【ライブ感想】2009/12/21 MONO @ 渋谷O-EAST

 孤高のインストゥルメンタル・バンドとして、全世界を舞台に戦い続けるMONOが今年で結成10周年を迎えました。3月に発表した新作『Hymn to the Immortal Wind』に伴うワールドツアーで海外行脚に出向いた1年でしたが、記念すべき10周年という節目の締めくくりとなる公演が母国・日本で行われる。

 5月にバンド第二の故郷であるニューヨークで開催した20人超のオーケストラと共演する10周年記念ライブ、その日本版となる公演。内容は、国内最高峰といえるNHK交響楽団でコンサートマスターを努める篠崎史紀氏が率いるスペシャル編成のオーケストラとの共演です。

 10年にも及ぶバンド活動の集大成といえるステージ、そして新たなスタイルへの挑戦である今回の公演がどんなものになるのか。興味深かった。ただオーケストラと共演はしますが、会場はなじみのある渋谷オーイーストですし、お客さんも座ってゆっくりと聴くスタイルではなくスタンディング。いつもと変わりはありません。

 ただ会場の内部に足を踏み入れて、ステージを見渡すといつもとは違う光景がまぶたに焼きつく。MONOセットの後ろにキャンドルの灯りが並んでいて、その上に小し高さをつけてオーケストラのステージとしている。見慣れない光景に少し怖気づいてしまい、さらに全身に伝わってくる張り詰めた緊張感にも気圧されてしまっていました。これからここで起こる出来事は、生涯でもめったに味わうことのできない体験になりそうな予感がします。

 定刻の20時を少し過ぎた辺りで、オーケストラと指揮者のデイヴ・マックス・クロフォード氏がそろって姿を見せる。ピシッとしたスーツをまとい、きびきびと定位置に移動して静かに着席。続いてMONOの4人も会場の拍手を背にしてゆっくりとスタンバイ。オーケストラの方々の緊張感ある面持ちとは対照的に、MONOメンバーの鋭い眼差しからは、本公演に対する想いの強さが明確に伝わってきました。

 冷たいグロッケンシュピールの音色が会場に鳴り響き、荘厳な世界は静かに幕を開ける。「Ashes in the Snow」でスタート。孤独を呼ぶ静かなアルペジオと重厚なリズムが丁寧に物語を先導していき、静謐から轟音へとダイナミックに振り切っていく。

 幾度聴いても鳥肌が立つ美しさと激しさを備えた曲ですが、今回はストリングスの旋律が荘厳さと重みをもたらしており、曲の終盤ではシンバルやティンパニが加わってフルパワーでロックとクラシックが共鳴。スケール感をより一段上の高みへと到達させて、会場全体に轟いていました。まだ始まって1曲ですが、今まで味わったことのない”音楽の持つ絶対的な力”をまざまざと感じさせられます。

 余韻に浸る間もなく次は「Burial at Sea」へ。この曲も爆発力がこれまでの比ではありません。バンドとオーケストラが深い次元で共鳴し、交錯し合って、あまりに巨大な音塊となる。一気にクラシカルな曲調へとシフトした「Silent Flight, Sleeping Dawn」では、グランドピアノの切ない響き、ヴァイオリン・チェロ等の弦楽器が灯火のように儚い感情の蠢きを繊細にカバー。

 24人の弦楽オーケストラと共に”ひとりの少年と少女の生と死、 魂の永遠性をめぐる”という重たいテーマを表現した最新作 『Hymn to the Immortal Wind』の持つ本来の世界がライブを通して浮かび上がってくる。さらには生演奏だからこその情熱が宿ることで余計に感情が動かされます。

 続いては日本で初めて演奏されたという「Are You There」。ベクトルは静かでありながらも切なさに彩られたメロディを折り重ねてセピア色の心象風景を描くこの曲では、ストリングスの淡い響きにもっていかれる。「2 candles 1 wish」、「Where Am I」といった2分強の短い曲も、情景を美しく変化させて心地よい余韻を残していました。

 10周年記念ライブに相応しく、これまで演奏されてなかった曲がセットに組まれているのもうれしい限り。そんな中、慈愛に包まれる序盤とは対照的に終盤で凶暴なノイズが荒れ狂う「Pure As Snow」、グランドピアノとストリングスの旋律があまりにも儚い「Follow The Map」をくぐり抜け、ついに公演は最終局面へ。

 「Halcyon (Beautiful Days)」そして「Everlasting Light」。MONOの楽曲でも光や希望を最も感じさせる曲ですが、この2曲における歓喜と悦びに打ち震えた怒涛のクライマックスは、極上というほかないものでした。極限のエネルギーをライブに注ぎ込んでやりきったという満足感、かつてないほどの興奮が入り混じったメンバーの笑み。

 さらにはコンサートマスターの篠崎史紀氏、指揮者を務めたデイヴ・マックス・クロフォード氏と互いに称えあう姿は、見ている側としても胸が熱くなる光景でした。ライブ後に贈られる観客の拍手は数分では鳴りやまず。それがいかに素晴らしい夜だったかを物語っていました。

 2000年にニューヨークで初めての海外公演を、たった5人というお客さんの前で行った。この厳しすぎるスタート地点から、想像を絶する苦悩と困難に立ち向かって走り続けてきたMONOの10年。本日はそんな締めくくりに相応しい素晴らしく感動的な一夜でした。言葉はなくともこのステージを共有できたことが財産になるような、生涯忘れられない日。

—set list—
01. Ashes in the Snow
02. Burial at Sea
03. Silent Flight, Sleeping Dawn
04. Are You There?
05. 2 candles 1 wish
06. Where Am I
07. Pure As Snow
08. Follow The Map
09. Halcyon (Beautiful Days)
10. Everlasting Light

お読みいただきありがとうございました!
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