2022年ベストアルバム10選

 ”2.0″として2021年6月に復活後、2度目の年間ベストアルバムです。当ブログのスタイル的に新作をあまり追わないので、今年は10作品にしました(昨年は5作品)。既にサムネイルでネタバレしていますが、セレクトは自分らしいものにしていますし、読者の方からもそう思われていると思います。というかそうじゃなきゃ意味がない気がしますし。

 第1位だけ順位付けし、あとは特に順番はございません。自分にとってしっくりくる感じで並べているだけです。1位だけなぜ選んだかといえば、明確に1番聴いてたというデータに基づいていること、自分の好みにも合っていて納得できることから選んでいます。

 それでは下記よりどうぞ(ここだけ”である調”です)。2022年のライヴ参戦記録、本ブログからのお知らせを後述しております。

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2022年 ベストアルバム10選

Dream Unending『Song Of Salvation』

 ドリーム・ドゥームを謳う2人組の2ndアルバム。

 ピースヴィル・レコードに所属していた3バンド、通称:Peaceville Three(Anathema, My Dying Bride, Paradise Lost)やThe Cure、Cocteau Twinsからの影響を公言しているが、基本線にあるのはドゥームとデスメタル。

 厳つさを異常なまでにやわらげるクリーントーン、デスメタル出自ゆえのけだものグロウルと残忍なリフの組み合わせは、さながら美女と野獣のようである。

 メランコリックに表現される悲哀と無慈悲な死の波動。美しさへの背信行為は存在するけれども、まろやかさと有機性は格段に高まっており、前作より如実に感じる温かさが特徴のひとつ。

 アルバムの核となっている平均して15分の2曲(#1と#5)はタイパ志向の人間にとても不合理。だが、ドリーム・ドゥームがもたらす色彩とロマンに時間をかけてゆっくりと満たされる。

 デスの暴虐性やドゥームの重量感による制圧よりも慎重なアプローチが生む奥ゆかしい風情は、Dream Unendingだからこその特色。

 Favorite Song : #1「Song of Salvation」

アーティスト:Dream Unending
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Birds in Row『Gris Klein』

 フランス・ラヴァルで結成されたポストハードコア3人組の3rdアルバム。作品自体がうつ病をさまざまな角度から語っており、うつ病を色盲に例えて要約したものが作品名に繋がった。

 New Noiseのインタビューによると遅まきながらRadioheadに感化されたことで新たな音の探求に至ったとのこと。

 シンセっぽく加工したギターの音色を用いたり、ポストパンク的な雰囲気の持ち込み、インダストリアルの影響まで元々の激情系ハードコアをベースに色味が増した。

 しかしながら彼等なりの美意識や芸術性と対峙しながらも、ハードコアとしての鮮度と情熱に陰りは無し。豊かさと拡がり。そこを得る中で躍動感や切迫感が変わらずに聴き手の心に火をつける。

 #1「Water Wings」における”孤独を自由と勘違いし、孤独を血清と勘違いし、愚痴を詩と勘違いし、私は失敗した”を筆頭に詞も変わらずに印象的なものが多い。

 総じて実験的志向を強めながら、Birds In Rowは苦しいどん底の時だってアートワークのように美しい花を見下ろす瞬間を生み出すために表現を追求し続けている。

 Favorite Song : #8「Trompe L’oeil」

アーティスト:Birds in Row
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Pohgoh『du und ich』

 94~97年という短い活動期間から20年近い時を経て復活したインディー・エモ4人組。本作は復活後2作目(通算3作目)。タイトルはドイツ語で”あなたとわたし”。01年にVo.スージーは多発性硬化症(MS)と認定され、現在も闘病生活は続く。

 しかし、過去には20年の空白があったことや現在進行形で闘病していることすらも忘れさせる、そんなポジティヴな音の群れが押し寄せる。

 即効性あるメロディックパンク調から、瑞々しいギターポップの爽快感、しっとりとした歌ものによる熟練の味わい。

 人生の酸いも甘いも知る年齢の方たちによる音楽だが、ペダル・スティールにチェロやハモンドオルガンといった飛び道具で本作の彩りはさらに豊かに。加えて、スージーの歌声は全作品中で最もキュートに。

 自分自身も世の中も何が起こるかわからない。それを直に体験してきたPohgohは、痛みは愛に、苦しみは希望へと置き換える。その逆転の美しさは共感ではなくリアルを描いてからこその結果。

 本作における切り拓こうとするエネルギーは素晴らしく、誰しもの人生賛歌になりうるパワーが込められている。

 Favorite Song : #12「Words Are Harder」

WATERSLIDE RECORDS
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Nionde Plågan『Transformation』

 2012年に結成されたスウェーデンのスクリーモ/ポストメタル系バンド。結成10年目という節目にリリースの5thアルバム。

 作品を出すごとにポストロック/ポストメタルとスクリーモが融合したスタイルへと変化を遂げ、本作でひとつの到達点へ。

 過去作のような短いインパクトは度外視し、全6曲が6分を超える(#2は12分)。これまでの政治的なメッセージ性より、年齢や価値観など人々が変化していくことや自己内省を多く言葉に起こす。

 その詞をヴォーカルはスクリーモ・スタイルで叫び倒して肉体性や熱量を担保。

 一方で演奏陣は一層のたおやかさを帯び、曲調は大らかでゆったりとなり、時間をかけてカタルシスを得ていく。12分を超える#2「Resenär」はスクリーモとポストメタルの珠玉の混合というべき名曲。

 母国の雄であるSuis La Luneやenvy辺りの影響を感じ、Trachimbrod、Tengilといったバンドとの共通項も多い。”Tokyo Jupiter Recordsがリリースしそう”と表現するのが、本ブログの読者には一番伝わる言葉だろう。

 Favorite Song : #2「Resenär」

メインアーティスト:Nionde Plågan
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lantanaquamara『灯台へ』

 かつて”Thinking Man’s Metal From JPN”を自称した東京のロック・バンド4人組。1st EPから6年をかけて完成した1stアルバム。

 ポストメタルは概念に押しとどめ、ヴィジュアル系イズムや残響系ロックが侵食。そしてプログレッシヴ・メタル~Djent、ハードコアにオルタナやアニソン感が調和する。

 象徴すべきは“口ずさめるようになった”ことで、変種の邦ロックというポジショニングも担える存在感を持つようになった。

 ほぼギター専任だったSO氏による歌が本格的に軸となり、メインヴォーカルの川光先生による朗読&叫びと共鳴することで新たな層へと波及する魅力を創出。

 意識づけられたキャッチーさと疾走感を持つ中で、ポストメタル由来の重低音、メタル的な煽情性にギターソロ、凝った展開が加速の滑らかさを失わずに組み込まれる。

 唯一の長編である#6「サバンナ」はポストメタルを意識して制作しているとのことだが、近年のVampilliaとLa’cryma Chrtistiのマリアージュのよう。

 またアルバムは冒頭を飾る#1「ポルピタ ポルピタ」の”新しい天文学の胎動を聞け 物語は始まる”が示唆するように天体/天文から派生していく物語らしく、小説家/脚本家としても活動する川光先生が手掛けた詞が独特の味わいをもたらしている。

 Favorite Song : #2「地平線」

メインアーティスト:lantanaquamara
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Pianos Become The Teeth『Drift』

 アメリカ・ボルティモアのポストハードコア・バンド5人組の5thアルバム。3rdアルバムからスクリームを封印しているが、本作もその延長上。

 前2作と比較すると感じるのは、曖昧さと余白。小刻みなリズムこそ力感を与えているが、ギターは空間に溶け込むようであり、茫洋としたサウンドスケープを生み出す。

 これは1960年代のEchoplexアナログテープエコーで録音した影響が大きかったそう。

 Kyle Durfeyの歌は、さらにモリッシーに近づいたセクシーで艶のある声でまどろみに誘う。本作の歌唱については諭す/語りかけるような表現にも思えるし、聴き手の心に踏み込んでくる詩的さがある。

 #4「Easy」は何度も題材にしてきた多発性硬化症に罹った父とそれを受け止める自分についてしっとりと歌い上げ、#7「Skiv」は穏やかな歌と重層的なうねりに包まれていく。

 ひとり人生の意味について思索にふけるとき、このアルバムは心にずいぶんと沁みこんでくる。

 Favorite Song : #4「Easy」

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White Ward 『False Light』

 戦火に見舞われるウクライナのポストブラックメタル・バンドの3rdアルバム。

 ウクライナの作家ミハイロ・コチュビンスキーが1908年に発表した小説『Intermezzo』を中心に、アメリカの小説家兼詩人であるジャック・ケルアック、スイスの精神科医のカール・ユングの作品からインスピーションを受ける。

 ブラックメタルとジャズとのスムーズな交歓を持ち味に、主権を握ろうとするサックスが虚無感と情熱を行き来し、トレモロリフや高速リズムが現代人の精神を打ち抜く

 そして扱ってるテーマが前作の都市の孤独から、本作では個人が生きていく上で抱えていく問題、社会ひいては世界が抱える問題となったことの険しさがある。

 リリック・ビデオが制作された約11分の大曲#3「Phoenix」は、警察の腐敗を暴露したことで硫酸で襲撃され、死亡したウクライナの市民活動家 カテリーナ・ハンジウクに捧げられた1曲。

 想像を絶せる過酷な母国ウクライナの状況に身を置く中で発表された本作は、キレイごとよりも世界の本質を問うメッセージが込められている。

 Favorite Song : #3「Phoenix」

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DIR EN GREY『PHALARIS』

 結成25周年を彩る11thアルバム。 タイトルは古代ギリシャで作られた拷問器具、ファラリスの雄牛から。制作のキーワードになった言葉は各誌インタビューによると“濃い、強靭、凝縮”。

 9th『ARCHE』以降の削ぎ落しの美や衝動性は継続されつつ、7th『UROBOROS』~8th『DUM SPIRO SPERO』の複雑な構築性を加味。

 始まりと終わりに置かれた#1「Schadenfreude」と#11「カムイ」という10分近い長編が本作の濃度に強い影響を与えている。

 背中越しに忍び寄っているような実態のわからない重さと暗さが感じられるのは、先行きの見えない現代社会とリンクしているからか。

 人生を全うしていく中での痛みや厳しさを突き付けられているかのようで、それでも生きていかなければならないことへの諦観が本作からは漂う。

 懐かしさと新しさ、そして無いようで有る/有るようで無い感覚が『ARCHE』以降の作品には感じられるが、『PHALARIS』には大文字DIR EN GREYの集大成というべき風格と強靭さが備わっている。

 Favorite Song : #4「13」

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Cult of Luna『The Long Road North』

 1998年に結成されたスウェーデンのポストメタル巨星による8thアルバム。全9曲約69分といつも通りの重厚長大な旅路。タイトルはヨハネス・パーション(Vo&Gt)が数年前に経験した心の旅にちなむ。

 故郷ウメオに戻ったことでスウェーデン北部の環境や風景に触発された言葉と音が本作の核となっているが、研ぎ澄まされたヘヴィネスとダイナミズムはいつも通りに聴き手を制圧。

 自身が持つ最大限の強みと伝統を誇示しつつ、サックス奏者・Colin Stetsonやマルチ奏者のMariam Wallentinといった外部との接続により、全く異なるテクスチャーもその世界に内包。

 そしてPHOENIXのギタリスト2名がゲスト参加した#8「Blood Upon Stone」はキャリア屈指というにとどまらず、ポストメタルを代表する曲といえるレベルに達している。

 11分39秒あるこの曲を私は1年で274回(Spotify調べ)も聴いていることもあって、22年ベストソング第1位。

 20年以上のキャリアに基づいた超然とした音だけが語る真実と影響力が『The Long Road North』にある。

 Favorite Song : #8「Blood Upon Stone」

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明日の叙景『アイランド』

 2014年に東京で結成されたポストブラックメタル・バンド4人組の2ndアルバム。Deafheavenが2nd『Sunbather』で一気に突き抜けた/ぶち抜いた感覚がここにある。

 テーマに掲げられるのが【夏】。前作の怪奇的な闇は薄れて明らかな光量を獲得。ポストブラックらしいブラストビートとトレモロ、喉を潰すような唸る叫び。

 その集合体による瞬発力/突進力に加え、急に差し込まれるポエトリー・リーディングはフックとなり、本作の詞の重要性を示す。

 それでもブラックメタルの鋭い刃先を振り回すでもなく、陽だまりのようなフィーリングがあり、耳にはワンクッション挟んで届いている感覚を持つ。

 本作はシューゲイザーの洗礼がより大きく、アニソンの文脈は組み込まれ、ヴィジュアル系の錬金もある。それらは等しい分量で配合されているわけではないが、”ジャパニーズ・ポストブラック”というスタイルをさらに強固なものとした。

 パリピのアンセム・・・にはならずとも、ヲタクのファンファーレにもメタラーの凱歌にもVの契りにも本作はなりえるはず。

 TUBEに夏の仕事をさせない新しい夏の季語として、またポピュラリティを獲得した国産ポストブラックとして『アイランド』は、太陽の光のすべてを受け止める海のように聴き手を情熱的に受け入れる。本作が2022年第1位です

 Favorite Song : #5「歌姫とそこにあれ」

2022/08/17 Release
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証明書です(笑)

ベストアルバムをまとめたプレイリスト

2022年 ライヴ参戦記録

 本記事の掲載時点での22年参加公演は以下の通り。

・02月25日 ROTH BART BARON @ 名古屋ボトムライン
・04月16日 OOPARTS 2022 DAY1 @ 岐阜市文化センター
・05月28日 森、道、市場 DAY1 @ ラグーナ蒲郡
・06月29日 DIR EN GREY @ ZEPP NAGOYA
・07月31日 FUJI ROCK FESTIVAL’22 DAY3 @ 苗場スキー場
・08月23日 Sigur Ros @ ZEPP Osaka Bayside
・09月08日 Petit Brabancon @ ZEPP NAGOYA
・10月15日 JAPAMOSPHERE @ 下北沢ERA
・11月21日 Elephant Gym @ 名古屋クアトロ
・11月30日 Buffalo Daughter & Boris with TOKIE @ 名古屋クアトロ
・12月01日 DIR EN GREY @ ZEPP NAGOYA
・12月04日 MUCC @ 松下IMPホール

 大きなトピックとしては3年ぶりにフジロックへ行きました。相変わらず最終日となる日曜日しか行ってませんが(苦笑)、久しぶりの夏フェスで2年半ぶりの海外アーティストを体感できたのが何よりも大きかった。翌月にはシガーロスを単独でみる至福。今年一番感激したのはシガーロスでしたね。

 終盤は30周年のBoris、25周年のDIR EN GREYと25周年のMUCCを次々と体感していくレジェンド1週間となりました。30代後半に近づこうと若かりし頃から好きなものは変わらないな。

 Tokyo Jupiter Recordsさん主催の”JAPAMOSPHERE 2022″をこちらも久々となる東京へ見に行き、3年ぶりに再会。また同公演に出演したPresence of Soulのお二方と初めて直接お話できてホッとしました(7年前にメールでインタビューしてるのに)。

2022年を振り返って

 まずは2022年元日に”ポストメタル・ディスクガイド“という記事をアップしました。ISIS(the Band)のライヴを初めて体感した2007年1月を自分にとってのポストメタル元年としたならば、今年で15年目。あの時の感動を追い求め、同ジャンルをずっと聴き続けている中で、誰も書くことは無いだろうから思い切って書きました。現在88枚ですが、100枚を到達点にしています。ご興味ありましたら以下よりどうぞご覧ください。

 あとは個人史を総括するような【私的名盤】という記事もつくりました。現在、75枚。こちらも最終的に100枚に到達する予定です。現段階でも読みごたえはあると思います。

 ここまで気になった方は、当ブログの掲載アーティスト一覧が以下からご確認いただけます。基本的にアーティストの全アルバム紹介みたいな感じで書いております。


 そして、今年は自分でも驚いたのが人生で初めてライナーノーツを書きました。以下2作品です。

Absent in Body『Plague God』
Russian Circles『Gnosis』

 共にDaymare Recordingsさんからのリリース。まさかのありがたいお話に全力でお応えしました。とはいえ、これで良かったのか?というのはどうしても出ますね。これからもっと良いものが書けるように精進します。

2022年のアクセスランキング *12/25追記

せっかくなので2022年に新規で書いた記事でアクセスランキングTOP5を発表。
pv数は掲載時:12月25日朝の数値です
21年以前に作成した記事は含めてません。

第1位 MUCC 2736pv

MUCCのPV数が伸びたのは、Twitterでミヤさんにまさかのリツイートされたからです。1日限定ですが、かつてないアクセス数になりました。

第2位 個人的名盤70選 2408pv

上述していますが、完全に個人史としての名盤をひたすら挙げていく。でも、他の記事と被らないような配慮はしていますね。ここはもっと増やした時に変える可能性あり。

第3位 ポストメタル・ディスクガイド 2070pv

元日にアップした入魂記事です。

第4位 黒夢 1530pv

「少年」はわたしのロックへの目覚めです。

第5位 MASCHERA 1470pv

MASCHERAの全作を語る記事ができて良かった。


 2022年の世界を顧みると2023年も本当にどうなるかはわかりませんが、本ブログは続きます。高3の冬休みの2004年1月にwebサイトを作ったので来年で20年目になりますが、4年の空白期間(開店休業状態)があるので実質16年目。これまでと同じような方向性で更新していくと思いますので、見捨てないでご覧いただければ幸いです。

お読みいただきありがとうございました!
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