Nothing、絶望の果てから鳴る、剛と重のシューゲイズ。

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 2011年にアメリカ・フィラデルフィアにて結成された4人組バンド。ハードコア・バンドのHORROW SHOWの元メンバーであるDomenic Palermo(ドミニク・パレルモ)を中心とし、過去にはWhirrで活躍するNick Basette(ニック・バセット)が在籍。シューゲイザーを基点に出自であるハードコアや90年代オルタナティヴを混成したサウンドは、Heavy Dream Pop、Blustery Shoegaze(横暴なシューゲイズという意味)などと形容される。現在までに2017年、2019年と2度の来日ツアーを開催。

 本記事ではこれまでにリリースされた4作品について書いています。

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Guilty of Everything(2014)

 1stアルバム。全9曲約39分収録。プロデュースにKurt Vile、War On Drugs等を手掛けるJeff Zeiglerを起用。元々はポストハードコア系バンドをやっていたというメンバーの出自。その影響はあるにせよ、本作で聴けるのは最盛期のシューゲイザーに、威圧的なヘヴィネスが加わる

 Relapse Recordsから本作がリリースされていることが驚きですが、その紹介文には、”My Bloody Valentine with Jesu”という表現もされています。重量感と幻想性。それらが合致したサウンドは心地よい浮遊感と同時に退廃的な空気を生み出しています。パンク~ハードコアの衝動も持ち合わせていて、メロディはシューゲイザー特有の甘美さに落とし込まれています。曲の端々からはグランジっぽい薫りを漂わすこともあったり。

 夢見心地、初期衝動、作品にはそれらが上手く封じ込められていると感じます。ただそれだけではなく、刑務所での服役経験もあるドミニク・パレルモが書く歌詞が、幻想的な音像をひっくり返すかのように深刻な影を落とします。内省からくる言葉によって自己と他者が持つ心の重荷を開放する。その姿勢が初期から示されています。

 特に本作では#2「Dig」が傑出。鼓膜を圧するヘヴィ・シューゲイズと物憂げな歌声が白昼夢へと誘う。まさしく彼等を世界中へと知らしめる名刺代わりの1曲。Chapterhouse~Pains of Being Pure at Heartまでが駆け巡る蒼い疾走チューン#3「Bent Nail」、初期のWhirrがフラッシュバックするとろけるシューゲイズ#5「Somersault」、儚さと虚無感をはらみながらもノイズが全てを昇華する#9「Guilty of Everything」と他の楽曲も粒揃い。ダークで内省的でありながらも美しい音像が成された1枚

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Tired of Tomorrow(2016)

 2ndフルアルバム。全10曲約45分収録。WhirrのギタリストであるNick Basetteがベーシストして加入。プロデューサーにWill Yipを起用。前作と比較すれば、同様に90年代要素を引き連れながら歌もの要素、シューゲイザー要素の増量を感じるところでしょう。ただ、歌詞は暗い。ドミニク・パレルモが2015年のライヴ後、ギャングに襲われて重傷を負った経験、さらに疎遠だった父親の事故死を知ったことが本作の詞に影響を及ぼしているとのこと。

 行き場を失うほどのギターの壁に覆われることは多いですが、作品は後半に進むに連れて穏やかな温かみとノスタルジーが強まります。春風が心地よく吹き抜けるほどに風通しが良くて、歌心がはっきりと伝わる。ハードコアやグランジ風味の重さや黒さが薄れてるのは、狙ってのことでしょう。ただ、他のシューゲ系バンドにはないレベルはキープしています。聴いているとシューゲイザー要素の強いインディー・ロック的な感覚が近いかもしれません。

 反対に歌詞は痛みと苦しみを吐き出し続けています。#4「A.C.D.」はドミニクが時にコントロールが効かなくなる自身の性格を言葉にする。Slowdiveのような桃源郷が広がる#5「Nineteen Ninety Heaven」では”人生は悪夢です”とおぼろげに語る。総じて本作においては、生きることは痛みと向き合いつづけることだと訴え続けているかのよう。幻想的な音像からは想像できないぐらいに彼の心の闇が投下されています

 #3「Vertigo Flowers」は軽快でアップテンポの中にヘヴィネスを持ち込み、#8「Everyone Is Happy」においては、優しさ症候群ともいうべきしっとりとした歌を聴かせてくれます。ラストに置かれた表題曲の#10「Tired Of Tomorrow」ではピアノとストリングスを導入し、切々と歌い上げる。暗い言葉が並んでいても、多彩で甘美なサウンドがそれを抑え込むように鳴り響く。さらに幅広いファンを獲得できるだろう作品。

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Dance on the Blacktop(2018)

 3rdアルバム。全9曲約43分収録。Nick Bassettが脱退し、新たにAaron Heard(Jesus Piece)をベーシストに迎えています。プロデューサーにはDinosaur JrやSonic Youthを手掛けたJohn Agnelloと共に製作。印象的なジャケット写真はニューヨークの作家、Chelsea Hodsonを起用。

 サウンドの根幹は変わらず。重量感あるシューゲイザーを基本線に、90年代オルタナティヴ・ロックへの愛を深めながら鳴り響く。クリーンからヘヴィまで変幻するノイズ・ギターは懐かしさがあり、メロディも温かさと親しみやすさが担保されている。#2「Blue Line Baby」はシューゲイザーのとろける感覚とクリーンなアルペジオが噛み合い、#3「You Wind Me Up」の開けた曲調は聴き手を迎え入れてくれます。さらには#5「Us/We/are」はグランジからUKロックまでを駆け巡る。

 プロデューサーの影響からか90年代へのオマージュは強まりました。一方でドミニクの綴る詞は、自身の痛みや不遇な人生を表現し続ける。本作制作前に慢性外傷性脳症と診断されたそうですが、その言葉の背景には想像もできないような苦しみがあることが伺えます。オープニングを飾る#1「Zero Dry」から、”光はわたしを見捨てる”や”永遠に続く不幸の空”と気だるげにささやいている。さらに8分近い#8「The Carpenter’s Son」は子守歌のようなゆったりとした曲調の中で、大工を務めていたという他界した父について書いています。

 シューゲイザー・ディスク・ガイド revised editionによると、2019年来日の際のインタビューで「Nothingという活動自体が自身のセラピーになっている」とドミニクは語ります。これまでで最もパーソナルといえる作品であり、不条理に追われ続ける中で音楽として吐き出すことで、彼は自身を保ち続けているのでしょう。

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The Great Dismal(2020)

 4thアルバム。全10曲約46分収録。オリジナル・メンバーで盟友のギタリスト、ブランドン・セッタが脱退。2019年の来日ツアーではサポートを務めていたドイル・マーティン(Cloakroom)が正式加入して制作。プロデュースは2ndアルバム以来となるWill Yipが務めました。

 “Dismal”は陰鬱、悲惨という意味合いを持ちます。NYタイムズ紙に掲載されたブラックホールの写真にインスピレーションを得たこと、”Existence hurts existence = 存在が存在を傷つける”という言葉をメモ書きして制作をスタートしたと言われている(この詞は#5「Famine Asylum」に使われる)。作品自体は、孤立や絶滅、人間の行動という実存主義的なテーマを探求しているとのこと(公式Bandcampによる)

 90年代の蘇生というサウンドにおける大テーマを継続。#2「Say Less」はマイブラの「Soon」を思わせ、#3「April Ha Ha」にしてもマイブラの「Only Shallow」の出足がよぎる。息をのむような美しさと幻想性は健在ですが、インディー・ロックに同調したような印象も受けます。

 本作における一番の驚きは、スタートの#1「A Fabricated Life」。フォーキーなサウンドと気だるげなヴォーカルによって進行していき、ハープやストリングスが折り重なっていく。暗い濃霧に包まれるこの曲は、これまでになかったタイプの曲として機能しています。

 他に変化を感じる部分として、澄んだ響きはよりクリアに、ヘヴィなところはもっと重くなっている。特に#5「Famine Asylum」の3分前後の部分でドラム乱れ打ちから一気にスイッチが入り、その流れで後半の楽曲はドゥームゲイズと呼ばれそうなほど重量感が増します。#8「In Blueberry Memories」はシューゲイズとポストメタルの境界を行き来し、#9「Just A Story」でドゥームゲイズの絶海に沈む。

 1stアルバム以来の暗さが通底している作品。加えて、シューゲイズの幻影を追い求めるだけではないヘヴィさの強調が、より良いコントラストとなって表れている。#10「Ask The Rust」の締めくくりはそれを示しています。

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