宇多田ヒカル ‐‐Review‐‐

1998年のデビュー以降、日本の音楽界のトップに君臨する歌姫。1stアルバム「First Love」は日本最多のセールスを記録している。


Fantôme

Fantôme(2016)

 長きに渡る人間活動を終わらせての約8年半ぶりとなる通算6枚目。清田信長の100万倍ぐらいルーキーセンセーションな日本音楽の金字塔である1st『First Love』だけ、僕はアルバム単位で聴いているレベルです(2016年1月発売の宇野維正氏が執筆した『1998年の宇多田ヒカル』は発売日に買って読みましたが)。

 8年半を経ての本作は人間活動を経た落ち着きが感じられ、じっくりと噛み締めたくなるように詩と歌声が響きます。瑞々しいアコギの旋律から朗々と駆け出していく#1「道」からポジティヴなエネルギーを振りまき、その後はバリエーションに富んだ曲で魅了。男女両方からの目線で書かれた詞とジャズちっくなアプローチが目立つ#2「俺の彼女」、かねからの盟友・椎名林檎とのデュエット曲である#4「2時間だけのロマンス」、ピアノを中心としたシンプルな曲調に深い愛と別れを綴った詞を重く歌い上げる#7「真夏の通り雨」など。少女の頃から浮世離れしていた彼女の人間味、それが人生を重ねてきた今だからこそ強く感じられる楽曲が揃えられている印象です。

 かつてと比べれば簡素だと思うのですが、「歌の豊かさ」をとにかく強く感じさせます。アルバム・タイトルこそ「気配」を意味するフランス語ですが、曲名は全て日本語で心の移ろい、日々の移ろい、時代の移ろいを描く。以前と比べると日常に寄り添った感覚があるし、今の自然な彼女が出ているのではないかなと思います。丹念に紡いだ芸術であるけど、老若男女に伝わる大衆性の方が前に出ている。

 ラッパー・KOHHが参加した死と別れをテーマにしているだろう#9「忘却」から、シェイクスピアだって驚きの展開と高らかに歌う#10「人生最高の日」の流れは、特に力強いメッセージのように感じた次第。年齢相応とはいえないだろう多くの経験を経た情念の深い音楽、それは巡る月日に喜怒哀楽を添えるように響き続けるのです。

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