【レーベル特集】Pelagic Recordsへ潜るオススメ作品10選

 ”Pelagic Records“をご存知か? し、知らないですと!? そりゃあ無理もない。でしたら紹介していきましょう。

 Pelagic Recordsはドイツのプログレッシヴ・メタル集団のThe Ocean(Collective)でメインコンポーザーを務めるギタリスト、Robin Stapsが2009年に設立したレーベルです。元々はMetal Bladeに所属していたThe Oceanが古い作品を再リリースするために模索していたところ、生まれたとのこと(参照:Bandcamp Daily記事)。Pelagic(読み:ペラジック)は遠洋を意味。なお、The Oceanはレーベル設立から4年後の2013年に代表作『Pelagial』を発表することになります。

 2024年で設立15周年。2025年3月2日執筆時点の所属アーティストの総数は公式サイトで数える限りは84、これまでの述べリリース数は”275″を超えます(参照:OX-FanzineによるRobin Stapsへのインタビュー)。ジャンルでいえばポストロックやポストメタルを中心としたヘヴィ・ミュージックの要塞です。

 MONOやenvyのヨーロッパ圏のリリース・レーベルであるといえば、日本の私たちにもなじみが出てくるかもしれません。ちなみにですが、”MONOとの契約はゲームチェンジャーとなった(参照:OX-Fanzineインタビュー)”と語るぐらいにレーベルにとって重要な転機だったようです。

レーベル主宰のフェス、Pelagic Festも開催されている

 本記事はそんなPelagic Recordsの特集です。オススメ作品をあげることで興味を持って頂こうと思いまして。当ブログでは昨年から所属バンドをどんどん増やしているので、ここでドドっと紹介する試みです。ただし今回の特集ではMONOやenvyは除きましたし、大御所といわれるバンドも避けてます(主宰は除く)。Pelagicの比較的最近のリリースの中から、良いアーティストを知ってもらうきっかけにしてもらえたら嬉しい。

 275という膨大な作品があって、どれがPelagicからのリリースかわからない部分があるので、本記事は上記リンクの公式Bandcampに載っているリリース作品にしぼっています。なおかつ当ブログで作品紹介記事を掲載しているものから選出。あらかじめ断っておくと、私はまだ50作品ぐらいしか聴いてないことをご承知ください。

 現時点でオススメ作品10選です。これからもPelagic Recordsは取り扱っていくので15選、20選と記事を拡張していく予定。修正と更新と進化させられるweb記事の利点を活かしていきます。それでは下記からPelagic Recordsに潜っていきましょう。

タップできる目次

オススメ作品10選

01. The Ocean『Holocene』

Release : 2023/06/16

 レーベル主宰であるRobin Stapsが率いるThe Ocean(Collective)は2000年に結成。20年以上のキャリアにおいてヘヴィミュージックを前進させ、プログレッシヴ・メタル~ポストメタルの旗手としてその名を轟かせる。地質学、海洋、宗教といった哲学的なテーマと向き合って生み出される作品は、いずれも高い評価を得ています。本作は2023年発表の9thアルバム。”Holocene = 完新世”。最後の氷河期が終わった1万1700年前から現在までを示します。音楽的には大胆にもデジタルなトーンが主導権を握ることが明らかに増えました。またトランペットやホーンなどの金管楽器を各所で盛り込み、#6「Unconformities」にはスウェーデン人歌手のKarin Park(彼女もPelagicから作品をリリースしている)が艶めかしい声を吹き込んでいる。それに歌詞のテーマは”この時代の奇妙さ、陰謀論を取り扱っている”とのことで、#2「Boreal」にはパンデミック中の陰謀論、#3「Sea Of Reeds」には旧約聖書からのインスピレーションを投影し、MVが制作された#7「Parabiosis」では寿命を延ばす再生医療や整形手術など、永遠の若さを求める現代に対しての疑問を投げかける。音楽を聴いて学びを得る、その代表格。

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02. pg.lost『Yes i am』

Release : 2007/06/20

 2004年に始動したスウェーデンのインストゥルメンタル4人組。元Eskju DivineのメンバーやCult of Lunaに2013年に加入したKristian Karlssonを擁します。本作は2007年発表1st EPで、Pelagic Recordsからはリマスター+ライブ音源を追加した再発盤が2020年にリリース。メンバーが20代前半にレコーディングされた作品ですが、現在でも主力ナンバーが揃う原点。静と動に架け橋をかけて行き交う00年代ポストロック王道作法に準ずる音楽性が持ち味であり、冒頭を飾る表題曲#1「Yes I Am」からその特性は表れます。#2「Kardusen」にしても10分に及ぶラスト曲#5「The Kind Heart of Lanigon」にしてもメランコリーに彩られたインスト・ポストロックの海源です。20年の再発盤ではアルバム発売から10周年を記念した2017年に故郷・ノルヒェーピングでの本作全曲演奏をボーナストラックとして追加。ちなみに2016年9月にはTokyo Jupiter Records招聘で1日限りの来日公演を実施しています(現在まで来日はこの1回限り)。

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03. SOM『The Shape of Everything』

Release : 2022/01/22

 2017~2018年頃から活動するアメリカ・ボストンの現在は4人組となるバンド。といってもSOMはConstantsJuniusCaspianといった熟練のメンバーで構成されており、オルタナティヴメタルやポストロックの技巧が還元された存在です。本作はトリプルギター編成の5人体制だったころの2ndアルバム。アルバムの性質はオープナー#1「Moment」にてほぼ代弁されていますが、ドゥームゲイズとポストメタルとドリームポップの間を揺れ動きながら、HUMや中期のDeftones的なタッチが加味される。#6「Wrong」はWhirrを思わせるヘヴィシューゲイズを鳴らしていますし、#2「Animals」や#5「Clocks」辺りはよりメランコリックな表現が浮かび上がっています。シューゲイズの魔法に寄った印象はあれど、取り扱い注意な重量物級のリフは健在。ただしアルバム全体の雰囲気は柔らかく淡い。本記事で紹介している中ではおそらく一番聴きやすい作品です。なお2021年にビリー・アイリッシュの「everything i wanted」をカバーし、ちょっと話題になりました。

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04. Oh Hiroshima『All Things Shining』

Release : 2024/06/28

 2007年から活動するスウェーデンのポストロック系デュオ。ヴォーカルやギター、メインコンポーザーを務める兄のJakob Hemström、ドラムや映像関係を担当する弟のOskar Nilssonから成る。本作は5thアルバムで、以前より活発化したライブ活動のフィードバックから歌に重点を置いた作品とのこと。”ポストロックとはブレンドである“ということを体現しているのが特徴ですが、親和性の高い周辺ジャンルを網羅しつつ多種の楽器を絡め、歌が呼吸しやすい配置を整えています。しかしながら、歌に力点を置くことによってサウンド自体が渋く暗く控えめになるというのが不思議。それでも全体を通してダークに引き立っていても流麗な展開、ポストロックと交わした契りゆえの思慮深さが表れている。ラストを飾る#8「Memorabilia」は儚く移ろう音響と消え入りそうな声が忘れがたい結末を奏でています。ちなみに日本人が反応するOh Hiroshimaの由来は調べましたが、わかっている内容は脱退した創設メンバーが名付け親。彼のインタビューを可能な限り探しましたが、バンド名について説明している部分がないので永久に謎のままです。

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05. Glassing『From the Other Side of the Mirror』

Release : 2024/04/26

 2013年からアメリカ・テキサス州オーティンを拠点に活動する3人組。バンド名はPlanes Mistaken for Starsの2ndアルバム『Up In Them Guts』に収録された同名曲に由来します。リアル・スクリーモやブラックゲイズとポストロック、スラッジ、アンビエントが結晶化されたスタイルが持ち味。ですが、近しい存在に思えるInfant IslandFrail Bodyよりはもっとプログレッシヴ・メタル寄りのバンドという印象を受けます。ポストメタルのタッチが強い#2「Nothing Touches You」からデスメタル系の砲撃が続く#3「Defacer」と#7「As My Heart Rots」、Pallbearer的なドゥームを宿した#6「Ritualist」など幅広い性能が搭載。ただし、複数のジャンルにまたがりながらもどこにも定住してない感覚は強い。”僕らの特徴は、いろんなバンドの中間的な存在だということ。This Will Destroy Youとかmeth.とかとライブをやることもできる“というINVISBLE ORANGESのインタビューの言葉は確かです。本作は42分という簡潔さ(曲単位も最長で5分台)の中に、野蛮な爆発力とクリスタルの煌めきを有している。

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06. Love Sex Machine『TRVE』

Release : 2024/04/12

  モー娘。じゃない方のラヴマシーンといえばフランス・リールのこの4人組(ラヴとマシーンの間に一語入りますが)。Pelagic Recordsはサッカーで例えるならゴリゴリの肉体派ポストプレイヤーもちゃんと有しており、スラッジメタルを基盤にしたLove Sex Machineはその筆頭。しかも”Suicidal Nihilistic Sludge”と称する辺りも本物です。基本的には3分台という簡潔な足回りの中で曲を構成し、粗悪なスラッジメタルでぶつかってくる。リリースインフォにある”言いようのない嫌悪感を抱かせるヘヴィネスが詰まった”というのを証明しています。ドゥームの粘着性やサイケデリックな効能は薄め。時折シンセサイザーをマッチングさせてくるものの宇宙で成仏する類のものではなく、全体を通してガチムチのフィジカル重視です。ox-fanzineのインタビューでは”我々のような愚かなスラッジメタルバンドで演奏することは、一定の年齢を超えると本当に社会的に疑わしいものになる“と自らを皮肉ってるのはちょっと笑えます。だからこその”Suicidal Nihilistic Sludge”なのか。

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07. i Häxa『i Häxa』

Release : 2024/11/01

  i Häxaはシンガーソングライター兼ヴィジュアル・アーティストの Rebecca Need-Menear、音楽プロデューサーのPeter Milesによる男女ユニット。Häxaはスウェーデン語で”魔女”を意味します。本作は1stアルバムで全16曲約60分に及ぶ作品。作品は4つの楽章に別れており、それぞれが1パートが4曲約15分。四季と四大元素をテーマにしています。仄暗いトリップホップのタッチが浮かび上がる中で、フォークやドローン、インダストリアルといったテイストを様々に出し入れし、天使と悪魔の両方の媒介役になれるRebeccaの歌唱で楽曲に感情を吹き込む。Part1(#1~#4)はエレクトロニカ、Part2はクラシカル、Part3はインダストリアルと強調される部分はありますが、暗い物語を神秘性を帯びたものに昇華していき、最後には闇と分かち合う。その美しい調べが本作には存在する。

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08. A Swarm of the Sun『An Empire』

Release : 2024/09/06

 マルチプレイヤーのErik NilssonとJakob Berglundの成るスウェーデンの2人組。2007年から活動するベテランの4thアルバムとなります。ポストロック/ポストメタルの影響下にあるサウンドが特徴ながらも、本作はずっと喪に服しているような暗く沈んだドローンが強化。コアメンバー2人に加えた6人編成でパイプオルガンやシンセサイザーなどの音を鳴らしているのに、暗闇の最深部を映しているかのように色味は抑えられています。抽象と葬送のミニマリズムが大半をしめ、生気が抜けてしまった歌声が重なる。さらに本作は18分の曲を2つ含むこともあって、より長尺に。そして儀式的で荘厳。肉体性を得ていく大音量化もあって抑揚はしっかりと設けられていますが、それすらも沈黙への抵抗という感じの趣があります。例えるなら希望が訪れないGY!BE、あるいは轟音ドローン部分を抽出したSUNN O)))のような。緊張感とダイナミクスに溢れた先行シングル#5「The Burning Wall」は7分台ということもあり、ある種の踏み絵です。それがA Swarm of the Sunによって建造された夜明けのない帝国の巡礼への一歩。

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09. Pothamus『Abur』

Release : 2025/02/14

 ベルギーの古都メッヘレンを拠点に活動する3人組。2013年に活動開始。音楽と形而上学を融合したスラッジ/ポストメタルを体現し、反復を基調とした儀式的なサウンドで非日常をつくりだします。同郷のAmenra、大御所のSwansやNeurosisといったアーティストの影響下にあることを感じさせる。本作は2ndアルバム。”『Abur』はすべての生命の深い相互関係を象徴していて、存在とは織り成されたものであり、個々の糸が全体に寄与しているという古代の考えに基づいている“と説明(参照:Faebookページ10月22日の投稿)。トライバルなリズムの上にスラッジ風リフやうねるベース、デスボイスとクリーンな歌唱を交えながら長尺の儀式が繰り返される。さらに本作はインドの民族楽器であるシュルティボックスを導入して東洋的な響きのドローンを加味しています。表題曲#6「Abur」はミニマリズムとダイナミクスの妙で構築された15分で、時間という概念すら忘れさせる没入感がある。酩酊ではなく、覚醒。人間の原始的な欲求を引き出す作用がPothamusの音楽は有している。

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10. Outlander『The Valium Machine』

Release : 2019/04/19

 アウトランダー。車じゃねえぞ。UKバーミンガムの”スロウ・ロック”を自称する5人組です。本作は2019年発表の1stアルバム。2024年11月にPelagic Recordsと契約し、2025年1月に同作をリマスター再発しています。タイトルはUSスロウコア・バンド、DusterのサイドプロジェクトであるValium Aggeleinの曲「The Valium Machine」に由来。ただし、Outlanderにはポストロック/シューゲイザーの夢遊、ドゥームの質量、スロウコアの枯れが存在。大半のパートをインストゥルメンタルが占めており、曲は長尺で平均して8分30秒を数える。MogwaiやThis Will Destroy You、Hum、Slint、Codeine、そして同じバーミンガムの巨匠であるJesu等の影響下にあるサウンド。展開で魅せるような感じではなく、ゆったりとした進行の中で浮き沈みを堪能するもの。ただ、本作は次作に比べると轟音系ポストロックの派生という感触が強く、#1「Sinking」からその傾向は表れています。1stアルバムからこのニッチなスタイルを悠然と貫ける辺り、バンドの肝は据わっている。

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おわりに

THE PELAGIC DUNGEON  – A Guide to the Pelagic Records Warehouse & Oceanland

 2025年1月下旬には、Robin Stapsが通称:Pelagic Dungeonと呼ばれるレーベルの倉庫兼リハーサルスペースを探索する動画が、Pelagic Recordsの公式YouTubeチャンネルにアップされています。自動翻訳機能を利用して観ても十分伝わる内容ですので、チェックされてない方はぜひ。

 なおPelagicの公式Bandcampは、リリース作品の7割ぐらいはName Your Price設定。バファリンよりも優しさの比率は高い。ということは、探求しやすいのです。もうおわかりですよね。あなたもPelagic Recordsという大海洋に潜行しましょう。

15年の歳月を経ても、レーベルの奥深く響き渡るリリースへのアプローチは変わっていない。野心的なリリース・スケジュールも同様。「最新鋭で感情に訴えるもの、それ自体がヘヴィなものなら積極的に受け入れます」とRobin Stapsはレーベルの音楽へのアプローチについて語る。 「そして今、ヘヴィ・ミュージックの領域には、間違いなく非常に興味深い方向性がたくさん形作られている。 リリースしたいクールな音楽がたくさんあるという状況にいます」

Post-Rock’s Most Ambitious Label Turns Fifteen(Bandcamp Daily)』より引用(訳はDeepLとGoogle翻訳を交えてます)
お読みいただきありがとうございました!
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