2016年に発表された作品の中から20枚選出しています。こちらは順位付けしてみましたのでよろしくどうぞ。
20位: Tim Hecker – Love Streams
4ADに移籍しての約2年半ぶりとなる8作目。ティム・ヘッカー先生の愛のキャンペーン ~ノイズ編~であります。前作までと同様にBen FrostやKara-Lis Coverdaleが参加し、レイキャヴィークのスタジオでの録音。そこにポストクラシカル系音楽の代表格であるJohann Johannsonが参加し、聖歌隊をフィーチャー。これまでの浴びるというよりは押し流されるレベルの質量を持ったノイズは控えめに、丸みと柔らかさを重視したものへと変化し、温かくメランコリックな響き。音像の核にある優しさや愛とともに、深く向き合い、全身で感じたい作品に仕上がっています。
19位: SUMAC『What One Becomes』
ex-ISIS(the Band)のアーロン・ターナー、ブライアン・クック(Russian Circles)、ニック・ヤキシン(Baptists)という支配者級(クエストクラス)の3名によるゴリゴリスラッジ・バンドの2作目。重圧的なスラッジメタル風リフの反復を主としながらも、エフェクトを駆使した幅のあるノイズ爆撃、インプロ的な怒涛のラッシュ、音数を絞った呪術・密教的な展開など。そういったテイストを盛り込んで長尺ゆえの緩急/ダイナミクスで圧倒します。さながら鬼神、風神、雷神による鉄壁のアンサンブルは非情であり、重厚です。星飛雄馬並のストイックさでメロディの贅沢も無く、聴き通す難易度は高め。ただ、本作を聴き終えることで新たな感覚が芽生えるかもしれません。そんな衝撃を有す。
18位: Tycho『Epoch』
サンフランシスコを拠点としたスコット・ハンセンによるTychoの5作目。近年、よく日本にいらっしゃっていますが、本作は『DIVE』~『AWAKE』という2枚のフルアルバムに続く3部作とのこと。内容としては地続きのようにいつも通りのまろやかエレクトロニカでございます。サラッと涼感MAXの電子音、やや肉体性を増したリズムを中心に無意識のトリップを誘う。キラキラとしていても押し付けがましくなく、神経のツボをささやかに刺激するように音を放出しているのが上手い。その多層的なサウンドスケープは見事。年明けにはまた来日してくれますね。
17位: amiinA『AVALON』
miinaちゃんが脱退してmiyuちゃんが加入。新体制となってついにリリースされた1stフルアルバム。ポストロックをベースとしたローティーン・アイドルが壮大な音楽で魅了してくれます。まっすぐな力強さ&ピュアネス&あどけなさ全開の2人のヴォーカル。神バンドのBOH神や戸高賢史氏などの多彩なゲスト陣による生演奏の基調。本作の強度やスケール感はその点が大いに起因しています。北欧ポストロックにエレクトロニカ、UKギターロック、USインディーの要素はバランス良く配置。Sigur Ros(Jonsiのソロ作品も含め)やArcade Fireのような昂揚感を所々で感じさせます。特にケルト・ミュージック的な側面まで取り入れた#2「Avalon」における疾走感は、某エナジードリンクよりも翼を授けられた感あり。#8「Atlas」を聴いてもわかる通りに、amiinAの音楽にはRPGのような冒険があり、ファンタジーが詰まっています。これまでの総括と新しい前進を鮮やかに示してみせた1枚。
16位: Russian Circles『Guidance』
シカゴのヘヴィ・インスト3人組の6作目。前作ではゲスト・ヴォーカルを入れたりしてましたが、本作は7曲全てにインストを揃えて本来の姿に立ち返っています。作品毎に着実なる前進を感じさせるバンドですが、ここで積み上げられたと一番に感じるのはヘヴィネスの部分。無差別重量曲#6「Calla」における轟きがそれを物語ります。そして、明暗硬軟遅速を展開に合わせて隅々までコントロールし、柔らかなリリシズムとともに曲の背景を膨らませる。ダイナミズム溢れる#2「Vorel」や#3「Mota」辺りは、聴いただけでRussian Circlesとわかるぐらいに彼等の専売特許。大きな方針転換はなくとも、自身の音楽を分析して突き詰め、研磨を続ければマンネリなんて言葉はねじ伏せることができる。それを証明する作品。
15位: 大森靖子『TOKYO BLACK HOLE』
母になってからリリースの4thフルアルバム。ゆめかわいすぎた前作から、バランスが良くなったと同時にいろんな大森さんが感じられる作品じゃないかなと思います。心を木っ端微塵にしたり、鋭く突き刺したり、温かく包みこんだり、共感を呼んだりする歌や詩の個性/インパクトを発揮。激情に駆られながら訴える「あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ」は、まぎれもない強さを持った女性だからこそ歌える一節でしょう。彼女は自分の経験を通して歌にし、いつでも聴き手に問いかけるのです。ドラマチック大森仕立ての楽曲とともに。ありのままをさらけ出すこと、自分を肯定すること、他者に認めてもらうことは本作においても痛切に感じるところです。「森、道、市場2016」のステージやワンマン・ライヴを拝見できたのも良かった。
14位: Astronoid『Air』
アメリカ・マサチューセッツのポストブラックメタル・バンドの1stフルアルバム。トレモロやブラストビートを用いた様式はポストブラックに則ったものですが、ファルセットやクリーン・ヴォイスで構成していて、シューゲイザー要素と交じり合いながら音像に融解。優雅で重層的なサウンドに仕上げています。印象としては4ADの連中が頭のネジが外れたか、いろいろとこじらせたのかでバックの演奏にブラックメタルを取り入れた感じ。間違いなく闇属性ではなく光属性であり、教会を焼き払うような残虐性など皆無です。#2「Up And Them」や#6「Air」といった秀曲揃いで、作品全体の緩急も良し。MEWからの影響も強いそうで、幻惑的なムードと美しいハーモニーが聴き心地の良さを増幅しています。
13位: Cult of Luna and Julie Christmas『Mariner』
スウェーデンのポストメタル重鎮による7作目。Battle Of Mice等に参加したブルックリンの女性歌手であるJulie Christmasとのコラボ作品となっています。スペシャルな女性が手を貸そうが、本店の味は変えんと貫いており、黒雲のごときダークな意匠と堅牢な構成管理でズシリと来ます。静・動行き来型の平均10分の曲尺、暴力性をはらむ重低音、退廃的なメロディ、SF感が漂うシンセの装飾、空気を切り裂く咆哮など。彼等たらしめる構成要素は惜しみなく使用。そこにJulie姐さんが怒り狂って叫んだり、急にロリっぽい歌唱を披露したりと表情を変える。鬼気迫るかのような両者の本気のぶつかり合いによるダイナミズム/ドラマティシズムは、これまでになかった彼女の異質な響きをもたらしています。十分過ぎる結果を残した作品ですね。
12位: きのこ帝国『愛のゆくえ』
1年ぶりとなる4作目。わかりやすいポップ化進行が本作では深行へ。「“愛のゆくえ”をめぐる、9つの物語から成る短編集」というテーマで作品は制作。手書きの手紙によるやり取りのような親密さを感じさせ、君/あなたへの想いを曲が進むに連れて直接的な表現で綴ります。シューゲイザー要素の復活に加え、これまでの作品で試みてきた諸要素が上手くまとめられている印象。また、柔らかく伸びやかな佐藤さんの歌声は、影と憂いを与えつつも優しい。様々な形や想いを通した『愛』の短編集。全ての道がここに通じていたという集大成の作品であり、きのこ帝国の作品群で最も深みを感じさせる作品に仕上がっています。
11位: BABYMETAL『METAL RESISTANCE』
約2年ぶりとなる2ndフルアルバム。名刺代わりの前作が前例のないレベルで世界に波及したとはいえ、本作でポップには寄せずに密度濃く。ドラゴンフォースとフュージョンを果たした#1「Road of Resistance」から始まるメタル~ラウドロック系のサブ・ジャンルの横断は、これまでよりさらに広く深いところへと向かっています。質実剛健のメタルにハイパー柔軟剤であるKAWAiiをぶち込んだサウンドは、とんでもない角度からズバッと切れ込む。メタルを最適化しているわけでは決してなく、やっぱりBABYMETALらしいOnly Oneを追求していると感じます。ズッキュンとくるKAWAiiのフックと重低音は変わらずに素晴らしい。
10位: American Football『American Football』
まさかの復活を果たし、約17年ぶりとなる2ndフルアルバムを発表。昨年には奇跡の初来日公演がありましたが、作品まで届けてくれるとは。イントロからグッと引き込まれる#1「Where Are We Now?」から込み上げるものがありますが、本作においても約束されたアメフト節は変わらず。寄り添うような音とのどかな時間の流れ。前作ほど蒼さを感じはしませんが、Owenの活動も踏まえて円熟した楽曲を届けており、年齢を重ねてきたことがいい枯れ具合につながっています。熱量の押し売りはせず、力むことなく自然体で。良い言い方ではないかもしれませんが、素朴が最上の味みたいなね。全9曲約38分、17年後も色褪せない音楽として語られるだろう作品。
09位: MONO『Requiem for Hell』
世界を舞台に活躍する国産インスト・バンド重鎮の9作目。5作目以来となるスティーヴ・アルビニ先生とのタッグが復活しています。数々のフォロワーからお手本とされるその手法は、ポストロック最高金賞受賞レベルなわけですが、アルビニ先生による録音の復活で一層の生々しさとダイナミクスを感じさせる仕上がり。地獄、煉獄、天国の3編から成るダンテの「神曲」が本作のモチーフになっているようですが、そういった組曲としての構成美があります。中核を成す18分超えの大曲#3「Requiem For Hell」では猛烈な吹雪のようなギター・ノイズが重々しく心身に迫る。この曲はかつての「Yearning」よりも試練のような哀感に溢れ、「Com(?)」よりも大きなエネルギーが爆発。これまでに発表した曲の中で最もアグレッシヴといえる楽曲かもしれません。彼等はいつだって轟く音とともに天国と地獄を描き、人間の根源を問う。その真骨頂が重々しく表現された1枚。
08位: 陰陽座『迦陵頻伽』
妖怪ヘヴィメタルに身を捧げ続ける4人組の2年2ヶ月ぶりとなる13作目。『迦陵頻伽(がりょうびんが)』とは、”この世のものとは思われない美しい姿と声を持つ半人半鳥の生物”のことですが、それは陰陽座でいえば黒猫さん。本作では黒猫歌謡祭と呼べそうなぐらいに彼女の歌を活かしたつくりです。歌謡ハードロック&ポップな#4「刃」、無敵の女忍者をモチーフにした疾走メロディック・メタル#8「氷河忍法帖」などはその筆頭。そして、何よりも#12「愛する者よ、死に候え」が名曲過ぎてたまらない。妖怪と手を取り合いながらオンリーワンのメタル街道を歩み続け、自身の作風を深化させてきましたが、本作はキャッチーさとメロディの充実によって一層コクが出てきたかなと感じます。一貫して自身の表現を追求し続けてきたことの強さ、それが表れています。
07位: THE NOVEMBERS『Hallelujah』
結成11週年に送る6枚目のフルアルバム。USインディよろしくな雄大なグルーヴとコーラスワークが高らかに開幕を告げる#1「Hallelujah」から甘美な音世界へ。◯◯クラスタなんていう属性に陥らない幅広い音楽性の包括する様々なジャンルによる彩りは、しっかりとした一本の芯を通した上で確かな厚みと鮮やかさを加えています。作品は時に皮肉、時に攻撃的と文学性を感じる日本語詩で綴られる。本作におけるキーワードは、執拗なまでに登場する「美しさ」。そのバンドの理想を体現したと思えるのが、いずれもホーン・セクションをフィーチャして希望や祝祭を奏でる#4「美しい火」と#11「いこうよ」の2曲だと思います。作品毎に高まっていく美意識とスケールは、集大成といえる本作にて結実。自らの音楽的背景を膨らませながら確立してきたTHE NOVEMBERSらしさを存分に発揮しています。僕と君の世界を変える美しいものと爆音、それを求め続けたロマンチストたちが残した傑作。
06位: Touché Amoré『Stage Four』
DeathwishからEpitaphへ移籍しての4作目。バンドとしてそこにとどまっていてはいけないという意志を作品毎に提示。本作では聴く側の対象範囲をさらに広げ、全体をメロディアスに補完しています。以前ほど速いわけでもないし、激しいわけでもないのですが、エモーショナルであり続けるという軸はぶれていない。その一瞬に全てをかけたかのような情熱を目一杯込めてます。また本作は、ヴォーカリストの母が2014年に亡くなったことが大きく影響している模様(タイトルはおそらく癌のステージ分類からきているっぽい)。確かにかつての怒りのエネルギーよりも大らかで包容力があります。もっといえば人生における喜びや悲しみ、生きることの儚さや尊さが詰め込まれている。#10「Water Damage」から#11「Skyscraper」の締めくくりには涙腺が緩みます。
05位: 宇多田ヒカル『Fantôme』
長きに渡る人間活動を終わらせての約8年半ぶりとなる通算6枚目。朗々と駆け出していく#1「道」からポジティヴなエネルギーを振りまき、その後はバリエーションに富んだ曲で包み込んでくれます。かつてと比べれば簡素だと思うのですが、「歌の豊かさ」をとにかく強く感じさせる。アルバム・タイトルこそ「気配」を意味するフランス語ですが、曲名は全て日本語で心の移ろい、日々の移ろい、時代の移ろいを描く。ラッパー・KOHHが参加した死と別れをテーマにしているだろう#9「忘却」から、シェイクスピアだって驚きの展開と高らかに歌う#10「人生最高の日」の流れは、特に力強いメッセージのように感じた次第。年齢相応とはいえないだろう多くの経験を経た情の深い音楽、それは巡る月日に喜怒哀楽を添えるかのようです。
04位: D.A.N.『D.A.N.』
“いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウを追求すること”をバンドのテーマに掲げる東京出身の3人組。ゆったりと音像に染みこむアンビエント、サイケ、チルウェイヴ、歌謡性。信条のミニマリズムはクールで抑制が効いているとはいえ、日本詞による歌を通して物語が浮かんでくるし、ゲストの小林うてなさんによるスティール・パンがトロピカルな感覚をプラスします。冷めざめとしてミニマル、でもメロウさがいつもお隣にあるのが素敵。静謐の価値とインテリジェンスを感じるミニマルな#3「Native Dancer」、深海に沈んでいくかのような前半からダンス・ミュージックの側面を強めていく#4「Dive」、チル歌謡ポップの魔法をかける#8「POOL」と楽曲は粒ぞろいです。軽やかな聴き心地からふわりと持ち上げられ、全身に広がる陶酔。実に見事な1stアルバム。
03位: 岡村靖幸『幸福』
前作『Me-imi』より約11年半振りとなる7thフルアルバム。50歳になってさらにハイになる岡村ちゃんイズムの歌とリズムに心踊る躍る。ムーディーな歌ものがあり、ごきげんな強力ファンクあり、弾けるようなポップな曲があり。リズム、アイデア、ポピュラリティ。いずれもが突出していて、すぐに虜になるぐらいに各楽曲にエネルギーと魅力が溢れかえるほど詰まっています。幸福に浸れる時間ですね。Base Ball Bearの小出氏との共作#5「愛はおしゃれじゃない」が本作では特に好きですね。本作の影響で彼のライヴにも初めて行ったのですが、最高でした。
02位: Jambinai『A Hermitage』
韓国の男女混成インストゥルメンタル・トリオのBella Unionからリリースされた2作目。韓国の伝統音楽である「国楽」をポスト・ロック~ドゥーム・メタル~フュージョンといった要素と融合させて、世界的に評価されています。SXSW、Glastonbury Festivalを始めとした世界各地のフェスへ出演(今年はHellfestに出ている)を果たす。伝統楽器による神秘性を魔性に変貌させて闇夜のヘヴィ・ミュージックとして確立。ベストトラックに挙げた#8「They Keep Silence」を始めとして、いずれの楽曲も悲壮感や怒気を漂わせながらドラマチックに展開し、新鮮な響きと巨大な迫力を持って衝撃をもたらしてくれます。Marunouchi Muzik Magazineさんに掲載されているインタビューは必見。
01位: Oathbreaker『Rheia』
女性Vo.Caro Tangheを要するポストハードコア・バンドの3年ぶり3作目。作品毎にポストハードコア~~ブラッケンド~ネオクラストの拡大解釈へ。本作においては曲単位ではもちろんなのですが、全10曲という作品全体を通しての大きな緩急・起伏で聴かせてくれます。Jack Shirleyのプロデュースによる絶妙なシューゲイズ・テイストの武装があり、アコースティック・パートも上手く組み込まれていて、サウンド面において変化を感じるところもポイント。それがルーツを含めた自身の音楽性に対して上手く肉付けできてるからこそ、作品としての強固さにつながっています。スクリームだけではない艶めかしい歌唱を披露し、女性の歌ものという側面を強化したことで楽曲の幅広さに説得力が伴っているのも良いですね。#1「10.56」~#2「Second Son Of R.」や#5「Needles In Your Skin」におけるドラマティックな激走、それによる感情爆破。ハードコアはかくも劇的であったのかと。
2016年を振り返ると、今年は音楽フェスに例年以上に多く行きました。といってもひとつもフル日程で参戦せず、1日のみというパターンで(苦笑)。その中では、4年ぶりに行ったフジロックが素晴らしすぎて、自分はこの4年間一体何していたんだという気分にさせられてしまいました。来年も絶対に行こうと心に誓った次第です。3年ぶりのサマソニ大阪は暑かった、かつてよりも暑かった・・・。そして、愛知県民なのに初めて足を運んだ「森、道、市場」が想像以上に良いフェスでした。来年は規模を拡大するようなのでこちらもまた行きたい。
サイトの方では、2016年に8m、Presence of soul、OVUMのインタビューをお届けしました。昨年の5本よりも少なくなってしまいましたが、内容の濃さはいつも以上にはできたかなあと思います。それはもちろん、回答者の熱意によるもの。伝えるためにここまでたくさんの言葉をいただき、感謝しっぱなしです。とりあえず来年もインタビューはなるべくやっていきたいところでして、年明け後に1本記事出す予定にはしています。