備えた#1「Degloving Injury」からして、強烈な内容に仕上がっている。
耽美の研磨につぐ研磨で紡ぎだされる透明感に溢れたギターフレーズは美しく、それとは相反するように無差別級ばりの重音リフをも繰り出す。また、ドスの効いた低音咆哮もこの界隈らしいものだ。彼等も現在は活動していない。

ISIS(the Band) / Celestial(2000)

ポストメタル最重要バンドの1stフルアルバム。本作にて2010年の解散まで続く不動の5人によるラインナップが揃う。
本作のテーマに、”テクノロジーの進歩に伴うプライバシーの侵害”を扱っており、よりプリミティヴな方法で実現しているという。
また、初期ISIS(the Band)は殺伐・無機質といった言葉があてはまるほどに音の重厚/金属的質感が高い。
Godflesh譲りのリフ、そしてトレードマークであるアーロン・ターナーの咆哮が重なる。反復の中で少しずつ展開が成されていくのも既に形式化。
スラッジメタルとポストロックの共同戦線的な形への落とし込みはみられ、ヘヴィロックの中で示す理知と美学は初期から貫かれる。ライヴでラストを飾ることが多かった代表曲#2「Celestial (The Tower)」収録。

ISIS(the Band) / Oceanic(2002)

2ndアルバム。後に紹介するNeurosisの1996年作『Through Silver In Blood』が起源とされたポストメタルの雛形は、本作によってもたらされる。頭を振りながら浄化と瞑想する音楽、Thinking Man’s Metalだ。
スラッジメタルの成分は抑えられ、ポストロック/アンビエント要素の大量導入による融和。具体的にいえばクリーンなギターとメロディ、咆哮と歌。
大海源の中でループする叙情と轟音は、非常に前衛的であり、ジャンルの先駆者として多くの賞賛とフォロワーを生んだ。
Terrorizer誌は2002年のベストアルバム第1位に本作を挙げ、Pitchforkにおいてもジャンル無差別の2002年ベストアルバム50で、31位にランクインしている。

ISIS(the Band) / Panopiton(2004)

最高傑作と名高い3rdアルバム。イギリスの功利主義哲学者ジェレミー・ベンサムが18世紀に考案した監獄『パノプティコン』、それを監視社会として現代に落とし込んだフランスの哲学者ミシェル・フーコーの概念がコンセプトになっている。
『Oceanic』よりもさらに思慮的で叙事的、かつ壮大でオーガニックなグルーヴ感。丹念なギターのループと重層化されていくレイヤー。
寄せては返す波のような静と動の繰り返しは、”音の粒子が見える”とまで評されたライヴで本領を発揮する。
記念碑といえる作品であり、わたしにとっては本作が最重要ポストメタルアルバム。本作収録「In Fiction」を2007年1月のライヴで体験したことで、わたしの人生は確実に大きく変わったのだ。


IZAH / Sistere(2015)

オランダの6人組の1stフルアルバム。全4曲全てが10分超えの約72分は、この手のバンドには相応しい長編物語が繰り広げられる。
ポストロック要素の取り入れは前提としても、デスメタル風の残虐な攻め上がりを導入し、さらには漆黒鈍重ドゥーム、エピックなメタル、幽玄なるアトモスフィアを場面場面で切り分け。
引き出しは多く、長尺の中でうまく活用して起伏ある展開を生み出ている。
悪いグループに所属しているけど成績は優秀みたいな、ろくでなしポストメタル。極悪と極美で綴る約72分は強烈という他ない。

