
平成から轟音に魅了されてきた人間が令和に送る、轟音系ポストロック30選です。
ポストロックがよくわからんのに、轟音系ポストロック? 余計わからんっていう方にもこれを聴いておけば大丈夫という作品を国内外問わずにピックアップしました。
本記事があなたの知るを手助けできれば幸いです。
- 初稿(2023年01月01日):20作品
- 二稿(2023年06月10日):25作品
- 三稿(2024年08月10日):30作品
轟音系ポストロックとは何か?

流麗で静謐なセクションから、フィードバック・ギターが唸りを上げるセクションへとドラマティックに行き来する曲構成は、いっとき猫も杓子も取り入れる現象にまでなった。
ポストロック・ディスク・ガイド p93より引用
轟音系ポストロックとは何か?を示す上で、上記の説明がしっくりきます。本記事で紹介しているのはこれに当てはまるアーティストに絞りました。
そして、わたし個人が聴いたうえでの心地よさを重視して選んでいます。多くのバンド達はこうタグ付けされることに嫌悪感を示していますが、今回はちょっとご容赦いただきたい。
エモ、シューゲイザー、エレクトロニカ、マスロック、スロウコア等の要素が強いバンドは本記事には入れてません。歌が比較的に前に出ているのも入れていません。
前述したポストロック・ディスク・ガイドでは、轟音系ポストロックの系譜にドリームポップ・シューゲイザー、ドゥーム・メタル/ポストメタルの2つの軸から紐解かれている。
わたしが轟音系ポストロックを聴くようになったのは、ポストメタルからの流れ。ISIS(the Band)やPelicanからとなり、2007年前後から聴き始めて15年以上が過ぎました。
時が流れるとともに猫も杓子もどころか衰退してしまった中で過去にこういうバンドがいた、今も現役で活動しているバンドなど、みなさんの知る/聴くきっかけになれば幸いです。本記事に合わせたプレイリストも併記しています。
・ポストロック・ディスク・ガイド(シンコーミュージック:2015年刊行)
・16 Of The Greatest Post-Rock Albums – Kerrang!
・The 30 best post-rock albums of all time – Fact Magazine
・10 post-rock albums you should definitely own – Louder Sound
轟音系ポストロック30選
Mogwai / Young Team(1997)

スコットランド・グラスゴー出身の4人組バンドの1stアルバムにして金字塔(当時は5人組)。静寂から轟音へ。その様式はポストロックだけではなく、様々に波及していったがその礎を築いた存在。本記事の基準とした1枚である。
轟音は全能ではないが、マスターピース#10「Mogwai Fear Satan」をライヴで体感することは、ある人にとっては人生が変わるほどのものになりうる。加えて、以降の作品よりもストイックな緊張感や初期衝動を強く感じさせる点も魅力。
ただモグワイはこのスタイルに囚われず、自由に音楽を生み出し続けている。アルバム単位では5th『Mr.Beast』の方がわたしは好きだったりする。
オススメ曲:#10「Mogwai Fear Satan」

Godspeed You! Black Emperor / F#A#∞ (1997)

カナダ・モントリオールの前衛的ポストロック集団の1stアルバム。バンド名は柳町光男氏の同名映画に由来している。本作は10人以上のメンバーで制作され、全3曲約63分と極端な構成。16分以下の曲が無い。
そもそも”轟音ポストロック”というラベルを超越しているバンドではあるが、聴くべき作品なので入れた。ギター、ベース、ドラム、パーカッション、ストリングス、サンプリング等を用いて大所帯が繰り広げる破壊と再生。
聴くと同時に観る音楽としての機能性があり、モノクロームの叙事詩は忍耐と時間を要する答えのない旅に連れていく。
オススメ曲:#2「East Hastings」
➡ Godspeed You! Black Emperorの作品紹介はこちら

Explosions In The Sky / The Earth Is Not A Cold Dead Place (2003)

Mogwaiと並ぶ轟音系ポストロックの代表格である4人組。本作は3rdアルバムにして最高傑作。前作で感じたアルバム全体を覆う重苦しさや不穏なムードが明け、音のきらめきや美しさの方にベクトルが向かう。
聴いたひとりひとりの生命を輝かせるようにそのアルペジオは鳴り、リズムは刻まれる。#5「Your Hand In Mine」は聴いてて泣きそうになるぐらいに儚い旋律が胸を打つ。
聴き手に様々な情景を浮かばせる、様々な感情を抱かせる。心の真芯を捉えようとするその音塊は、人生に彩りを与え、寄り添うサウンドトラックのよう。
代表曲#2「The Only Moment We Were Alone」は、ライヴにて全身で浴びてほしい曲である。
オススメ曲:#5「Your Hand In Mine」
➡ Explosions In The Skyの作品紹介はこちら

MONO / Hymn to the Immortal Wind(2009)

ポストロック/インスト・バンドで世界的に最も有名な日本のバンド。本作は結成10年目に発表された5thアルバムであり、MONOを代表する作品。プロデュースはスティーヴ・アルビニ。
”ひとりの少年と少女の生と死、魂の永遠性をめぐる、 本作の為に実際に書き下ろされた物語”に基づいて制作された。作品ごとにクラシックの要素を強めてきたが、今回は20人超に及ぶオーケストラと融合を果たす。
猛吹雪の渦中から美しきと歓喜を拾い上げる名曲#1「Ashes in the Snow」を皮切りに、ラストの勇ましい旋律が胸を打つ#7「Everlasting Light」に至るまで描くのは希望だ。
長い時間をかけて築かれる崇高でドラマティックなサウンドは、あらゆる人種や国境や時空を越えて響き続けている。
オススメ曲:#1「Ashes in the Snow」

Maserati / Inventions For The New Season

アメリカ・ジョージア州のアセンズで結成された4人組。1stはグランジ~オルタナ風情が乗った爆音を響かせ、2ndは”Instrumental U2”と自称。そんな荒々しさと叙情性を併せ持つインストを展開。
この3rdアルバムはクラウトロック、タイトル通りにマニュエル・ゲッチング氏を思わせるサウンドを組み合わせ、揺れ動く静と動の中に新たな音像を提示した。
ドッツ、ドッツトーキョーと呼ばれていた日本のシューゲイザー系アイドル、”・・・・・・・・・”がカバーしていた#1「Inventions」、後の人力ダンスミュージックに目覚めていくヒントとなった#6「Show Me The Season」を収録。
MONOと親交が深く、彼等の助力によって来日も果たした。結成から20年を超えて今も活動中。
オススメ曲:#1「Inventions」

Do Make Say Think / Stubborn Persistent Illusions(2017)

カナディアン・ポストロック重鎮の7thアルバム。Broken Social Sceneともメンバーを共有するDMSTが轟音系かと問われたならば首をかしげますが、本作と前作はその要素は強め。
ポストロックにくくられるもののサイケ、ジャズ、プログレ、エレクトロニカを掛け合わせた独創的なインスト。ここにはポストロッキンな騒静の上下動、繰り返しによる焦らし、オーケストラルな厚みと風合い、エレクトロニクスがもたらす光の帯・・・etcが含まれる。
ヴォーカルの活用は本作にないにしてもDMSTが持つ多機能性を示すと同時に優雅に作品を編んでいる。これまでの集合体としてのカイゼンと成熟。同郷のGY!BEと比較されるとはいえ、DMSTには絶望的な暗黒は存在しない。しなやかな伴奏として日常を彩り、20年以上続く老舗としてのこだわりを本作でも感じさせる。
オススメ曲:#4「Bound」

Yndi Halda / Enjoy Eternal Bliss(2006)

UKはケント州カンタベリーを拠点に置く5人組。本作は1stアルバムでタイトルの意味は”永遠なる至福を楽しむ”。バンド名は、このタイトルを古ノルド語で言い換えたもの。
全4曲収録だが10分以下はなく最短で11分41秒、最長は19分38秒。ポストロックとクラシックの融合といえばそうだし、GY!BEは近しい存在。だが、明らかにベクトルは光・福に向いている。
揺らぐストリングス、強烈なギター・ノイズが運ぶ歓喜にヴォーカルのないシガー・ロスを感じる場面も。しかし、Yndi Haldaはもっと華やぎと躍動感がある。
オススメ曲:#1「Dash and Blast」

God Is An Astronaut / Ghost Tapes #10 (2021)

2002年に結成されたアイルランド・ダブリン出身の4人組。22年で結成から20年を迎えた重鎮だが精力的に活動中。本作は9thアルバム。
”神は宇宙飛行士”というバンド名通りにスペーシーなロックにエレクトロ~アンビエントといったテイストを交えたサウンドに定評がある。しかし、本作で目立つのはPelicanらに接近したポストメタルの重厚。
#1「Adrift」の剛腕なスタートに驚かされたが、その後に流麗なピアノや電子音による意匠が追加され、静と動を漂流する。
プレスリリースで”最も凶悪なアルバム”と謳うが、ヘヴィネスへの野心的な進軍を果たしながら自身のこれまでの音楽とも折り合いをつけた。
加えて本作でもバンド特有のメランコリックな宇宙愛は貫かれ、時折の淡いタッチに目が覚める。
オススメ曲:#2「Burial」
➡ God is an Astronautの作品紹介はこちら

Saxon Shore / The Exquisite Death of Saxon Shore(2005)

2001~09年まで活動したペンシルヴェニアの5人組は、2度にわたる来日経験もある。本作はデイヴ・フリッドマンのプロデュースによる3rdアルバム。
職人肌から生み出すポストロックとインディーロック、音響エレクトロニカの邂逅によって、前作からエレガンスな煌めきと気品が格上げされた。直に心臓に触れようとする純真なメロディの連続は反則級で、電子音はThe Album Leaf辺りを思わせるほど愛らしさがある。
プレスリリースによると”10曲を通して、Saxon Shoreは彼ら自身の仮想的な死の物語を探求し、アルバムの最後には沈黙の瞬間が用意されています”とのこと。
#5と#10を聴いていると、人生という激動の航海を思い返させる熱量と巨大な音に包まれる。
オススメ曲:#5「Isolated by the Secrets of Your Fellow Men」

sgt. / stylus Fantasticus (2008)

1999年に結成された日本のインスト・トリオ(4人の時期もあり)。本作は結成9年目の1stアルバムとなる。
天空を優雅に舞い踊るヴァイオリン、悠然とした大地を思わせる力強さを持つリズム隊。それらが繋げる壮麗かつスペクタクルな物語にはジャケットに似たステンドグラスを思わせる華麗な美しさ、獰猛な獣を思わせる激しさの両方が存在する。
10年近くに渡って蓄積した技術・経験という揺るぎない土台をベースに大輪の花を咲かせた傑作であり、#5「再生と密室」や#7「銀河を壊して発電所を創れ」などタイトルも独特。
サブスクにないが、知られざるインストの名盤として聴いてみてほしい(※2023年7月21日よりサブスク配信が始まりました)。
オススメ曲:#5「再生と密室」

The Evpatoria Report / Golevka(2005)

2002年にスイスで結成されたインストゥルメンタル5人組。主に2002年から2008年まで活動(2025年現在は活動再開しています)。バンド名は、ウクライナのクリミアにある都市・エフパトリアからとられている。
本作は1stアルバムでタイトルはアポロ群の小惑星、ゴレブカに由来します(参照:wikipedia)。こうした宇宙に関連したタイトルをつけているが、その理由はThe Silent Balletのインタビューにおいて”宇宙は私たちにとって大きな情熱ではありませんが、音楽を投影するのにいいイメージかもしれない“と語っている。
音楽的には00年代に隆盛を誇った轟音系ポストロックに位置するもの。静と動のクレッシェンド構造を軸に組み立てるもので、そこに専任メンバーを擁するストリングス、曲によってはスピーチや映画から拝借したと思われるサンプリングが絡む。そして全6曲約69分と前述したように1曲平均で10分を超えるのが特徴。
#2「Taijin Kyofusho」は、ローマ字通りに日本の対人恐怖症をタイトルに冠している。同曲は彼らが活動休止前のラストライヴでも最後を飾る曲だった。
オススメ曲:#2「Taijin Kyofusho」
➡ The Evpatoria Reportの作品紹介はこちら

65daysofstatic / The Fall of Math(2004)

2001年にイギリス・シェフィールドで結成された4人組インスト・バンドのデビュー作。
轟音ギター+ピアノ+ブレイクビーツという音楽性を初期から確立。そのさまは“モグワイ・ミーツ・エイフェックス・ツイン”と形容され、世界各地で人気を得るほど。ここ日本でも残響レコードから国内盤が発売。
エレクトロニカ寄りの柔らかなタッチから無機質かつ緊迫感のあるデジタルビートが組み込まれ、ギター/ベース/ドラムの迫力ある生音ががっぷり四つでぶつかりあう。
それでもプログラミングを操る頭でっかちさやクールさよりも、人間的な騒々しさと熱さがあるのが初期の65dosの特徴。
オススメ曲:#3「Retreat! Retreat!」

Maybeshewill / I Was Here For a Moment, Then I Was Gone(2011)

2005年にイングランド・レスターで結成された5人組インスト・バンドの3rdアルバム。
生楽器と電子音が融合したスタイルでデビュー当時は65daysofstaticと比較されていたものの、アルバム毎に変化。本作は前作よりヘヴィなギターの比重を減らし、エレクトロニクスやオーケストラを加えて音響的に拡張。
ピアノやストリングスを押し出してキメ細やかで彩り豊かなタッチに磨きをかけており、轟音系と呼べる爆発力も維持。
楽器陣の生み出すアンサンブルの美しさ、ダイナミズムとリリシズムの応酬。#3「Red Paper Lanterns」はバンドを語る上では欠かせない名曲のひとつ。
オススメ曲:#3「Red Paper Lanterns」

This Will Destroy You / Another Language (2014)

アメリカ・テキサス州のインスト4人組。1st~2ndは先輩のEITSに感化された静から動への移行をメインにした音像だったが、前3rdアルバムでは”ドゥームゲイズ”と自称した音響アプローチを取るようになる。
この4thではドゥームゲイズは薄めつつ、初期の作風が重なり合う。そして電子音の増量。特徴的なのはゆるやかな遷移とまどろむようなレイヤーで、気づけば意識が侵食されている。
幅広いレンジで骨抜きにする#1「New Topia」を皮切りに、#2「Dustism」でTWDYのモテ要素をフル活用したメランコリックなインストを展開。回帰と地続きの表現でエレガントなトーンとダイナミクスが連帯した佳作。
オススメ曲:#2「Dustism」
➡ This Will Destroy Youの作品紹介はこちら

Caspian / Tertia (2011)

アメリカ・マサチューセッツのインスト5人組。国内盤がリリースされた1stアルバムには”Brian Eno指揮のExplosions In The SkyとIsisによる交響曲”というウルトラ形容が躍った。
本作は2ndアルバムで、先人達が生み出したポストロック様式を用いながら順当なアップデート。神秘的な雰囲気をつくりあげるトレモロ・ギター、仄かな彩りを与える鍵盤やストリングスを駆使し、詩情と歓喜をもたらしてくれる。
何よりも轟音ポストロック好きが抗えないカタルシスが本作にはある。荘厳な前半を経て雷鳴のように轟く#3「Ghosts of the Garden City」、ポストロック界を代表する名曲として君臨する#10「Sycamore」を収録。
オススメ曲:#3「Ghosts of the Garden City」

Gifts From Enola / Gifts From Enola (2009)

2005年にアメリカ・ヴァージニアで大学の友人同士で結成。リリースから10年経ってリマスター発売された2ndの方が最高傑作と名高いが、今回はこの3rdアルバムを推したい。
インストが基調であるものの、マスロック~ハードコアのアプローチを増やし、曲によっては歌も入ってきて猛然と突き進む。
雰囲気ものに終始せず、自身が受けてきた影響元とこれまでの音楽性を結びつけながら、ポストロックというタグ付けへの抵抗と解答を提示。
荒々しく吹きすさぶ嵐のような音は圧巻で、勢いとエネルギーがあるインストを聴いてみたい方に薦めたい。次作は激情系ハードコア~スクリーモに開眼して完全に方向転換。最終的に2013年に解散した。
オススメ曲:#2「Dime and Stuture」

EF / Give me beauty... Or give me death! (2006)

2003年に結成され、スウェーデン・ヨーテボリを拠点に活動するポストロック5人組。本作は1stアルバムで、2025年にりアレンジされた20周年記念盤。
歌と多種楽器のハーモニーを堪能できること。それがefの肝となる部分だと思っています。基本的には轟音系ポストロックといわれる骨格の中で大胆なオーケストラ・アレンジが入り、インディーロックに通ずる歌ものとしての近寄りやすさが特徴です。
特に本作では#4「Hello Scotland」はバンドの代表曲として名高い。ホーンやストリングスに加え、グロッケン、ピアノ、それに男女ヴォーカルが仲睦まじげに手を取り合う。豪勢な音の盛り付け。そして強弱のクレッシェンドが完璧な調和を成しています。
オススメ曲:#4「Hello Scotland」

pg.lost / Yes I am(2007)

元Eskju Divineのメンバーを中心に結成されたスウェーデンの4人組。ベーシストは現在のCult of Lunaのメンバーである。本作は1st EPで全5曲約36分収録。
20代前半にレコーディングされた作品だが、現在でも主力ナンバーが揃う原点。そして、メランコリーに彩られたインスト・ポストロックの海源である。
Mogwai~EITSに続くポストロック王道作法に準ずるものだが、pg.lostはもっと叙情的なスタイル。
#1「Yes I Am」や#2「Kardusen」はこの手の音楽を聴く醍醐味を味わい、#5「The Kind Heart of Lanigon」では温かい春風のような心地よい時間に浸れる。原点にして美点の詰まったEP。
オススメ曲:#2「Kardusen」

The End of the Ocean / Pacific•Atlantic(2011)

アメリカ・オハイオ州の男性3人・女性2人から成るインスト・バンドの1stアルバム。8曲入りでタイトルが示すように前半4曲が”Pacific”、後半4曲が”Atlantic”の位置づけ。
内容はインスト・ポストロックの良心といえるもので、重層的で美しい音のヴェールが包み込む。穏やかな感情の起伏をそのまま綴ったような手触り、儚く淡いシンセや打ち込みのビート、少しずつ燃え上がっていくように力強さと音圧を増していく展開。
それらはこのバンド特有の煌びやかさと慎ましさを感じさせる。締めくくりの11分を超える#8「we always think there is going to be more time」は珠玉という言葉を添えたい名曲。
ちなみに#3「Worth Everything Ever Wished For」のSpotify再生回数は2100万回を超えていて驚く。
オススメ曲:#8「we always think there is going to be more time」
➡ The End of the Oceanの作品紹介はこちら

甜梅號(Sugar Plum Ferry) / Islands on the Ocean of the Mind(2010)

1998年から2015年まで活動した台湾のインスト4人組による3rdアルバム。ピアノやストリングスの大らかな響きも用いながら、膨れ上がっていく音圧は豪快に景色を塗り替えていく。
美しいメロディと分厚いギターサウンドが魅せる静と動のコントラストの鮮やかさ。それに伴ったダイナミズムはさすがに10年以上にもわたって、磨き上げてきただけあって貫禄すら感じさせる。
優美で力強い#6「The Tolling Bell」を2011年のフジロック・ジプシーアヴァロンで体感した時は、とても感動したのを覚えている。
オススメ曲:#6「The Tolling Bell」
➡ 甜梅號(Sugar Plum Ferry)の作品紹介はこちら

Jakob / Solace(2006)

1998年にニュージーランドで結成された3人組。公式サイトによると本業の仕事を持ちながら、24年を超えて今も活動を続けていて5枚の作品を残している。本作は3rdアルバム。
織物職人のごとき慎重なタッチでテクスチャーを構築し続けるインストであり、派手さはない。
メンバー3人とも攻撃と守備のリスク管理に長けたボランチのようで、催眠を誘うミニマルなギターから地響きを起こす重厚な音壁までサウンドを統制。
完全にリミットを外れてNadjaばりの音量が鼓膜を襲う#2「Pneumonic」、彼等なりの轟音ポストロックの極地#5「Safety In Numbers」などバンドの実力を思い知る。そしてJakobの音楽は”祈り”という言葉が不思議と似合う。
オススメ曲:#2「Pneumonic」

Laura / Radio Swan Is Down(2006)

2001年にオーストラリア・メルボルンで結成された6人組。本作は2ndアルバムで当時に国内盤も発売された。チェロやグロッケンシュピールを加えた編成に電子音を含めて色合いを増やし、繊細な情緒を表現。
前半はGY!BE辺りを彷彿とさせる暗い旅路を進み、後半にかけては穏やかに希望をふくらませていくが、心地良さよりも侘しさが通底している。
一部の曲で声を楽器のように用い、ギターとチェロが物悲しく共鳴。鎮静と暴発が繰り返される音像に言葉は無いが、人生の苦みと喜びを嚙みしめる文学性が感じられる。
オススメ曲:#3「I Hope」
Pijn / From Low Beams Of Hope(2024)

UKマンチェスターを拠点に2016年から活動するバンド。”カタルシス溢れるヘヴィなポストロック”と自身で名乗り、バンド名はオランダ語で”痛み”を意味する(英語だとPainと同義語)。
本作は6年ぶりのフルアルバムとなる2nd。音楽的にはポストロック~ポストメタル間を揺れ動くような作風である。そのヘヴィなポストロック/ポストメタルを下地にオーケストレーション要素を強化しており、ストリングスやホーン、ピアノが美しく調和。
感情の浮き沈みや人生の起伏を長尺の中で雄弁に表現しており、以前よりもThee Silver Mt. ZionやDo Make Say Thinkっぽいと感じる場面が増えた。
内省と葛藤を課しながら希望へと向かう本作は1曲平均11分を数える4つの長編曲で構成。多楽器による重奏はこれまで以上に躍動感と歓喜を運んでくる。全体から受ける印象を言えば、タイトルの少ない希望の光とは相反するポジティブさ。
オススメ曲:#3「On The Far Side Of Morning」

Audrey Fall / Mitau(2014)

ラトビア共和国を拠点に活動したインストゥルメンタル・カルテットの唯一のフルアルバム。
静から動への王道パターンに加え、#5「Bermondt」の重厚なリフの応酬はRussian Circlesを思わせ、マスロック~プログレの理知的な構成が取られた曲もあり。
美しいツインギターの染み入るように広がっていく一大叙情詩#6「Valdeka」は感動的であり、優美なアンビエンスをくぐり抜けた先に轟音プログレッシヴの大河に突入する#8「Courland Aa」もシビれる楽曲。
ポストロックとポストメタルの中間的な強度と叙情性を誇りながらも、全体を通して美しい物語を描いている。
オススメ曲:#3「Wolmar」

Lost in Kiev / Nuit Noire(2016)

2007年から活動するフランス・パリのインスト4人組の2ndアルバム。リリースはDunk!Recordsより。マスタリングをCult of LunaのMagnus Lindbergが担当。
”ポストロックのメランコリックな瞬間とポストハードコアのヘビーさをミックスした“という自身の持ち味を以前にIDIOTEQのインタビューで語る。本記事に相当する轟音系に属すポストロックだが、彼等の場合はサンプリングではなく俳優を起用してセリフのパートを録音しているのが特徴。
”映画的なポストロック”を強調し、サントラというよりもドラマ/映画のワンシーンをつくり出しているような感覚に近い。聴き手が音から映像を想像して嗜む、そんな効能をもたらすことができるのがLost in Kievの良さ。
また本作はコンセプトは”夜の賛歌”とのことで、夜を徹底的にコンセプチュアルにつづることでバンドの真価を発揮した一作となっている。
オススメ曲:#2「Insomnia」

Oh Hiroshima / In Silence We Yearn(2015)

スウェーデンのクリスティーネハムンを拠点としたポストロック・デュオの2ndアルバム(本作リリース時は4人組)。ヴォーカルやギター、メインコンポーザーを務める兄のJakob Hemström、ドラムや映像関係を担当する弟のOskar Nilssonから成る。
美麗なる轟音インストゥルメンタルという基本形に持つバンドだが、本作から歌ものポストロックとしての側面が強まる。全6曲中5曲で歌入りで、ファルセット等はあまり用いずに中域で穏やかに歌い上げており、シガーロスではなくアルバム・リーフやepic45寄り。
繊細なタッチと轟音をスムーズに連携した美しいストーリーが根幹にあり、特に#2「Mirage」はヴォーカルの入れ方も含めて進化を示した楽曲。さらには#4「Holding Rivers」や#5「Aria」にはチェロ奏者のEllen Hemström(Jakobの妻)が参加し、ドラマティックなスタイルに一段と華を添えている。
Oh Hiroshimaはこれ以降の作品ではより歌もの志向が強まっている。またバンドは完全に兄弟デュオ編成へと移行した。
オススメ曲:#4「Holding Rivers」

If These Trees Could Talk / The Bones Of A Dying World (2016)

アメリカ・オハイオの5人組による3rdアルバム。Metal Blade Recordsからのリリースであることに驚かされるが、トリプルギターを擁した美と重の共演はポストロック~ポストメタルの中間といえるもの。
クリーン・トーン~トレモロのコンビネーションを中心に組み立てられ、全体通しては漂白された白とメランコリックな息遣いの方が勝る。
メタル指数が少し高まった#8「Berlin」のような曲もあるが、一瞬の爆発力にかけるではなく、しなやかにドラマを編んでいく姿勢がこのバンドらしい。
オススメ曲:#1「Solstice」
➡ If These Trees Could Talkの作品紹介はこちら

Lost Coast / Lost Coast(2020)

オーストラリア・キャンベラ出身のインスト・ポストロック5人組。2024年4月には念願だったという初来日を果たした彼等は、今となっては珍しいド直球なまでの轟音系ポストロックを奏でます。
アルペジオやトレモロリフを多用するトリプルギターを擁し、静から動へのダイナミクスを丁寧な演奏と共に届ける。しんみりとするギターフレーズを重ねながらメランコリックな波紋と音圧を高めていく#1「2B」に始まり、少し速めのテンポを主体に澄んだ音色が光の世界を創出していく#9「David」まで。
5分~12分台とそろう長尺の中で、轟音系といわれるお約束を律儀にこなしながら、気づけば没頭してしまう物語が展開されている。メンバー5人による生演奏以外のギミックをあまり用いていない点は、Lost Coastの実直さの表れ。
聴いているとExplosions In The Skyや初期This Will Desroy You、そしてMONOといった名前が浮かぶ人は多いはず。己のスタイルを信じ、真摯な姿勢で音楽と向き合い続けた結果が美徳ある本作に表れている。
オススメ曲:#9「David」

Sleepmakeswaves / Love of Cartography (2014)

オーストラリア・シドニーの4人組。本作は2ndアルバム。今回は挙げていない65daysofstaticを参照しながらもメタル~プログレの強度でビルドアップした、ユーモアと快楽のインストゥルメンタル。
力強いバンドサウンドとネオンのごとき光の帯が広がり、ダンサブルな要素が多く盛り込まれている。少しだけ暗さを感じるシーンもあるが、繊細な音の陶酔感に誘うよりも、昼間だろうと真夜中だろうと関係なく活発なエネルギーでノせてくる。
ポストロックはヒューマンドラマに近いと思っているが、彼等はアクション映画のよう。それこそ”クラブでかけよう轟音ポストロック”みたいな標語が似合う感じ。ちなみに次作は少し控えめでプログレ寄り。
オススメ曲:#9「Something Like Avalanches」

We Lost The Sea / Departure Songs (2015)

オーストラリア・シドニーの6人組による3rdアルバム。ヴォーカリストが2013年に亡くなったことで、本作からインスト・バンドとして再出発した。
静から動へ。先人が生み出したポストロック王道方式を用いて、喪失から再生への物語を気高く美しく描く。
美しいテクスチャーと荘厳なコーラスが重なる31「A Gallant Gentleman」による鎮魂から、Cult of Lunaの影響下にあることを伺わせる「Challenger Part 1~Part2」の30分を超える激動まで。
アルバムに流れるもの悲しいトーンに心を締め付けられるも、放たれる轟音はすべてを包み込む。
オススメ曲:#1「A Gallant Gentleman」

どれを聴く?

読んでいたら興味がわいたぞ! でも、30枚の中からどれから聴けばいいのか?
鉄板と個人的なオススメ作品を5枚にまとめましたのでご参照ください。
- Mogwai / Young Team(鉄板1)
- Explosions In The Sky / The Earth Is Not A Cold Dead Place(鉄板2)
- MONO / Hymn to the Immortal Wind(日本の誇り)
- Saxon Shore / The Exquisite Death of Saxon Shore(個人的オススメ1)
- We Lost The Sea / Departure Songs(個人的オススメ2)
MogwaiとEITSは轟音系ポストロックを語る上では外せない作品。MONOは同じ日本人として世界に挑み続ける偉大なバンドであり、その中でも『Hymn~』は最高傑作と謳われます。
個人的なオススメとしてSaxon ShoreとWe Lost The Seaを挙げています。どちらも魂を諭すような泣けるインストゥルメンタル。
プレイリスト
オススメ書籍

本記事でも引用している『ポストロック・ディスク・ガイド(2015年刊行)』がオススメです。
今回は轟音系ポストロックに焦点を当てていますが、シカゴ音響派、エモ、シューゲイズ、スロウコアまで踏み込んで書籍で解説されています。
多様化したこのジャンルをもっと知りたい方は読んでみてほしい。モグワイのインタビューもありますよ。

